第31話:青春の2ページ目
ということでやってきました。体育館。
「はぁ……」
カズさんにはなんとなく、悪いことを言ったという自覚はある。だけど、俺も朝香とのことを言われたのでカッとなってしまったのでおあいこだ。というか、俺殴られてるよね? おあいこじゃなくない?
「うっ……」
それにしてもさっきのやりとりを思い出してどこか恥ずかしくなってしまった。我ながらなんとも情けないというかなんというか。なんだか、とても青春っぽいやりとりをしていた気がする。
「うがあああああ」
俺は頭をくしゃくしゃとかき乱し、気恥ずかしい気持ちを抑えた。
誰もいない広い体育館を見渡す。なんだか、久しぶりな気がする。前回の体験入部以来か。体育は外での授業が多かったしね。
なんとなくであるが、中学のことを思い出した。今の俺にとっては10数年前の話になるのだが、それでもついこないだのように感じた。それはこの体にとってはほんのこないだのことだからだろうか。
ダムダムとドリブルをする音。バッシュのキュッという、地面を蹴る音。ガンというボールがリングに弾かれる音。スパっとシュートがリングにノータッチでネットに吸い込まれる音。どれも懐かしく思い出される。
「おっす、待たせたな」
「いや……」
リングを見たまま突っ立っていると先ほど、教室にいた俺を除いた四人が続々と体育館に入ってきた。
「というか、先生に許可貰ってるのかよ?」
「まぁ、大丈夫大丈夫! ボールは部室から持ってきてるし、気にすんな」
本当に大丈夫か? と楽観的に答える拓磨に疑問を覚えた。
「さぁ、早速やろうか」
「へいへい……って言っても俺、バッシュないぞ?」
「安心しろ、俺の余ってるやつ貸してやるよ。サイズ一緒だったよな」
なんで二足もってるのという疑問はさておき、貸してくれるというなら別に文句はない。
「ええー拓磨のバッシュ貸すのー!? 光樹くんに履かれたたら拓磨のバッシュ臭くなりそうじゃん」
おい、このアマ帰らせろ。誰の足が臭えんだ。大体、バッシュっていうのはだな、イケメンであろうとなかろうと臭いんだよ。現に拓磨のも臭いんだ。あれ? いい匂い……何で!?
「よし、相沢。やるか」
拓磨バッシュが臭くなかったことにショックを受けつつ、準備したカズさんの前に俺は正対した。
今は体操服は持っていないのでお互い制服にバッシュを履いた状態で向かい合っている。
「11ポイント先取でいいな? 得点のカウントは通常と同じで。もちろん、スリーもありだ」
「ああ。それでいい」
先行はカズさん。俺がカズさんから一度、渡されたボールを返し1対1が始まる。
カズさんが緩やかにドリブルをダムと突く、そして次の瞬間。
「っ!」
鋭く切り返されたドライブで俺は脇元を抜かれた。そしてカズさんはそのままレイアップに持ち込み、2点を先取した。
思った以上に早かったことに驚きを隠せずにいた。忘れていた。そういえば、カズさんは身長は高くないが、この低い身のこなしでのドライブが売りの選手であった。
「おら、どうした。そんなもんかよ」
わかりやすく、カズさんが俺を煽ってくる。
いいだろう、やり返してやるよ!!
ボールを受け取った俺は、カズさんに背を向けてリングに向かって押し進む。
「あ、てめ、きったね!!」
いわゆるポストプレーというやつ。身長の高い選手が背中で相手をゴリ押しでリングしたまで弾き、得点するという方法だ。そして、リングまで近づくことに成功した俺はカズさんの上からシュートを放ち、得点する。
ふははは、思い知ったか。これがバスケの身長差という理不尽な世界なのだ。
だが、カズさんは諦める様子はなく、その後も点の取り合いは続いた。
「はあはあはあ……」
「あー、ちくしょー」
今、俺とカズさんは地面にぶっ倒れている。割と本気でやりあったため、途中から点が入らなくなり、お互い体力もヘロヘロになりながら戦っていた。どちらかといえば、俺だけがヘロヘロだっただけだが。やはり、ブランクがありすぎていかん。それでも勝敗は俺の勝ち。最後はまた、汚くもポストプレーをしてやった。
「……俺の勝ちだな……はあはあはあ」
「っち」
「じゃあ、次は俺の番だな?」
横から拓磨が入ってきた。
「え!? 俺の勝ちで終わりだろ!?」
「何も一本勝負とは言ってないだろ? それに俺も見てたらやりたくなったし」
そうして、なぜかもう一本拓磨とやることになってしまった。
しかし、すでに体力が尽きていた俺と拓磨では戦いにならず、すぐに勝負は決まってしまった。
「はい、俺の勝ち!」
「勝てるか、んなもん……」
「ということで、俺とカズさんの勝利だな」
「待て待て待て。俺も一本取ってるぞ?」
「なんでぇ。合計したら俺らの勝ちだろ? 一回目が12対10で二回目が6対11。合わせて、18対21で、俺らの勝ち!」
知らねえぞ、そんなルール……それにしても、俺ってこんなに体力なかったんだな……
「じゃあ、光樹の負けということで……」
「悪かったよ、謝ればいいんだろ?」
そもそも何のために勝負をしていたかイマイチ分からないが、負けたのでカズさんに謝罪しようと思った。
「いやいや、別に謝罪何ぞ、こっちは求めてないぞ?」
「はぁ? じゃあ何の勝負だよ」
拓磨のいうことが分からず、俺はカズさんを見るがカズさんも頭にハテナを浮かべている。
「はい、ということでカズさんと俺との勝負に負けた光樹には罰ゲームとして、堂本朝香さんにアタックしてもらいます!!」
「ちょ、ちょっと待て!! なんでそうなる!?」
「だって、お前。いつまでもウジウジしてるからだろ?」
意味が分からん。
「大体、近寄るなって言われたんだぞ?」
「そもそも、そう言われたとしてそれで諦めるのか? お前の堂本さんへの気持ちはそんなもんだったのか? 教室でもカズさん言ってただろ? お前の諦めないプレースタイルを楽しみにしてたって。だからな、カズさんはこう言いたかったんだよ。「堂本朝香に一回振られたくらいであきらめんじゃねぇ」ってな」
「え? いや、俺は別に……」
何かを言いたそうなカズさんを遮って拓磨は続ける。
「ちゃんと、カズさんの意図を組んでやれよ。お前に発破をかけてくれたんだからよ。それに堂本さんも心なしか元気あんまりなかったからな。お前が元気付けてやれよ?」
「……わあったよ」
拓磨に言われてハッとしてしまった。そうだ、なんで俺はまた諦めようとしてるんだか。あの時、朝香がしてくれたように俺も朝香との約束果たさないとな。
「……ありがとよ、カズさん、拓磨」
「いいってことよ」
カズさんの返事はなかったが拓磨が調子よく答えてくれた。
こういうのも照れくさいけど青春っぽくてなんだかいいな。そう思ってしまった。
「まあ、いいか。相沢、そういうことでもうウジウジすんのはなしだ。じゃあ、もう一本やるぞ!!」
「え、マジ!? もう足ガクガクなんだけど!?」
「よっしゃあ、俺も混ぜろ! 一回ずつで交代な!」
それから先生が叱りにくるまで俺たちの1ON1は続いた。
許可取ってなかったのかよ。
◆
私は、打ち解けた様子で楽しそうにバスケをする相沢くんたちを見ていて心の底から安心した。
あのまま、ピリついたままだったらどうなるんだろうと少し不安だった。
「やっぱり、男は単純だよねー。流石、拓磨♡ 帰ったらいっぱいイチャイチャしよ」
「ははは、でも少し羨ましいかな」
それに相沢くんが少しでも元気が戻ったようで良かったと思う。
私はあんな風に相沢くんを元気付けられる男の子っていいなって思った。
私もそろそろ覚悟を決めよう。そんな面持ちで先生が来るまでみんなのバスケを見ていた。
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