第14話 デートの約束をアタシが忘れるとでも?

「成る程、つまり僕が入っていたカプセルの出所が解れば、サファイア君を直す手掛かりが掴めるかも。と、言う事だね?」


「あくまで可能性の話しだけどね。

 他に当ても無いし、取り敢えずその線で、ってね」


 教団本部から戻ったアタシ達は、宿の部屋で今後に付いて話し合いの真っ最中。


 方針は決まったけど、手掛かりらしい手掛かりは……


 まあ、実は当てがなくもない。

 と、言うより当てがそろそろやって来るんじゃ無いかな? 


 そんな訳で、部屋を出て今度は酒場で暫し待機。


 しては見たものの、そんなに都合良く現れる訳……


 うわ〜本当に現れたよ。

 謎の情報屋ペストマスクが……


 これはもう、つけられてるどころか見張られてるね。


「おお! どうやら無事やり遂げたようですね。

 貴方ならやれると信じていました」


 フッフーと、やや興奮気味に息を漏らし、アタシらの席にノコノコやって来るペストマスク。


 そして、パールの姿を認め、


「どうです? 価値有るモノが手に入ったでしょう?」


「ああ、そうだね……」


 アタシは素早くシックススターを抜くと、ペストマスクの額に銃口を押し付ける。


「危うく大切なものを失いかけたけどね。

 さあ、命が惜しかったら、あのカプセルの出所を教えな!」


 凄みを利かせて問いただすが、ペストマスクは全く意に介さず、


「私は情報屋です。ただで情報は渡せません」


 と、言ってのける。


 アタシは親指でハンマーをカチリと起こし、


「情報料はあんたの命だよ。こちとら切羽詰ってるんだ、今トリガーに掛けてる指は、鳥の羽より軽いよ!」


「……」


 この! いつもはペラペラ喋るくせに、今日に限ってダンマリかい!


「待ちたまえ、ルビー君」


 危うく本当に撃ちそうになった所を、今まで成り行きを見守っていた、パールが待ったを掛ける。


「僕に話をさせてくれ。

 情報屋君。君はあのカプセルに、僕が入っている事を知っていた。

 君は何か目的が有って、わざわざルビー君とサファイア君を使い、僕を助け出させた。

 君は僕に、何かをさせたい。

 そんな所だろ?」


 ペストマスクは、パールの言葉に満足したのか、フーっと大きく息を吐き出し、


「やはり貴方を助けたのは、間違いでは無かったようですね……良いでしょう、お教えします。

 ここから遥か東に有る、とあるオリジナルシティー。

 そこがカプセルの出所です」


「その街の名は?」


「その街の名は……

 ネオジパング……」


            ✳︎


 ペストマスクの言うネオジパングとやらは、兎に角遠かった。


 駅馬車を乗り継ぎ、ウマを乗り潰し、時には自分の足で砂漠を横断した。


 そんな旅を一ヶ月以上続け、やっと辿り着いたんだけど……


 -ネオジパング-


 周囲を円形の壁で囲み、半円球の屋根まで付いた、ドーム型完全密閉都市。


 外界から隔絶された、謎多きオリジナルシティー。

 それがネオジパングである。


 ネオジパングは異文化流入を嫌い、独自性の強い文化を構築して来た。


 独自文化を守る為『サコクマネージメント』と言う異文化流入防止政策をとっている。


 その為、基本的に外界へ門を開く事は殆ど無い。

 入る事を許されているのは、一部の選ばれた商人キャラバンのみ。


 都市の出入り口には『セキショゲート』と呼ばれる検問設備が備わり、そこには『サムライファイター』と呼ばれる、銃を使わず人を殺せる凄腕の門番が常駐しているとの事。


 その『セキショゲート』を通る為には『テガタパス』と言う、通行証が必要になる。


 そして『テガタパス』を持つ事を許されるのが、街の最高権力者『ミカドルーラー』によって認められた商人だけ、と言う訳である。


 さて、辿り着いたは良いけど、どうやって入ろうか?


 実は既に手は打ってある。


 旅の途中、ごたごたに巻き込まれて立ち往生していた商人キャラバン。


 それをアタシ達が助けたんだけど、何と都合の良い事に、彼らこそ『テガタパス』を持つ選ばれし商人キャラバンだったって訳。


 で、事情を話したら、命を助けて貰ったお礼にと、中に入る手引きをしてくれるって話に。


 今はネオジパングから僅か半日の距離に有る、ネオジパング管轄の外交都市『デジマシティー』で待ち合わせ中なのさ!


 それにしても……


「随分賑やかな所よね〜」


『シュクバタウン』と呼ばれる、まあ早い話、宿が建ち並ぶ一角に部屋を借りて、滞在して居る訳だけど……


 メインストリートには色取り取りの『チョーチンランプ』が下げられ、道の両サイドには、小さな露店が建ち並び、様々な見たことも無い食べ物やアクセサリーを売っている。


『シュクバタウン』に併設された『ユウカクスポット』と呼ばれる、まあ所謂、性的なサービスを提供する場所では、華やかな『キモノドレス』で着飾った『オイランガール』が道行く客に色目を送っている。


 うん。買わないけど行ってみたい。


「ルビー。何を見ているの?」


 宿の窓からぼんやり『ユウカクスポット』を眺めていたアタシに、サファイアが声を掛けて来た。


「な、何でも無いわ! そうだ! 折角だし出歩いて見る?」


 ほんの少しだけ後ろめたい気持ちのアタシは、慌てて取り繕う。


「僕は遠慮しておくよ。君達が居ない間に待ち合わせの人物が来ても困るし。

 何より、人混みは苦手なんだ」


「そう? じゃあサファイア行きましょう!

 デートの約束、してたものね」


 アタシの言葉に驚いた表情を返して来るサファイア。


「どうしたの? そんな顔して」


「忘れてると思ってた……」


 小さな声でそう呟く。


 ジョーダンシティーを出てからは、ここにたどり着くのに必死で余裕が無かっただけ。

 決して忘れていた訳じゃ無い。


 でも、いくらサファイアのためとは言え、寂しい思いをさせたかも……


「アタシがサファイアとの約束、忘れる訳無いでしょ?」


 ギュッとサファイアを抱きしめ、耳元で囁く。


「ルビー。嬉しい、有難う」


 んっ、んっ!


「そう言う事は僕の居ない所でやってくれ。毎度の事ながら目のやり場に困る」


 咳払いの後、そんな事を言ってくるパール。


 ちょっと顔が赤いわよ?


「あら、パール。アナタもして欲しい?」


 アタシが両手を広げたハグの体勢でパールに、にじり寄ると、


「きっ、君は僕の話しを聞いて居なかったのかな! そりゃあ、君のハグは凄く安心するし、される事自体は、やぶさかでは無いけど、時と場所を選びたまえ!」


 そう、真っ赤になって叫ぶパール。


 あらやだ、可愛い反応ね。

 でもハグなんて挨拶みたいな物よ?


 ちょっと面白くなって来たアタシは、手をワキワキさせながら更に距離を詰めて見せると、パールは観念したのか目をギュッと瞑り身を硬らせる。


「ルビー……」


 サファイアに服の裾を摘まれ止められたアタシは、ハッ! と正気に戻った。


 うん、悪ノリし過ぎたね。


「ごめんね、パール。無理強いは駄目よね」


 はーっと大きく息を吐き出すパールは、ホッとしたような、少し落胆したような、微妙な表情。


 やっぱり、して欲しかったのかな?


「行くならさっさと行って来なさい。

 僕が留守番してるから」


「解ったわ。じゃあ留守番お願いね。

 行きましょう、サファイア」


「了解。ルビー」


 日の落ちかけた夕暮れ時。

 アタシとサファイアは、待望のデートに出掛けるのであった。

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