第30話 だってずっと我慢してたのよ?
窓から差し込む日の光に目を覚ます。
首だけ動かして横を見ると、アタシの左腕を枕にしてスヤスヤと眠るサファイアの姿。
お互い裸で、一緒のベッドで眠りに付く。
普段から良く見る光景なんだけど、今日は違う。
サファイアの頬にそっと触れ、その感触を確かめる。
スベスベでシミ一つ無い肌は、まるで陶器の様。
青い髪は日の光を反射し、一本一本がキラキラと輝いている。
んっ……と、小さな声を漏らし、サファイアは目を開くと、青く美しい宝石の様な瞳でアタシを見つめて来る。
「おはよう、サファイア。良く眠れた?」
「おはよう、ルビー……」
そう一言だけ言うと、アタシから目を逸らしたサファイアは、モゾモゾと寝具の中に潜り込んで顔を隠してしまう。
「どうしたの?」
「わ、私……昨日……」
「うん?」
「上手く出来てた? ルビーを満足させられた?」
この子ったら、照れてるくせに随分大胆な事聞いて来るのね。
すこーしだけイタズラ心の芽生えたアタシは、サファイアの被る寝具を思い切り剥ぎ取って放り投げる。
「ひゃぁ……」
可愛らしい悲鳴をあげたサファイアは、アタシと同じ生まれたままの姿で、両腕で自分を抱き締める様な格好で、必死に身体を隠している。
「どうしたって言うの? 裸を見せ合うのは初めてじゃ無いでしょ?」
「わ、分からない。分からないけど、こうしてないと落ち着かない」
「そう……」
可愛らしいサファイアの仕草に、アタシの身体まで火照ってくる。
アタシはサファイアの頬に優しく触れると、顔を近づけ唇を重ねる。
満足行くまでサファイアの口内を堪能し、舌を絡め合う。
「とても素敵だったわよ、初めてとは思えない位上手に出来てたわ」
「そう……良かった……」
嬉しそうに、そして幸せそうに微笑むサファイア。
「サファイアはどうだった?」
!
アタシの質問に対して、明らかに動揺が見て取れる。
もしかして良く無かった?
「未知の感覚だった……私に、あんな感覚が備わっているなんて知らなかった」
「アナタが嫌ならもうしなわよ?」
アタシの言葉に少し考え込む仕草の後、意を決したサファイアは、
「嫌……では無かった。きっとあれが“気持ちいい”と言う感覚なんだと思う」
「良かった。肌を合わせるならお互い“気持ち良く”ならないとね」
もう一度、今度は唇同士を軽く合わせる程度のキスをし、ベッドから起き上がる。
「さあ、着替えて出掛けましょう」
「了解。ルビー」
✳︎
顔を触られる、くすぐったさに目を覚ます。
ムズムズとした不思議な心地良さに、思わず声が漏れる。
目を開くと、直ぐ目の前には愛おしそうに私を見つめる赤い瞳。
「おはよう、サファイア。良く眠れた?」
「おはよう、ルビー……」
ルビーの声を聞いた途端、何故だか無性に恥ずかしくなり、まともに顔が見れなくなった私は、寝具の中に隠れ場所を求めた。
「どうしたの?」
「わ、私……昨日……」
昨晩とうとう、ルビーと一線を超えてしまった。
知識では知っていたし、義体に『そう言う』機能が搭載されている事も知っていた。
更には、ボディーのバージョンアップ時に、感覚フィードバックの調整が施されていると説明も受けた。主に『そう言う』行為用のだ。
それをやったのは、アマノ船長だと言うのだから、
でも、私は上手に出来ていたのだろうか?
「うん?」
「上手く出来てた? ルビーを満足させられた?」
突然寝具が剥ぎ取られ、私の隠れ場所は失われる。
突然の事に、つい口から悲鳴にも似た、奇妙な言葉が漏れてしまった。
ルビーの顔をまともに見れない。いや、それ以上に一糸纏わぬ姿を晒すのが『恥ずかしい』と言う感情に頭の中を支配され、必死に自分の身体を両手で覆い隠す。
「どうしたって言うの? 裸を見せ合うのは初めてじゃ無いでしょ?」
確かにそう。お互い寝る時は裸だし、同じベッドで寝た事だって何度も有る。
肌など何度も晒し合っているのに……
「わ、分からない。分からないけど、こうしてないと落ち着かない」
「そう……」
サファイアの手が私の頬に添えられる。大きくて、暖かくて、そして優しい手……
ルビーの顔が近づき、唇と唇が触れ合う。
唇同士を接触させる。たったそれだけの事なのに、私の電子頭脳は瞬く間に幸福感で満たされて行く。
唇を割って、口の中にルビーの舌が侵入して来た。
ルビーに教えてもらった『大人のキス』を思い出し、私もそれに応える様舌を絡める。
随分長い間そうして居た。むしろ、もっとして居たかったけど、ルビーが口を離す。
「とても素敵だったわよ、初めてとは思えない位上手に出来てたわ」
「そう……良かった……」
昨晩の私は上手く出来ていたらしい。
ルビーを喜ばす事が出来た。そう思うと自然に笑みが溢れる。
「サファイアはどうだった?」
!
私は……
ルビーの手が、指が、私の身体を弄る度に、触れられた部分から電気ショックの様な、でも全然嫌じゃ無い刺激がフィードバックされた。
特に、パールは有っても無駄と言っていた胸と、股の間の排水機関付近を触られた時は、電子頭脳が焼き切れるんじゃ無いかと思う程強い刺激が身体中に伝わり、何度もシャットダウンし掛けた。
「未知の感覚だった……私に、あんな感覚が備わっているなんて知らなかった」
「アナタが嫌ならもうしなわよ?」
今まで感じた事のない未知の感覚では有ったけど、もう一度、うぅん、何度でも感じたいと思う感覚……
「嫌……では無かった。きっとあれが“気持ちいい”と言う感覚なんだと思う」
ルビーに頭を撫でられて、心地良いと感じた事は今までも有る。
でも、それの何十倍、何百倍もの刺激。それに伴う多幸感。
それらが合わさったものが、きっと“気持ち良い”と言う事なのだろう。
「良かった。肌を合わせるならお互い“気持ち良く”ならないとね」
そう言ってルビーは、今度は唇同士を軽く合わせる程度のキスをし、ベッドから起き上がる。
「さあ、着替えて出掛けましょう」
「了解。ルビー」
✳︎
「昨夜はオタノシミでしたね」
サファイアと共に部屋を出てサルーンへ降りると、仏頂面でコーヒーをすすっていたパールが、開口一番刺々しい言葉を投げ掛けてくる。
「どうしたのよパール。今朝は随分不機嫌そうね」
「不機嫌と言うか! 君達が朝方近くまで騒いで居たせいで、隣の部屋にいた僕は殆ど寝れなかったんだが!?」
言われてみれば、野宿をしていた頃よりクッキリ、目の下にクマが出来てるわね。
「あはは〜ゴメンゴメン。ついハッスルしちゃって」
「全く。今度からは、離れた部屋を取らせてもらうからな!」
「でも、それだと何かあった時危険だわ。本当は同じ部屋で寝泊まりが一番なのよ……
いっそパールも混ざる? 痛っ!」
「アホか君はー! そそそそんな破廉恥な事出来る訳無いだろー!!!」
サファイアに脇腹をつねられ、パールにアホ呼ばわりされてしまった。
「やーね、冗談よ。今度からは少しだけ控えるわ」
まだ何やら文句を言い続けているパールを尻目に、アタシもコーヒーを注文する。
サファイアは、いつもに比べるとかなり多めに水を飲んでいた。
ああ、昨日結構出しちゃったからね……
大丈夫、ただの水だから全然汚く無いし、むしろ綺麗なのよね? 確か。
それに、アタシの動きに合わせてお漏らししちゃうサファイアは、とても可愛かったわよ。
アタシが昨晩のサファイアを思い出し、身体を火照らせて居ると、
「で、シルバリオの居所は掴んでいるのかね?」
と、パールが真面目な口調で聞いてくる。
「ん〜取り敢えずそれを調べ無いとね」
「なんだ、あんたらシルバリオさんの知り合いか?」
丁度、注文したコーヒーを運んで来た店の主人が、話しに割り込んで来る。
「えっ? 知ってるの!?」
「知ってるも何も、この街で知らない者は居ないさ。会いたいなら街外れの孤児院に行けば会える」
「孤児院?」
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