猫々サマータイムマシン 18
若い博士が俯きがちに話し出す。
「学校で浮いていて友達いなかったんです僕」
彼の話はこうだった。
そんな博士にも普通に接してくれる人が現れた。その人とは進級して初めて同じクラスになった。新しいクラスではその人のおかげで友達も出来たそうだ。
「初めて学校が楽しくなったんです」
その人は正義感があって優しくて誰に対しても分け隔てなく接する人格者だった。
博士は気が付くといつもその人のことを目で追うようになっていたと言う。
「いつの間にか僕、その人のことを好きになっていたんです」
それからは何をしていてもその人のことばかり考えるようになってしまったそうだ。
「いつからか、この気持ちを伝えたいって思うようにさえなりました。でも……」
そこで博士はさらに俯いて黙ってしまった。
「でも何だよ」
「あ、いえ……」
虎太郎は段々と焦りを覚え始めていたのだ。
時間もないのにどうしてこんなことをしているのか。何で三十年前に来てまでまた誰かの恋話を聞かなければならないのか。そもそも博士に言われてここに来たのだけれど、本当に来る意味はあったのか。
そんな想いが時間の消費と共に膨らんでいく。
「それで? どうせ告白したとか、されたとか、そんなことなんだろ?」
あいつらみたいに。
言外にそんな意味を込めて。
「……出来ないんです」
「あ? 何でだよ」
「それは……」
若い博士はそこでまた黙ってしまった。
「すればいいだろ? 俺の友達なんか何回やっても結局告白してるぞ」
「何回も……? 凄い……」
「凄いって言うか、何て言うか、分かんねーけど」
「でも、僕は、男だから……」
「はあ? だったら何だよ?」
博士が今まで以上に躊躇った後に小さな声で言う。
「……好きな人も、そうなんです」
「だったら何だよ」
しかしそれに対して虎太郎は本当に何でも無さそうに返した。
「え?」
「そんなのどうでもいいだろ。こっちはさ、何か、告白するとか、されるとかに巻き込まれて大変なんだよ。まあ、何て言うか、俺のせいでもあるんだけど、それで俺も訳分かんなくなっちゃったって言うか色々あんだけど……」
「え、あの、どうでもいいって……」
「え? 何が?」
博士はポカンと拍子抜けをしたような顔をしている。
「だって、あの、僕、男だし、こんなの普通気持ち悪いんじゃ……」
「はあ? 博士のくせに……」
博士のくせに何言ってんの? そう言いそうになって思い止まった。目の前の博士はまだ
「あー、んー、なんだ、好き嫌いに性別なんかあんまり関係ないだろ? 少なくとも俺の周りではそうだし勝手にすればって感じ興味もない、それが普通だろ」
「き、気持ち悪いって思わないの?」
「え? へー、そうなんだくらいにしか思わん。確かに、なよっとしてるやつは人として気持ち悪いと思うことはあるけど。博士とかもたまに……って、ええ!? どうしたんだよ!?」
気が付くと目の前で若い博士が涙を流していたのだった。
「そんな世界があるんだなって……、思ってえええぇぇ……」
博士は完全に泣き出してしまった。
「ちょっと、ちょっと待てよ、ええ? 何で? 何で泣いてんだよ? 泣きたいのはこっちって言うか、なあ、おい、頼むよ、時間が無いんだって」
「……時間が、無いんですか?」
泣き声の博士が問い返す。
「そうだよ、時間無いの! んー、あーーー、もういいや! あのさ、俺さ、未来から来たんだよ。俺にも解決したいことがあって、それで。だから本当は天使でもないし、博士の、あー、博士って言うのは、三十年後のあんたのことで、俺は博士と昔からの友達で、それで、その博士が作ったタイムマシンで俺はここに来たんだけど、何か色々説明している時間は無くて、ほらこれ、これがタイムマシンの装置で……」
言ってる自分でこんがらがって来ていた虎太郎は腕の装置を外して博士の顔に近付けた。
「これが証拠って言うか、もう、だから、とにかく、何でもいいから俺の話も聞いて欲しい!」
焦ってまくし立てた虎太郎を前に博士はしばらく黙ったあと涙を拭って返事をした。
「わ、分かりました」
虎太郎の焦りが伝わったのか、やはり博士は博士だからなのか、若い博士は虎太郎の言ったことに対して余計なことは言わず、何も聞かず、ただ理解を示したのだった。
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