第37話 交わる線







 デラダ領の草原の中にポツンとあった廃ダンジョンにセフィール達は早速入って行った。

洞窟の中はアイヲン町の廃ダンジョンと同じ様に湿気と苔が出来ておりじめじめしているが、違うのはアイヲン町の廃ダンジョンでいた様なそこそこ大きめの魔物が一切出ない事であった。出てくるのは昆虫系や小型鳥類だけである。


 「時間の無駄だね?もうサクサクとボス部屋の鉱物収集したら戻ろうか。」

 「そうだなー。最下層で鉱物採ったら、また崩壊すんだろ?」

 「だから、今回は俺とクロだけで最下層まで行って帰って来ようと思う。ルークとロバートさんとアオは入り口で待機しといて欲しい。」

 「いやいや!!!俺は2人の護衛で来ているんだ!!却下だ!!!却下!!!」


相変わらず生真面目なロバートはここでも融通が効かない。


 「じゃあ、おっさん。セフィールと一緒に行って来いよ。俺はアオと待ってるわ。」

 「そうだなぁ・・・今のクロは2人乗せられるし一緒に行きましょうか?」

 「・・・い、いいのか?」


ソワソワとしてクロをちらちら見るロバート、その姿は乙女である。セフィールとルークはなんとも言えない微妙な表情でロバートを見ていると、その視線にロバートが気が付いた。


 「んんんっっっ!!!ーー俺は領主様に報告の義務があるからな!!!分かればいいのだ!!!行くぞっっ!!!」


耳を羞恥で赤くしたロバートは、勢いで話を進めクロに2人は跨ると下層に向けて駆けて行った。


残ったルークはのんびりと回復薬の錬成を再開し、アオは周辺の昆虫系魔物を捕まえて食べたり眠ったりゴロゴロしていた。ルークが回復薬の薬草を使い切り、周辺で薬草探しをする頃廃ダンジョンから轟音が聞こえる。廃ダンジョンから吹き出す砂煙の中から何かが飛び出てきた。



 「げほげほっっ!!!・・・だだいま゛っ・・・るーくっっ!」

 

 「やっぱここがあの悪魔ドゥルジ・ナスの住処っぽかったか?」


 「けほっ!!!ーーあぁ、領主様の考えた通りだったよ。鉱物収集しても悪魔は出て来なかったし、収集した途端最下層の壁に亀裂が入って崩壊が始まったんだ。」

 「それで、慌てておっさんをクロが口に咥えて駆け上がったと?」


地面に降ろされた後、目を回し伸びているロバートを見ながらルークは1人納得している。

ロバートが目を回し伸びていた為ロバートを馬車に乗せウェリー領へ帰る事も出来るが、馬を置いて帰る事も出来ないので近くの町の宿屋に泊まる事となった。

近くにあった町では従魔も一緒に泊まれるのは狭い部屋しか無かったので、2匹とセフィールが泊まりルークとロバートは個室に泊まった。

近くの食堂でみんなで食事をした後、ルークは呑みに行きロバートは未だに体調が優れないのか、ルークの誘いを断って部屋に戻って行った。セフィールもルークに誘われたがやりたい事があったので断り2匹を連れ部屋に戻った。



宿に戻ったセフィールはソファーに座ると錬金術を始めた。精錬したチタンとセフィールの目に似た色の石があったので綺麗な配色の部分を加工した物を用意した。チタンを薄く錬成して幅は人差し指の第一関節程度の輪を作り、その輪の外側に細い線にしたチタンで細かく模様を錬成して行く。スキルではアンダルサイトと名前が出ていた鉱物を埋め込み錬成した。



それからユーリにスキルで助けて貰ったお礼等を送信し、翠星に今夜もユーリに逢える事を願う。

気付けばセフィールは真っ白い空間にいた。今回はアオとクロも居ない。

真っ白い空間にいつもと少し違う入り方にセフィールは戸惑う。



 「なんなんだ・・・??」


ーードンッッッッッ!!


戸惑うセフィールにいきなり衝撃が来た為に倒れてしまった。暖かい何かが自分の上に引っ付いているのを確認したセフィールはその暖かいものをギュッと抱きしめた。



 「うううううううっっっ・・・・、ふぃーるぅぅっっっっ!!!会いたかったよぉぉぉぉっっっっ・・・。なんでか分かんないけど閉じ込められたの・・・戻れないの・・・フィールも来ないしどうしたら分かんなくてフィールが来るのずっと待ってたのっ!!!何で早く来てくれないのっっっ!?ううううっっ・・・会いたかったよぉぉぉっっ・・・。・・・ひっく・・・。」



セフィールにとっては時間が経っていないのだが、この空間は捻れている為にユーリが閉じ込められて丸3日は経っていた。この空間ではお腹が空いたりはしない様である。しかし、いきなり何も無い真っ白な空間に3日間閉じ込められてなんとか持ち堪えていたユーリは、あと少し遅かったら精神的に耐える事が出来なかった可能性が高い。

セフィールが起きあがろうとするものの、ユーリはこのまま1人にされたく無いとしがみついて離れようとしない。

諦めたセフィールはそのままユーリ抱き締めたまま優しく話しかける。


 

 「あ、あのさ、ユーリ?贈り物をしたいって伝えただろう?あれ、今貰ってもらえない・・・かな?ユーリの事を想って作ったんだ。」


 「う・・・うぅ・・・」


のろのろと首に掛けていたタオルで顔を半分隠しながら顔を上げるユーリに、セフィールはスキルから贈り物を取り出した。セフィールの上に乗っている顔を上げたユーリに取り出したものを手渡した。


 「・・・うっ、うぅっっ・・・。これ・・・腕輪・・・?」


 「そうなんだ。あの・・・どうかな?チタンで錬成したんだ。」


 「・・・良い・・・。この石もすごく綺麗・・・ーーーーありがとう。」


ユーリは腕に通すと、再びセフィールの胸に頭を乗せた。腕を動かし腕輪を眺めるユーリ。


 「でも、ちょっとブカブカだよ〜。これじゃすぐ落としちゃうよ・・・。」


 「腕貸して?」


ユーリが腕輪を通している腕をセフィールに近付けると、セフィールは腕輪に片手で触れた。すると、腕輪は抜けない大きさに狭まった。


 「凄いっっ!!!これが錬金術なんだっっ!!でも、これ外す時どうするの??」


 「あ、本当だね!?どうしようか・・・。」


 「んー別に良いや。これ位隙間有れば洗えるし。何か問題あったらセフィールが外してくれたら良いかな。錆びにくいし軽いし問題ないかな?」


 「そうか、良かった。」



セフィールは返事をするとユーリの頭を優しく撫でた。少しするとユーリが規則的な呼吸をしていた。




 「眠ったのか?・・・俺も眠くなってきたな・・・。アオとクロが見つかるまで寝ておこう・・・。」







お互いの存在に安心した2人はそのまま眠ってしまった。




 


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