第12話:トライアングル③ 〜杏奈視点〜
今、私は部活帰りで朝香と一緒に帰っている。
朝香は先程から黙りこくっており、何か疲れ切っている様子だった。
それもこれも絶対アイツのせいだ! あんな公衆の面前で朝香を辱めてどういうつもりよ、全く!!
私はバレー部、朝香はバスケ部で今日は活動していたのだが、いろいろ酷すぎた。あのプロ男が朝香のことで体育館いる生徒全体から大注目を浴び、それに波及して朝香も思わぬ形で注目を浴びてしまったのだ。
朝香は先輩から今日は帰った方がいいと促され、部を後にした。私もバレー部の先輩に断って朝香を追いかけたのだった。
「はぁ......なんでこんなことになっちゃうかな......」
「朝香をこんな風にするなんてアイツ絶対に許さん! 明日会ったら、とっちめてやる!!」
「はは......ありがと、でもほどほどにね?」
「うん、任せて! 朝香、この後どうする? どこか寄ってく? 駅前においしそうなパンケーキ屋さんがあるんだ!」
「......ごめん、今日は疲れたからまた今度にしてもらってもいいかな?」
朝香は申し訳なさそうな顔で両手を合わせて謝ってきた。
「そっか。なら仕方ないね。じゃあ、来週の土曜日! 一緒に付き合ってね!」
「うん!」
「ぅ!」
朝香はパァっと努めて明るい表情でそう答えた。
癒される。同性だけど朝香のこの笑顔にはなにかヒーリング効果があるように思える。部活で疲れたこの体もあのプロ男への怒りも今はすごく、どうでもいいくらいに吹き飛んだ。
よし、絶対あの男は近づけさせない!
そう心に改めて誓った。
朝香と別れて、私は駅へと向かう。
地方都市である、この街は駅前がよく栄えている。だから、飲食店から百貨店、おしゃれなカフェや服屋まであらゆるものが揃っている。
私は、今日出た漫画の新刊を買うために、駅前にある本屋に立ち寄っていた。朝香と別れた時点で丁度、部活も終わる時間帯になっていたので、駅近くにはうちの学校の制服を着た生徒も何人かいた。
「あ、あったあった。これこれ!」
本屋で漫画の新刊を手に取るとうちの制服を着た女子生徒が数名入ってきた。校章をチラリと見た限り、赤色だったことから二年生だと分かった。
「さっきのあの子、凄かったよね?」
「ああ、あの叫んでた子? 確かに男バスに変な子入ったんだって心配になったけどあれだけのプレー見せられたらね」
「まぁでもあの子のせいで堂本さん帰っちゃったんだけどね......折角の逸材が......またきてくれなかったらどうしよう?」
朝香の話が出てきた。話を聞いている限り、女子バスケ部の二年生の先輩なのだろう。
朝香のことを褒められると私まで嬉しくなる。
それにしても叫んでた子ってあのプロ男だよね? 何、アイツそんなに凄かったの?
もう少し、聞いていたかったが聞き耳立てるのもおかしいなと思い、ファッション紙コーナーへ向かって行った先輩たちを横目に私は、目的の新刊を買って本屋を出た。
「はぁ〜楽しみ! この前の展開からどうなるか気になってたんだぁ〜」
私は今さっき、購入した漫画の表紙を見ながら、早く帰って読みたいと衝動を抑えきれずワクワクしていた。
「いって!」
「あぅ! す、すみません」
前方不注意。私が前を見ていなかったのが悪かったのだが、誰かの肩にぶつかってしまった。そして持っていた漫画を落としてしまった。
私は咄嗟に謝る。そして謝った相手の顔を見ると明らかに素行の悪そうな金髪にピアス、右眉毛には二本の剃り込みがある。不良と呼ばれる人種であった。制服を見る限り、この地域にもう一つある高校、水東高校の生徒だろう。もちろん、全員ではないがだろうが素行の悪い生徒が多いと聞く。
そしてその金髪が私の落とした漫画を拾う。
「あー、これ新刊出てたのか。丁度いいや、これもらおう」
「なっ!? ちょっと返してください!」
その金髪は突然ふざけたことを言い始める。
「なんでだよ? 俺は肩ぶつけられたんだぞ。本当だったら病院代もらうとこなんだが、これで我慢してやるって言ってんだよ」
な、なによそれ!
とんでもない超理論をかましてくる金髪。そんなふざけたことがまかり通るはずもない。
「そんなの意味わかんない! 大体ちょっとぶつかっただけでしょ!? 確かにぶつかったのは悪かったけど、そんな大怪我もしてないじゃない!!」
「はぁ。じゃあ、お前は俺がもし、骨折れてたらどうやって責任とんの? なに? その体でご奉仕でもしてくれんの?」
ニヤニヤといやらしい目でこちらを見ながら、大して痛くもなさそうな肩を態とらしく抑える金髪。
周りの人は私のことなんて知らんぷり。遠目で見て見ぬ振りをして通り過ぎていく。でやっぱり、ヤンキーに絡まれている人を助けるというのは、誰にとってもハードルの高いものらしい。
「まぁ、そこまで言うなら、返してやってもいいけど?」
「な、何よ? 急に......」
「ただし、この後俺の家に来いよ。そしたら返してやるよ」
最悪だ。こいつ初めから絶対に私の本を返すつもりないじゃない。しかもこいつの家に行ったら絶対に変なことされるに決まってる。
......仕方ない、諦めることにしよう。数百円なんだから、もう一度買えばいい。
「じゃあ、もういらない! それもあげる。じゃあね!」
私はそいつにそれだけ言うと、その場から急いで離れようとした。しかし。
「ちょっと、待てよ」
腕を掴まれてしまう。
「何!? 離して!!」
私は掴まれた腕を振りほどこうとするが、金髪が掴む腕の力は強く、振り解けない。
「あー、いててて。やっぱりさっきの肩痛くなってきたわ。とりあえず、一緒に来てもらおうか」
どの口が!!
私はその金髪に腕を掴まれたまま、引っ張られていく。私は必死に抵抗をした。
「やだやだ、離して!」
「るせぇ! 大人しくしろ!」
「ぅぁ......」
パシンと乾いた音が響く。ビンタをされた。男の人に初めて、殴られたのだ。それから私はショックと恐怖で言葉が出なくなってしまった。
もうダメだ。そう思った時。誰もが避けて通っていたその道を空気を読まずに近く影が一つ。
「はぁ〜。なんであんな試合を......やり過ぎてしまった......俺の勇姿、朝香が見てくれてるならよかったけど、気付いたらいないし......帰ったって? じゃあ、俺は一体なんのために......バスケ部は入らされそうになるし......ん?」
その男は、しょんぼりとした様子で前が見えていない。ぶつぶつと言いながら私たちと同じ距離に来て初めて前を見た。そして、腕を無理やり掴まれている私と目が合う。プロ男だった。
「た、助けて!!」
私は自分の中の恐怖と戦い、目の前の男が誰であるかと言うことなど関係なく、夢中で助けを求めた。
「ああ? てめぇ何見てやが.....る、うぉ!?」
金髪がすごもうとした瞬間に、有無を言わさず、プロ男は殴りかかる。金髪は慌ててそれを避けた。その拍子に私への拘束が解けた。
「ほら、行って!」
「でも......」
「早く行って!」
「てめぇ!」
私はプロ男の言葉に従ってその場から急いで逃げた。
そして近くの交番に駆けつけ、おまわりさんを連れて戻ってきたときには既にその現場には誰もおらず、何も残されていなかった。
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