第4話 アタシの過去なんて面白いもんじゃ無いよ

 さて、現在の状況を説明しようか。

 昨日の夜は別々のベッドで眠りに着いたはずなのに朝起きたらサファイアが直ぐ隣でスヤスヤと寝息を立てていた。

 

 アンドロイドでも息って吐くんだよね。

 吐き出しているのは酸素だって言ってたけど。


 いや、今言いたいのはそう言う事じゃ無くて、何で一緒のベッドに寝てるの?

 しかもアタシの腕にしがみ付いて!

 

 後ね、アタシってば寝る時は裸な訳よ。

 そうじゃ無いと寝れないから、昔からのただの習慣。


 でね? サファイアも真似して裸で寝るようになっちゃったのね。

 お互いやましい気持ちは全然無いのよ?


 つまり今の状況は、二人とも素っ裸でピッタリくっ付いて一つのベッドに寝てるって事。


 アタシ知ってるよ? 一晩限りの恋人とは良くこうして朝を迎えたから。

 これはどう見ても事後の光景でしょ?


 それにしてもサファイアってば、やわこくて暖かい。

 そのおかげか何時もより良く寝れた気がするし?


 サラサラで指通りが良く何時迄も撫でていたくなる髪の毛とか、長いまつ毛とか、完璧な美少女。


 正直このシチュエーション、アタシとしては悪い気はしない、寧ろ嬉しいんだけどさ......


 何も出来ないのが辛い!

 これじゃ生殺しじゃーん!


 そりゃね、サファイアならアタシの要望に応えてくれそうだけど、それって何か違うと思うのね。


 少なくとも今は恋人同士では無いし、お金で買う割り切った関係でも無い。

 だから手を出しちゃダメ。

 これは自分で決めたルール。


 何時迄もこうしてる訳にも行かない、よね?

 良し、起こそう。この子の寝顔を見てるだけでアタシも幸せな気持ちになれるんだけど、心を鬼にして起こそう!


「サファイア、朝よ。起きなさい」


 努めて優しく声を掛ける。

 なんで微妙に緊張してるんだ? アタシ......


「ん......」


 パチリと目が開きアタシを見つめる青い瞳。


「お早うルビー。気分は?」


「お早うサファイア。そうね少なくとも心は満たされたわ」


 身体は疼いてるけど。


「で? どうしてアタシのベッドにアナタが寝てるのか説明してもらえるかな?」


「昨晩ルビーがうなされていた。だから添い寝をした」


 ああ、そうか......サファイアのおかげで目覚めは良かったけど、またあの夢を見たのね......


 そう思うとまるで身体が痛みを思い出したかのように右脇腹が疼き出す。

 そこには古い銃創が刻まれていた。


 アタシがまだサファイア位の少女だった頃、両親は小さな農場を営んでいた。

 そこに3人組の強盗が押し入り抵抗した両親はアタシの目の前であっさり撃ち殺され、アタシ自身は散々身体を弄ばれた挙句脇腹に一発撃ち込まれ、火の掛けられた家に放置された。


 その状況でどうやって助かったのかは覚えていない。

 気が付けば少し離れた所から燃え落ちる自分の育った家を眺めてたっけ。


 大体夢に見るのはこの辺まで。

 でもこの話にはちょっとだけ続きが有る。

 

 そのまま気を失って次に目覚めた時には見知らぬ男に保護されていた。

 男は賞金稼ぎだと名乗り、たまたま近くを通りかかった時に見付けたアタシを助けてくれたんだ。


 つまり今アタシが生きてるのはその男のおかげってわけ。

 

 アタシはその男に銃の使い方を習った。

 この世界で生き抜く為、そしていつか叶うかも知れない復讐の為に。


 アタシの身体がでかくなり、その男に恋心にも似た何かが芽生え始めた頃。

 その気持ちを男に打ち明けようと決心したその日、男は家に帰って来なかった。


 それから何日も待ち続けたけど結局男が戻る事は無かった......


 そいつとはそれっきり。生きてるのか死んでるのか、今となっては解らない。


 もう顔も名前も覚えていない。


 そんな何処にでも有るクソッタレな話し。


 アタシが顔をしかめ古傷を抑えていると、サファイアの手がそっとアタシの手に添えられる。


「痛む?」


 不安げな表情を浮かべたサファイアがアタシの顔を覗き込んで来る。

 

 サファイアに自分の過去は話して有る。  

 だから余計に心配なのだろう。


「もう大丈夫よ。ほんのちょっと古傷が疼いただけ」


「私はルビーを助けたい」


 今にも泣きそうな顔で、でも本当に泣く事は出来ないけど。


 そんな言葉を口にする。


 何だか懐かしいセリフ。この子と初めて会った時も時も同じ事を言われたっけ。


「充分助けて貰ってる。有難うサファイア」


 優しく抱きしめ頭を撫でるとサファイアも精一杯抱き返して来る。

 まるで心の痛みを忘れさせようとするかの様に強く、強く......


「もう平気?」


「もう平気。サファイアは?」


「もう平気」


 名残惜しいけどサファイアに絡めた腕を解いてそっと肩を押す。


「朝ごはん、食べよっか」


「了解。ルビー」


          ✳︎


 サルーンで食後のコーヒーをチビチビ飲みながらサファイアと一緒に手配書の束をめくり次のターゲットを物色していると、店の入り口に何時ぞやの怪しい情報屋の姿が。


 アタシ付けられてんの?


 情報屋はアタシの姿を確認すると、足音もたてず近付き勝手に同じテーブルへ着く。


 アタシは右手をテーブルの下に下ろし何時でも銃を抜ける体勢をとる。


「また会いましたね〜例の情報は役に立ちましたか?」


 くぐもった声で馴れ馴れしく話しかけて来る情報屋はサファイアの姿を一瞥し、ウンウンと頷く。


 こいつまさかサファイアの正体に気が付いてる?


「新鮮な情報を仕入れて来ました。いかがです?」


「お生憎、今は金欠で情報を買う余裕何か無いわ。他をあたって」


 アタシがそう言うと情報屋はフッフーと息を吐いたのか笑ったのかどちらとも付かない不快な音をマスクから漏らす。


「今回は無料キャンペーン中につきお代はいりません」


 はあ? 情報屋がタダで情報を?

 その時点で怪しさ満点じゃない。怪しいのは格好だけにしときなさいよ。


「聞くだけ聞いたげるわ」


 アタシがそう言うと情報屋は右手でアタシを静止する様なポーズをとり、話を切り出す。


「ただし条件が有ります。この話を聞いたら必ず最後までやり遂げて下さい」


「へ〜どうやら、ただ程高い物は無いって類いの話しみたいね」


 私の問いかけにまたもや不快な音を漏らす。


「な〜に悪い話しじゃ有りません。短的に言うと人助けです。勿論、無事仕事をやり遂げればそれなりに価値あるモノが手に入ります」


「人助け?」


「はい。どうします? 続けますか?」

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