第46話 生まれた廃ダンジョン






3カ国の特使がミジュア国王と謁見している最中の事であった。

騎士が火急の用向きだとの事で国王が許し、謁見の間に入ってきた。その騎士は騎士団長に駆け寄り紙を渡しその中を確認すると、騎士団長はほんの少し息を呑んだ。その後すぐ騎士を下がらせる。


 「アーサー騎士団長その紙に何が書いてある?読み上げてみよ。」


その様子を眺めていた国王に問われ騎士団長は王に身体を向けた。


 「ーー本日、レメヴァーレ王国のダンジョンが一つ廃ダンジョンとなったとの報告を冒険者ギルド連盟から報告を受けたとの事です。」


その場に居た全員が苦悶に満ちた驚きをする事となった。セフィール達の調べによって廃ダンジョンになるとダンジョンに眠っていた悪魔が活動を始める事を掴み、またそれが分かった事で調査すると全ての国で廃ダンジョンになった年に悪魔が現れている。ーーつまり、いつ国が悪魔の襲撃を受けてもおかしくない状態なのである。そして最悪なことに最強クラスの魔術師が今現在他国にいると言うこと。


レメヴァーレ国特使としてその場に居たビクター魔術師団長の顔色はかなり悪い。


 「ーーそうか。ビクター魔術師団長は祖国にすぐさま帰られた方が良かろう。」


 「おっ、お待ちくださいっっっ!!ミジュア国王様!!どうかレメヴァーレに悪魔討伐の協力致しては貰えませぬかっっ!?」


 「ふむ。ーーでは、宰相別室で聞いてやれ。」


なんて事でもないかの様に発言したこの国王にビクター魔術師団長含め、他の特使達も絶句してしまう。一国の一大事にも関わらず懇願する特使の願いを一蹴したのだからこんな扱いを受けるとは流石に誰も思っていなかったのだ。

呆然とするビクター魔術師団長は騎士と宰相に連れられて謁見の間から去って行った。


残った2人はなんとしてでも友好的結び付きを得ようと利点や条件の売り込みを開始した。








♢♢♢♢♢♢♢







別室に連れて来られたビクター魔術師団長は自分のどの発言が国王の怒りを買ったのか、レメヴァーレ国王の顔に泥を塗った私はもうレメヴァーレの地には踏み入ることが出来ないだろう等と心が抜けた様に促されたソファーに力なく座り、出された紅茶の水面を見るとも無く見ながら思考の渦に呑まれていた。


ミジュア国の宰相ドライドは、紅茶を一口飲むと紅茶をテーブルに戻した。


 「ビクター魔術師団長殿、先程貴殿は我が国にレメヴァーレ国に我が国にから悪魔討伐の協力を願っておいででしたな?」


 「・・・はっ、はい!左様にっ!」


話しかけられなんとか思考の渦から帰って来たビクター魔術師団長が返事をする。


 「悪魔の力は貴殿でも倒せない程に強力であるのはご存知かと思いますが、流石に命懸けの派遣を行うにはレメヴァーレはちと、荷が重いのはお分かりでしょう?」


 「ーーはい。レメヴァーレは貴国とは未だ同盟関係にはあらず、且つ国交すらありません。それは全てレメヴァーレがミジュア国の打診した会談を断り続けた事に他なりません。

我が国の王からの親書は読んで頂けましたか?・・・虫が良い話ですので、討伐協力して頂けるので有ればそちらにとって有利な条件での同盟を結ばせて頂きますのでどうか、・・・どうかミジュア国王陛下に御再考頂ける様に取り次いで頂けないだろうか!?何卒っっ何卒っっっ!!」


ソファーからビクター魔術師団長は立ち上がるとドライド宰相の座るソファーの近くで片膝を突き、頭を下げた。


 「ーーでは、まず初めにミジュア王国とレメヴァーレ王国間の関税を下げて貰おう。関税を下げたい品目に関しては追って知らせる。次に我が国が他国に攻められた際は協力をする事。尚これに伴ってミジュア王国とレメヴァーレ王国は互いを不可侵とする事。結べそうかの?」


 「はっ!!それで協力して頂けるなら!!」


宰相は人の良さそうな笑顔を返事の為に顔を上げたビクター魔術師団長に向け話を続ける。


 「それと、これは討伐に関しての条件だが・・・悪魔を倒すときに廃ダンジョン内にある鉱物が必要でな。鉱物を採取して悪魔を倒すと廃ダンジョンは消滅するのだが、その廃ダンジョンの素材を使用しなかった物も全てこちらに討伐費用として頂戴したいのだ。

そして、ビクター魔術師団長殿もこちらの派遣する者達と協力して倒す事。少人数精鋭で頼むぞ?ゴロゴロ居ても殺されるものが無駄に出るだけだと覚えておくと良い。この条件が呑めるのならば派遣しよう。」


 「ーっ!!よろしくお願いしますっっ!!」


ビクター魔術師団長は宰相が提示する条件に些か拍子抜けだった。ミジュア王国の物だけ一方的に関税を下げろと言うわけでもなく、莫大な金品を要求される可能性も視野に入れていたのにも関わらず、今まである事さえ知らなかった悪魔を倒したら壊れる廃ダンジョンの鉱物の所有権だけであった。

他の条件も同盟を結べば当たり前の条件である。

困惑する間にあっという間に文官が契約書類を作り宰相にサインを促された。


 「取り敢えずは、急がねばならんからな。特使として参られたビクター魔術師団長殿のサインで借りに結んでおくぞ?貴殿が責任を持ってレメヴァーレ国王に印を貰ってくるのだ。反故にした場合はこちらにも考えがあるのを忘れん様にな?」


サインをビクター魔術師団長が書くところを見ながら、宰相は目の奥が全く笑っていない笑顔を向けている。


サインを書き終わると立ち上がり左手に嵌めていた白い手袋を外す。するとビクター魔術師団長の左手の甲にはレメヴァーレ魔術師団の紋章である赤い色の魔法陣が現れる。

レメヴァーレ王国は魔術師団に入ると魔力を安定させる魔法陣を左手に先輩魔術師が魔術で写す。それは魔術師団としての誇りであり魔術師を目指すものの憧れである。安易に見せるものでは無いのでレメヴァーレでも魔術師を目指す者位しか認知されていない。

その左手を胸に当てビクター魔術師団長は目を瞑った。



 「普通で有れば正式に同盟を結んでから討伐要員派遣となる所、そこをこちらの事情を汲んで頂き魔術師団長如きのサインで前倒しで協力して頂けるのです!このジェイルド・ビクター、ミジュア王国の御恩は決して忘れは致しません!!」



宰相とビクター魔術師団長は固い握手を交わした。



♢♢♢♢♢





セフィール達は王都で観光を夕方まで楽しんで男爵のセカンドハウスに戻ると、ウェリー男爵と見知らぬ男が待っていた。ユーリは「(あれ?なんか今日見た人っぽく無い?)」と薄ら思い出していた。

ウェリー男爵が申し訳なさそうに口を開いた。


 「観光を楽しむ様に言ったんだが・・・済まないが廃ダンジョンが隣国のレメヴァーレで生まれたので、今から討伐に向かって欲しい。」


ウェリー男爵がセフィール達に伝えると男が一歩前へ踏み出した。


 「私は貴公らと共に悪魔討伐の任に就くレメヴァーレ王国魔術師団長、ジェイルド・ビクターと申す!至らぬ点は指摘してくれるとありがたい。何卒お力添えの程を頼みたい!」


余りのビクター魔術師団長の熱量にセフィール達は若干引き気味である。セフィール達は成り行きで倒している為国の為にという気概が一切ないので、みんな口々に「え、あぁ・・・。うん。」「・・・よろしくお願いします?」等戸惑いながら返事をした。


 「・・・ルーク、お前がアイヲン町で言った「オガルレで毎夜飲んだくれてやる」はやっぱりユーリの言う呪い発言だったみたいだな。」


 「・・・フラグって本当だったんだ・・・。勉強になったなー。あ、この間会いましたよね?私も今回着いて行くんで宜しくお願いしますね?」


 「セフィール、最近アオの噛み癖酷いんだが・・・。」


 「アオは相変わらずロバートが好きなんだなー?」

 「ロバートっち、かわいい〜☆」

 「噛みたくなる何かがそこにはある・・・って感じなのかな?」


ロバートの肩まで這い上がったアオがロバートの頭を甘噛みしている。その悪魔と戦いに行くとは思えない、のんびりとした光景を見ながらビクター魔術師団長は一抹の不安を感じていた。









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