第10話 名もなき村

※ここからは、基本的に錬金術師サイドの話が多くなるのでユーリの話のみ(賢者サイド)と入れます。

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 セフィールはユーリに返信した後、早速ステンレス鋼の錬成に取り掛かった。

何度か失敗したもののユーリが配合割合を教えてくれていたので新しい金属の錬成にしては、異常な早さで成功した。本職の鍛冶屋と違い錬金術の利点は、何度失敗しても混ざった素材を元の素材に戻せるので失敗しても破棄する事がないのである。

試しに素材ボードに収納すると『ステンレス鋼 1㎏』と出ていたので成功した事は間違いない。しかし、セフィールは20キロ位作ってみたかったがニッケルを含むペントランド鉱30キロ精錬すると、1.2キロしかニッケルが含まれていなかった為取り敢えず1キロに作ることにした。



 「んー・・・ニッケル含有量少な過ぎだよー・・・ニッケル採れる鉱山探さなきゃなー・・・

もうそろそろ隣国に入るだろうし、隣国で探せば良いか。よし!!ユーリ様が言ってた鍋作るか」


ヒートの魔法と錬金術で片手鍋を練り上げた。錬成された鍋は銀色に光り美しく長年練習していた錬金術によって厚さも丁度良い見掛けも美しく仕上がった。持ち手は森の木を使った。


ーーきゅーーーーーーっっっ


ーーわふっ


アオとクロがいつの間にか帰ってきており、クロが獲って来たと思われる大きな獲物とアオが採って来たと思われる薬草が転がっていた。

洞窟の外を見やると日が落ちており、集中し過ぎて帰って来ていたアオとクロに気付かなかった様だ。

今出来たばかりの片手鍋を使って料理をしたかったが、少し持っていた塩さえも使い切ってしまっていたので、夕ご飯はただ肉をヒートで加熱するだけにした。アオとクロはセフィールが捌いた魔物の肉を食べ、ユーリにステンレス鋼で鍋を作った報告をしてから明日の出発に向けて早めに就寝した。





翌朝、昨日の夕飯の残りをみんなで食べてから使い古したリュックに片手鍋を入れアオとクロと共に歩き始める。昨日いた洞窟から4時間程度歩いた頃に人の気配があった。

セフィール達は、そちらへ向かうと集落があり少数ではあるがそこで生活していた。


 「あ、あの・・・すみません・・・」


 「え?ーーーうあぁぁぁぁっっっっっっ!!!」


セフィールが畑を耕している若い男性に声を掛けると男性が驚いて転んでしまった。


 「すみませんっっっっ!大丈夫ですかっっ!?驚かせるつもりはなかったのですがっっっ!!!」


あたふたとセフィールがしていると男の叫び声を聞いた村人が簡素な作りの家からクワや斧を持って出てきた。また、それを見たセフィールは先程以上に慌てふためいてしまっている。

そんなセフィールの前にクロが出て低い唸り声を上げ威嚇を始めた。


 「みんなっっ!ごめん、俺が村人以外の人に驚いて叫んじまっただけなんだっ!!コイツに襲われた訳でも何でもねぇ、みんなお客さんだ」


そう男が家から出てきた人達に伝えると、怪しむ様な目をセフィールに向けるものの武器を下ろし下がっていった。クロも敵意が無くなった村人に威嚇するのを止めて様子を見ている。


 「悪かったな、ここには滅多に他所からの客なんか来ないからよ」


 「いえ、俺も急に話しかけて驚かせてしまいましたから・・・本当に怪我してないですか?」


 「ははっ!!大丈夫だって、お前良い奴じゃん♪なんでこんな何にもない田舎に来たんだ?・・・もしかしてお前・・・」


 「??」


 「いやいや、気にしないでくれ。で、何の用事できたんだ?」


 「あー・・・数日前までフォルテム王国に居たんだが、ここはまだ国内なのか?国内なら後どれ位で国外へ出られるのか教えてくれないか?」


 「・・・お前、もしかして錬金術師・・・か?」


急に聞かれてセフィールは心臓がバクバクと鼓動が激しくなる。浮浪者の様な姿で補助金を切られたこのタイミングに国を出ようとしている事で、錬金術師にアタリを付けて聞く様な人間はフォルテム王国民だけである。


 「え・・・いや、俺はその・・・(しまったっっ!!ここはまだ国内かっ!!罵声浴びせられる前に出て行かなきゃ・・・)」


 「隠さなくてもいい。この村はな、フォルテム王国を逃げ出した錬金術師の集まりなんだ・・・。法律を破って逃げ出したから王国の兵が捕まえに来るんじゃ無いかって、ずっと怯えているから過敏なんだ。アイツらも悪気があって武器向けた訳じゃ無いって事だけは知っておいてやってくれ。」


 「え?もう怯えなくても良いじゃ無いですか?何でまだ怯えているんですか?」


 「え?」


 「え?」


二人の間に沈黙が流れた。



♢♢♢♢♢




若い男の名前はルークといい、2年前からこの隠れ里に住んでいる。彼は魔法学校の錬金術科に通っていたが、余りにも酷いイジメと家族に無視される日々に耐えかね学校に向かう途中で死んだ様に工作して国を出たとの事であった。


今日はルークの家に泊めてもらう事になった。

クロがいつの間にか獲物を獲ってきており、ルークにも宿泊のお礼にとセフィールは料理を振る舞う事にした。折角なので台所を借りて、昨日完成させたステンレス鋼で作った片手鍋で初調理をする事にした。


 「あー良かった、俺やっとでフォルテム王国出たんですね?地図買う金も持ってなかったから昔図書館で見た地図のうろ覚え頼りに歩いてきたんですよ〜」


 「やっぱりみんな同じ様な境遇だね・・・。ここはミジュア王国なんだが、お前は知らないかも知れないが弱小国なんだよ・・・。強い国に逃げたくても法律破った犯罪者だから強い国なんかに逃げ込んだらすぐ気付かれちまうだろ?だから、いつもフォルテム王国の影に怯えて暮らしてるって訳。

ーーーーで、さっきの話なんだけど・・・。」


調理をしているセフィールの後ろでルークがテーブルに凭れたまま話を続ける。


 「あぁ、俺が国を出たのは法律が無くなったからなんだよ。だからこの村の連中がフォルテム王国に帰っても補助金は貰えないからな?」


 「いらねーよ、ただでさえガキの小遣い程度なのに年々少なくされた名目だけの金なんかよ。端金でどんだけ俺ら苦しめたと思っているんだよっっ!!あの国は錬金術師の力で出来た国の筈なのになー・・・何でこんなに酷い扱いするんだよ・・・。」


 「・・・俺はこれから、この国の中心地に行ってこの国の錬金術を学んで研究しようと思うんだ。ルークはどうするんだ?このままここにいるのか?錬金術出来るならやらないと勿体無いぞ?」


 「期待折って悪いんだけどさ、この国は錬金術師差別は無いけど錬金術の知識フォルテム王国の2割位しか無かったぞ?どうしようも無いんだよなー・・・でも犯罪者じゃ無いなら、錬金術のレベル高い国に行ってもいいんだよなー・・・うーん。でもなぁ・・・」


 「ルークの心配している事は分かっているつもりだ。確かにどこに行っても大差無くて、錬金術師は本職に敵わないのは同じかも知れない。でもな、ルーク。この片手鍋昨日俺が作ったんだが、新しい合金を錬成して作ったんだぞ。自分達でも出来る事が・・・自分達錬金術師で無ければできない事があるんじゃ無いのか?」


丁度料理が出来上がり、鍋敷きの上に料理の入った片手鍋を置いた。


 「これ、セフィールが作ったのか!?てっきり鍛冶屋が作った高級品かと思っちまった・・・。確かに鉄っぽく無いな・・・。持ってみて良いか?」


 「おいおい、食べてからにしたらどうだ?」


苦笑いでセフィールが返すと、ルークは少し眉を寄せた。


 「料理が入ってこその鍋だろっっ!!だから、良いんだっっ!!」


そう言って持ち上げて軽い事に驚いていた。セフィールはルークが弟の様で微笑ましく眺めていた。


ーーコンコンコン・・・


 「あれ?誰だろ?」


ルークが扉を開けるとそこには5〜7歳位の女の子がいた。どうしたんだろうとセフィールが思っていると女の子がじっとセフィールの方を見てきた。


 「マリー、どうしたんだ?こんな時間に出歩いちゃダメだろ?」


 「俺に用事があるのか?」


コクリと頷くがセフィールが作った料理の匂いを嗅いでしまいお腹がきゅるるるる・・・となってしまいマリーという少女は顔を真っ赤にして俯いた。

セフィールとルークは顔を見合わせて笑うとマリーも加えて一緒に食事をする事にした。

アオとクロには生肉を皿に乗せて置いて、セフィール、ルーク、マリーの3人はテーブルを囲んで食べ始めた。錬金術師は攻撃魔法が微々たる物なので、錬金術師達である村人達は狩が出来ない。その為久しぶりに肉料理を目の前にしたルークとマリーは目が輝いていた。


 「喜んで貰えて嬉しいよ。肉はそこでご飯食べている黒い犬がいるだろ?クロって言うんだが、いつも獲ってきてくれるんだ。オスだけど俺のお母さんみたいな感じかな?そっちの青い蜥蜴はアオって言うんだ。アオは・・・うーん・・・子供っぽい所あるけど我が強くて我が道を行く感じでメスだけどおじいちゃんって感じなのかな?書物で読んだ理想の家族の印象だから、現実は違うのかもしれないけどね」


 「お前、よく獣にお母さんとか思えるな・・・。俺も結構一人でいる期間長かったけど、流石にお前みたいに拗らせた事は無いぞ?マリー、お前はあるか?」


 「・・・マリーは、お姉ちゃんも錬金術師だから無い。」


そこでやっとセフィールはマリーの声を聞いた。余りにも喋らないから喋れないのかもと思っていたが、人見知りが強かっただけだったのだろう。


ーー突然何か考える様な仕草をしたルークが、顔を上げた。







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