第42話 アイヲン町からオガルレ街へ
早朝日が登り始める頃、馬車3台と荷馬車1台を用意しセフィール達はオガルレ街に行く準備を始めた。
商業ギルド長のポドムと受付のカイルが見送りに来てくれた。
「おはようございます、皆様。軽食を持ってまいりましたので、馬車の中でお召し上がり下さい、カイル。」
ポドムがそう言うと、カイルが大きなバスケットを近くにいたエミリアに手渡し皆がポドムにお礼を伝えた。
「皆様のお陰で充分アイヲン町の商いは力をつける事ができ感謝の念に絶えません。誠にありがとうございました。
「結局仕事かよー」
「ふふふ、あなた方と
「ポドムさんカイルさん、アイヲン町ではお世話になりました。それとこれからもよろしくお願いします。」
皆が馬車に荷物を入れ準備が終わる頃、セフィール達の所へ人が集まってきた。
顔を見ると交流のあった町の人達であった。
「良かったわ〜間に合って!急にオガルレ街に行っちゃうって聞いたもんだから、こんな物しか用意できなかったわ。朝焼いたパンと果物のジュース、みんなで食べてね?」
居残り組が商業ギルドから依頼を受けてパンを捏ねる機械をパン屋に作った後、夜明け前から作業をしていたパン屋夫婦の疲労が少なくなり自分達の子供と関わる時間も増え笑顔が増え明るくなったパン屋の奥さん。
「小僧共、錬金術で作った
余りにも新しい武器をポンポン作って提供する居残り組に腹を立てて、商業ギルドに殴り込みに来た鍛冶屋のおじさんは『ねぇ・・・おじさんの所の火床改造するから許して・・・?』腕にしなだれかかりおじさんの胸に指を添え上目遣いのミランダに呆気なく陥落した。
その後、火を簡単に起こせ調整も簡単に出来る装置を作り火床をチタンで囲い夏の作業でも室内の気温が上昇し過ぎることのない様に改造した。何度か試す内に鍛冶屋のおじさんも慣れ今では『良い品が早く出来る店』として他の街からの特注依頼も来る様になった。
みんなが頻繁に通っていた飲み屋のウエイター、短期間で色々迷惑を掛けてしまった町長、ギルド改造している間にみんなと交流する様になった冒険者ギルドのギルド長補佐、数人の兵士が見送りの声を掛ける。
セフィールはお世話になったゼルに最後にもう一度挨拶をしたいと見回す。
みんなの輪の中にはおらず、門の近くにゼルが制服を着て立っていた。
「あ、ゼルさんおはようございます。今日は門番なんですね?兵士長でも門番やるんですね?」
「あー、うん。みんなを迎えたのが俺だから、みんなを送り出すのも俺がやりたかったから代わって貰ったんだ。お前らとほんの少ししか関わって無いのに100年位経ったみたいだわ。竜巻位ヤバい集団になっちまってお兄ちゃんは冷や汗ものだよ〜?」
ゼルはロバート以外にも随分素を晒した話し方になっている。
「そうですか?余りゼルさんのご迷惑にならない様に気をつけていたつもりだったんですが・・・。すみません!」
「ははは♪冗談だよ・・・いや、お前らが竜巻みたいだってのは冗談じゃないが・・・。」
「おっゼル来てくれたのか!お前がオガルレ街に来たら俺が酒奢ってやっから!!」
「そういえば、ルーク結局忙しすぎてあんまり酒飲み行けなかったよな?」
「全くだぜ!オガルレで毎夜飲んだくれてやる・・・。」
「ルークさん・・・そういうの言わない方が良いですよ?私の故郷ではそういう事を言うと大抵叶わなくなるって言うジンクス・・・呪いの様な発言なんですよ。」
「マジか!!ユーリちゃんもっと早くに教えて〜・・・。」
「え?あー・・・そだね。」
「ぷっ、あははははは!!!!ーーーあー、そろそろ出発した方が良いんじゃ無いのか?」
「そうだな、セフィールもう出るぞ。」
「そうですね、みんな馬車に乗ってくれ。ーーゼルさん本当にお世話になりました!!では、また!」
全員が馬車に乗り、アイヲン町の門に向かって移動を始める。
ロバートはゼルと固い握手を交わした後馬に騎乗し「じゃあな!」とだけお互い言い別れた。
ーーがたがたがたがた・・・
「馬車って不便じゃ無いですか?振動凄いし、お尻痛いし・・・。」
「え?ユーリちゃん俺の膝の上に座りたいの??言ってくれたら昨日も乗せたのに〜♪はい、良いよ!!」
ルークは両腕を広げて待っている。
ーーキュウ〜
アオが身を捩らせルークの膝上に頭を乗せた。
「アオちゃーん?今のはアオちゃんに言ってないんだよ〜?」
「いやいや、人の膝の上に座らないから。痺れるよ、きっと。それに夫のフィールが居るんだから座るならフィールの膝の上に座るでしょ。ね!!フィール!!」
「あ、あぁ・・・。そうだな、錬金術で馬車を改造しても良いかもな。」
「聞いてなかったのかよー」
「フィール!!手退けて!」
考えながら顎の下に手を添えていたセフィールの手を退かせた有理は、許可を取る事もなくセフィールの膝の上に腰を下ろした。有理は話を聞いていないセフィールにムッとして嫌がらせに座ったのである。
しかし、有理は後悔した。人の膝の上に乗るなどといった暴挙は幼少期の有理の両親にしか無く、他人に触れ合わないで生きてきた有理は羞恥心で爆発寸前である。
「王都に行く馬車は改造しておくよ、ユーリ。」
セフィールにお腹に腕を回し固定すると有理の背後から話しかけた。耳まで赤くなった有理はオガルレ街まで意識がふわふわとしていた。
「見せつけやがってふざけんなよ・・・俺だって可愛い子の1人や2人・・・」
「鉄は全部チタン製に替えて衝撃吸収材として・・・」
セフィールとルークは全く違う事をオガルレ街に着くまで想像していた。
ウェリー男爵の城にたどり着くと城門付近が騒がしい。セフィールが門番に尋ねてみるとどうやらウェリー男爵に至急登城せよとの王城より連絡があり、今から出発するとの事だった。
「あの、錬金術師のセフィールですが仲間の住まいどこになったかだけ聞いて貰って良いですか?」
セフィールは門番にウェリー男爵が用意してくれると言う話だったみんなの住まいについて尋ねると、門番が他の兵士に伝えその兵士は全速力で駆けて行った。錬金術師のみんなが「まだー?早く街散策したいんだけど〜?」「美味しそうな香りがするわっっ!!」等騒いでいると、すぐ先程の兵士が戻ってきた。
「セフィール様討伐に加わった方々は男爵様と一緒に登城して下さい。さぁっ!急いで下さい!時間がありませんっっ!!」
急かされたセフィールはルークとユーリ、アオとクロを用意された馬車に押し込みロバートはそのまま馬で付いて来る様伝え、急いで自身も馬車に乗り込んだ。
ウェリー男爵が乗っていると思われる馬車が先頭を走り始め、セフィール達が乗る馬車も走り始めた。
「・・・。みんな放置してきたけど大丈夫かな・・・?」
「んーーーー・・・本人達は大丈夫だろうけど周りが大丈夫かは分かんねーな・・・。」
「ねぇねぇ?私付いてきて良かったの?」
「多分前ウェリー男爵が王城に来て欲しいって言ってたヤツじゃ無いのかな?良いんじゃ無いかな?」
「どっか待つ部屋があるんじゃねーか?」
「そうだよね。まぁ・・・いっか。」
ーーきゅっっ♪
ーーがうっっ♪
いきなりのストレスをアオとクロを可愛がり発散させるユーリを見て、セフィールとロバートは和んでいた。
まだ錬金術で改造されていない振動の激しい馬車で王都を目指し馬車は走り続け、夕方には王都に到着した。
ウェリー男爵の王都にあるセカンドハウスに泊めて貰い明日朝一に謁見をする事をウェリー男爵から告げられた。
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