第38話 誤解を解くのは気力がいる









セフィールは目を覚ますと宿屋の天井が目に入り、元の世界に戻ってきたんだと知った。何故か身体が重い。人の気配に気が付いたセフィールは顔を動かすとルークが室内に居た。ルークは勝手に部屋に入って来ていた様で、セフィールの方を見ているルークは目を見開き口は戦慄いている。


 「おはよう、ルーク。どうしたんだ?」


 「セフィールっっ・・・おっっっお前、何女を宿に連れ込んでんだよっっっっっ!!!」


やっとルークが喋ったと思えば、いきなり大声を上げ裏切り者がと騒いでいる。もしかしてと下を見ると抱き締めたまま連れて来てしまったらしいユーリが、ベットに横になっていたセフィールの上にいた。


ユーリがルークの声に目を覚まし、セフィールの上で身じろぐ。動く事でユーリの柔らかい身体を余計感じたが、セフィールは堪えた。

上着の下は薄着で且つ下は短いズボンで脚を晒したユーリに気が付いたセフィールは、これ以上ルークに見せられないと慌ててユーリを自身の上から横に転がしシーツをユーリに掛けた。ユーリが驚いた声を上げたが、今はルークを落ち着かせるのが先だとルークに説明を試みる。しかし、セフィールが説明しようにもルークは話を聞く耳を持たない。宿屋の客室係が来る前にどうにかしなければと思いルークの口を後ろから手で塞ぎ、尚も暴れるルークをソファーに押し倒し羽交い締めにして暴れられなくする。


ーーーガチャッ!!!



 「お前ら朝っぱらからうるさっ・・・!!!!

ーーーーーま、まぁその・・・なんだ。あーーー・・・うるさくするのなら他の宿を取った方がいいぞ?ここはそういう宿屋じゃ無いからな?ーーー出発は昼頃なら良さそうか?」


ーーんっんんーーーーーーーーんんんーーーーっっっっ!!!


 「そうですね・・・昼頃でお願いします。朝食はすみませんがロバートさん1人で召し上がって下さい。」


 「あっ、あぁ。勿論だっ!!!俺の事は気にするな!!!ではな!!!」


ロバートは居心地悪いと言わんばかりにそそくさと立ち去った。


ーーバタンッ


流石に一度に2人に騒がれると不味いと思いロバートをやり過ごしたセフィール。

ロバートにはなんだかとんでもない誤解をされた様だが、ユーリが見つからなかった事に安堵のため息を零すセフィールと死んだ様に静かになったルーク。すると、もそもそとユーリがシーツから顔を出して「出て良い?」といった様子でセフィールを見上げる。セフィールは『こっちに来てしまったものは仕方ないよね。よし、結婚しよう。』という気持ちに駆られていた。









 「フィールっ、大き過ぎるよっ!!ちょっとアオ!!ダメだって!!」


ルークに以前説明した親友だと伝えたら「親友、女だったのか!?裏切りは俺に会う前からだったか!!」と嫉妬と驚きが大きかった様だ。ルークと2人きりにさせて服を買いに行ってくるのが心配だったセフィールは、持っていた着替えをユーリに渡した。着替える場所が無かった為シーツの中で着替えてたユーリはセフィールのシャツだけ着ていた。身長差が大きくクロが肉を獲ってきてくれてた事もあり、フォルテム王国にいた時の様に痩せ細くないので上のシャツだけでワンピースの様にも見える。

遊んでとアオがユーリの脚に絡んでシャツの裾を口で引っ張っている。クロも珍しく構って欲しいのかユーリの周りをウロウロしている。


 「女の子が自分の服着るってなんか・・・アレだな・・・。背徳感って言うか、なんて言うか・・・。つーかよ、ズボン履いても引きずるだろ・・・。このままで良いんじゃね?可愛いし、目の保養にもなるし?」

 「よし、俺の予備で持ってきたズボンをスカートに錬成したから、ユーリこれ履いて?」

 「お前、酷くね!?聞いてた??俺の話!!女性と付き合った事無い俺達錬金術師の心のオアシスまで奪う権利お前にあんのかよ!!!」


涙を流しながら両膝を着いて床を殴るルークを放置して、セフィールはユーリにズボンをスカートに錬成した服を渡した。アオをユーリの脚から引き剥がすとアオは不機嫌になり尻尾を床にバシバシ叩きつけている。クロは相変わらずユーリの周りをウロウロしていた。


 「わぁーーーーーっっっ!!何度見ても錬金術ってスゴイよね!!!いいないいなーーーっっっ!!私も錬金術出来ないかなっっ???カッコイイーーーーーっっっっ!!!」



オタクの聖地の様な国で生まれた有理は勿論、アニメや漫画をある程度は見て育ってきた。異世界で錬金術を見ようものなら、ほとんどのオタク国の民はテレビ画面のヒーロー・ヒロインのマネがしてみたいと心が滾る筈。彼女も心が滾った内の1人である。

有理は渡されたスカートを履かずにスカートを持ち上げユラユラさせてみたり、裏に縫い目があるのか探したりしていた。



 「ユーリ、そろそろ着てくれ。」




セフィールは後ろからユーリのスカートを持ち上げる左手を掴み、右手でこれ以上手を動かさない様に右肩を掴んだ。不意に触られたのに驚いたユーリがセフィールを振り返る。


 「ズボンがあっという間にスカートになるんだよっ!?感動せずにはいられないよ!!」


 「ほら、ユーリちゃんもセフィールもイチャイチャしてないで、そろそろチェックアウトの時間になるから。それに俺達、朝食も昼食も食ってないんだから外で買わないと。

えっと、流石に一緒に受付通るのは不味いよな・・・。この部屋一階だし窓からで良いか・・・。ユーリちゃんはそこの窓から出て待っててくれる?取り敢えず俺の鞄で簡易の履き物作ったから店で買うまでこれ履いてね?」


ルークは自身の革のカバンであっという間に簡素な履き物を作りユーリの前に置いた。ユーリは感謝を伝えると履き心地を確かめながら「見て見て!!可愛いよね!!」とスカートと履き物を2人に見せびらかし、それを2人は満足した顔でユーリを眺めている。


 「ーーいや、イチャついて無いよ。なぁ?ユーリ?」

 「え?今頃!?否定遅いだろっ!!」

 「んーー・・・どうなんだろ?私、素で話せる親しい友人フィール位しかいないからよく分からん。学校とかみんなこの位だった気もするし・・・んー・・・やっぱ良く分からん。じゃあ、スカート履いたしこの窓から出て待ってるね?ーー絶対拾ってよ?」


躊躇なく椅子を使い窓から外に出たユーリを見送った2人。


 「ユーリちゃんって、何者なんだろ・・・。行動は田舎のお転婆娘みたいなのに、雰囲気良いところのお嬢さんみたいな感じだよね?あんなに可愛いのに親しい友人お前位って人選ミスが酷いな・・・。」

 「それなら、俺は男の友人お前位だからその人選ミスも酷いな・・・。」


 「「・・・・・・。」」


 「・・・出ようか・・・。」

 「・・・そうだな・・・。」




セフィール達は宿屋を出て外で待っていたユーリを拾うとお昼と靴を買って、ロバートと合流した。ロバートに宿屋で見たルークの事が勘違いである事やユーリがセフィールの親友である事を説明した。ロバートの誤解を解くのは苦労したが、ユーリがセフィールに贈られた腕輪を見て納得していた。

しかし、町で借りた馬車に乗りウェリー領へと向かう帰路では「俺が独り身である当て付けか?」と休憩中ロバートはルークと共にセフィールに絡み、その間ユーリはクロのもふもふを満喫していた。




ーー馬車は順調に進みオガルレ街に戻った。






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