第13話 広めて良い?
翌朝、ユーリにステンレス鍋を作った事などを返信した後ルークが起こしに部屋に入ってきた。
「なんだもう起きてるのか。あれ、あの犬は?」
「多分狩に行っているんだと思う。朝食は俺と一緒に昨日の残りをいつも食べるんだけど多分足りていないんだと思うんだ。だから自分で獲ってある程度お腹を満たして戻って来て、一緒に食事をしてくれているんじゃ無いかな?」
「それ、お前の妄想だろ?どんだけ獣を美化してんだよ・・・。」
「んん?そうか?多分間違って無いと思うぞ?」
「言い切れるセフィールが怖いわ〜そういやお前、昨日の鍋作って売るんだろ?身なりは整えてから行った方が良いぞ。今のお前が売ってるもん買う奴いないぜ?」
笑いながらルークは部屋を出て行き、部屋に残ったセフィールはそう言えばと頭や顔を触る。髭も髪の毛も伸び放題、服は2枚しか無い服のローテーション。カバンも使い古していて薄汚れている上に、穴が空いている箇所もありブーツもボロボロ。確かにこんなヤツから物は買わないなと自嘲した。
「まずは身なりを整える為の金を稼がなければならないな・・・。近くに町があるか聞いてそこで揃えるか・・・。」
台所に行くとルークがスープとパンを用意していたので、ひとまず顔を洗いに川へ行き戻るとクロが戻ってきていた。テーブルの横で大人しく伏せている。アオはやっと起きた様で、ふらふらしながら扉から出てきた。
クロとアオには昨日の残りの肉を皿に入れ出してから、2人も食べ始めた。
「本当にお前の言う通りかもな〜コイツ全く腹空かせた感じしねーんだよ。」
「だろ?クロは賢い上に優しいし、アオは甘えん坊で可愛いし最高だよな!!!」
「・・・。そういや昨日の鍋、あれ何を合わせた合金なんだ?」
「鉄とニッケルとクロムを合わせて錬成したんだ。どうやらそれらを組み合わせる事によって、鉄みたいに錆びないらしい。鉄が含まれているからいつかは錆びるんだろうが、錆びにくくなるのは画期的だと思わないか?」
「それ、本当なかなり売れるだろうけど鉄以外は聞いたことねーなぁ。それ何て錬金術の教本に書いていたんだ?大抵の鉱物の名前は覚えてる筈なんだけどなー・・・。うーん。」
「教本じゃ無いんだ。あんまり詳しく言えないけど、他の国の人に教えてもらっただけなんだ。」
「怪しく無い?そんなめちゃくちゃ儲かる話教えるっておかしいだろ・・・。」
「え?いや、その・・・俺の・・・親友だから・・・。」
「親友でもおかしくね?一緒にやら無いってさ。一緒に販売して儲けを分けるなら分かるけど、どうせそんな話相手にしてないんだろ?めちゃくちゃ売れて金持ちになった頃に分け前よこせとか言って来るんじゃね?一回確認してみた方が良いぞ?」
「っっっ!!!違うっっっ!!!ーーあ・・・大声出してすまない・・・。でも、アイツは違うんだ。これはきっと誰にも分かって貰えないだろうが、アイツとはそんな関係じゃ無いんだ。」
「・・・なんか知らねーけど、もしソイツの事で困った事に巻き込まれたら助けてやるから。」
「ありがとう、でもそんな時は来ないよ」
「セフィールの事が心配になるよ・・・。よく悪意まみれの国でそんだけ純粋に育ったもんだよ・・・」
「・・・そんな事ないけどな」
朝食を食べ終わり片付けた後、ルークがセフィールの髪や髭を整えてくれるらしく川まで一緒に行った。散髪した後川で頭を洗えるのでルークは川岸でいつも切っているそうだ。
到着後、大きな石の上にセフィールは腰掛けルークに切って貰いさっぱりとした。
「モサモサに伸び切った髪と歳とった魔法使いみたいな髭整えたら、中々・・・」
「?中々??」
「いや、何でもない。・・・言ったら負けの様な気がする・・・」
「???」
♢♢♢♢♢♢♢
村に戻ったセフィール達は村人達に錬金術師を国に縛り付けていた法律が廃止された事を伝えた。
村人達は歓喜の声を上げる者や咽び泣く者で溢れた。
しかし、法律が廃止されたからと言って差別が無くなった訳ではない。みんなそれを理解しているので、フォルテム王国に帰る人は1人も居なかった。
村人達はフォルテム王国の影に怯えることが無くなった事をただただ、喜んでいた。
ルークの家に戻って売るためのステンレス鍋を、持って行けそうな数として5個錬成した。町で錬成して売るのが一番早いのだが、まず宿に泊まるお金が無いのでどうしようもない。錬金術がそこまで発展していない国の道端で作るのは余り印象が良くない。
「本当に軽いよなぁ・・・これ、いくらで売るんだ?」
「それに困っているんだよ。俺今まで肉は魔法で加熱するだけだし鍋買った事ないんだよ・・・。相場が分からない・・・。」
「大きさにもよるけど鉄の鍋は俺の家にある1人用位が、確か銅貨25枚位だったと思う。同じ位の大きさだけどこれは銅貨65枚位最低でも取らないと割りに合わないだろ。」
「そんなに高くて売れるか?」
「いや、技術料はしっかりとった方が良い。これは大切な事だ。一般の鍋と大差ない値段で売ってたら、この国までも錬金術師を下に見る様になりかね無いと思う。」
「ーー分かった。でも、俺が軌道に乗ったらルークもステンレス鋼作り始めないか?俺達で錬金術師の地位を上げていかないか?」
「え!?・・・良いのか?ーーお前は分かっていないから心配だなー門外不出の術式の可能性あんだろ?俺に教えた事で、お前の親友がブチ切れて縁切ったらどうすんだよ。親友くんが許可してくれたら一枚噛ませてくれよ♪」
「そうだな!!!ルークありがとうっっっ!!!本当だ、俺に教えてくれたからと言って広めて良いとは言われた事なかった・・・危なかった・・・!!ちょっと部屋に戻るな!!」
「やれやれだなぁ〜」
ルークはセフィールは心配で目が離せないなと思いながら、部屋に戻るセフィールの後ろ姿を見ていた。
「返事来てる!・・・そうか、鍋以外にも色々向いている物があるのか。この真空断熱ってのは作ってみたいな。空洞のある二重にして空気を抜くだけならそんな手間じゃないし、後で作ってみよう。
あぁぁぁぁぁぁ・・・後半の文面が優しさの嵐っっっ!!!あぁぁぁぁぁぁ・・・あっっ!!今は人にステンレス鋼の事教えて良いか聞かないと!!」
『
ユーリ
今日は一日尋ねたい事があるんだ。
ステンレス鋼の作り方って他の錬金術師に教えても良いだろうか?
このステンレス鋼の商売が軌道に乗ったら、他の錬金術師にも
作って貰って生活を安定させて欲しいと思っているんだ。
ルークを誘ったら教えてくれた友達に聞いた方が良いって
言われて、そう言われて確かに他の人に広めて良いって言われて
いなかったのに気付いたんだ。ユーリの事は大切な友達なのに
本当にごめん。
フィール 』
「はぁ・・・嫌われたかもなぁ・・・」
スキルでユーリに先程の事を送信すると、壁に寄りかかりずるずると崩れる様に座り込んだ。
「あ・・・返事が来てしまった・・・」
スキルを発動して返事を見るための動作がいつもより遅く、腕がこんなに重いものだったかとセフィールは思った。
『 フィール
ステンレス鋼位別に良いんじゃない?
どの道主流になるだろうから、フィールだけじゃ作れないでしょ?
その世界の一般職業の人はステンレス鋼を中々加工できないと思う。
設備が無いと無理だし、言っとくけどステンレス鋼作るのは
そっちじゃ錬金術師じゃ無いと無理だよ。
どんどん広めて任せてフィールは別の物作ろうよ?同じ物ばっか
飽きるでしょ?真空断熱のコップステンレスじゃ無くてチタンで
作ったらもっと丈夫で長持ちするよ〜ステンレスの真空断熱は
3年位で寿命らしいけど、錬金術で作るのはもっと長いかも。
チタン見つかったら作ってみようよ!
あ、もし何か戦争なんかに巻き込まれてフィールに危険な物
教える事になった時はその時だけは秘密にする様に言うから。
そっちがそんな事にならない平和な世界である事を願うばかりだよ
嬉しいな!私もフィールの事大切な友達だと思っているよ
ユーリ 』
有理はフィールが本当に異世界の人間である可能性も含めた内容で返事を返した。
「よ・・・良かったぁぁぁぁぁ・・・・・・・」
ユーリの返信を見たセフィールは安堵してそのままま前へ崩れた。
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