第5話 サファイアを救う為、ってのは格好つけ過ぎかい?


「サファイア、乗り心地はどお?」


「悪くない」


 アタシ達はウマの背にタンデムで跨がり砂漠の中を移動中で有る。

 

 この星でウマと呼ばれる原住生物は二つの頭を持ち、全身に鳥の羽みたいな体毛を生やしている。

 本来、馬と呼ばれる生物とは似ても似つかないらしけど、ここで生まれ育ったアタシ達にとってはこれがウマだ。


 アタシは結局今回も情報屋の話にのってやる事にした。

 

 今回のターゲットは『スリーパー教団』を名乗る怪しい宗教団体。

 

 噂程度で聞いた話だと、スリーパー教団の教えは「人類は故郷の星アースへ帰るべき。祖先がそうした様に冷凍睡眠で眠りにつけばやがてアースから迎えが来て連れて行ってくれる」とかなんとか。

 まあ、そんな馬鹿げた教義を掲げてるちょっと頭がアレな集団。

 当然最初は誰にも相手にされなかった訳だけど、最近徐々に勢力を大きくしてるらしい。


 で、教団に入信すると高額なお布施を要求され仕舞いには全財産毟り取られるって寸法。

 そいつらはそうやって集めた金である物を買い漁っている。

 そう、冷凍睡眠カプセルだ。

 

 冷凍睡眠カプセル自体は割と手に入りやすい代物で船の残骸さえ見付ければゴロゴロ出て来る。

 当然本来の機能は失われているけどね。


 ただ、今回はなんと完全な状態のカプセルが見つかったとか。

 近々それの取引が有るので、教団の手に渡らないように横から掻っ攫うってのが今回のお仕事。


 別に好きにさせときゃ良いんじゃ無い?

 とも思ったけど、そうもいかない事情が有るんだってさ。


 でも実はこの話を聞いてアタシは俄然やる気になっていた......


 二日掛けやっと目的の街「ジョーダンシティー」にたどり着いた。


 因みに街の名前はファーストステップス時代に船の船長をやっていた人物の名前が付いている事が多い。

 その人物が中心となって船の資材、と言うか船そのものを解体し街を作り上げたのだそうな。


 そして各地で見つかる遺跡とは、運良く移住可能惑星を見つけたのにも関わらず、運悪く地表まで辿り着けなかった船、所謂墜落船の事を指す。


 サファイアを見つけたのもやっぱり墜落船だけど、母船が落ちる前に脱出に使った緊急用脱出艇だった。これはサファイア自身から聞いたので間違いない。

 まあ小さな船だったから予想はしてたけどね。


 そして船に乗っているアンドロイドは、地上に到着した時点で本来自壊する様に設定されて居るんだって。

 じゃあ何故サファイアが生きていたか?

 多分「船を守れ」と言う命令が自壊を妨げていたのでは? と。

 ではその命令が撤回されてしまった今はどうなるのか? 

 それはサファイア自身にも解らないらしい......


 少なくとも今は「アタシを助ける」と言う新たな命令が上書きされたので直ぐどうこうと言う事は無いだろうと本人は言ってたけど、やっぱり気になる。


 いつ訪れるかも知れない、サファイアの死に怯えながら暮らすなんてなんて真平御免。


 だからアタシの新たな目的はサファイアに仕込まれた自壊命令を完全に取り除く方法を探す事。

 

 そこに来て今回の稼働している冷凍睡眠装置の話は正に渡りに船。

 それが有った場所ならもしかしたら他の設備も生きてるかも。

 サファイアを救う方法が見つかるかも知れない。


 そんな訳で今私のやる気はかつて無いほど上昇中って訳。


 サファイア待ってて、必ずアナタを救う方法を見付けるからね。


          ✳︎


 街に入ると結構な大都市大と解る。

 方々勝手に作った村や小さな町と違い、着陸した船を中心に作り上げたオリジナルシティーなのだから当たり前だけど。


 そしてここジョーダンシティーにはスリーパー教団の本部が存在している。

 教祖の名前はアルジー・モス。

 自らをファーストステップスの生き残りと称する正真正銘の狂人だ。

 もしそれが本当だとすると200歳以上って事になる。まあ普通に考えてあり得ないね。


 先ずは手近な酒場にでも行って情報収集かな? 宿も取らなきゃだし。


 余り人目に付きたくないので大通りは避け裏道に有る場末感漂う宿兼酒場を仮拠点とした。


 薄暗い店内は客もまばらで居ても昼間から混じりもんだらけの安酒をかっくらい半ば意識を失っているような奴しかいない。

 

 でもね、こう言うとこにも、いや、だからこそ居るんだよ。


 歳の頃は40半ば、顎髭を蓄え、鋭い眼光に年季の入ったハット、ガンベルトには50口径5連発の大型拳銃「サンダラー」を御丁寧に2丁ぶら下げている。


 所謂同業者ってやつだね。


 アタシはその男を横目で観察しながら、サファイアは念の為先に部屋へ行かせ、酒場の主人にこの店で一番マシなウィスキーを一瓶とグラス二つを注文し手に取ると、男の座るテーブルへ近づく。


 アタシが近付くと組んでいた腕を解きギロリとその鋭い目で睨みつけて来る。

  

 アタシは敵意が無いことを示す為、作り笑いを浮かべながら瓶とグラスを掲げて見せる。

 

「一杯付き合いなよ」


「......何が目的だ?」


 男は静かに、しかし凄みのある声で呟く。


 おーコワイコワイ。


 アタシはテーブルに二つのグラスを置きそれぞれウィスキーを注ぐと、片方を男に手渡す。


「座っても?」


 聴くと男は顎をしゃくり無言で席を指す。


「アタシはルビー、しがない賞金稼ぎさ。

 あんたは?」


「......ホーク。アイアンホークと呼ばれている」


「ああ......あんたがあの有名な」


 アイアンホークの名前は聞いた事が有る。

 頭と胸に鉄板を埋め込んで有るって噂の賞金稼ぎ。不死身の男とかも呼ばれてたっけ。


「じゃあホークさん。乾杯しましょ」


「さんは要らん」


 グラスを掲げて見せるとホークはぶっきらぼうに言い捨て、グラスを呷る。


 あらあらつれないこって。


 アタシも一息でグラスを空け、再びお互いのグラスに琥珀色の液体を満たす。


「で? 何が目的だ?」


 ホークが最初と同じ言葉を口にする。


「同業者とお近付きに......」

「本心は?」


「仕事探し。この街は着いたばかりでね。

 何か良い儲け話が有れば教えて欲しいと思ってね」


「生憎だったな。俺もここには来たばかりで街の事は知らん」


 ホークはグイッとグラスを傾け空になったグラスをテーブルに置く。


「旅の途中?」


 グラスにウィスキーを注ぎながら話を促す。


「いや、荷馬車の護衛をして来た。

 予定より早く着いたのでここで待機中だ」


 へぇ〜護衛ね。ホークはそれなりに名の通った賞金稼ぎ。

 なら依頼料もそこそこ良い値段なはず。

 って事は余程大事な物を運んで来たって事になるね......


「荷物を運び終えたなら仕事は終わりじゃ無いのかい?」


「相手に荷物が渡るまで護衛するのが俺の仕事だ」


 言いながらも次々にグラスを空けるホーク。

 空くたび注いでいると瓶の底が見えて来る。

 

「じゃあサッサと渡しちまえば良いだろうに」


「そうもいかん。向こうさんにも色々有る様でな。約束の日まで会えんそうだ」

 

 ホークはやや面倒臭そうに言うとグラスを空にしこちらに突き出して来る。


「他に聞きたい事は?」


「約束の日と荷物の場所は? なーんて......」

「3日後、荷馬車は街の外で待機している」


 最後の一滴までグラスに注ぎながら冗談めかして聞いて見るとまさかの答えが返って来た。


「......聞いたアタシが言うのもなんだけど、良いのかい? そんな事喋っちまって」


「構わん、俺が本当の事を言っている保証は何処にも無い、それに......」


 ホークは腰の銃に触れながら......


「腕には自信が有る」


 そんな事を口にしながら不敵な笑みをもらす。


 来るなら来いってかい? 面白い。


「さて俺は部屋に戻らせて貰う」


 最後の一杯を呑み干したホークはそう言い席を立つ。


「へー、アタシも部屋に誘われると思ってたよ。アタシは好みじゃ無いかい? それとも......女嫌いかい?」


「まさかな。あんたは魅力的だし性的指向は女だが、子連れの女に手を出す趣味は無い」


 そう言って客室への階段を登るホーク。


「さっさと部屋に戻ってやれ。寂しがっているに違いない」


「あんたは荷物の所に戻らなくて良いのかい?」


 後を追う様に階段の下へ移動し聞いてみる。


「護衛は俺だけじゃ無いんでな」


 そう言い残しホークは一番手前の部屋に入って行った。

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