第25話 献上品(2)






領主を引き止めてしまった焦りから、セフィールは早口になってしまう。セフィールはその場にいた全員の目が自身に刺さっているのをヒシヒシと感じた。



 「き、昨日のコップだけでは寂しい気がして、今朝他にチタンで出来た物を作ったので良かったら持って行って来れませんかっ?」


 「ーー真かっ!?・・・それは助かる。

セフィール殿食事中で悪いのだが、これから私の執務室まで付いて来てくれ。」

 「はっ、はいっっ!!」

 

セフィールは急いで領主の後をついて行き、執務室に入ると領主に催促されたので早速テーブルに今朝作ったばかりの腕輪数点と燭台を出した。

それを見た領主と執事は、繊細に造られた薔薇の燭台とシンプルながらも洗練された腕輪に感嘆の声を上げた。



 「親友にチタンに向いている物を聞いたら、チタンはチタン以外の金属成分を完全に無くすと金属に対する拒否反応が身体に出にくいらしいんです。金属付けている部分が赤くなったりするのが拒否反応を示しているって。チタンは軽くて丈夫で錆びにくいのが利点と教えられ、親友に勧められた腕輪と燭台にしました。

すみません、俺平民の上に洞窟暮らしが長いもので・・・王様やお貴族様が使いそうな物が全く思い付かなかったんで俺の考えがなくて・・・。」


項垂れるセフィールに領主が声を掛けた。


 「しかし、これは君の親友が作ったのでは無くセフィール殿が作ったのであろう?誇ると良い。考える者と遂行者が違う事など良くあるのだよ。君が遂行者と言うだけなのだ。実力があるからその親友が君の手を取ったのだろう。良い関係性だな。・・・鉄の拒否反応については、すまないが後日聞かせてくれ。大変興味深い話だからな。」


 「旦那様そろそろ・・・。」


 「では、この礼に君がこの街に来る時はここを宿屋代わりにいつでも使ってくれ。アオ殿とクロ殿も居るから広い方が良いだろう?その位しか今は出来ぬが、その内きちんと礼をさせて貰うよ。フィリップ彼を頼む。では行ってくる。」


 「え、あっ、行ってらっしゃいませっっ!!」



泊めて貰うだけで十分だと断ろうとしたが、領主は流れる様に話した後若い執事が来て一緒に去っていったので慌てて見送りの言葉だけ辛うじて言う事が出来た。

執務室に残ったセフィールと領主専属執事。気まずかったのでクロ達の元へ戻ろうと、ドアに近づくと執事に声を掛けられた。



 「セフィール様、お食事途中でございましたので帰りの馬車で召し上がれる様に、持って帰れる軽食を用意しておきますね。」


 「えっっっ!!流石に申し訳ないですっっ!!!お気遣いだけで十分ですっっ!!」

 「ダメです。」

 「はいっ?」

 「何もせずに帰しては、旦那様に叱られてしまいますので。それともセフィール様はこの年老いた執事が旦那様に叱られれば良いと、冷たい事をおしゃるのですな?」

 「え?あ・・・その・・・なんか、すみません・・・。」

 「はい、セフィール様宜しいですな?これからもこの年老いた執事と関わる機会がきっとございますから、遠慮は要らないのですよ。セフィール様の親戚の爺位に思っていてくださいませ。」

 「はぁ・・・??」


 「これからも旦那様と仲良くして頂けます事を、この爺めは期待しております。」


執事のフィリップがセフィールに優しい表情で自身の想いを伝えると、セフィールに深く礼を行った。

セフィールは執事の名前がフィリップという事と、この執事は自身の意見を言う事が許される位には領主に信頼されている事が窺い知れた。


 「(フィリップさんが言う様に、これからも領主様と顔を合わせる事があるんだろうな・・・そういや、俺の親戚ってあの村に居たのか?フィリップさんが俺の親戚のお爺さん・・・面映いな・・・。」

 

そんな取り留めもない事を考えながら執事のフィリップさんに案内され、ルーク達と合流した。ポドム達も居た。


 「おう!おかえり!!何渡したんだ?」

 「腕輪何個かと燭台だよ。」

 「わたくしも拝見したかったですなぁ・・・」

 「また、作った時はお見せしますよ。」

 「いえいえ、次作った時は買い取り出来る物でお願いします。見せられるだけで買えない等ただの苦行ですからな。」

 「そんなに、お前の作った物は良いのか?商業ギルド長が欲しがるなんかよっぽどじゃ無いと無いぞ?」

 「あ、そう言えばお二人にはまだこれ差し上げてませんでしたね。ーーどうぞ。」

 「コップ?」


銀色のコップを手渡され、微妙な反応で眺める兵士長。


 「これももしかしてあのコップなのか!?」

 「あのコップ?」

 「はい。今回はあの時とは違う素材で出来ていて、前回のコップより軽く丈夫で錆びにくいコップです。」

 「おい、そんな貴重な物貰う訳にはいかん。こういう所から癒着が始まるのだ!!」

 「えー。じゃあ兵士長の分俺貰っときますね?ありがとうございます♪」

 「なぜ俺の話を聞いて辞退せん!?ゼル!!お前は一体どんな神経しているんだっっ!!」


ゼルの態度に憤慨する兵士長にゼルが適当にあしらっていた。兵士長は頭は堅いが実直な性格の様である。


 「兵士長さん、それ昨日アオとクロの面倒を見て貰ったお礼なので貰って下さい。昨日大変だったんじゃ無いですか?」

 「たっ・・・大変な事あるものかっっっ!!!俺は兵士長だからなっっ!!!」

 「ズタボロになってたけどアレ誰でしたっけ?えーと、背は俺よりやや高くて〜・・・」

 「ゼルっ!!あれは訓練だっっっ!!!アオと俺は訓練をしていたのだっっ!!・・・くっ!!何でキラキラした目で俺を見る!!俺の脚に登ろうとするなっっっ!!今日はもうアイヲン町に帰るんだっっ!!」


また遊んでくれるのかと期待したアオが兵士長の脚をよじ登ろうとしている。


 「それなら、訓練して貰ったお礼必要ですよね?ありがとうございました!」

 「え?あぁ・・・いや、こちらこそ。」


みんなで言いくるめてコップを渡す事に成功した。兵士長と町で会う事があったら、使った感想が聞けると良いなぁとセフィールは思っていた。

無事に渡せた後はオガルレ街の商業ギルドに用事のあったポドム以外、みんなで街を散策に出かけた。散策の途中でお土産等買い物をして、ポドムと合流した。ポドムが執事から渡された軽食のパンサンドを皆で食べた後街を出発し、馬車の中で3人でたわいも無い話をしている間にアイヲン町に帰り着いた。



ポドムや兵士長達と別れた後、セフィール達は大きな動物泊まれる宿屋で部屋を取った。

セフィールはユーリにチタンに向いている物を教えて貰ったお礼の文面を送り、翠星にユーリの幸せとミジュア王国の平穏を願い就寝した。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎






深夜、部屋の明るさにセフィールは目が覚め起きると、クロとアオも起き上がっている。そのクロとアオが黄緑色に発光していて、0と1の白い数字がぐるぐると2匹の周りを回っている。

セフィールは驚いてクロとアオに近づくと回っていた数字が動きを止めた。

その止まっていた数字が突如、高速で2匹に吸い込まれた瞬間部屋が真っ白になった。セフィールとアオとクロだけしか居ない真っ白の空間の様に見える。


 「ルークはどこだ?白くて見えないのか?」


白い空間を壁やベットを探して手探りで進むものの、全く壁にぶつからない。


 「夢??」


しばらくセフィール達は歩き続けた。真っ白の空間に方向感覚がなくなり段々と気持ちが悪くなってきた。目を閉じながら進もうと瞼を閉じると何故か暖かく感じる方向があったので、そちらに向かい歩き始めた。





ーーすると真っ白い空間にベットがポツンと現れた。




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