第33話 兵士長ロバート





ユーリからの返事には人体の絵も一緒に届いた。






 『          フィール


   怪我したの誰か知らないけど、錬金術師のフィールならきっと出来る!!

  生き物の身体も全て原子・分子が結びついて出来ているから、怪我は異常を

  感じて見つけ出してそこの原子・分子繋ぎ直せば治せるんじゃ無いかと

  思う。人体の構造の絵を添付したんだけど見れたかな?

  この前周期表送った返事来てないから送れてるのか分からないけど。

  送れてなかったら、とにかく異常を感じて修復!!


   後悔するならやるだけやって後悔しろっ!!

    辛い時は私がフィールを受け止めてやる!!


                         ユーリ  』


 『大けが 助けて どうしようユーリ』しか送らなかったセフィールに必要な事を送って来た。


 「(俺が・・・治せる・・・?生き物も全て原子・分子の結びつき・・・。)」


セフィールはユーリの最後の2行をもう一度見て、息を深く息を吐いた。兵士長は魔族と人間の間に生まれ身体が頑丈であるが、既にぐったりとしている。

兵士長の胸に手を翳し、目を閉じて人間を人間という物体としてセフィールの魔力と兵士長の身体を繋いだ。すぐに皮膚や臓器が裂けた部分を異常として魔力の流れで感じとり、そこを普段の錬成と同じ様に結んで行く。怪我によって余計な所に入り込んだ血や異物等も錬成で除去した。


 「見かけは・・・問題ないか・・・?」


傷も塞がり見た目は完全に元通りの肌であった。徐々に肌の色も薄緑色から肌色に戻って行った。

少し落ち着いた所で全ての元凶の悪魔を、矢が刺さっていたのでそのままスキルで収納した。




ーーギャウーーーーーーッッッ!!




見上げるとアオが戻って来ており、ルークの後ろにはヒーラーが乗っていた。アオが降り立つと兵士長に向かって駆けてきた。

 

 「おっさん!!!死ぬなっっっ!!!今回復薬をぶっかけてっっ「んん・・・?どうした・・・?」えぇっっっっっっ!?!?生き返ったっっっっっ!?」


余りにも騒ぐルークの声に目を覚ました兵士長にルークもヒーラーも目を見開いて驚いた。


 「兵士長様、大丈夫なのですか!?尋常でない出血量ですが・・・。」

 「あぁ・・・確かに眩暈がする。」

 「・・・それだけですか??」

 「あぁ。セフィール、お前が俺の怪我を治したんだろ?」


 「「え?」」


 「あ、はい。気付いてたんですか?」

 「いや、体内にお前の魔力を感じる・・・。」


 「錬金術で怪我が?おっおいっっ!!!セフィール!!すぐにゼルの怪我を治してくれっっっ!!!」

 「そうだ!!ゼルさんの怪我も酷いんだっ!!クロ頼むっ!!!」


ーーガゥッッ!!!


セフィールがクロに跨るとクロはオガルレ街に向かって駆け出した。


 「よし、俺たちも追いかけよう。えっと流石に3人はキツいかなー。ヒーラーさんって馬乗れたりする?」


ヒーラーの返事よりも先に兵士長が言葉を発した。


 「俺は心配ない。このまま馬でオガルレへ向かう。先に行け。」


各々オガルレ街のゼルの元へ急いだ。




♢♢♢♢♢♢♢



 「ルーク殿がアオ殿に乗って城に来た時も肝を冷やしたが、次はセフィール殿とクロ殿ですか・・・。」


再び魔獣がオガルレ街の城の門を突き破る勢いで来たことに、街が一時騒然としたが男爵が城に招き入れたのを見た住民達は安堵し平穏を取り戻した。


 「あのっ!!ゼルさんに合わせてください!!!」


 「・・・そうだな。もう長くは持たないだろう。最後に声を掛けてやるといい。ハリオット、連れて行ってやれ。」

 「ーー承知いたしました。」




クロと一緒に部屋に入ると、真っ白なベットの上に青白い顔をして寝ているゼルがいた。その傍らには良くゼルが話していた奥さんと思わしき女性が涙を流している。


 「ゼル様の奥方、こちらはゼル様のご友人のセフィール様にございます。」


まさかゼルの友人枠で紹介されると思っていなかったセフィールは、緊急の場面ではあるが不謹慎にも少し嬉しくなってしまう。


 「貴方が・・・!!妻のアリアです。夫が貴方方お二人の話をいつも楽しそうにしていました。仕事の話をするのは兵士長の話以外今まで無かったんです・・・。最後に声を掛けてやってください・・・。夫も喜ぶと思いますから。」


 「ゼルさんは俺にとって大切な・・・仲間です。そして、恩人です。だから、

ーー俺も全力を尽くします!!」


ゼルに手を翳し、兵士長の時の様に魔力でセフィールとゼルを繋ぐ。体内の流れを追って行くと内臓がかなり損傷していた。回復薬では奥深くまでの傷は回復しないし、激しく損傷していた為にヒーラーでも直せなかった。激しい損傷だったのでセフィールは集中して細かく細かく違和感ない様に結び合わせ、その途中で異物だと感じる物は取り除いていった。

鉱物の錬成とは違い原子・分子を繋ぐのは単純で無く神経を使う。そこでユーリが送ってくれた人体の絵もイメージが付きやすく大変助けになった。

違和感が無くなった為手を離すセフィールに執事のハリオットが話しかけてきた。




 「・・・今、何をされていたのですか?」


 「内臓の修復を行なっていました。回復薬あったら飲ませてあげてください。もう飲めると思いますから、後は本人の体力だけです。」


ーーガタンッッ


ゼルの奥さんが椅子が倒れるのも気にする様子なく立ち上がった。


 「この人助かるんですかっ!?」

 「兵士長はこれで助かったので、ゼルさんの体力が保てば助かると思います。でも、兵士長と体力の差があると思うのでそこはなんとも・・・。安静にして回復薬を毎日飲ませれば戻る可能性あると信じてます。」


 「まさか錬金術で怪我を治す事が出来るとは思いませんでしたな。」


ーーバタンッッ!!


 「ゼルっっっっっ!!!」

 「おっさんうるせぇよっっ!」

 「お二人ともですよ・・・。」


血塗れの服のままの兵士長が力一杯ドアを開き駆け込んできた。その後をアオを重そうに背負ったルークとヒーラーが続いて部屋に入る。


 「セフィール、どうなんだ!!ゼルは助かるのかっっ!?」


兵士長はセフィールの肩を掴み激しく揺さぶる。激しく揺さぶられるセフィールは舌を噛みそうで返事が出来ないでいると執事のハリオットが代わりに喋った。


 「兵士長様、ゼル様の体内の傷は治して頂きましたので後は安静にして毎日回復薬を飲ませれば、目を覚ます可能性はあるとのご判断です。我々が居ては煩くて治るものも治りませんよ?皆様は旦那様に悪魔のご報告をお願いします。ーーゼル様の奥様、我々は失礼致しますので何かございましたらベルにてお呼び下さい。では失礼致します。」


執事に追い立てられる様に全員部屋から出された。扉を閉めた瞬間咽び泣く声が聞こえ、皆大人しく領主の元へ向かった。ヒーラーはここで別れ仕事に戻った。


領主の執務室に入ると領主に錬金術で怪我を治した事と突然現れた悪魔の事を伝える。



 「疫病の悪魔ドゥルジ・ナスか。あれが現れるのは隣の領地なのだが、周期としては5年後だったのだが悪魔を倒した事によって早まったのか変則的に起こったのか・・・。まだ、情報が少なくて分からんな。そこで頼みたいのだが隣の領地にある廃ダンジョンに向かって欲しい。隣の領地は狭く廃ダンジョンは一個しか無いから、そこに住んでいた可能性が高い。そこが潰れているのか、潰れていない場合は鉱物を最下層で採取した時点で崩壊が始まるのかが知りたい。

危険だと分かっている場所に送り出す事になるのだが、報酬は多く出す。頼まれて貰えないだろうか?」


 「良いですよ?明日で良いですか?ルークはどうする?」

 「え?お前が行くんだから行くに決まってんだろーが。おっさんどうする?」

 「俺??俺はアイヲン町の兵士長だぞ!!領の外に戦でも無い限り出るわけないだろう!!」

 

 「あー・・・兵士長には申し訳ないんだが、君はアイヲン町の兵士長を辞めてもらう事にしたよ。」


いきなりの領主の衝撃発言に3人とも固まった。


 「あ、あの領主さま・・・何がダメだったんでしょうか・・・?」


 「いや、ダメとかそういった話で無くてね。私は君が魔族と人間の間に生まれた子だと知っているんだよ。」


 「っっ!?ーー原因はそれですか・・・。」


領主の言葉に執務室のソファーで項垂れる兵士長を、アオが細長い舌で兵士長の顔を舐めて慰めている。


 「まぁ・・・そうとも言えるか。」

 「旦那様、余り周りくどい言い方されますと兵士長様に誤解を与えます。」

 「誤解?」

 「兵士長改めロバート殿、君にはこれから彼らと共に廃ダンジョンの捜索を命じる。クロ殿とアオ殿がいるから問題ないとは思うが、2人の護衛兼廃ダンジョン捜索の任に就いて貰う。依存はないか?」


 「おっさんと一緒かーっ。アオ良かったな〜おっさんがこれからずっと遊んでくれるぞ?」


ーーきゅううううううううっっっっっっっ♪♪♪


目を輝かせたアオに護衛ロバートはのしかかられソファーに押し倒されている。


 「お、私が宜しいのですか!?大層な任務だとおもっっ思われるのですがっっ!!」


アオに邪魔をされながらも領主に質問するロバート。セフィールもルークもクロもアオの暴挙を止める事なく出されたお茶やお菓子を食べている。


 「確かに国を・・・全ての国を揺るがす事件であるのだが、この件は私が管理する事になった。出来るだけ早期にミジュア王国の全てのダンジョンを片付けたい。その為には少人数で一気にカタを付けたいのだ。そこでロバート殿ならば魔法も使える上に様々な武術を嗜み、尚且つ力は強い。これほど適した者はおらんだろう?

ーーただ、危険が伴うので給金は兵士長の倍は出す。悪魔討伐時には褒賞も出すと約束する。」


 「ーー俺は、俺の力を役に立つと言ってくれる人間の元で働きたい。喜んで2人の護衛を受けたいと思います。」


 「良うございましたな・・・。旦那様。」

 「この状態じゃなきゃ、良い話なんだけどね・・・。」

 「決まらないおっさんだよなぁ・・・。」



ーーロバートをソファーに押し倒してじゃれていたアオは、ロバートの腕の中でぐっすり眠っていた。






  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る