第35話 馬車の中で錬成練習







隣の領【デラダ領】に向かう馬車の中、セフィールは黙々とユーリに教えて貰ったアルミニウム合金やチタン合金を錬成していた。


 「セフィール〜、俺そろそろ回復薬作りたいかも〜。おーいセフィールさんやー」

 

集中していて聞いていないセフィールに何度か声を掛けるルーク。ルークはそこまで錬金術に必死で無いので余り率先して錬金術を学び直そうとはしてこなかった。


 「・・・ん?え?回復薬??急にどうしたんだ?」

 「あ〜・・・えーと・・・。ほら、俺の回復薬でゼルが治んなかっただろ・・・?俺がもっと効き目高い回復薬作れてたら、ゼルも早く兵士の仕事戻れてただろ?」


 「それは結果だよ。効き目高い薬があの時作れてたからといって、もう兵士の仕事復帰出来てるかは別問題だと思うよ。それよりも、ルークが回復薬作りたいなら練習するか?鉱物以外もスキルに材料として入れているから練習出来るぞ?」


 「ーーそっか、結果か。ーーうん、これから頼むわセフィール師匠!!!」


 「ルークに師匠って呼ばれるのはなんかむず痒いな。今まで通りで頼むよ。」


 「おう!!で、俺は何を練習したら良い??」

 「んー、回復薬の材料を個別に精錬して不純物一切ない個々の液体を抽出させてみてくれ。それから考える。ちょっと待って・・・・・・はい、材料抽出液入れる瓶5個と回復薬にした物を入れる大きめの瓶一本。出来たらまた声かけてくれ。」


セフィールはルークがやるべき事を伝えた後、錬成したアルミニウム合金とステンレス合金で仲間になったロバート用にユーリに教えて貰った弓を作り始めた。ユーリがステンレスに色々混ぜてみたら良いと書いていたので、教えて貰った配合割合のチタン合金とは別にニッケル等混ぜていたら強い紐を作る事にも成功した。

普通の単純な弓と違い滑車が付いていたりと、複雑な為に構造を理解しながら進めて行く。今まで複雑な物を作る事が無かったので物作り魂に火が付き、何度失敗してもやり直し作って行くのはとても満ち足りた。



 「・・・ーーる、セフィールってば〜!終わったんだけど、どう??」

 「あっ、すまん!そうだなぁー・・・今、75%位の純度だから全部精錬し直したらまた声掛けてくれ。」

 「い、いや!!ちょっと待ってちょっとっっっっ!!!」


また自分の作業に戻ろうとするセフィールにルークは慌てて止める。


 「ん?すまん、まだなんかあったのか?」

 「これ、今の俺の全力な。こっからどうやって純度100%まで上げられるのか全く分かんねー。お手上げだっつーの。どうしたら良いんだ?」


 「あぁっ!!そうか、うん。じゃあ、手を翳して?そうそう・・・目を閉じて意識を繋げて・・・液体と一体化したら通した魔力で手を作ってその手を精錬する物に浸す。精錬する液体は微風みたいなものだ、魔力の手で異物が手に当たるのを感じ取ってひたすら外に落として行く。」


 「ど、どうだっっ!?結構いい感じじゃね??」


液体の入った瓶を持ってはやる気持ちを抑えられないルークがセフィールに聞いてくる。

今度は純度100%の抽出液が出来ていた。


 「うん!今度はちゃんと出来てるよルーク!!鉱物の精錬の感覚とはちょっと違うから出来なかったのかもな?これなら、すぐ残り全部精錬出来るだろ?待っとくから。」

 「おうっっ!!」


元気よく精錬に取り掛かるルークをセフィールは見守っていた。コツを掴めたルークはすぐに精錬作業が無事に終わり、回復薬の錬成を行った。


 「効き目はルークがいつも作っている物の倍位にはなっていると思う。どんどん練習していったらルークは一瞬で回復薬を錬成出来る様になるよ。その内、魔力回復薬の薬草が集まったらそっちも練習しよう。」

 「あぁ!その時はよろしくっ!!」



中間の休憩地点までセフィールは弓を作り続け、ルークはひたすら回復薬を錬成し続けた。



ーーコンコン


 「2人共、休憩時間だ、休憩するぞ。いい加減外に出ろ!!」


馬で護衛していたロバートが馬車の扉を叩き扉を開けた。


ーードスッッッ!!!


 「うぐっっっっ!!!」


扉を開けた腹部にアオが突撃し、あまりの衝撃にロバートの口から思わず声が漏れた。アオがドタバタと馬車を移動して外に飛び出した為、集中してロバートの声が聞こえていなかった2人も扉の外でお腹を押さえて苦しそうなロバートに流石に気が付いた。


 「おっさん!!!腹下しか!?今、最高の回復薬作ったから!!」

 「俺達に気にせず道外れて良いですよ?」


 「お・・・お前ら・・・。ぐぁっ・・・!!」


構ってくれないロバートにアオが怒って再び体当たりをし、ロバートは倒された。


ーーきゅうっきゅゆうううーーー♪♪


半刻ほど休憩時間をとる事になったので、セフィールはステンレス鍋にスープを入れたままスキルに入れていたスープをヒートで温めて御者を含め全員にステンレスのコップに入れて渡した。それと持ってきていたパンをみんなで食べる。

アオはクロが獲ってきた獲物を貰って食べている。


 「(アオって戦うの好きな割にクロから貰うんだよなぁ〜。まぁ大きくならないとそんなに速く無いからかもなぁ・・・。あっ!!ロバートさんに弓渡さないと!!)」


いそいそと弓を取り出し周囲を警戒しながら食事をするロバートに渡す。


 「なんだ?この変わった形の物は。・・・弓か??それにしても奇抜な・・・。」


 「ロバートさんこの間弓の命中率良かったので、合金で作ってみました!2種類の合金で作ったんですが、弓様の手袋って持ってます?試して欲しいんですが・・・。」


 「このまま射ってみよう。数回程度俺は何ともない。」


弓と矢をロバートに渡した。最初はアルミニウム合金で作った弓である。

ロバートは森の木を狙って構える。


ーーぎぎぎぎ・・・・パキッッッッッ!!!


 「「「あ・・・」」」


3人は微妙な沈黙に飲まれた。


 「やっぱりダメでしたか。親友は持ち手の部分をアルミニウム合金と言っていたので、弓の本体は違う素材じゃないとダメなんですね。うーん。まぁこれはいいか。では、次のチタン合金でお願いします。」


 「あぁ・・・。これ、すまなかったな・・・。」


 「気にしないでください。試しているだけですから。」


セフィールが渡した全てチタン合金で出来た弓をロバートは、再び構え射る。

今度は折れることもなく凄い勢いで矢は飛んで行った。


ーードスゥゥゥゥーーーーーーーーッッッッッッッ!!!


凄い勢いで飛んだ矢はロバートが狙っていた木に深く突き刺さった。


「「・・・」」


 「やっぱりチタン合金が良かったみたいですね!!ロバートさんの怪力だとアルミニウム合金じゃ負荷が大きかったんでしょうかね?そもそも本体もアルミニウム合金で作ったのが不味かったのかもですねー。」


 「おいおいおいっっっっっっ!!今の威力はおかしかっただろ!!!あんな威力で矢は放てん!!!見てみろ!!!矢が木の中腹まで入っているだろーがっっ!!」

 「そうだぞ?セフィール。お前は矢を射った事が無いから知らないんだろうが、あれはヤバいぞ。本当に。」

 「帰ったら即刻領主様に見せる事、これ以上は領主様に作って良いかお伺い立てた方が賢明だろう。」


 「えぇっ!?ロバートさんの力が異常なんでしょ?人の所為にするのはどうかと思うんだけどなぁ・・・。そうかー・・・、まぁいいや。どうせ、これロバートさんのだからロバートさんが帰ったら領主様に見せるんだし。ーーじゃあそろそろ時間ですね、行きましょうか?」


セフィールは何も無かったかの様にスープが入っていたみんなのコップを回収して片付けて行った。

残された弓を持ったまま固まったロバートと話を聞き固まったルークは、頭が動き出すのに時間が掛かった。


 「お、おいっ、ルーク・・・。この凶器俺のって言ってなかったか・・・?」

 「・・・聞き間違いだと思いたいんだろうが、どうやらそれ、お前のみたいだな・・・。・・・つか、お前これから俺に話しかけんな。俺の名前も呼ぶな。他人、他人だ他人だ!!!」

 「なっ!?ルークお前1人面倒ごとから逃れようなんて、そうはいかんからな!!!地の底まで追いかけて名前呼んでやるからなっっっ!!ーールークと俺は友人だーーーーーっっっっっっ!!!」

 「何、既成事実作ろうとしてやがんだっっっっっ!!!黙れっっっ!!ぼっち黙れっっ!!」

 「お前に言われたくないっっっ!!!」


横ではアオが羨ましそうに2人を見つめ、クロは呆れて馬車の中に入って行った。


 「2人とも遊んでないでそろそろ行かないかーー??」


馬車の扉の前でセフィールに呼びかけられて、慌てて準備をして隣の領地の廃ダンジョンを目指し進んだ。



しばらくすると、領の境目に着き検問があったが国王陛下の許可証があり難なく進み、デラダ領に入ってすぐに目的の廃ダンジョンに辿り着いた。







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