最終話 ルビーとシルバリオ(後編)〜エピローグ

「話しは分かった。コイツらの死体は全てこっちで預かる。勿論、規定の賞金も渡そう」


 朝一でパールとリリーが保安官を呼びに行き、今事情を説明し終えた所だ。


 騒ぎを聞き付けた街の住人達も集まり、何かと世話を焼いてくれる。


 聞けば、シルバリオは街の為に雑用をこなしたり、時たま現れる害虫を駆除したりしていたらしい。


 随分慕われて居るじゃないのさ……


 孤児を育てる変わり者と揶揄されては居たけど、シルバリオ、アンタのやってた事は間違っちゃいない。それが証明されたよ。


 保安官が穴だらけの孤児院に目を向ける。


「ここも直さなきゃな、それに彼の墓も作らにゃ……」


「そうだね、畑の隅にでも作ってやっとくれ。何時でも子供達を見守れるように……ね」


「ああ、それが良いだろう。人手が必要なら言ってくれ。出来るだけ力になろう」


「アンタ、保安官にしとくには勿体無いね」


 握手でその場を立ち去った保安官を見送り、孤児院の中に入ると、子供達が部屋の片付けをしていた。


 皆、悲しみを紛らわすかの様に、黙々と手を動かしている。


 一緒に片付けをしていたサファイアを呼び、奥の部屋へ。


 部屋の主人あるじを失ったシルバリオの寝室。


 アタシは上着を脱ぎ、サファイアに身体を診察してもらう。


 内部スキャンで出て来た結果は、肋骨にヒビが数カ所と打撲だけだった。


 折れて居なかった……か。


 診察の後、包帯でキツく固定し動いても支障が無い状態にしてもらう。


「サファイア、行くよ。パールにも準備をさせておいて」


 サファイアはコクリと頷き、食堂に戻って行った。


 せめて折れてりゃ、もう少し居たんだけどね……


「ルビーさん……もう行くんですね……」


 背後からジェムの声が掛かる。


 振り返れば、ドアの所に立つジェムの姿。


 彼の腰にはガンベルトが巻かれ、シルバータンゴが銀色の輝きを放っていた。


「ええ。もう、ここに居る理由無いからね」


「せめてもう少し……いえ、何でも無いです」


 俯くジェムの肩に手を置き、


「じゃあ、元気で」


 とだけ言い残し部屋を出る。


「ルビーさん、有難う御座いました。何時でも帰って来て下さい、それまでここを必ず守って見せます!」


 アタシは振り返らず、手だけ振り玄関に向かうと、荷物を纏めたサファイアとパールが待っていた。


「随分慌ただしいね。もう少し居るもんだと思っていたよ。せめて彼を弔う位は……まあ、僕が口を挟む事じゃ無い。君の判断に任せるよ」


 アタシ達は孤児院を後にすると、ロステク武器を回収し一旦街の酒場へと赴く。


 都合良く見つかりゃ良いけど……いや、絶対居るね。


 サルーンに入れば、嫌でも目に付く。特徴的な格好をした情報屋ペストマスクの姿が有った。


 アタシは奴に詰め寄ると、目の前に有り金全部詰め込んだ袋を投げ渡す。


「アンタに仕事を頼みたい」


           ✳︎


「で、ルビー君。君の気持ちは分からないでも無いが、全財産投げ打つのはやり過ぎだったんじゃ無いかな?」


「パールったら、まだそんな事を言ってるの? まあ確かにそうだけど、物には勢いってのが有ってね?」


「大体、ホーク? とか言うのは何者だね? そいつを探し出して、孤児院の用心棒と、ジェム少年を一人前に育てさせる。だったかな?

 彼の事を随分信用している口振りだったが、君とはどう言う関係なんだ?」


「彼とは、そうね。パールと出会うチョット前に、ヤリ合った仲よ」


「どうせ物騒な方のヤルなんだろ?」


「正解。それでも銃の腕は確かよ、アタシがこの目で見たんだから保証するわ」


「わざわざ探してまで頼まなくても、君が残って指導なり、用心棒なり、すれば良かったのでは?」


「お金で割り切った間柄の方が、後腐れなくて良いのよ。アタシじゃ情が移っちまう……」


「はぁ……まあ、それは良い。

 ところで、唯一現金化出来そうだったロステク武器を、砂虫の巣に投げ捨てたのは、どう言った了見かな?」


「あれは、ほら。悪人の手に渡っちゃ不味いでしょ?」


「うん、そうだね。確かにそうだ。だがね? そのおかげで僕達は、もう五日間も野宿を強いられて居るんだよ? 君だってまだキズが癒えていないんだ、そろそろ宿に泊まりたいと思わないかね?」


「私はルビーと一緒なら何処でも平気」


「そりゃ、サファイア君はそうだろうさ! 水さえ有れば稼働可能だし、最悪無くても、大気中から集める事が出来るのだから。僕はもう、この得体の知れない乾燥肉と、有り得ない程の硬度を持つパンにはウンザリなんだ!」


「水だけでは生きて行けない。ルビー分を補わないと死んでしまう」


「何その謎物質!」


「ルビー分と言うのは、ルビーからのみ摂取出来る物質。摂取するととても幸せになれる。因みにルビーは、私からサファイア分を摂取する」


「あーはいはい。君達二人の夜の営みについて、とやかく言うつもりは無いけどね。ルビー君、君はまだキズが完治してないんだから、少し慎みたまえ! 大体外でおっ始めるなんて、何考えてるんだ!」


「そう言われても、痛みも引いて来たし、もう大丈夫かな〜って。これでも随分我慢した方……って起きてたの? パールが寝たの確認してから、事に及んだのに」


「起きたんだよ! 僕は神経が細やかなんだ、それじゃ無くたって野宿じゃ熟睡なんか出来やしないってのに、すぐ近くであんな事されりゃ目も覚めるわ!」


「声掛けてくれたら良かったのに」


「掛けれるかー!」


「二人とも静かに。目標を補足した」


「おっと。さあ、お仕事お仕事。ヘイ、そこの賞金首さん。大人しくアタシに捕まって、今晩の宿代になりな!」


「何! 誰だお前は!?」


「アタシかい? アタシの名はルビー、しがない賞金稼ぎさ」

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XIIアース(トゥエルブアース) ジョンブルジョン @mycroft1973

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