第16話 みんなでケーキを食べよう!!






辺りは随分暗くなっていたが、なんとか夕飯に間に合う時間にギリギリ村に帰り着いた2人と1匹。


 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。な・・・何とか帰り着いたな・・・。」


森の中を2人で荷車を引いて帰ってきた。行きは荷物が少なかったので2時間だったが帰りは荷車があったので3時間掛かった。ちなみにアオは2台に乗っているので疲れていない。


 「つ・・・疲れた・・・。もうお湯で身体の汚れ流して・・・寝たい・・・。」

 「・・・。死んだ・・・。」

ーーきゅー♪


 「あれ?2人ともこんな時間に帰って来たの?」

 「おかえりなさいっっ」


荷車の音を聞いてエミリアとマリーが出て来た。他の村人もちらほら顔を出して来た。


 「・・・ごめん、もう俺達疲れ過ぎてて・・・休みたいから話は今度にしてくれ・・・」

 「・・・ルーク・・・俺もう無理・・・」

 「そ、そう?分かったわ。今度ゆっくり話聞かせてよ。じゃあね。」


家に帰るとクロが獲物を用意していて待っていてくれた。獲物は今日は晩御飯作る気力も食べる気力も無かったので、クールの魔法で冷却した。家に荷物を運び込んでから、クロに干し肉のお土産を渡し、アオにも夕飯に同じ物を渡した。ヒートで温めたお湯で身体を布で身体の汚れを取った後、泥の様に眠った。





翌朝、重苦しくて目が覚めるとクロが顔をセフィールの腹に乗せていた。



 「あぁ・・・もう起きないと・・・」


台所では頭がふらふらしているルークがいた。2人は昨日町で買ったパンを食べ、昨日クロが狩ってくれていた獲物を捌きクロ達に食べさせ残りをヒートを長めに掛けてカラカラの乾燥肉にして携帯食代わりに袋に入れた。今日はクロも連れて町へ向かった。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢



昨日の疲れが残っている身体でやっとアイヲン町に辿り着いた。

今日の門番は違う人だったが、身分証を持っていたのですぐに入る事が出来た。

先に宿屋に行って部屋を取った。昨日余りにもしんどかったのでルークと話し合って今日は宿を取ることにした。勿論エールを今日こそは呑む為でもある。


宿は2人部屋で動物と一緒に泊まれる所があったのでそこに決まった。やたら大きい部屋だったが、倉庫だった所を動物と泊まれる様にしたと宿屋の受付の人が言っていた。部屋に一旦入って、昨日アイヲン町で買った服に2人は着替えた。それからギルド長に売る為のステンレスの真空断熱コップを5つ錬成した。いくつ必要なのか特に言われなかった為余り作り過ぎてもと思って少なめに錬成する事にしたのだ。


 「もし、もっといるならまた宿屋に戻って作ればいいか。素材は後・・・あんま残って無いなー・・・」


 「セフィールの錬金術って綺麗だよな〜。俺何人か錬金術師の下働きした事あんだけど、お前みたいに無駄なく綺麗には錬成してなかったな〜。みんなどんなに頑張っても報われないの分かってるから、どっかで手抜いちゃうんだろうな〜・・・俺も真剣に錬金術学んでたの学生の時だけだし、1年目でもう色々諦めたんだよ。セフィール見てるともっとちゃんと勉強しとけば良かったな〜って思っちゃうんだよ」


 「え?これから俺と錬金術で商売するんだろ??これから毎日勉強する事になるから関係なく無いか?」



 「っ!!!ーーそう・・・そうだなっっっ!!!これから毎日錬金術の勉強かっっ!!」


 「うん。学生時代サボってたんなら俺のレベルに近づく様に錬金術叩き込むだけだし、そんだけの違いだろ?」


 「お前って何でそんなに前向きなの?」

 「そんなつもりは全く無いけどなぁ・・・。手紙のやりとりしている親友のお陰かもなー・・・。アイツが前向きになれる様なことばっかり言ってくれるから、自然と自信が出て来たって感じだな。」


 「良い出会いだったんだな。でもよ、俺にとってお前がそんな相手なんだぜ?」

 「ははっ!そうか、それは嬉しいな♪これからもよろしく頼むな、友よ!!」

 「おう!!!雑用から錬金術まで何でもセフィールの友人であるルーク様に任せとけっっ!!

  ーーおっし!!商業ギルドに乗り込むぞっっっ!!!」

 「乗り込むって・・・ふふっっ」


アオとクロにはお留守番を頼み、学生同士の様にふざけた会話をしながら宿屋を出て商業ギルドに向かった。

ずっと一人で生きてきたセフィールにとって友人との気さくな会話が出来るようになったのは、精神的に大きな成長であり宝である。


商業ギルドに着くと受付のカイルがセフィール達に気が付いて、席を立ち寄ってきた。


 「セフィール様、ルーク様昨日は失礼しました!!2階の個室に案内致しますので、どうぞ!!」


 「・・・どうしたんだコイツ?・・・」

 「・・・さ、さぁ・・・?」


カイルはいきなりの謝罪と共に恐縮した様子。名前に様付けまでして来て意味が分からない。

案内された個室でソファーに座り待っていると、ギルド長のポドムが入ってきた。


 「セフィール殿ルーク殿お待ちしておりました。村と町の往復されてお疲れでしょう、カイル!」

 「失礼いたします。」


カイルがポドムに呼ばれてワゴンを押しながら入ってくる。カイルが2人とギルド長に紅茶を出し、2人の前にはケーキを出した。


 「どうぞ、その紅茶とケーキはこの国の貴族の間で流行っている物でございます。昨日お二人が帰ってから、ーーこちらの領の事はご存知無いかも知れませんが、こちらのウェリー男爵領の領主イグリール・ウェリー男爵様の所へ行って参りました。」


 「はぁ。」

 「(ズズズ・・・)この紅茶うまっっ!!!」


 「どうぞどうぞ!どんどん飲んで下さい、お菓子もございますから。ーーあぁ!すみません、話を戻しますね?・・・領主様にお二人が作られた鍋とコップを手土産に持って隣国から逃れた錬金術師達の話をしましたら、この領で雇うとの仰せでして。勿論、無理強いは致しませんしお給金も皆様のお力に応じて上乗せさせて頂きます。定期的に台所用品などを納めてくだされば、最低賃金は保証いたします。ーー村の錬金術師の方々にお声を掛けて頂けませんかな?商業ギルド登録料も私から出しますので・・・。」


 「え?何そのあからさまな上手すぎる話。俺さ、そんな甘言に騙される程甘っちょろい人生送って無いんでね、悪いな。行こうぜ、セフィール。」


ルークは立ち上がって扉に向かおうとしたが、セフィールは立たなかった。


 「セフィール?まさか、承知するんじゃねーだろーな!!」

 「俺はこの人信じるよ。」

 「おいおいおい・・・っっ!!!良い加減にしろよっっっ!!!こんな上手すぎる話裏があるに決まってんだろ!!!どうせまた捨てられんだぞ!!!」

 「門番の兵士の事を忘れたのか?ああいう人だって居るんだ。それにここはフォルテム王国じゃ無い。お前は手を引けば良い。何かあったら俺の責任になるだけだ。」

 「あぁぁ・・・ーーーーっっっっっっ!!!もぅっ!分かったよ、やってやるよ!!!男に二言はねぇ!!!」

 「ありがとうルーク。でも俺、打算もあるんだ。」

 「打算何ですかな?」


そこでやっとポドムが話に加わった。


 「実はステンレス鋼を錬成に当たって、鉱物の量と比べて含有量がかなり少ない素材があるんです。フォルテム王国に出る前に行った閉山した鉱山で、どこからか来たと思われるゴーレムを倒した中にあった大量の鉱物の中から手に入れたんです。その内欲しい素材の入った鉱石は30キロ。その鉱石の中から1.2キロしか手に入れる事が出来ませんでした。」


 「成る程、それで鉱山で採掘させて欲しいと?」

 「はい。今日はステンレスの真空断熱コップ5つ持ってきましたが、後15個位が限界でしょう。」

 「うーむ・・・。鉱山あるにはあるのだが、ここからかなり距離がある上に余り採掘は見込めないのだよ。んーーー・・・。あそこはどうだろうか・・・。ゴーレムを倒した程でしたらお強いのでしょう。それなら問題ない場所がありますよ。近いですし、許可もすぐ手に入りますよ。」


 「え!セフィールそんなに強かったのか!?」

 「ギルド長先程の説明なんだが俺がゴーレムを倒した訳ではなく、俺と暮らしている蜥蜴のアオが倒してくれたんです。説明省いて申し訳ない。」

 「あぁ!!そうでしたか!ん?蜥蜴?しかし倒せるのならば問題ないでしょう。そんなに魔物出ないですし。」

 「結局、そこはどこなんですか?」

 「ダンジョンコアが破壊されてただの洞窟になってしまった廃ダンジョンですよ。魔物が住み着いている可能性はありますが、ダンジョンの様に次から次へと生み出されたりはしませんよ」

 「廃ダンジョンですか・・・」

 「俺達には縁の無かった所だな・・・。」


 「そうでしたな、ギルドに登録できなかったからダンジョンに入った事が無かったのでしたね?私でも行ける程度の場所ですよ。ーー後、ルーク殿が疑われていたのは最もです。

私が我々の利益の話をして無かったのですから。私は貴方方の作った新しい物を使って商売を広げる事が目的です。この国は産業や資源が少ないですからどこの町も町の人達はかなり節約して生活しています。新しい資源や産業が手に入ればこの町でも先程のケーキを町の人間が普通に買う事が出来る様になりますからね。男爵様は税を上げるのは困難だと思い悩んでいましたので昨日お会いして貴方方の鍋やコップを見せて他国への持ち出しには税を多く掛ける様に進言しました。これで今年の税収は賄える可能性が高くなったのです。」

 

 「それがこの美味しい話のそちらの利益だったんですね。」

 「・・・なんだ、その・・・悪かった。俺も町の人間が気軽にケーキ食える様に頑張るわ。」

 「セフィール殿が人が良過ぎただけですよ。普通の方ならルーク殿の様に警戒しますよ。」


なんだか居た堪れない気持ちになったセフィールは話を変え、ポドムに廃ダンジョンへ入る許可を頼む事にした。そして、コップはまた色を付けてくれて銀貨2枚と銅貨50枚の所を、今回のお願いを引き受けてくれたお礼にと銀貨10枚で買ってくれた。来てくれた錬金術師達の3ヶ月衣食住を領主様が出してくださるとの事である。余りの高待遇に領主の期待に応えたいところである。

 


 


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