第41話 ゼルとロバート






みんなが飲み屋を去って行った後、ロバートとゼルは2人でもう少し呑むことにした。

辺りの席は仕事終わりの男達で溢れ飲み屋の中はアルコールの匂いが立ち込め、騒ぐ声やジョッキのガラス音で騒々しい。ゼルとロバートは何も喋らず酒を呑み続ける。




ロバートがジョッキを置いた。


 「ーーゼル、今まで本当に世話になった。」


 「なになに〜??改まっちゃって、きゃー恥ずかしー♪」


 「・・・町の人間が俺の素性を知ると態度が変わって、この町でも最初は居場所が無かった。お前のお陰で忌子と陰口を叩かれ、くだらん嫌がらせにも激昂せず誰も傷付けずにこの町で兵士長を続ける事が出来た。本当にお前には感謝している。」


ゼルの茶化しを無視してロバートは話し続ける。


 「でも、その地位俺が奪っちゃったけどねー♪ゴメンね〜?」


 「人を色眼鏡で見ないお前になら兵士長を任せられる。奥方にも感謝している。世話になったと伝えておいてくれ。あとこれ・・・今まで世話になった礼だ受け取って欲しい。」


ロバートは持っていた鞄から小さい箱を出しゼルに手渡した。


 「なになに??まさか俺に婚約指輪??ゴメンね〜俺そっちは専門外で〜・・・何これ?」


茶化しながらゼルが箱を開けると謎の銀の箱であった。


 「悪魔討伐の褒賞金でセフィールと俺で作ったんだ。敵襲があってどうしようも無い時はこれを広場や開けた場所で思いっきり踏んで壊してくれ。壊した瞬間に内部でエネルギーが生まれて、それによって魔法が使えない人間でも一時的に物質転移する魔法陣が起動する。魔物を一掃出来る武器をセフィールに頼んだから間違いはない筈だ。」


 「ほとんどセフィールじゃん。」


 「まぁな。あとセフィールの奥方のユーリじょ・・・さんもセフィールに助言をしていたから、彼女にも手伝って貰った事にはなるんだが・・・。」


 「ーーーはぁ〜・・・。魔法陣作ったのお前だろ?それも一時的とはいえ転移魔法ってどこの国も欲しがる様なモンだろ?」


 「いや、前々から転移魔法研究していたんだ。後少しの所が掴めなくて何年も放置していたんだが、セフィールとユーリさんから全く違う発想の助言を貰ったらすぐ出来たんだ。大して俺は何にもしてないんだ。」


 「ロバートって本当、損する性格だよなー?確かに2人は凄いけど、魔法陣新たに作ったお前も充分ヤバいくらい凄いんだけど分かってる〜?んー・・・出来れば壊したく無いな、これがずっと使う事が来なければ良いんだけどな。まぁ・・・お守りとして持っとくよ。」


 「あぁ、そうしてくれ。それとお前の奥方に滋養のある食べ物でも買ってくれ。」


ロバートは銀貨10枚を入れた袋をゼルに渡した。


 「あー・・・知ってたのか?」


 「まぁな。巡回中に奥方が病院から出てきた時に鉢合わせて目が合ってな。気になって話を聞いたら子を授かったと教えて貰った。だから・・・お前が悪魔との対峙で瀕死の大怪我を負った時は、奥方とまだ生まれていない御子の事が頭に過って心臓が張り裂ける苦しみを味わった。もう二度と俺にそんな思いはさせないでくれ。」


 「んー・・・ロバート俺に惚れてる??」


笑いながらゼルは聞く。


 「ーーあぁっ!!俺はお前に惚れてるよ!!俺もお前の様に誰かの優しい記憶に残れる奴になりたいと思う。・・・明日は早いから、そろそろ行く。またな。」


テーブルに2人分の代金を置いて去って行った。

ゼルは1人空になったジョッキを見つめる。



 


 「ーーーお前がどこにいたって・・・・・・。」


1刻じっと物思いに耽っていたゼルもようやく腰を上げ飲み屋を出た。帰り道の夜空に輝いていていた翠星に『友の安全』願って家路についた。







※ ※ ※ ※






ロバートは飲み屋を出てから歪んで見える視界で、今晩泊まらせて貰う商業ギルドの施設に地面を踏みしめながら向かう。

飲み屋に行くすれ違う人がロバートを驚いた様子で振り返り顔を追う人が多くいた。



ロバートは半魔故の怪力や他の半魔の噂に恐れられ嫌厭される事ばかりであったが、ゼルによって救われた。ロバートにとって人間は非力で罵るだけしか脳のない生き物というのが生まれてからそれまでの常識であった。それなのに自身が救われたのは非力なただの一介の兵士のゼルであった事は、ロバートの価値観に強い衝撃を与えた。


アイツゼルの様に力は無くても誰かの心を救えるのならば、俺は力があるのだから物理的に多くの人を救える筈』そう思い、今までの環境によって荒んだ心を改めた。




セフィールに新たな武器を作ってもらい、今までの攻撃力よりも遥かに強くなった。

ロバートはセフィール達の護衛と廃ダンジョン探索する任務なので、廃ダンジョンに行く時以外はアイヲン町から離れる必要もない。

しかし、アイヲン町が錬金術師の手によって要塞に近い強さを得た事により、背中を任せられる友に町を任せる決意をした。10数年続く唯一信頼のおける友から離れるのは、思った以上に辛かった。なんとか泣かずに飲み屋で別れることが出来たが、出た瞬間からボロボロと涙がこぼれ落ちてきたが拭っても拭っても止まらないのでロバートはそのままにした。



 「(ゼルに誇れる俺になる。それが俺からゼルへの信頼の証明だ。)」




ロバートは道を振り返り空に輝く翠星に『友の幸せ』を願った。

その後は吹っ切れた様に前を向くとギルドの施設に足取り軽く向かって行った。









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