猫々サマータイムマシン 1
聞こえるのはけたたましく響く蝉の声。
地面の上では陽炎と木陰が揺れている。
木陰には一人の猫の少年と緑の自転車。
少年、
手に持つラムネの瓶はすっかり汗をかいていて、汗は雫となって滴り落ちている。
虎太郎は雫で濡れることなど気にする様子もなく瓶を逆さにして、煽るように残りのラムネを喉に流し込んだ。瓶の中でガラス玉が小さな音を立てた。
ちょうど虎太郎を呼ぶ声があった。
日差しの中で智孝と莉子が自転車に乗って手を振っていた。
虎太郎は口元を拭い、近くにあったプラスチックケースに瓶を入れた。ケースの中でガチャリと音が鳴る。
濡れた手を短パンで拭いて自転車のハンドルを握る。ハンドルは日陰なのに夏の暑さを吸い込んだように温もっていた。跨り座ったサドルも同じだ。
ペダルを蹴って木陰から飛び出す。
肌を焼くような強い日差しが彼を迎え入れた。
それから合流した三人は口々に夏の暑さに愚痴を言いながら、それでも笑い合った。
やがて三人は自転車を漕ぎだす。それぞれの前にある輝く真昼の夏の方へ。
『猫々サマータイムマシン』
気が付くと白い天井を見ていた。自分は寝ていて、たった今起きたのだと気が付くのに少し時間がかかった。夢を見ていたみたいだったけれど、その夢の感覚も頭が覚醒していくのと反比例するように遠くなっていく。
「夢でも見てたのか……?」
虎太郎はのっそりと上体を起こして辺りを見渡した。
見知った自分の家の居間だ。エアコンが冷たい空気を吐き出し、首を振る扇風機がその空気をかき混ぜている。
窓の外に目をやると、太陽の位置は高く空も青い。
ガラスの向こうから蝉の鳴き声も聞こえた。ヒグラシの声だった。
まだ暑い。まだ八月。だけど。
虎太郎は部屋の壁に貼ってある日めくりカレンダーを見やった。
今朝まとめて捲ったカレンダーにはでかでかと夏休み最後の日付が書かれていた。
八月三十一日。
「今日で終わりか……」
虎太郎にとって小学生最後の夏休みの一日だった。
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