第47話 スキルの鍵





ーーガラガラ・・・ガラガラ・・・




 「ロバートさんとルークさんってスキルあるんですか?」


流石に今回の討伐の旅は長いので、ロバートは馬車に乗っており馬車には有理とロバートとルークが同乗し、今回セフィールはアオとクロ、ビクター魔術師団長と補佐官で乗っている。

いろんな国を行き来したロバート以外は全員国を超えて移動する馬車の旅は初めてである。


 「俺はスキル持ちじゃ無いと思うよ?」

 「なぜ曖昧なんだ?」

 「フォルテム王国じゃ錬金術魔法使いは酷い扱いを受けるんだ。だから、俺の親は俺が小さい時に錬金術魔法使いだと分かると流行病で死んだ事にして、じいちゃんの山にあった山小屋に軟禁されてたんだ。死んだ事にされてたから鑑定された事ないんだよね〜。」

 「スキルって唱えたら出るもんでもないの?」


有理はそもそもの疑問をルークにぶつける。


 「ユーリさんそれはだな、まず鑑定して貰い自身のスキルの名称を知る。それを唱える事が鍵となってスキルが発動するんだ。だから、名称がわからない限り持っていても発動はしないのだ。」


 「成る程・・・hey Simi と同じ事か・・・。成る程なー・・・。ある意味AIと同じじゃん。・・・えっ?あ、こっちの世界の話だから気にしなくて良いよ!ロバートさんはスキルあるの?」


何気に最新テクノロジーとの共通点を発見してスキルの仕組みを納得していた有理は、ロバートのスキルも確認してみる。


 「俺は持っているぞ?魔族との混血だからな二つの種族が混じるその分、スキルを授かる確率も上がるというのは有名な話なんだ。まぁーーお前達には俺のスキルを話しておこう。『渾身の一撃』これは一回の攻撃に10倍の力を乗せる事が出来るんだがその後の10回の攻撃が反動で10分の1になるのだ。」

 「使い勝手微妙だな。」

 「でも、それって別の力要らない武器を持ってたら解決しないかな??フィールに相談して試しに作って貰おう!(銃の系統だと10分の1でも大丈夫でしょ!)」


10回分攻撃が10分の1になるのならば、これは銃を持たせれば問題なく解決するのでは無いかと有理は思った。


 「ユーリちゃんずるいー!!ロバートはもうセフィールから武器作って貰ってるのに〜・・・。」

 「え?ルークさんって戦いたかったんですか!?そんな感じ一切しないんですけど・・・。」

 「お前は回復薬作り極めないのか?」

 「まぁ・・・確かに回復薬作りは楽しいし向いてるけど・・・セフィールの方が良い回復薬作れるし・・・。」

 「んー・・・越えられないのかぁ〜・・・。何が足りないんだろ?何がセフィールと違うか分かりますか?」


ルークは有理の言葉に目を閉じて考える事数秒、顔を上げた。


 「精錬の技術?と錬金魔法を錬成中に送る精度?そんな違いだと思う。セフィールは国中渡り歩いて色んな錬金術師に師事を乞い、それに国中の無料の図書館で錬金術の勉強した奴には叶わねーよな!天才ってあーいう奴の事なんだなって思い知らされるわ〜♪」


笑顔で明るく話すルークの膝に置いた手は強く握り込まれている。気を遣わせまいと無理に明るく話そうとしている気がして有理は悲しくなった。


 「薬の錬成に必要なものか・・・。この際技術足りないなら新しく薬を・・・ん?創薬?」

 「そうやく?」

 「創薬はえっと新しくお薬作る事・・・だね。創薬生成とかスキルあると良いのにねー」

 「創薬生成か・・・。」


ルークが呟いた瞬間緑色で半透明の胴位の大きさの筒がルークの目の前に現れた。浮いた状態で安定している。3人とも急な出来事に見事に固まった。この状態を今覗けば見た人は『時間が停止した空間』という異常事態に見える事は間違いない。



有理の世界なら新しい薬を作り出すのは別の職業があるが、こちらの世界の薬学は簡易な材料しか使用しない為薬師が行う。薬師でもほとんどが調剤師の役割であり、創薬出来るのは極めて一部の国お抱えの薬師等だけである。そして、錬金術師は既存の薬を作ることしか能力的に出来ない。

ルークはこの世界で初めて遺伝子に直接働きかける薬を生成する力を得る事になった。





♢♢♢♢♢♢♢♢




ーーガラガラ・・・ガラガラ・・・



 「魔術師団長様、レメヴァーレ王国は既に出ている悪魔はいるんですか?」


セフィールはクロの頭を撫でながらビクター魔術師団長にレメヴァーレの状況を確認してみる。ビクター魔術師団長は腕を組んで瞑想していたが、セフィールに話しかけられ顔を上げた。魔術師団長の隣に座る補佐官は無表情でずっと無言である。


  「ん?あぁ、レメヴァーレ王国は既にタローマティという悪魔が40年に1度現れる。13年前に現れたからまだ時間はある。それからセフィール殿、依頼している側だからは不要だ。」


 「分かりました、は外しますね。・・・えっと、どんな悪魔なんですか?」


 「姿はほとんど見た事はない。ただ人を惑わす様で神をも恐れぬ行動を取る様になる市民が溢れ、無法地帯の様になる。他の悪魔に比べたら派手に暴れない分タチが悪い。悪魔が去った後、悪魔に惑わされた多くの市民が処刑されるのだよ・・・。魔術があっても手も足も出なかったよ・・・・・・。」


ビクター魔術師団長が13年前を思い出したのか、苦虫を噛み潰した様な顔になり顔を背けた。


 「それは厄介ですね・・・。精神に攻撃を与える悪魔か。(ユーリと何か解決する方法がないか話し合ってみるか。取り敢えずは新たに廃ダンジョンになった所にいる悪魔を討伐しないとな。)」



新しい悪魔の情報はまだ無いのでセフィールは既にいる悪魔タローマティの事を考え長い道中を野営地点まで過ごした。




ーーしばらくして道から外れ森の横に馬車が停車した。





 「セフィール殿野営地点に着いた様だ。馬車を降りて野営準備に取り掛かる。」


セフィール達が馬車を降りると後を追って来ていたユーリ達の乗る馬車も停車し降りて来た。

ユーリやルークは長時間馬車に乗っていて固まった筋肉を背伸びをしたりほぐしている。ビクター魔術師団長が魔法であっという間に野営のテントを張ってくれたのでセフィール達は特に何もする事が無かった。



食事は全員で焚き火を囲んで食べる事になったので、食事中悪魔タローマティの話をみんなと少しした後、ルークが新しいスキルの話をしようとしたが有理が野営の食事の話を放り込んでぶった切った。ルークが思わず有理を見ると『余計な事は話すんじゃねぇ』と目で威圧して来た為慌ててルークも野営食について話を盛り上げていた。

ロバートは特に人のスキルに対して話をする気は無いので黙々と森を警戒しながら食事をしている。セフィールはギクシャクした雰囲気に疑問を持ちながらも『アオとクロの食事足りるかな?』と2匹の心配をしていた。

その間ビクター魔術師団長も少し話に加わっていたが、有理は彼から少し距離を感じていた。

まだこの2人に手の内を明かすのは良くないと思い、どうでも良い話に持って行ったのである。




有理は1人用のテントに入るとセフィールのスキルがまだ使えているのなら、自分とのメールもまだ出来るのではないかと思いつき早速誰にも聞かれない様に毛布を頭から被り小声で鍵になるワードを探し始めた。


 「・・・メール交換・・・(えっとフィールのスキル名なんだっけ)・・・賢者との交信だっけ?じゃあ・・・錬金術師との交信?・・・(これも違うのかー・・・じゃあ)セフィールとの交信?・・・フィールとの交信?・・・(全然当たんない・・・。そもそもスキルあるかすら怪しくなって来たな・・・)」



全く当たる気配が無いので実はスキルを持って無いのではと諦めかけている。次で当たらなかったら寝ようと思いセフィールが自分との関係でどの位置付けかを考えて一つ思いついたのを有理は呟いた。



 「夫との交信」



すると不思議な感覚が有理の体内を駆け巡り最後に大きめのゴーグルと半透明のキーボードが現れた。


 「(夫との交信ってこれ離婚したらまたワード探さないといけないんじゃ無い?・・・うわっめんどくさっ!フィールに頼まれてもちょっと離婚は無理だわ〜・・・でも離婚した相手とメールのやり取りしたく無いけどなっ!!・・・取り敢えず打ってみようかな。)」


有理はゴーグルを装着して空中に浮いているキーボードを打ちやすい位置に持ってきてセフィールに久しぶりにメールを打ち始めた。






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