第6話 サファイア分が足りないんだよ!

「サファイアお待たせー、寂しかった?」


 サファイアの待つ部屋へ入ると、何時もの如くベッドに腰掛けていた彼女に間髪入れず抱き付く。


「お帰りルビー。私は平気、情報は?」


 サファイアの頬をプニプニ突くアタシに極めて冷静な返事を返すサファイア。

 

 でも気が付いてる?

 そんなクールビューティーなアナタだけども、ほんの少しだけ表情が変わっている事を。


 嬉しそうな、それでいてホッとした様な表情を浮かべている事を。


「そうね......情報は有ったわ。明日確かめに行きましょう」


「了解。ルビー」


「だから今は!」


 サファイアに抱き付いたままベッドに倒れ込む。

 左手で小さな身体をしっかり抱きしめ右手はサファイアの後頭部へ回し顔を自分の胸に押し付ける。

 アタシの胸はこう言ってはなんだがそこそこ大きい。

 なのでサファイアの顔は半ば胸に埋もれてしまい、瞳だけが何事かとアタシの顔を見つめている。


「んふふ〜サファイア分が満たされていくわ〜」


「.............」


 胸の中でサファイアがモゴモゴ何か言っているので少し手の力を緩めてみる。


 顔を上げプハッと息をする仕草をするが、アンドロイドのサファイアは本来呼吸を必要としない。


 人を真似た仕草、という奴ね。


「ルビー。急にどうしたの?」


 やや困惑顔のサファイア。

 ちょっとスキンシップが激し過ぎたかな?


「ゴメンねサファイア。チョットサファイア分が不足してたの」


 アタシの答えに更に困惑の表情を強めるサファイア。


「さっきから言っている意味が解らない。

 『サファイア分』と呼ばれる成分は私のデータベースに存在しない」


「ん〜、ようは暫くサファイアとこうする事が出来なくて寂しかったって事よ」


 砂漠を移動する間、昼間はウマの上、夜は見張を立て交代で眠る為、イチャつく暇が無かった。

 つまり丸2日分のサファイア欠乏症なのだ。


「説明されてもやはり意味が解らない。

 ......けど、ルビーが寂しかったと言うのは解った」


 そう言うと今度はサファイアから抱き付いて来る。


「こうしていればその『サファイア分』が補充出来るの?」


「ええ、どんどん満たされて行くわ」


 アタシは両手でサファイアの頭を抱き抱え、ツムジに頬擦りをしながら答える。


「このまま寝るならいつもの格好になる事を提案する。『サファイア分』もその方が効率良く補充出来る」


「また一緒に寝るつもり?」


「ルビーがうなされた時添い寝をすると落ち着く事が解った。だったら最初から一緒に寝た方が無駄が無く効率的」


 真面目な表情で言われてしまっては断る事も出来ない。

 一度一緒に寝てしまってはいるから二度も三度も同じ......かな?


          ✳︎


「あれがブツを運んで来たキャラバンね」


 小高くなった砂丘の上で砂に身体半分埋め偽装用のシートを被ったアタシとサファイアは双眼鏡で目標を偵察中で有る。


 六頭立ての大型装甲馬車が1台と二頭立ての幌馬車が1台。

 現在はキャンプを張り動く気配は見られない。

 

 取引の期日まで後2日。

 それまで本当にここで待つつもり?


「数は7。武装3、非武装の民間運送会社の人間が4」


「情報通りね。高いお酒奢った甲斐が有ったわ」


 護衛の中には昨日会ったホークの姿も確認出来る。

 他の護衛二人に何か指示を出しているみたい。


 ホーク以外の護衛は......

 やたら銃身の長いレバーアクションライフルを背負った長身の女が1人。


 大型装甲荷馬車の上に櫓を建て中で手回し式のガトリングガンを構えている大柄な男が1人。


 うーん、こりゃ厄介だね〜ホーク以外も結構手強そう。

 癪だけど余裕そうな態度の理由が良〜く解ったわ。


 何にしろ今は迂闊には近寄れ無い。

 一度戻って作戦を考える事にしよう。

 

「サファイア戻りましょう。そっとね」


 小声で話すアタシに首だけ縦に振り肯定の意を表すサファイア。


 砂丘の反対側まで這って降りると、大きく迂回しジョーダンシティーまで戻り、ついでとばかりにスリーパー教団の本部まで足を伸ばしてみた。


          ✳︎


 部屋に戻るとサファイアと向き合い作戦会議。


 完全武装の要塞じみたキャラバンに襲撃を掛ける訳にも行かず。どうしたものかと頭を悩ませているとサファイアが口を開いた。


「キャラバンへの襲撃はリスクが高い。教団への潜入を提案する」


「それも考えたけどそう簡単には潜りこめそうに無いのよね」


 教団の警備も厳重。

 高い塀で周囲を囲い、入り口には常時見張りが立つ。まるで要塞か刑務所のような有様だった。

 教団の用心棒として潜り込めないかとも思ったけど、残念ながら今人手は足りていると門前払いを食った。


「用心棒としてでは無く入信者として潜入すれば良い」


「さっきので面が破れちゃってるから無理ね」


「では、私がやる」


 確かにサファイアは離れた場所で待機させていたので顔は見られていないが……


「ダメ! 危険すぎる。サファイアをそんな危ない目に合わせられない」


「他に手は無い」


 そうキッパリ言い切るサファイア。

 

 確かに、他に良い案は思い浮かばない。でも、でも!


「やっぱり危険よ。サファイアにもしもの事が有ったらアタシ……」


「大丈夫、上手くやれる。私を信じて、ルビー」


 真剣な顔付きでアタシを見つめるサファイアの瞳には一切迷いが無い。


「解ったわ。サファイア、力を借りるね」


「了解。ルビー」


 じゃあ……と言って立ち上がるサファイア。


「買い物に付き合って。後ルビー」


「何?」


「今いくら持ってる?」

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