猫々サマータイムマシン 24(終)
九月一日。
「
「本当、私も思った」
「そうか?」
昇降口、虎太郎と
虎太郎たちの他にも周りには下校する生徒がたくさん居る。今回は虎太郎も宿題をキチンと提出したので職員室に呼び出されなかったのだ。
「自転車で旅したんだっけ?」
莉子が聞く。
「ああ、楽しかったぜ、自転車一人旅。いろんな経験出来たし」
「まさか本当に行くとはね」
智孝がどこか含みのあるように言った。
「何? もしかして二人で計画してたの?」
虎太郎と智考は一度顔を見合わせて、「ん、まあ」なんて、曖昧に返事をする。
それから虎太郎が改めて、
「せっかくの夏休みじゃん、勉強以外にもなんか出来たらって思ってたからさ」
今度は智孝と莉子が顔を見合わせた。
「なんか虎太郎が成長してる」
二人の声に虎太郎は眉根を寄せる。
「何だよそれ。それより二人はどうなんだよ」
「え、俺達は、ま、まあな」
「う、うん、まあね」
「え、何? 俺はちゃんと勉強してるか聞きたかったんだけど」
「あ、してるしてる、勉強してる」
「うん、勉強してます」
虎太郎は溜息を吐いた。
「しっかりしろよなあ。全く」
あの祭りのあと、虎太郎は智孝から、莉子と付き合うことになったと報告を受けた。正直それを聞いたその時はまだ辛い気持ちもあった。だけどその気持ちは夏の時間を重ねる度に、季節が変わっていくように、緩やかに確実に薄れていった。
靴を履き替えている時、虎太郎は校内に見知った姿を見つけた。
「
虎太郎の大きな声に獅子丸先生は笑って返事をする。
「おう! さよなら! 元気でいいな!」
そんなやり取りを見て莉子が不思議そうな表情を浮かべて聞く。
「知ってる先生?」
「まあ、ちょっとね」
それから三人は外に出て帰路に就いた。
近くの木で蝉が夏を惜しむように鳴いている。
「まだ夏休みみたいだね」
「そうだね」
二人の会話に何だか懐かしさを覚えながらも虎太郎は頷かなかった。
「なあ、今日お前ら図書館行くの?」
「うん、そのつもり」
「虎太郎も行く?」
「あー、そうだな行こっかな」
そんな会話をしながら歩く途中、虎太郎はふと振り返った。
遠く青空に小さな入道雲が浮かんでいる。その雲は、風向きの影響かどこか遠ざかっているように見えた。
青空の中その雲に向かって自転車で駆けていく自分が見えた気がした。
「虎太郎?」
「あ、ごめんごめん」
いつの間にか止めていた足を前に向けまた歩き出す。鞄に付けた二人とお揃いの猫の人形が小さく揺れた。
虎太郎が二階の自室で寝転んでいると外が強く光った。
「あー、また博士がなんかやったな」
やれやれと思いながら体を起こし部屋を出ようとした時、窓を叩く音が聞こえた。振り返るとそこに博士が居た。
「は?」
窓の外に足場はない。
異常な事態に気が付き慌てて駆け寄り窓を開ける。
「博士!? な、何だよこれ」
おかしな眼鏡をかけた博士が空飛ぶ自転車に乗っている。しかも何故か焦った様子で迫って来る。
「虎太郎、すぐに未来に行くわよ! 大変なのよ!」
「は? 未来? え? 大変? お、俺が何かやったってこと?」
「違うわ、あなたじゃない、あなたの孫が大変なの!」
「ま、まごー!?」
「さあ早く乗りなさい!」
「え、でも、乗るってどこに?」
銀色に輝く空飛ぶ自転車は一人乗りだ。
「ああ、ごめんなさい」
そう言うと博士は何やら空中に浮かぶディスプレイを操作した。すると自転車がみるみる変形してあっという間にタンデム自転車になった。
「うわすげえ……」
「後ろに乗って!」
「え、あ、ああ」
窓から恐る恐る自転車に移る。やっぱり浮かんでいる。
虎太郎が自転車にまたがると博士が叫んだ。
「さあ思いっきり漕いで!」
「はあ!? やっぱり漕ぐの!? 技術のバランスおかしくない!?」
「何言ってるの! タイムトラベルなめんじゃないわよ!」
「なめてないけどさ……」
「さあ漕ぎなさい!」
「もー、分かったよー」
そして二人は自転車を漕ぎだし、やがて空高く絶叫がこだまする頃、二人は未来に旅立ったのだった。
おわり
【短編集】鳥獣人物戯画 てつひろ @nagatetsu
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