第26話 白い世界とスキル越しのキミ(後半賢者サイド)






真っ白な空間に突然現れたベットは黄緑色の布団で中に誰かが寝ている様で、膨らんでいた。

ここの事をきっと知っているだろうと、その人を起こそうとセフィールが声を掛けた。


 「すみませんが、もし?あの〜寝ている所恐縮なのですが・・・。迷子になりまして、この歳で迷子と言うのもお恥ずかしい話なのですが先ほどまでいた所と全く違う場所に来てしまいまして・・・。あの、良いですか?おーいっ」


ーーがふぅっっーーーーーーー♪♪


ーーきゅううーーーーーーーーっっっっっ!!!!


ーードスッッッッ!!!!


 「うぐぁっっっ!!?」


いきなり布団の上にアオとクロが勢いをつけて乗り上げた為、中の人物が苦しそうな声を上げた。


 「流石にそれはダメだ!!!アオ、クロ!!!退きなさい!!すみませんっっ酷い起こしてしまってっっ!!」


急いで布団の上のアオとクロを退かせると、起きた筈だが未だ出てこない布団の中で動いている人物にセフィールは謝る。


ーーバサッッッッッ!!!


 「えっ!?遅刻!?・・・ん?ここどこ?・・・あぁぁ・・・これが夢を認識出来る事があるってやつか〜成る程〜・・・。わぁっっ犬がっっ!!蜥蜴がっっ!!人間がリアルっっっ!!!」


クロとアオ、そしてセフィールまでもベタベタと触り始めた布団の中にいた人物は女性だった。薄手の白い身体に合っていない、大きな半袖シャツと太ももが露わになった、かなり短めのパンツを履いた肩までの長さの黒髪の可愛らしい女性にベタベタと腕やお腹に背中顔等を触られて流石にセフィールはクラクラして来た。

フォルテム王国では誰にも相手にされなかったし、錬金術師同士でどうこうなるといった事は一切なかった。夜のお店も錬金術師はお金がない為に行くことも出来ないので、33歳になっても童貞であったセフィールには刺激が強すぎた。

しかも身長差がある為、その女性の方を見ると自然と身体に合っていないシャツと肌の隙間に目が行ってしまう。もうこれ以上はダメだと離れようとした時、女性に両腕を掴まれた。


 

 「も、もしかして・・・フィール?」


下から見上げながら恐る恐るといった風に女性は話しかけてきた。


 「っ!?・・・ユーリ様・・・なのか!?」

 「・・・様?」

 「あ、いや、これはっっ!!すっスキルを使う時はユーリで呼ばせて貰っているがっ、心の中じゃユーリ様と呼んでいたので、その・・・文字で無いので、その・・・思わず・・・ごめん!」


 「やっぱりフィールだ・・・。この感じ間違いないっ!!いつも手紙ありがとうねっ?私の可愛げのないやり取りに良く付き合ってくれるよね〜。フィールって優しいけど、私とのやり取りにストレス・・・疲労とか感じてない?大丈夫?」


 「あ、あの・・・ごめん今までずっと同性だと思ってたんだ。まさかこんなに可愛い女性が相手だとは全く思っても見なかったよ。気付いていればもっと気の利いた事でも・・・」

 「気の利いた事書ける?」

 「すまん。どっちでも無理だった・・・。」


 「ははっ!!これが夢でもフィールに会えたのは幸運だね!!私の書き方が女らしく無いからそう思ったんでしょ?同性だと思ってたのも仕方ないよ〜。チタン見つかったんだってね?改めておめでとうっ!!王様喜んでくれると良いね?前も言ったけどチタンはこっちの世界じゃ加工が大変なんだよ。だから結構採れるけど値段が高くなるんだって。錬金術師いたら間違いなく世界大きく変わるよ。フィールの世界でもそれは同じだと思う。」


 「俺の世界はユーリがいたから大きく変わったけどね。」


 「「・・・・・・」」


お互い気恥ずかしくなって目を逸らしていると、アオとクロが吠えた。


 「もしかして、戻るのか?」


ーーがうっ


ーーきゅうっっ


 「・・・ユーリ、最後に抱き締めてもいい・・・かな?」

 「ーー勿論っっ!!」


ーーギュッとお互い抱き締めると黄緑色の光に包まれた。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





セフィールが目を開けると宿屋の部屋でもう日が登り始めていた。




ユーリを抱き締めていた腕の中には何も無い。残っているのは抱き締めていた感覚だけだった。アオとクロは何事も無かったかの様に毛繕いや二度寝をしていた。



 「ユーリ・・・」



今のが夢で無いのを確かめる為にスキルを発動して、今の出来事の確認をユーリに送信しようと思った。



 「はは・・・夢じゃなかったんだ・・・」



 『              フィール


   夢の中でフィールに会えるなんて思わなかったよ!!!

  フィールが想像よりずっと格好良かったから、びっくりしちゃった♪

          また、いつでも会いに来てね?


                       ユーリ       』


  

セフィールはにやける顔が収まらずベットにダイブした。






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎







有理が目が覚めたのは目覚ましのアラームの設定時間よりも1時間早かった。

上半身を起こした有理は、布団に顔を埋めた。



 「(はっっ恥ずかしいっっっっっ!!!何あれっっっ!!私欲求不満なのっっ!?・・・いやまぁ・・・人間面倒くて彼氏作った事無いし、欲しいとは思って無いけど・・・ギュッと抱き締めて欲しい時とかはあるし・・・。あぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっっっっっ!!!どうしようっっっっ!!!私変態だ!!メル友相手を勝手に夢に想像して出した上に抱き締めて貰うとかっっっ!!)」



布団に顔を埋めたまま悶えていた有理はふと、もう一方の考えに至った。



 「(そ、そうだっっ!!私の妄想でも夢で会った事にしちゃえば良いんだ!!向こうが『は?何言ってんの?』ってなっても、異世界だし納得してくれるかも!!私は変態じゃない私は変態じゃない・・・)」


ブツブツ呪文の様に呟きながらノートパソコンを開き、セフィールにメールを送信した。



 「(私の妄想だろうと容姿を褒めているのだから、一括りに変態扱いされまいっっ!!!私の勝ちだっっっ!!!)」


羞恥心から暴走気味の有理の元へセフィールからの返事が届いた。



 『             ユーリ


   俺も夢で会えるなんて思わなかった

  すごく可愛かったし、抱き締めた時柔らかくて良い匂いがしたから本当に

  会っているみたいだった

  夢だけど言いたい事あったんだ。流石に夢でも男に会うのにあの格好はどうかと

  思うんだ。こっちの考え押し付ける様で悪いんだけど、あの格好は他の男の前で

  やらないで欲しいな。


                     フィール     』





 「(っっっっっっっ!!!いや、確かに抱き締め合った時私もフィールの匂いしたけどもっっっ!!!書き方っっっっ!!!!私が変態って思われるの悩んだのが馬鹿みたいじゃんかっっ!!同じ夢見てたんだ・・・。

・・・・・・格好?この白いシャツの事?まぁこれ福袋に入ってたサイズ大きいし、私の着ない白だったから寝巻きにしただけだから外に出ないんだけどなぁ〜・・・。男の前っていうか人の前でも着て行かないって。外出用にこんなの着るわけないじゃん。今度会ったら寝巻きですって教えとこう!)」

  


 


その日有理は、表情筋が緩み朗らかな気分で仕事に励む事が出来た。







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