第32話 悪魔の襲撃
アイヲン町を離れてオガルレ街まで後半分程といった所で、馬車が止まった。
「なんだろう??」
「ここら辺あんま魔物いなさそうなのに出たのか?」
2人が不思議に思っていると馬車の中で床に座っていたクロとセフィール達と、対面の椅子に伸びる様に寝ていたアオが顔を上げた。神経がピリピリしており今にも馬車の扉を壊しそうなクロを見て『ヤバイぞ!!これは借り物の馬車壊す!!』と察したセフィールは扉の鍵をそっと外した。
ーーガァウッッ!!
予想通りクロが扉の外に飛び出していった。
「あ、危なかった・・・。後少し遅れていたら馬車の修理代請求される所だった・・・。」
「流石フォルテム王国に居た時からの仲だな・・・。」
クロが飛び出していった扉から外を除いてみるとそこには、ハエの様な羽を生やした女が槍を持って飛んでいた。
セフィールとルークは息を呑んだ。その傍らには動かなくなった馬と血塗れになって膝を付いているゼル、庇う様にゼルの前に馬に騎乗し剣を抜いている兵士長の姿が見えた。
走って行ったクロが大きい魔獣の姿に変わり、炎で攻撃を行い自分に注意を引きつけていた。
「ゼル!?嘘だろ・・・。」
「・・・。・・・ルーク、ゼルさんはおそらくもう危ない。だから、お前に頼みたい。俺は兵士長とクロと一緒に時間を稼ぐからアオに大きくなって乗せて貰ってゼルさんを領主様の城に届けてくれ。」
「っっ!?ーーー分かった。必ず戻る。」
流石に怪我をした血塗れのルークをドラゴンが街に入れば攻撃をされかね無い。説明をする人間が必ず必要になる。その役に一番適しているのは、ルークも自分だと理解している為に残るとは言えなかった。
「アオ!!お前も頼む!!」
ーーきゅあっっっ!!!
外に出るとドラゴンに戻ったアオは以前より大きくなっていた。ルークが背中に乗ると一気に羽の生えた女に近付きゼルを前足で掴むと一気に空に急上昇して飛び去って行った。
セフィールも走って羽の生えた女から距離を取りつつも攻撃出来そうな位置まで近づいた。
「兵士長!!ご無事ですかっ!?」
「俺は大丈夫だが・・・、ゼルの事感謝する。しかし、アレは先程悪魔と自身の事を言っていた。ここは開けた土地でお前には不利だろう?ーーアイヲン町の兵舎に行ってこの事を伝えて欲しい。」
兵士長の迷わない目に覚悟を感じたセフィールは一緒に戦う事を選んだ。
「兵士長、クロは強いです。一緒に協力して倒しましょう!!」
「・・・骨は拾ってやれないだろうが、それで構わんなら頼む・・・。」
『ア゛ーーーーーーーッッッッッ!!コノイヌ!!邪魔ヲスルナ!!!イヌハ嫌イ!!!アァァァァッッッッ!!!不愉快不愉快!!!・・・誰ダ、ワタシガ疫病ノ温床ニスル筈ダッタ男ヲ隠シタ奴ハ・・・!!!』
「お前は何者だ!!」
背中を向けていた悪魔は顔をぐるりとセフィールに向けた。
『・・・アンタカイ?ワタシノモノヲ盗ッタ命知ラズハ。無知ナ人間ニ教エテヤロウ。ワタシノ名ハ『ドゥルジ』。人間共ハ『ドゥルジ・ナス』ト呼ンデイル様ダガネェ〜?
アノ男ヲ盗ッタンダカラ、オマエラ2人ヲ貰ウトシヨウカネェーーソノ前ニ、イヌヲ片付ケナイトネェ?』
悪魔はクロに再び向き合った。どうやらセフィールと兵士長の事は歯牙にもかけておらず、平然と背中を見せてクロに攻撃を行っていた。クロも応戦し五分五分の戦いを行なっているが、飛べないクロとの相性はあまり良く無い。反撃しようとすると逃げられてしまう。
セフィールは何かいい方法はないかと思案する。
「兵士長って弓使えますか?」
「弓か?武器は一通り練習したから出来ないことは無いが、腕は平凡だが・・・?」
「あの悪魔をクロの攻撃範囲に誘導する為なので平凡で問題ないと思います。ちょっと待ってて下さい!!」
セフィールは道を外れ街道脇にある林に入った。数分で戻ってくると手には数本の弓を持って戻ってきた。
「作ったのか?」
「はい!林の中には糸を作れる材料があるんです。弓の部分は良くしなりそうな素材を合わせて適当に作ったので折れたらどんどん新しいの使ってくださいね!」
「矢はどうするんだ?」
「これを使ってください!」
矢尻からシャフト等全体をチタンで作り、鳥の羽も一緒に合わせて錬成した矢をスキルから取り出した。
「大量にあるので遠慮なく使ってください。後、チタン丈夫なので細くしてますが木と違って重さは少し増えるのでいつもより力を入れて放ってください。」
「分かった。」
馬に騎乗したままの兵士長に錬金術で作った細い矢が入った矢筒を渡し離れた。矢筒を装着した兵士長は馬の腹を蹴り矢を構えたまま駆け出した。
未だに反撃が入らないクロと嘲笑う様に飛び回る悪魔が戦い続けている。
ーーシュッッッッッ・・・ドスッッッ!!!ーー
『ウ゛グゥッッッッッ!!!??』
なんと兵士長が放った矢は一回で命中し、細く丈夫な矢は脚を貫通していた。兵士長は刺さると思っていなかったのか矢を射った姿で固まっていた。
「兵士長っっ!!凄いです!!このままどんどん行きましょう!!」
セフィールは地面に手を置き、錬金術を行う。アーチを描く様に矢尻状に錬成した石を悪魔の羽に向かって土の土台を発射台にして次々と飛ばして行く。
セフィールの連続で撃たれる石と兵士長の正確に当てて貫いてくる矢によって、次第に悪魔は飛ぶ速度を落としていった。
ーーガアゥァッッッッッ!!!
『イヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥガァァァァァァッッッッッ・・・・・!!!』
悪魔は低空飛行になった所をクロの渾身の一撃を決められ、遂に地面に落ちた。
「倒したのか・・・?」
ーーキュウウウウウ!!!
「倒したのか!?なんだ俺の出番無かったな。ゼルだけど取り敢えず大量の回復薬ぶっかけてから来たけど、ーーかなりヤバい。でも俺に出来るの回復薬ぶっかける位だから後は医者とヒーラーに回復任せて来たんだ。俺達に出来ることは無いけど、・・・ゼルの所に行って顔を見せてやってくんねーか?」
「そうか・・・。オガルレ街に急ごう・・・。」
御者は逃げた様で居なくなっていた。
「兵士長は馬が無事なのでそのまま馬で。ルークはアオにまた乗って、俺はクロに乗って運んで貰う形かな。じゃあ、クロすまないがオガルレ街まで運んで・・・クロ?」
クロは悪魔の死骸をじっと見つめている。何があるのか気になったセフィールが近づいてみる。
ーーガウァァァッッッッ!!
『逝ケェェェェェェェェッッッッッッッッ!!!』
ーーバシュッッッッッッッ!!!ーー
ーーガアウァァァァッッッッ!!!
『ウギャァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!』
一瞬の出来事だった。
ピクリともしなかった悪魔は死んだフリをしていた。
そして悪魔は不意打ちをしてセフィールを殺そうと尖った爪で引き裂いた。
斬られた。
真っ赤な血が飛び散った。
切った悪魔はクロが仕留め今度こそ絶命した。
真っ赤な血が地面に染みを広げて行く。
倒れたのはセフィールを庇った兵士長であった。
「兵士長っっっ!!兵士長っっっっ!!!ルークっっっっ!!!回復薬無いかっっ!?」
「わるい・・・っ、さっきゼルに全部使った・・・。」
「・・・ガハッッ!!ーー俺なら・・・大丈夫だ・・・。」
上半身を袈裟斬りに斬られ止めどなく血が滴り落ちる兵士長に掛ける回復薬も無く、このまま動かすのは命の危険が極めて高い。
「ルークっっ!!またオガルレ街まで急いで行ってきてくれ!!!頼むっっっ!!!」
「分かった!!!ヒーラー連れて来るっっっ!!!」
ルークは再びアオとオガルレ街へと飛び去った。
「兵士長っ!!もう少しだけ待っていて下さいっっ!!・・・兵士長・・・?」
ルークがアオと共に飛び去って、少しすると兵士長の肌の色が薄い緑色に変わって来ていた。
「・・・兵士長っ!?肌の色がっっ!!悪魔の爪に毒があったんじゃっっっ・・・」
「ーー元からだ。」
「え?・・・元から?」
「うっ、俺がアイヲン町で・・・ゼル以外から、避けられているの・・・気付いているだろ・・・?」
「は・・・はい。なんとなくですが・・・。」
「俺は・・・魔族と人間の間に生まれた、忌み血と呼ばれる存在だからだ・・・。この・・・国は、まだ他よりも良い・・・避けられるだけだ・・・。魔族と人間の間に生まれると・・・魔力は魔族の半分、・・・人間より力が強すぎて加減が分からず人間に怪我をさせる者が多くいた為に、うっ・・・」
「分かりましたからっっ!!もう・・・喋らなくて良いですっっ!!!」
もうどうして良いのか分からないセフィールはスキルを起動させた。涙が目に溜まり文字が中々打てないセフィールは短文を打って送った。
ーーすぐにユーリからの返事が届いた。
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