第34話 心を許す相手(賢者サイド)






仕事が終わって帰宅した有理は、ティーパックで紅茶を淹れ飲みながらノートパソコンの画面を眺めていた。悪魔を再び倒した事、人体の絵と生き物の身体についての話がとても参考になり、大怪我を負った兵士長を助けることが出来たお礼綴られていたセフィールの返信を眺めていた。


 「(昨日の『大けが 助けて どうしようユーリ』はビックリしたなぁ〜。でも助かったんなら良かったな〜。あんなのでヒントになるとかフィールはやっぱり天才肌だよね〜。画像添付できる事が分かって良かった。

ーーさて、弓を作ったのかー。次はアルミニウム合金か・・・。)」


早速ネットでアーチェリーを検索しコンパウンドボウという種類の弓が狩猟に適している事を知ると、仕組みについての画像を探して数枚添付した。それから本文を打ち始める。




 『            フィール


   兵士長さんのケガ治って良かったね!!兵士長さん弓上手いなら

  狩猟に適した弓作ってみる?持ち手の部分はアルミニウム合金とかなんだけど

  軽くて柔らかい合金なんだけど、欠点が長い間使えないからある程度使ったら

  作り替える感じになると思う。その時はまたフィールが精錬し直したら

  良いんじゃないかな?一応アルミニウムに入れる割合書いとくね〜?


  亜鉛5・5% 、マグネシウム2.5%、銅1.6% だよ。


   うーん。フィールならどのみちどんな形でもすぐ作れそうだし、弓も

  案外チタン合金でいいんじゃないかな〜とか思うんだけど。チタン合金の

  種類多いんだけどバネに使われているチタン合金も試してみる?

  チタン合金の方が錆びにくいし丈夫なんだし。

  こっちで弓がチタン合金じゃないの加工が難しいからなんじゃないかと。

  その点フィールなら問題ないんじゃない?


  バナジウム22% 、アルミニウム4%

   余裕あったらチタンに色々混ぜて試すと良いよ☆

                         ユーリ    』

                     



 「(んー・・・メール打ってて改めて思ったけど、錬金術師ってかなりチートな職業じゃない??フィールに教える為に合金について結構調べたけど、どんなに良い素材でも加工が難しかったら結局単純な利用に限られてくるし・・・。向こうでは元素とかそういう考え無かったから発展しなかったんだろうけど、神にでも祀りあげられる位にはチートでしょ・・・。

あれ?私めっちゃ向こうのことわり壊してない?大丈夫かな??

・・・ま、まぁフィールを信じよう・・・うんっ!!)」



有理は案外自分がとんでもない事に加担しているのではないかと、内心冷や汗をかいているが気付かなかった事にした。


ネット動画を少し観た後、お風呂に入りメールを確認すると返信が来ていた。


 「(隣の領に向かう馬車の中で作ったのか〜。相変わらず早いなぁ。へぇ〜?結局アルミニウム合金のとチタン合金の物を両方作ったんだ?アルミニウム合金の方はリムって所何の素材で作ったんだろ?木かな?まぁいいか。え?兵士長改めロバートさんの力でアルミニウム合金の弓すぐ壊れた!?どんだけの力入れてるんだよ!!!怪力とかって話じゃ無くない???)」



有理は側にあったクッションを抱えて口元を緩ませながら、セフィールのメールの長い文面を読み進めていく。


 「んっ!?んんんーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっっっ!!!」


思わず声を上げてしまいそうだったのをクッションを口に押し当て声を殺した。


 「えぇ〜・・・・・・本当に?」


有理は一文を読んで少し胸の奥が苦しくなった。


 『大好きなユーリに贈り物を作ったから、良かったら今夜貰って欲しい』


 「(フィールってストレートに言ってくれるんだよね・・・。そんでそれが嘘っぽく無いっていうか・・・。誠実なんだよね〜・・・。別に恋愛感情の意味じゃ無いんだろうけど。)・・・はぁ〜・・・。」



空気を読む事が非常に得意な有理は、人の機微に過敏に反応し人間が苦手になっていた。セフィールの言葉は裏表がない為に心に浸透していった。毎日セフィールからメールが来てやり取りしている内に、有理は誠実なセフィールに心を絆されていた。



 「(早く会いたいな・・・。)」



メールを返信し部屋着の上から上着を羽織り髪がまだ乾き切っていないので首からタオルを掛けたまま、北極星にお願いする為に外に出た。今晩もキラキラと星がよく見え、セフィールと今晩も会える事を願ってからすぐ帰宅した。



 「何これっ!!!」



帰って部屋に入ると部屋中が黄緑色の1と0の数字で溢れ凄まじい速さで動いていた。

一旦外に出ようと後ずさった有理は自身の異変に気付いた。手が1と0で形取られて透けてる。悲鳴を上げようとした瞬間にノートパソコンの画面に引き寄せられる。



ーーあっという間にその夜、部屋から有理は消えた。








  

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る