第3話 ガンアクションと言ったな、あれは嘘だ
「ほれ、賞金$200だ」
ちょび髭を生やした保安官が机に上に紙幣の束を無造作に放り投げる。
「はあ! 賞金は500でしょ! どこに目ん玉つけてんのよ!」
納得のいかないアタシは持っていた手配書を机に叩き付け賞金額を指差しながら食って掛かる。
「そりゃ生きたまま連れて来るか、死体丸ごと持って来た場合だ。
それなのに顔の半分と右腕だけってお前......」
「た、確かにそうだけど仕方無いじゃない!
あいつらアホみたいに抵抗してくるんだもん! だからカッとなってダイナマイトで吹っ飛ばしてやったの!」
あいつらチンケな強盗団だと舐めて掛かってたら事もあろうにガトリングガンまで持ち出して来やがったのよ?
そりゃダイナマイトの1つも投げ込みたくなるでしょ!
「だもん! じゃねーよ。
大体やり過ぎなんだよ! 町の中心まで爆発音が響いたぞ。
とにかくそれっぽっちじゃこれ以上出せん。嫌なら死体を全部掻き集めて持って来るか、顔と腕持って帰りな」
クソ! そのちょび髭毟り取って口に詰め込んでやろうかしら!
「解ったわよ! このケチヤロウ!」
捨て台詞を吐き、それでも賞金はキッチリ引ったくってサッサと保安官事務所を出る。
あ〜腹が立つ。
そりゃやり過ぎた気はほんのちょっとだけするけど、仕方無いじゃない。
鉱山跡地で発破用のダイナマイト置きっぱ何て知らなかったし。
吹っ飛んだ賞金首探すのだって大変だったんだからね!
外に出ると階段に腰掛け足をブラブラさせるサファイアが私の事を手持ちぶたさに待っていた。
「サファイア行きましょう」
そう声を掛けると階段から立ち上がりこちらを振り返る。
振り返った拍子に、サイズが合っていない少し大き目のハットがズリ落ち目元を隠すが、それを何食わぬ顔で直しながら足早に近付いて来る。
今着ている服は古着屋で揃えたけど、小さくて細っこいサファイアの体型に合うサイズがなかなか無くて探すのに苦労したっけ。
デニム地のシャツにベージュのズボン。それにウシ革のブーツとオレンジがかったテンガロンハット。
最後にコート代わりのポンチョを着せてみたら可愛いのなんの。
そんなサファイアを見ると荒んだ心が洗い流されて行く。
「お帰りルビー。賞金貰えた?」
「随分足元見られたけどね」
マネークリップで留まった紙幣ヒラヒラさせサファイアに見せる。
「随分パーツが足りなかった。仕方が無いと思う」
「同じ事糞保安官にも言われたわよ。全くこれじゃ赤字だわ」
「贅沢しなければ平気。ルビーは無駄遣いし過ぎ」
真面目な顔でピシャリと言われちゃぐうの音も出ない。
でもね、でもね!
「でも息抜きも必要よ? 特にアタシらみたいに明日をも知れない人種にとってはね〜」
冗談めかして言ってみたけどサファイアはお気に召さなかった様子。
「部屋で一人、ルビーを待つのは寂しい。
後死ぬとか言って欲しくない」
そう言うと伏し目がちにして唇を尖らせる。
そんな表情も出来るようになったか〜
随分成長したね、お姉さん嬉しい!
出会った頃は感情を表に出す事何て無かったもんね。
色々教えた甲斐が有ったってもんよ。
「ゴメンゴメン、もう言わない。
後なるべく早く部屋へ戻るようにするから、機嫌治して」
ハットをヒョイと取り上げサファイアのサラサラの髪を撫で付ける。
大体いつもはそうしてやると機嫌を治してくれるんだけど今日は違った。
「そんなんじゃ誤魔化されない。行かないと言う選択肢は?」
えぇ〜そんな殺生な〜
一日の終わりは可愛い子猫ちゃんに愛を囁かないと治まらないのよ〜
返答出来ずにしぶ〜い顔をしていると。
「私が一緒に寝る」
「え?」
「私が一緒に寝る。私じゃ駄目?」
くっ! 上目遣いまで覚えたか。そんな表情反則だよ。
でもこの子「寝る」の意味取り違えてるんだろうな〜
「サファイア、気持ちは嬉しいけどちょ〜っと無理かな〜」
「どうして? 外観上私は人間と同じ器官が備わっている。再現度もかなり高い。
きっとルビーを満足させられる」
取り違えて無かったー!
いやそれはそれで問題だけど。
「ちょっとサファイア、そんな事何処で覚えたの?」
「ルビーが見付けてくれるまで沢山時間が有った。その間船のライブラリーから様々なデータを閲覧した。その中にそういう行為の映像データも有った。だから知識では知っている。きっと上手くやれる」
そう自信満々で言い張るサファイア。
う〜ん、気持ちは嬉しいしサファイアは充分可愛いんだけど、やっぱりそう言う目では見れないかな。
どちらかと言うと姉とか母親目線?
でもそこまで言われちゃ仕方無いな〜
「解りました。暫く自重します」
ガックリと肩を落としそう答えると、サファイアは一瞬残念そうな顔をするが直ぐに何時もの仏頂面に戻る。
「もしかして興味有った?」
ちょっとした悪戯心で聞いてみる。
アタシの問いにピクッと肩を震わすサファイア。
「別に......」
それっきり怒った表情でそっぽを向いてしまった。
からかい過ぎたかな? 今日は機嫌を損ねてばかりね、いけない、いけない。
「ほらほら、そんな顔してるとせっかくの可愛い顔が台無しよ! スマイルスマイル!」
「......嫌。
まだ上手く笑えないから。そんな顔ルビーに見せたく無い」
何て可愛い事言うの、この子ったら!
思わず抱きついちゃうよね、仕方が無いよね!
背中から小さな身体をギュッと抱きしめ柔らかくスベスベなほっぺに頬擦りをする。
嫌そう? ううん、満更でもなさそう。
「無理はしなくても良い、けどいつか見せてね」
耳元で囁くように言うと小さな頭でコクンと頷いてくれる。
ムッフー満足した。なんか今日はもう満足した!
「さあ、宿に戻って食事にしましょ!」
「了解。ルビー」
サルーンのスイングドアーを押し開き店内へ入ると、一体いつから呑んでいるのか、すっかり出来上がった酔っ払い共が陽気で下品な歌を大声で合唱し、娼婦は熱心に客を品定めしている何時もの光景が飛び込んで来る。
「部屋に戻ってる」
サファイアは一言そう言うと二階の客室へ行ってしまった。
まあ、あの子食事は食べられないし、こう言う騒がしいのも余り好きじゃ無いみたい。
約束も有るから今日は大人しく食事だけにしておこう。
酒場の主人に食事を頼み部屋で食べると言いパン二切れと豆のスープを注文する。
後は空いた酒瓶に水を満たして貰いそれを持ってサファイアの待つ部屋に向かう。
部屋へ入るとベッドに腰掛け微動だにせず壁の一点を見つめるサファイアが居た。
一人の時はいつもこうしているらしい。
何をしているのか聞いた事が有ったけど、何もしていないと言われた。
ただ無駄なエネルギーを使わないようにしているだけ、と。
ドアの閉まる音に反応してアタシの方をユックリ振り向く。
青いガラス玉の様だった瞳に生気が宿り表情も僅かに柔らかくなって、心なし人間味を帯びる。
「はい、食事。一緒に食べましょう」
サイドテーブルに水の入った瓶と自分の食事を置く。
水から燃料を作り出せるサファイアにとってはこれが食事。
「食べて来なかったの?」
「言ったでしょ? 一緒に食べたかったの」
グラスに水を注いで渡すと両手で受け取りじっとそれを見つめる。
「私は水を補充するだけ。食事では無い」
「いいえ、それは食事よ。それともアタシと一緒に食事をするにはイヤだった?」
アタシが聞くとサファイアは大きくかぶりを振って否定する。
「そんな事無い。ルビーと一緒に食事がしたい。有難うルビー」
「良かった。今度からはなるべくこうするね」
アタシがそう言うと、少し、ほんの少しだけサファイアが笑ったように見えた。
この顔が見られるなら暫く自重しても良いかな?
そう思わされる位にサファイアの笑顔は魅力的だった。
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