第15話 アタシはデートをしたかっただけ何だけどね……

 さて、サファイアとのラブラブデートに街へ繰り出した私達だったけど、どうしてこうなるかね〜


 今アタシは、いかにも街のチンピラで御座います、って連中に取り囲まれて居る。


 チンピラ達は、キナガシガウンを纏い、手にはシラキドスを抜身でチラつかせている。


 そしてアタシの背後には、サファイアともう一人、煌びやかなキモノドレスに身を包んだ、美しいオイランガールが。


 チンピラの数は五人。

 うん、弾は足りるね。


「痛い目に会いたくなきゃ、その女をこっちに渡しな!」


 チンピラの一人がアタシに向かって吠えるが、その程度の脅しは通用しない。


「ハッ! か弱い女性一人に大の大人が寄ってたかって、これだから男って奴は!」


「んだとコラ! テメーには関係ねーだろーが! すっこんでろ!」


 やれやれ、面倒な事に首を突っ込んじまったね……


 でも、目の前で無理矢理連れて行かれそうになって居るのを、見ないフリは出来ない。


 それが、見目麗しい女性なら尚更ね。


「アタシに勝ったら好きにしな。

 そうじゃ無きゃ彼女に指一本触れさせないよ!」


 アタシは腰のシックススターを見せ付ける様にコートをめくる。


 こっちは銃を持ってるんだ、余程の馬鹿で無い限り、そんな刃物だけで襲い掛かって……


「面倒だ! やっちまえ!」


 うわ! コイツら本気?

 本気の馬鹿?


 仕方ない、あんまり騒ぎは起こしたく無かったけど、やるってなら容赦はしないよ!


 アタシが男共を迎え撃つ為、シックススターを抜こうとした時、チンピラの一人が突然倒れる。


 あん? アタシはまだ撃っていないよ?


「誰だ! この女の仲間か!」


 まさかパール? そんな訳ないか。


 チンピラ共が一斉に後ろを振り向くと、そこに立っていたのは、サムライソードを抜身で構えた黒髪の女性。


 キナガシガウンにハカマスカートを履き、ハオリジャケットを身に付け、腰には黒い鞘のサムライソード大小を携えている。


 街明かりに照らし出されたその顔は、切れ長の目に冷たい炎を宿し、端正な顔には侮蔑の表情を浮かべ、男共を睨み付けていた。


「クソ! どっちもやっちまえ!」


 コイツら本気で、状況判断出来ない奴らだね。


 人数が多いとは言え、前後を挟まれた状態でも、まだ勝ち目が有ると思ってる。


 それとも何か、引くに引けない理由が?


 シラキドスを腰だめに構え、突っ込んでくるチンピラ二人。


 アタシは一瞬で二度発砲し、瞬く間に二本のシラキドスを弾き飛ばす。


 チンピラ二人組は何が起きたかも解らず、痺れた腕を庇い、その場に蹲った。


 例のケンカクガールの方も、瞬時にチンピラ二人を昏倒させたらしく、既に勝負は終わっていた。


 やれやれ、威勢は良いが、口程にも無い。


「まだやるかい?」


 アタシは目の前で蹲っているチンピラの頭に、シックススターの銃口を向け一応聞いてみる。


 意思確認は大事だからね。


「クソ! 覚えてやがれ!」


 二人のチンピラは、気を失っている仲間を引きずるようにしながら、お決まりのセリフを吐いて逃げて行く。


 チンッと言う音に気が付き、そちらを見ると、サムライソードを鞘に戻したケンカクガールが立ち去ろうとする所だった。


「アンタ、助かったよ。

 アタシはルビー、アンタは?」


 ケンカクガールは顔半分だけ振り返り、その拍子に首の後ろで束ねた長い黒髪が揺れる。


 そして、


「ツバキ」


 と、一言だけ発すると、雑踏の中に消えていった。


 やだ、何アレカッコいい。

 

 危なく惚れちゃう所だったわ。


 っと、いけない。


「サファイア、怪我は無い? えーと、そちらのお嬢さんも」


「私は平気」


「はい、危ない所を助けて頂き有難う御座いました」


 そう言って、深々と頭を下げるオイランガール。


「良かった、アタシはルビー。

 アナタは?」


わたくしは、カエデと申します」


 と、顔を上げながら答えるカエデ。


 う〜ん? この子、商売女……よね?


 何だろう、何と無く違和感を感じる。


 何が、とは上手く言えないけど……


 今まで多くの子猫ちゃんを相手にして来た、アタシの第六感がそう告げている。


 それに、オシロイファンデーションのせいで解り辛いけど、歳も若く見える。


 綺麗と言うより、可愛らしい顔つき。


 何より、この子からは男の臭いがしない。


 こんな子がオイランガール?


「兎に角落ち着ける所に移動しましょう」


          ✳︎


「で? 宿に連れ込んだと」


 何だかご機嫌斜めのパールは、タタミカーペットにドッカとあぐらをかき、アタシの話を聞いてそんな事を言って来た。


「やーね、パール。

 連れ込んだなんて人聞き悪い」


「全く君と言う人は。厄介ごとを持ち込まないと気が済まないのかね!」


 そんなやり取りを聞いていたカエデが、スッと前に出たかと思うと。

 その場で正座し、背筋を伸ばした綺麗な姿勢のまま、両手を前に付き、額がタタミカーペットに付く程頭を下げる。


「パール様、この度は大変ご迷惑をお掛け致しました。

 ルビー様とサファイア様には危ない所を助けて頂き、大変感謝致しております。

 このような事になったのも全ては私の責任。

 平にご容赦を」


「ぐっ……」


 おお、パールを黙らせた。やるわね〜


 ガリガリと頭を掻き伐の悪そうな顔のパール。


 カエデの殊勝な態度に、すっかり毒気を抜かれてしまった様子。


「まあ良い。起きてしまった事を、とやかく言っても始まらない。

 詳しい話を聞こうじゃないか。

 カエデ君を襲った連中は何者で、君は何故襲われていたんだい?」


「私を襲って来た方々は、このデジマシティーを牛耳るヤクザファミリー、トウドウコーポレーションの人達でしょう」


 成る程、地元のギャングか。

 ただのチンピラって訳じゃ無かったのね。

 それにしては大した事無かったけど。


「ふむ。で、君が襲われた理由は?」


 パールの言葉にカエデは言い淀む。


「命を助けて頂いた方々に、この様な事を言うのは心苦しいのですが、故あって明かす事が出来ません。

 申し訳ありません」


 そう言って再び頭を下げるカエデ。


「ふむ。つまり、襲われた理由に見当は付いている。と、言う事だね?

 率直に聞こう。君はオイランガールでは無いね?」


「それについても、お答え出来ないとしか……」


 やっぱりね。

 そして、それはもう、言ってるも同じね。


「ふむ。理由も身元も明かせない……か。

 それではこちらも、力になりようが無い」


「はい……いずれにせよ、これ以上皆様にご迷惑をお掛けする訳には行きません。

 私はお店に帰ります」


 そう言って立ち上がったカエデは、部屋の出口へ向かう。


「待って! アタシは力になるよ。

 乗り掛かった船だしね!」


 それを聞いたパールがアタシに食ってかかって来た。


「君は今の話を聞いていなかったのかね?

 理由も身分も明かせない相手に、どうやって力になるつもりだい!」


「うーん、取り敢えず今日みたいに襲われた時助ける? ボディーガード? みたいな?」


 アタシの言葉を聞いてパールは頭を抱え込んでしまった。


「お人好しにも程が有るだろう!

 第一、僕達には、ネオジパングへ入ると言う目的が有るんだ。

 こんな所で油を売っている余裕は無い筈だ!」


「そうは言うけどパール。待ち合わせているキャラバンは、まだ到着していないし、その間はただ待っているだけ。

 それに、彼らが到着するまでの短い間だけよ」


 アタシがわざと軽薄な感じでそう言うと、


「何だその無責任な物言いは!

 面倒見るなら最後まで見たまえ!」


「うん、そうする」


 そこでパールはハッと気付く。


 そう、アタシに、まんまと乗せられた事に。


「……謀ったね?」


 悔しそうな表情でアタシを睨め付けるパール。


「ごめんね。でもパールは、議論になると熱くなりすぎるのよ。気を付けた方が良いわ」


 はーっと大きく溜息を付いたパールは、もう諦めたと言わんばかりの表情。


「まさか君に言いくるめられる日が来るとは思っても見なかったよ。

 で? どうやって彼女を守るんだい?

 四六時中一緒に居るわけには行かないだろう?」


 そうね〜じゃあこう言うのはどうかしら!

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