第40話 人の流動







セフィール達は昼頃にアイヲン町に帰り着いた。ユーリ以外の全員が固まってしまった。

数日前にアイヲン町から出る時には、そこそこ人口は多いが素朴な町であったのに今や見る影もない。

以前は木の柵で囲まれた町は継ぎ目のない石の様な素材の壁で囲まれている。ただの出入り口だった簡素な出入り口は、何処のお城かと勘違いする程の立派な門に変わっていた。

以前は1人椅子に座って待機していた門番は、2名体制に変わり立派な剣を腰から下げて規律正しく立っている。




 「うわぁ〜!!すごい!!立派な街だね〜!!」


 「・・・ユーリちゃん、数日前まではここ田舎の町だったんだけどね・・・。」

 「何があったらこんな事に・・・。」

 「ここがアイヲン町で間違いなさそうだし、入ろうか・・・。」



余りにも凄まじい変貌ぶりにセフィール達は尻込みをしていたが、ユーリが早く行こうとせっつかれやっとアイヲン町に入った。入る際の門番は大きな街に入る並みにマニュアルに沿いしっかりとした問答を行っていた。兵長だったロバートも余りの兵士達の雰囲気の違いに、別世界に迷い込んだかの様な奇妙なモノを見るかの様な表情になっている。


町を入ったらそこも以前と全く違う町並みになっていた。金属で出来たベンチや見事な彫像の噴水、民家は変わっていない様に見えて窓枠が銀色に光り扉も金属に変えられた様だ。




 「あーーーーーーっっっっ!!!あんた達やっと帰って来たのね!!!」



丁度パン屋から出て来たエミリアがセフィール達を見つけ駆けてきた。

セフィールは横から視線を感じ、横を見るとユーリがじっとセフィールに視線を向けていた。セフィールはなんだろうと思ったがユーリは特に何も言わなかったのでエミリアに視線を戻した。



 「あぁ、今帰ったんだ。ーーそれよりこれは・・・数日で何があったらこんな事になるんだ?」



 「すごいでしょ!?キールがセフィールに教えられた事をきっちりみんなに教えた後、みんながそれぞれ得意な錬金術に応用して行って練習出来るものが無くなって町長にお願いして塀を作る許可貰ったから昨日作ったの♪シュウと2人で完成させましたーっっ♪」


 「どっから突っ込んで良いかわかんねーけど、これ塀じゃないだろ。城壁に見えんだけど?」

 「お城ないから城壁じゃないでしょ?」

 「こんなソコソコの大きさの町に必要ねぇ装備多くね??」

 「あぁ、同感だ。あそこに砲筒が見えるな・・・。それに兵士達も真新しい剣を腰から下げていたしな。何から守るつもりなんだ?ここで一番戦う可能性があるのはフォルテム王国だが、以前あったのも70年前の小競り合い位だぞ?」


 「は?アイヲン町は今や押しも押されもせぬ商業発展地区よ?守りを固めるのは当然よ!」

 「商業発展地区?」

 

 「それはわたくしが説明致しましょう。」



ずっと同じ場所で話していると、商業ギルド長ポドムが声をかけて来た。

セフィール達は軽く挨拶した後、形すらも全く変わってしまった商業ギルドの応接室に招き入れられた。

セフィールは改めてユーリを紹介した後隣の領の廃ダンジョンの報告を行い、気になっていた事を聞く事にした。



 「アイヲン町変わりすぎじゃないですか?」

 「ーーあぁ・・・。」

 「ギルド長、いくらなんでもこれはやり過ぎでは?」

 「ーーーあぁ・・・。」

 「これ、怒られたりしませんか?」

 「・・・・・・。」

 「ポドムさん??」



 「・・・最初はとても有難かったのですが、あなた方ストッパーが居なくなってから段々と彼らは羽目を外して行き・・・パン屋にはパンを簡単に作れる道具を作ったり、町にあった小さな印刷屋は彼らによって新聞社となり、大工は彼らに新たな工具を与えられ腕を上げ弟子がどんどん増え、この町は他の町からの移住が相次いでいる・・・。もう、彼らはわたくしの手には負えません・・・。頼みがあります・・・。もう、アイヲン町は他の冒険者ギルドが一目置く程強くなりました!!彼らをオガルレ街に連れて出て行ってくれないだろうかっっ!?」



必死にギルド長が懇願する様は悲壮感漂っていた。確かにこれ以上は要塞にしかねないとセフィール達は思いポドムの願いを了承した。その後錬金術師のみんなを集めてセフィールはみんなに先の予定だったオガルレ街に移る事を事を伝えた。




 「・・・やっと、こんな何も作るものが無い町から出て行ける・・・。」

 「周囲の素材採り尽くしたからのう・・・。早く次に行きたいわい。」

 「腕がなるねぇ〜オガルレ街は大きいんだったねぇ?どれ、芸術的噴水を作ってやろうかね。」

 「あー♪やっと武器大量に作れるわぁ♪」

 「マリーは早くみんなの家の壁つよくしたいの!!」

 「あと数日あんた達帰ってくるの遅かったら、城作り始める所だったんだからね!!女作ってないでとっとと帰って来なさいよ!!」

 「師匠、すまない・・・。夢中になり過ぎて町が原形留めないほど錬成していたなんて気付かなかった・・・。」


セフィールが放置している間に怯えた小動物の様であった彼らは、数日で獰猛な猛獣に変貌を遂げてしまっていた。今度離れる時は、まともな意見を言える人間を置いて行こうとセフィールは心に固く誓った。



4人と2匹は錬金術師の皆に用件を伝えた後、アイヲン町を見て回る事にした。高い壁で気付かなかったが随分町が大きくなっている。今までは平家ひらやや二階建ての木造の家が中心であったが、3階建ての白っぽい壁に覆われた建物がちらほら建っている。ユーリだけは「わー!ここにも同じ様な集合住宅あるんだーっっ!!」と感心しているが、他の3人はお互い『あれなんだ?』と目で会話していた。



 「お嬢さん、良くあれが家って分かったね?」


突然背後から声をかけられてセフィール達が振り返るとそこに居たのは、大怪我でベットに横になっていた姿を見て以降会っていなかったゼルであった。


 「「「ゼル!!!」」」

ーーきゅうっっっ

ーーがうっっ

 「(あぁ!!この人がフィールの恩人ゼルさんか!!)」

 「よぉ!セフィールのお陰であの後すぐ兵の仕事に復帰出来たんだよ。本当に助かったよ、ありがとう。

それと実は俺今兵士長なんだ♪」

 「まさか俺の後任にゼルとは・・・。」

 「1人多いけど、このお貴族様は?」

 「ユーリは貴族じゃ無い・・・よな?」

 「え?貴族じゃ無いよ?煽ても何もあげないよ??」

 「そうなんだ?なんていうか・・・雰囲気?みたいなのが違う気がしたんだけどね?」

 「そういうもんなんだ?まぁどうでも良いですけど。あ、今日からフィールの妻です♪セフィールがゼルさんには大変お世話になった様で、これからもよろしくお願いします!!」

 「はははっ!まさか会わなかった数日でこんな可愛い奥さん見つけてくるなんて思わなかったな!・・・意外とセフィール変態だったんだな?」


 「あっっっ!!私子供じゃ無いですから!!23歳です!!」


恐らく年齢を誤解されたのだろうとユーリが慌てて言い返すとゼルは驚いた後、すぐにセフィールとユーリに謝っていた。

その後、ゼルに町を案内されみんなで見て回り最後はみんなで飲み屋に入った。

ゼルに明日から自分達と錬金術師達全員はオガル街に移動する事を伝えた。


 「そうか・・・分かった。俺はお前達がまたここ遊びに来られる様に治安を守っておくな!旧兵士長の事もよろしくな!」


 「旧兵士長ってなんだ!!お前は毎回毎回・・・!!」

 「おう!おっさんの事はアオが面倒見るから心配すんな!!」

 「ゼルには本当に感謝している。何かあったら呼んでくれ。できる限り力になるから。」

 「ありがとなっ!!その時はよろしく!!」


 「フィール・・・。」

 「ユーリ?あぁ、すまない慣れない移動で疲れて眠いのか。俺たちは部屋に帰るよ。ルークは残るか?」

 「んー・・・明日早いし、置いてかれたら嫌だから俺も帰るわ。じゃあな、ゼル!!」

 「俺はもう少し呑んでから帰る。お前達、明日は遅れるなよ!」

 「はい、気をつけます。ではまた、ゼルさん!」

 「あー、またな♪」

ーーきゅうっっ♪

ーーがうっっ♪

 「ーーお先に失礼します・・・。」

 「うん、またね?」

 「ユーリさんおやすみ。ゆっくり寝てくれ。」

 「はい・・・おやすみなさい・・・。」


既に夢の中へ片足突っ込んだユーリはセフィールの腕に支えられ船を漕ぎながら、ゼルとロバートに挨拶した。流石に歩けそうに無かったユーリをセフィールが抱えてギルドに戻った。商業ギルドに着くと兵舎を使えなくなったロバートも泊まることになっている為、ユーリが泊まる部屋がなかった。

商業ギルドはここ数日でかなり疲弊していた為、セフィールがユーリの部屋をどこか受付のカイルに尋ねた際は『え?・・・知りませんよ。夫婦なんだから一緒に寝てください。・・・あ、ここ宿泊所じゃ無いんで、おっ始めないで下さいね?』と死んだ魚の目をしてやつれたカイルに適当に返された。

ルークはセフィールを見捨てて自分の部屋に帰っていった。



セフィールの借りている部屋はアオとクロがいる為少し大きい。ベットも少しだけ大きいので『まぁ一緒で良いか』と思い、濡らしたタオルをヒートで温めユーリの顔を優しく拭い腕や脚を拭った。自身も軽く拭うと一緒のベットでユーリを抱きしめて人の温もりを感じながら眠った。







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