第5話 クロとアオ(錬金術師サイド)
翌朝、セフィールは1番に「賢者の交信」を確認する。すると、昨日の返事が来ていた。
セフィールは水を魔法で出す事も出来るが、魔法使いと違い時間がかなり掛かる為飲み水以外で水魔法を使う事はない為、急いで洞窟の近くにある小川へ行き顔を洗いう等朝の支度を済ませる。
朝食用のパン一個を三等分し犬と蜥蜴の水も用意した後すぐ返事を確認する。
犬はあくびをすると水を飲みパンを食べると洞窟を出て行った。
前足だけある蜥蜴は食べた後、干し草の上へ戻り再び寝ている。
「よし、読むぞ!・・・あー・・・錬金術師だからと言って家族の縁が切られる事が分からないのか・・・。成る程・・・ユーリ様の国とは錬金術師の仕組みが違うのかも知れないな・・・。
・・・元素の話を聞いたのに、原子が出て来たんだが・・・。これは自分で解決してみるか。
そうなのか、水は水素と酸素の原子と言うものが結び付いて出来ている物質なのか。そういうモノだったのか・・・。水は素も水では無いのか。目に見えない程の大きさなのだろう・・・面白いな。錬金術の本こんな事書いて無かったぞ。漠然と書いているから、皆漠然とした物しか作れなかったが、構成している元を知れば何でも錬金術で造れるんでは無いのか?あぁそれでか!金を構成しているのは金だから元々金って事か。別の素材で金を作り出す事は出来ないって事か。ユーリ様の話には驚かされる事ばかりだ。」
メモしておきたいが、お金が全く無いセフィールは紙を持っていない。ペンはあるにはあるがインクが無い。
キョロキョロと何か代わりになる物を探すものの洞窟には何も見つからない。人工的な物はなけなしのお金を貯め10年以上前に買った錬金術の本だけである。洞窟の中で暮している為、その本ですら湿気や虫でボロボロになっていてほとんど読む事すら出来ない。金を錬成出来る一流の錬金術師を目指し奮闘していた時期で、唯一の思い出に形だけ持っているだけであった。
『研究ノート機能起動シマスカ?』
「えっ!?ノート??しますっします!!起動して下さい!!!」
交信文面写す白い板の上半分が黄緑に変化した。セフィールが黄緑に変化した部分を触ると、上半分だけが発光し始めた。
『ノート機能ハ黄緑ノ箇所ヲ触ルト起動シマス。下ノ文字盤デ賢者ト交信スル時ノ様ニ、文字ヲ入力シテ下サイ。賢者ト交信スル時ハ白イ箇所ヲ触レテ下サイ。ノートダケ出ス事モ可能デス。』
(ノート機能は黄緑の箇所を触ると起動します。下の文字盤で賢者と交信する時の様に、文字を入力して下さい。賢者と交信する時は白い箇所を触れて下さい。ノートだけ出す事も可能です。)
「黄緑の所触ると研究ノートになるのか。ノートだけ出せるんだ?便利だなぁ。
じゃあ早速打ち込むか!!水は水素と酸素の原子で出来ている・・・金の素は金であるから別の素材から金を錬成する事は出来ない・・・と。後は・・・あ、ステンレス鋼の事も教えて下さっているな。これも残しておかないと。」
ーートントントントン・・・
「・・・。・・・・・・。錆び防止に使っている鉱物と・・・細かい粉になると自然発火する物で鉱山にある磁力を帯びた鉱物・・・。鉄の精錬・・・。不純物の除去・・・。・・・探しに行くか・・・閉山した鉱山残っているかもしれないしな。鉄も手元にほとんど無いしどのみち採りに行かなきゃ行けないもんな。」
ーー『きゅるる〜』
前足だけある蜥蜴は立ち上がったセフィールの足に登って来た。
「お?お前も一緒に行ってくれるのか?嬉しいな〜♪じゃあ一緒に行こうか?」
ーー『きゅるる〜っっっっ♪』
ーー『ガルッッッッ』
蜥蜴がセフィールと一緒に鉱山へ行く事が決まった所で、犬が帰ってきた。口には犬より3倍は大きいウサギの様な魔物を咥えて。
セフィールの前まで来ると咥えていた仕留めた大きい魔物をドサリと落とした。犬では捕まえる事が不可能である筈の凶暴な魔物を捕ってきているが、セフィールは今まで1日の大半を錬金術の勉強にのみ時間を費やした為異常さを理解出来ていない。冒険者登録もさせて貰えない錬金術師は、町から出なければ魔物の強さも分からない人が多い。
「もしかして、獲ってきてくれたのか?」
ーー『がぅっ』
「そうだな!お腹が空いてたら鉱物探しなんか出来ないよな。ありがとうな!!!みんなでたくさん食べたら鉱山に行こう!!!」
ーー『きゅるる〜♪』『がぅっ!』
セフィールは久しぶりの肉に動きも軽やかに調理を行う。2匹もご飯をそわそわしながら待っている。
2匹の前に捕ってきてくれた獲物の美味しい部分を切り分けお皿に入れ出すと、2匹はあっという間に食べてしまった。セフィールも肉をヒートで加熱し少ない調味料の塩を振り黙々と食べた。
お腹が満たされたのは、5歳の時にスキルがある事が分かった時にして貰った村のお祝いが最後であった。
徐々に自分のご飯だけが減らされて行き、縁を切られる2年前には親に『スキルを発動させないなら食べさせる物は無い』と言われて自分で村の周辺に生えている食べられそうな草を採って近くの川の近くで火を起こして拾ったボロボロの鍋で茹で食べていた。川の魚は速く道具の無いセフィールでは滅多に食べる事が出来なかった。
「あー・・・!!!お腹いっぱいだよっっ!!・・・。今まで気にして無かったけどお前達に名前付けてないと、結構不便だな。俺が付けても良いか?」
ーー『がぅっ』『きゅー』
「じゃあ、付けるな♪お前はクロで、お前はアオで良いか?」
ーー『がぅっ♪』『きゅー♪』
犬は黒かったのでクロ。前足だけある蜥蜴は青いのでアオ。安直な名前を付けられたにも関わらず2匹は気にした様子は無い。セフィールは2匹を撫でるとクロに肉のお礼を伝えてから、閉山した鉱山に行く準備をしてセフィールと2匹は出発した。
昼過ぎには閉山して誰も居ない鉱山に辿り着いた。朝クロが獲ってきてくれた魔物の肉をクロとアオのお昼用にクールの魔法で保存して持って来ていた。自身の分は、朝焼いた肉の残りを袋に入れてきた。それを食べ終わると早速坑口から中に入って行った。
中は暗い為洞窟から持ってきていたランプを灯し進む。前足しか無い為余り歩けないアオはここまでクロの背中に乗って来ていたが、坑道に入ってからは降りて器用に歩き始めた。
「閉山しているから魔物が住んでいるかも知れないな、気を付けて進もう。クロとアオも気をつけるんだよ?俺は戦闘全くダメだから、当てにしたらダメだからな?」
ーー『きゅっきゅきゅ〜♪』
ーー『がふぅ』
セフィールの話を無視してアオは先頭切って、岩を嗅いだりしながらちょろちょろ進んでいく。クロはセフィールの横で散歩に来た様な足取りでテンポ良く歩いている。
「・・・いつもは聞いてくれるのになぁ・・・。まぁ野生だしなんかあったら逃げ切れるだろう。」
2匹を危険な所に連れて来たかも知れないと後悔したが、2匹は大丈夫だと信じて進む事にした。
1時間程歩き回り奥の方まで進んで来ていた。
「やっぱり無いよな〜取り尽くしているから閉山したんだろうしな〜・・・」
ーー『きゅー?きゅきゅー!』
「アオ?おい、アオこれ以上は先に進むな!!戻れっ!!!」
威圧感を奥から感じ、どんどん進んでしまうアオを慌て呼び止めるも姿が見えなくなった。
アオが心配で戦った事の無いセフィールはおろおろとするが、意を決してアオを追いかけ走り出した。
「アオ、アオっっ・・・俺が連れて来たからだ・・・俺の所為でアオが死んだら・・・うぅっっ」
アオは2か月程前弱って洞窟に来たのを何も無いセフィールは、薬草を取って来て錬成で粉末にし夕飯のパンを水でトロトロにした中に混ぜ根気よく食べさせ1週間かけて看病した蜥蜴であり最初の友達であった。
夜になるとどこからともなくやって来て、ヒートで暖めた洞窟内でゴロゴロして去って行くセフィールにとっては気心の知れた友達である。
その友達がもしかしたら居なくなるかも知れないと思うだけで悲しさで涙が溢れて来た。
親に捨てられた12歳の時に涙は枯れたと思っていたが、どんな理不尽を受けてもここまで辛くは無かった。それ程セフィールにとっては優しい繋がりが何よりも大切であり、命より大事なものであった。
ーー『ぎゅるるるるるるるっっっっっ!!!』
ーー『ゴアァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!』
ーーパキパキッッッ・・・ドゴオオオォォォォォ・・・ンッッッッッ!!!!
「アオっっアオっっ!!!」
明らかにアオ以外の威嚇する鳴き声が聞こえた。その直後に坑道中の空気が震える様な爆発音がして地面が揺れた。前方からは凄まじい突風が吹きつけて来てセフィールは飛ばされると身構えるがクロが前に立つと突風は避ける様に通り過ぎて行った。
「あ・・・あお・・・。」
ーーー土煙と共に不安と焦燥感がセフィールを襲った。
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