第14話:姉の友達はそこはかとなく......
相沢家の女帝たる、我が姉、
自称、サバサバ系。曰く、言いたいことは先生であろうがお構いなし。テニス部の顧問を差し置いて、男子を含め、テニス部を牛耳っていると言っても過言ではない。そして身内の目から見ても美人ではある。故に、学校でも一目置かれているのだ。
ちなみにサバサバ系ってどんなの? サバいっぱい食べちゃう系? DHCが豊富。
そんな我が家の台風の目である、姉についてここまで聞けば、恐いという印象を持つ人も少なくないだろう。その印象、大正解。大学で親元を離れるまで、姉という生き物は恐いものなのである。
しかし、大学生になると同時に県外で一人暮らしを始め、偶の休みに実家に帰ってくると、あら不思議。優しい。
これはうちの姉も例外ではなかった。
この現象に誰か名前を付けてみて欲しい。なんか異能っぽいのを頼む。
考えたけど思いつかんかった。
きっと大学で男を知ったのだろう──って身内のそんなこと考えたくもないわっ!!
そんなわけでそのうち優しくなる姉を前にして俺は、ガクブルと震えていた。
「お前、昨日からうるさい。ピーピーピー、変な奇声発しやがって。いいか、私が帰ってくるまでに静かになってなかったら、椅子に縛り上げて、猿轡するからな?」
姉はそう言うと朝一の部活に出て行った。もうすぐ、春の大会も近いので練習熱心である。ええことや。
ちなみに姉が家を出て行ったのは午前7時30分すぎ。つまり、俺は7時くらいから奇声を発していたのである。そりゃ怒られるね。
確かに部活をしてないと、暇な時間になりそうだ。
俺は朝飯を食べると、とりあえず散歩をすることにした。
散歩から帰っても今の俺にすることはない。
一度目の青春では、基本的には部活。第二にゲームが大好きであった。
だけど、今は部活に所属もしていなければ、ゲームだってやる気はしない。今更、何世代か前のゲームをわざわざやるほどでもないのだ。
ばあちゃんに昼飯を作ってもらってからまた部屋に引きこもってはネットサーフィン。これじゃあまるでニートだな。
だが、そんなニート生活に終わりを告げる、いや、何かの始まりを告げる声が聞こえてきた。
「ただいまー」
そう、姉が帰ってきたのである。
「「おじゃましまーす」」
それも友達を連れて。
姉の友達。その響きはそれだけでそこはかとなく、エロい。
姉の友達。それは一種の憧れであり、未知なるエロスを含んでいる。
「あーね。だから、俺が騒がしいことをそんなに気にしてたのか」
家にお邪魔してから数分でドタドタドタドタと二階へ数人が上がっていく、足音。
そして女性らしい、高めの声をキャッキャと発しながら姉の部屋へと吸い込まれていく。
残念なことに、一度目の青春でも姉の友達とそんな「キャハハ」「ウフフ」な展開など一度もなかった。先程述べたのはあくまで理想であり、俺の脳内からはみ出た妄想でもある。
だから別に期待などしてはいない。決してな。俺には朝香がいるもの!!! よそ見をしている暇はないの!
だけど、男子高校生の性欲を侮ってはいけない。俺だって朝香がいてもいなくても溜まるものは溜まるのだ。
つまり何が言いたいかと言うと、やっぱり女子の会話ってなんだか気になっちゃうよね!
「コンコン」と軽快なノックが二回響く。
返事をする間もなく、開いたそのドアから顔を出したのは、我が家の魔王こと姉である。
「騒いだら、殺す」
一言だけそう告げると、魔王は野に帰って行った。
◆
俺に与えられた任務は一つ。静かにしていること。なのになぜだろう。
なぜ、俺の横には見知らぬ女子が座っている?
俺がその女子の方に目を向けると、「ん?」とあざとく、首を傾げてくる。
そして俺は視線を元に戻す。
落ち着くのだ。光樹。横にいるのはきっと、お前自身が見せた幻。朝香に会えない禁断症状が見せた代物だ。
え? じゃあ、朝香を出してくれてもよくない?
もう一度、見てもそこにはやはり朝香はいなかった。代わりにいたのは、セミロングくらいの長さの髪をポニーテールにしている女子だった。
「どうしたの、弟君?」
どうやらこの人は姉の友達らしい。というか、それしかないよね。今、この家にいる女子は姉を除けば、先程二階へ上がっていった姉の友達二名しかいないのだ。つまり、その片割れ。しかも、制服を着ているしね。
「おお! 弟君結構、筋肉ついてるんだね!! すごいすごい!」
そんな片割れは、俺のことなどお構いなしに、腕をモミモミとしてくる。俺が童貞でなければ勘違いしかねない行動だ。俺は無視しつつもこっそりと力を入れることを忘れない。
あれ? そういえば今の俺って童貞? どっちなんだ? 体は童貞、心は非童貞。その名は!! ......つまりはどこかの名探偵みたいなものだな。一緒にしてすまん。
「うんうん。やっぱり男の子はこうでなくっちゃね! えい!」
「ふぬ」
そんな俺の思考を遮り、この隣に座る謎の美少女Aは俺の頬を突っついてくる。
そもそもなぜ、このAは俺の隣に座っているのか。事の発端はこうだ。
......回想するほどでもない。単純に一階に降りて上がってきたらいた。それはもう自然に。
初めはこんな美少女の置き物を買ったっけと思ったほどだ。
だけどその置き物は動いた。しかも、俺の体を易々と触ってくる。何者だ、一体?
コンコン、ガチャ。
ノックの意味はあるの? と聞きたくなるほど無意味な音の響きを前に、開いた扉の隙間からは、我が家の覇王が顔を覗かせていた。
「あ〜ま〜ね〜? 何してるの?」
「やだなぁ。先輩! そんな怖い顔しないでくださいよ!」
「あんた、言ったわよね。うちに来るのは構わないけど、絶対に大人しくしてなさいって。私、言ったよね?」
「もう、先輩! そんなに怒ってたら折角、入ってきた新入部員たちも逃げだしちゃうぞっ?」
頭に手を押さえる姉。実はその間も俺は、隣にいる彼女に抱きつかれていた。おっぱいが当たる。柔らけぇ。
発言からこの子は差し詰め、新入部員なのだろうか。いや、違うな。いくらなんでも入部して数日でうちの姉とこのやり取りはでにまい。本能が告げる。今の俺と同い年ではないと。
このおっぱいは、二年生以上のものに違いない。中学上がりの女子には到底真似できないボディだ。俺が言うんだから間違いない。
「はぁ。
そう言って姉は自分の部屋へ戻って行った。
おい、なんてこと言って帰っていくんだ、あの姉は。よく、弟の前でそんな下の話できるな!? ことってなんだ、ことって!!
くそったれ。
俺は隣をゆっくりと見た。そして目が合う。
「キャッ」
態とらしく頬を赤く染めた、天音と呼ばれた女子と俺はしばらくそのままだった。
あの姉が手を焼くのもわかった気がした。
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