第22話 領主ni報告





領主が室内に入り、皆が立ち上がる。領主は厳しそうな雰囲気ではあるが、領主としての貫禄が十分感じられる。セフィールよりは10は歳上の精悍な顔つきの男性であった。



 「よく参られた、私がこの土地の領主イグリール・ウェリーだ。挨拶は結構だ。早速廃ダンジョンの報告を聞かせてもらおうか。」


 「かしこまりました。ではセフィール殿、前触れには素材の事と最下層の悪魔の事までは伝えてあるから最下層の詳細を領主様にご報告して下さい。」


 「はい、あ、セフィールです。最下層の素材を全て回収した後真っ赤な魔法陣から出て来たのは真っ黒な大きな馬の姿をした『アパオシャ』という悪魔でした。『この土地に住まう悪魔』と自分の事を言っていたので元から居たんだと思います」


 「『アパオシャ』・・・まさかこの土地に住んでいたのか・・・」


 「アパオシャの攻撃は炎と乾燥の様でした。俺とルークとクロはたまたま通路に出ていたのですが、ボス部屋に数分人間がいただけでも死んでしまう程カラッカラに乾燥させて来ました。

 戦闘はこのアオが戦ってくれました」


セフィールは自身の膝の上に頭を乗せて寝ている、アオの頭を撫でながら話す。


 「こんな小さな生き物が執務室に入らないくらいの悪魔とどうやって戦う?」


領主が興味あり気にセフィールに問う。


 「コイツも大きくなれるんで・・・。その・・・今朝アオがドラゴンだと知ったんです。今は小さいですが大きくなると倒した悪魔よりやや小さい位の大きさです。アイヲン町の宿で動物入れて良い2人部屋がパンパンになる位の大きさって言っても分からないですよね・・・?」

 「え!あの、めちゃくちゃ無駄に広い部屋か!?」

 「そう!そこです!!」



意外な所で兵士長が反応した。ポドムも知っている様で驚いた様子だ。



 「ほう、皆が言う程には大きいと言うことか・・・。そっちの犬に見えるのも魔獣か?」

 「はい、多分魔獣なんですが異常に大きい犬って以外よく分からないので、ただの犬かも知れないですが・・・。」

 「大きくなると言うならば、それも魔獣であろう。その2匹で悪魔を倒したのか?」

 「いえ、クロは戦っていません。アオが主に戦ってくれて、俺が最下層の素材を使って槍を錬成しました。それを通路の壁を錬金術で飛び出た形で台座を作って、それに槍をくっつけてルークと共に悪魔に留めを刺しました。」

 「悪魔を見てみない限り良く掴めないな、この城の中庭は私兵の訓練にも使うから何も無い。そこに出して欲しい。」


みんなで中庭に歩いて行き、庭で訓練している兵士達を壁まで下がらせた。



 「では、出してくれ。」

 「はい」


ーードォォォォォォンッッッッッッッッ!!!!!!!


広い中庭に巨大な黒い馬が槍に貫通されたまま横たわった姿で砂煙を巻き上げながら現れた。横たわったままでもその場にいる人達の身長よりも大きい。

周りに居た私兵達、セフィール達と一緒に来た面々や領主も息を呑んだ。


 「これは・・・。」

 「セフィール殿の話より随分大きいのだのう・・・」

 「過少申告も甚だしいですね・・・。」

 「そうですか?ありのままお伝えしたつもりなのですが・・・。」

 「2人はフォルテム王国で蔑まれていた錬金術師の職ですから、自己肯定感が低く過少申告になるのでは?」

 「・・・。アオとクロも大きくなって貰って良いか?」

 「そうですね、まだ皆さんアオとクロの大きい姿見せてませんでしたね!アオ、クロ!!」


ーーがぅっ!!・・・グゥルルルルッッッッッ!!!!


ーーきゅうっっ!!・・・ギャゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッ!!!!


皆、アオとクロが敵でないと分かっていながらも身体を強張らせ緊張させた。目の前に現れたのが二階に迫る大きさのドラゴンと、人間など鎧を着てようが一発殴られたら吹っ飛んでしまう様な筋肉が付いているのが見ただけで分かる大きな黒い犬が現れたからだ。


 「やっぱ、アオってまだ子供なんじゃね?小さいよな?ドラゴンってもっと大きいんだろ?」

 「んー・・・俺もそう思ってたんだけど、やっぱ小さいよな・・・。だからきっと悪魔に苦労したんだろうな・・・可哀想な事をさせたな・・・。」

 「良いんじゃね?コイツ戦うの好きっぽいし。怪我したら俺がまた回復薬ぶっかけてやっから、あんま心配すんなよ〜♪俺実は回復薬錬成するの得意なんだぜ!!それに、ヤバかったらクロが助けるだろ?」

 「それもそうか!!そういや、何でクロは助けに入らなかったんだろう?」

 「めんどくさかったんじゃね?」

 「いやいや、ルークじゃ無いんだから面倒見の良いクロがそんな理由で助けないなんて事は無いよ。」

 「怪我してた訳でも無いし・・・もしかして何か不都合があったのか?」

 「んー・・・じゃあ、魔法が関係してんじゃね?」


クロの事で真剣に考えているセフィールの肩を叩く者がいた。


 「それならば、悪魔が火の魔法を使っていたと言ったおったからクロ殿も『火』か『風』なのでは無いのかの?」


 「あぁ!成る程!そういう事なら納得です!ポドムさんありがとうございます!!スッキリしました!」


爽やかにお礼を述べるセフィールに呆れ顔のポドム。どうしたんだろうかセフィールは首を捻った。


 「セフィール殿、考えに沈むのも良いが出来ればアオとクロを小さくして貰えんかっ?」


セフィールが顔を上げると、今にもクロにじゃれあいという名の戦闘を始めそうなアオが目に入った。ここで暴れたら大事になると慌てて、小さくなる様に頼むとクロは素直にアオは渋々小さくなる。

小さくなった姿でアオはクロに体当たりをかましていた。セフィールは間に合って良かったとホッと息を吐く。周りも同じ心境だったらしく、安堵のため息を吐く人が多くいた。


 「セフィール殿の話が過少であると疑ったばかりに、魔獣を大きくして貰ったのが良くなかったな。『倒した悪魔よりやや小さい位』と言っておったのだから、アレの少し小さい位ならば先程の大きさは正しかったな。すまんなセフィール殿。」


領主は汗をかいたのかシャツの1番上のボタンを外していた。何を謝られたのか分からないセフィールは首を傾げる。

セフィールはアオとクロの大きくなる所はみんな見たいだろうと思っていたので、疑われていたとは思っていない。


悪魔にみんなで近付いて、これをどうするかを話した。


 「この悪魔どうしますか?俺が保管しておくならそれはそれでも良いんですが・・・。」

 「あんま持ちたく無いよな〜?ま、俺が持つ訳じゃねーから良いけど。」

 「王都の魔法研究所に持って行くのが良いかもしれんな。」

 「これを運べるスキルの収納ボックスか異空間魔法を使える者は・・・あぁ、うちのギルドに登録している者でスキル持ちがいました。その者に頼みましょう。」

 「あ、俺行かなくていい感じですか?良かった。じゃあ槍回収しても良いですよね?」

 「回収するのか?」


領主が聞き返す。


 「え?ダメなんですか?」

 「勿体ねーよな。折角欲しかった素材で錬成したのに・・・。こん位の大きさありゃ真空断熱コップ100や200は錬成できるだろ?しかもこの前より丈夫なコップだもんな。勿体ないなぁ・・・」


ルークは恨めしそうに悪魔を見ながら呟いていた。


 「そうか・・・確かにそれは勿体ないな。しかしこの大きい槍が刺さっているのといないのでは印象が違うのでなぁ・・・。もしかしたら陛下もご覧になるやも知れんしな。分かった、私も王都に行って来よう。行って特に陛下がご覧になられない様で有ればその槍は回収して帰ろう。もし陛下がご覧になられるので有ればご覧になった後に持ち帰ろう。それでどうだ?」


 「では、それでお願いします。お手数お掛けしまして申し訳ないです。」

 「いや、これはお前達の食い扶持なのだからそう思うのも仕方ない。しかし、持ち帰ることが出来なかった場合は何か王都からこちらの利益になる事を引き出すとしよう。その場合は何が良い?」

 「では・・・、他の廃ダンジョンに入る許可とそこで採取した素材の権利を貰えるとありがたいですね。」

 「うむ、分かった。では、収納ボックス持ちが参ったら行くとしよう。今日は皆ここに泊まると良い。」

 「では、我らはこれで」


兵士長とゼルが帰ろうと挨拶を済ませる。


 「お前達2人居なくともあの町には冒険者ギルドもあるのだ1日、2日居なくても問題なかろう。折角ここまで土産話を持って報告に来てくれたのだ、泊まっていきなさい。ポドムはどうする?鳥を貸すぞ?」


 「鳥をお借り頂けるならば、わたくしも泊まって行きましょうかな。お二人の錬金術師とじっくりお話してみたいですしな。」


 「鳥って鳥の足に手紙でも付けて飛ばすのか?」


 「あぁ、お二人は錬金術以外の事に疎いのでしたな。鳥、正式には『届け便り』と言い略して鳥と呼んでいるだけの魔力を乗せた生きた紙の事ですよ。人形ひとがたの事も有れば本当に鳥の形の物も有ります。それを使えばわたくしがここに居てもギルドに連絡が取れるのです。

ーーまぁ、各ギルドや町長やお貴族様しか持って無いんですけどね。」


セフィールとルークは新しい事を知り興味津々で聞いていた。



ーーー知らなかった事を知り世界が広がる。







 

 

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