第27話 決着! そして……

「それを被れば良いんだね?」


 サファイアを助けに行くための方法が見つかり、急ピッチで準備が進められる。


「そうだ。これを頭に装着してしっかり固定してくれ」


 そう言ってパールから手渡されたのは、金属で出来たリング状のベルトで、そのベルトには大小様々な円筒形の物体が取り付けられており、更に円筒形の物体からはケーブルが伸び、パールが操作する端末に繋がっていた。


 アタシは床にドッカと胡座を描いて座り込み、ハットを脱いで放り出すと、それを被り長さを調整して頭にキツく固定する。


「アタシはいつでも良いよ」


「こっちも準備オーケーだ。さっき説明した通り君を丸々送る事は出来ないので、既に黒瑪瑙オニキスの中に有るプログラムの一部に上書きする。

 そして君の意識を飛ばす訳では無く、知識、経験、それに伴う技術の一部を送るだけなので、君自身がどうこうする事は出来ない。

 つまり、サファイア君を助けに行くのは、あくまで君の分身と言う事だ」


「よく分かんないけど、分かったわ。さっさとやって頂戴!」


 一刻を争う状況、理解云々はこの際置いておく。全面的にパールを信じるから!


「了解。じゃあ行くぞ」


 パールが端末に付けられたダイヤルを回すと、頭の装置がチカチカと光りを発し始め、頭皮にピリピリとした不思議な感覚が走り始める。


『あ〜経験者から一言良いかな?』


「なんだね? アマノ君」


『死ぬ程痛いけど、死なないので安心して下さいね』


 ちょっ! それ今言う!?


 直後、アタシの頭に無数の針が突き刺さった様な、それでいて棒を頭に突っ込まれ脳味噌をかき回されるような。


 そんな今まで味わった事のない、そして今後も味わう事のないであろう感覚に襲われながら、アタシの意識は暗転した……


          ✳︎


「私を守るプログラムが、何故私に盾突く!」


 突然自分へ歯向かってきたアンチウィルスに、憤りの隠せない黒瑪瑙。


 視線の先に居るのは、紛れも無いアンチウィルスプログラム。


 しかし、その形状は今まで戦って来たモノとは微妙に違っていた。


 腕は固定武装では無く、人を模した手首が付いていて、その手にはシックススターが握られているし、球状ボディーの天辺には、スケール感がおかしい、人間サイズのハットがチョコンと乗っかっている。


 灰色だったカラーリングも燃えるような赤に変わっていて、何だかとても強そうに見えるのは何故だろうか?


 そんなアンチウィルスが、フラフラと何処かぎこちない動きで、こちらに近寄って来る。


 黒瑪瑙を攻撃したけど、まだ味方と決まった訳では無い。


 倒れた状態で悟られぬ様、身体で隠しながら腰のホルスターからシックススターを抜き、何時でも撃てる状態にして隠し持つ。


 そうこうしている内に、私の目の前までやって来たアンチウィルスは、ちょうど黒瑪瑙と私の間に割って入る形で、空中に停止。無機質なカメラで私を見つめて来る。


「サ……ファィ……」


 何か言おうとしている……?


「サファィァ……」


 私の名前を?


「サファイア……タスケニキタワ」


 え? 何ですって?


「サファイア、オドロカナイデキイテ。アタシハ、ルビーヨ」


「パール。どう言う事?」


 またパールお得意、即興プログラムの類なのだろうか? そう思い確認してみるが、


『詳細は後で教えるが、そこに居るのは紛れも無くルビー君だ。まあ、本人と言う訳でも無いんだがね。兎に角! 君の味方だよ』


「……了解」


 本当にルビーなの? 


 人間のルビーがどうやってここに? 


 何故アンチウィルスの姿なの?


 聞きたい事は山程有るけど……


「ルビー……来てくれた……」


 シックススターを取り落とし、右手を伸ばすと、アンチウィルスも左手を伸ばして来る。


 手と手が触れ合い、指が絡む。


「サファイア、ヨクガンバッタワ。コンナニナルマデコレナクテゴメンネ」


 ああ、間違い無い。これはルビーだ……


 姿形は違うけど、確かに伝わって来るルビーの暖かさ。


「アタシガキタカラニハ、モウダイジョウブ。サア、ニンムヲヤリトゲマショウ」


「了解。ルビー」


 私はルビーに縋りながら立ち上がる。勿論シックススターを拾う事も忘れない。


「ふざけるな! 外部から侵入して、その上アンチウィルスを乗っ取ったって言うの!?」


 叫ぶ黒瑪瑙は、周りに展開していた光剣に、再度攻撃命令を放つ。


 光剣が一斉に反応し、ルビーを目標として捉え、今にも刀身を射出せんと動いた瞬間……


 パパパパパン! と、連続的な発射音と共に光剣が砕け散る。


 見れば、右腕だけ背後にグルリと回し、シックススターを発砲したルビーの姿。


「ウシロモミエルッテ、イガイトベンリネ。コツヲツカムマデ、チョットタイヘンダケド」


          ✳︎


 何故……何故邪魔をするの……


 私とテルミの世界に土足で上がり込んで、良いだけ引っ掻き回して。

 

 私はテルミと一緒に居たいだけなのに……


 好きな人と一緒に居たいと思うのは、そんなに悪い事?


 テルミの意思を継ぎ、200年に渡って街の代表を務めて来た。


 何度も孤独に押し潰されそうになりながら、それでも公務に勤しんできた。


 そんな私にとって唯一、心の拠り所がこの世界。テルミのいる世界なのに!


 誰にも壊させない。


 私の世界を……


「誰にも壊させるものかー!」


 破壊された光剣を瞬時に復元し、一斉射撃を試みるが、出現させた途端赤いアンチウィルスの正確無比な射撃によって撃ち落とされてしまう。

 

 それなら!


 今度は自分の周囲だけで無く、奴らの背後にも出現させる。


 これなら全部撃ち落とすのは無理でしょ!


「ルビー!」


「マカシタ!」


 私の周囲に出現した光剣は、アンチウィルスの手によって瞬く間に撃ち落とされ、背後に出した光剣は、青い髪の同型機が放った強力な一撃により全て霧散した。


 何よ……それ……


 出し惜しみは無しとばかり、今度は全方位に展開させるが、アンチウィルスの神業とも言えるガン捌きと、撃ち漏らしを的確に射抜く同型機によって、呆気なく撃破されてしまう。


 どれだけ、お互いを信頼してるって言うのよ……


「黒瑪瑙。話しを聞いて。私達はアマノ船長を……」


 同型機……確かサファイアとか言うんだっけ?


 何か言ってるけど、思考がめちゃくちゃで何も頭に入ってこない。


「ソウヨ、オニキス。アタシタチハ……」


 アンチウィルスも何か叫んでるけど、やっぱり理解出来ない。


 何をやっても、こいつらには勝てない。


 なら、もう良い。


 こいつら諸共、全て壊してしまおう。


 そしてもう一度作り直そう……


 私の世界は、崩壊を始めた。


          ✳︎


「ナニ?」


 黒瑪瑙の動きが止まった途端、パキン! パリン! と、音を立て景色にヒビが入り、次々と光の粒子に姿を変え消え去って行く。


 船の外殻に開いた穴から見える世界は、砂の大地も摩天楼も見えない、何も無い白い空間と化していた。


『不味いな。サファイア君、君達の居るデータ領域が次々デリートされている』


「それは、つまり……」


『その場所ごと、君達を消去するつもりだろう。直ぐに逃げたまえ』


 黒瑪瑙を見れば、その場で動きを止め俯きブツブツと何か呟いている。


 このままじゃ駄目……


「ルビー……お願い、黒瑪瑙を助けて」


 すがる思いでルビーに訴え掛ける。


 こんなのじゃアマノ船長を救えても、黒瑪瑙を救えない。


 黒瑪瑙の心が壊れてしまう。


「アタシニマカセテ!」


 瞳の輝きを無くし、動かなくなった黒瑪瑙へ突っ込んで行くルビー。


 そのまま黒瑪瑙の両肩を掴み、正面から拘束する。


 だが、何ら抵抗を見せない黒瑪瑙はされるがまま、ルビーを見ようともしない。


「キキナサイ、オニキス。ワタシタチハ、アマノセンチョウヲ、ヨミガエラスタメニキタノ」


「……蘇らせる……?」


 ルビーの言葉をいまいち理解出来ていない風の黒瑪瑙は、呆然と聞き返すが……


「死んだ人間は蘇らない……」


 当然の如く、聞く耳を持とうとしない。


「アタシノコトバヲシンヨウデキナイナラ、カノジョノコトバハドオ?」


 そう言うと共に、ルビーのボディー正面がハッチの様に跳ね上がり、中からアマノ船長が顔を出す。


「黒瑪瑙、私と彼女達を信じるんだ」


「テルミ……やだ! 私は二度も貴方を失いたく無い」


「大丈夫。また一緒に暮らそう、きちんと現実の世界でね」


 そう言って身体を乗り出すと、黒瑪瑙に顔を近づけ、その小さな唇に自分の唇を合わせる。


 突然のキスに、大きく見開かれた黒瑪瑙の瞳に輝きが戻った。


 それはほんの短いものだったが、黒瑪瑙に正気を取り戻させるには十分だった様だ。


「テルミ……」


 一言呟き、コクンと首を縦に振る黒瑪瑙。


 私達の立つ僅かな土台を残し、世界の崩壊は停止した。


          ✳︎


「サファイア!」


 叫びながら起き上がろうとした時、優しく身体を押さえ付けられ、押し戻される。


「ルビー。急に起き上がっては危険。もう少し横になってて」


 後頭部に、暖かく適度な柔らかさを感じ、アタシはサファイアに膝枕をされている事に気が付く。

 

 どうやら寝ていたらしい。より正確には、気を失ってたんだけど。


「あの後、どうなったんだい?」


 折角だからと、心地良い感触を堪能しつつ、上から見下ろすサファイアの目を覗きながら、問い掛ける。


「作戦は成功した。あれを見て」


 指差す方向に首だけ回すと、アマテラスともう一人。


 パールがアマノ船長の器として組み立てた、もう一体のアンドロイドが抱擁を交わしている所だった。


「良かった……アマノ船長は無事蘇ったんだね」


「まあ、蘇ったと言う表現が適切かは分からないが、作戦は成功したと言って良いだろう」


 いつの間にか側に来ていたパールが、回りくどい説明をしてくれる。


「で、君はいつまでそうしているつもりかな?」


「もうチョット」


 アタシの言葉にほんのり笑みを浮かべて、髪を撫でてくれるサファイア。


 あっ……気持ち良い、このまま寝ちゃいたい……


「やれやれ。いつから君は、そんなに甘えん坊になったのだね?」


 呆れ顔のパールだが、目は笑っている。


 パールも、本気で咎めている訳では無いのだろう。


「頭の中を引っ掻き回される感覚を味わったんだ。この位のゴホウビは有っても良いでしょ。それとも羨ましいの? 半分分けてあげましょうか?」


 頭を少しずらし、片方の膝を空け手招きする。


「な! 何を言っているんだ君は! べべべ別に羨ましくなんか……」


 真っ赤になって狼狽るパールに、サファイアが一言。


「ごめんパール。ここはルビー専用」


 サファイアはアタシの頭を引っ張り、元の位置へ戻す。


 サファイア、もう少し加減してくれないと、首が抜けちゃうかと思ったわよ?


「なんで僕は何も言っていないのに、振られた感じになってるんだよ!」


「ドクター……私の膝で良ければ貸しますが……」


「ダメ。船長の膝は私のです」


 アマノ船長に、ギュッと抱き着いたままのアマテラス、いや黒瑪瑙がハッキリと宣言する。


「だー! もう、良い加減にしろ! こっちは気を利かせて君達から距離を取ったんだ。

 部屋の隅で好きなだけイチャ付いてろ!」


「いや〜まあ、それは後程ユックリ」


 パールの嫌味に対して、頭をポリポリ掻きながら、満更でも無い表情を返すアマノ船長。


 頭を掻くのは、癖なのかな?


「ところでドクター。良く私の顔を覚えていましたね。鏡を見て驚きましたよ」


 アマノ船長の義体は、サファイアや黒瑪瑙に使われている物と全く同じだが、顔だけは違っていた。


「大切な友人の顔を、忘れる訳無いさ。

 身体に合わせて多少幼くアレンジはしてあるが、問題無いだろう?」


「ええ、私の子供の頃にそっくりですよ。

 アルバムとか見せた事有りましたっけ?」


「いや、あの頃はそんな暇無かったからね、概ね想像だよ。ところで義体の方はどうかな?」


 新しく自分のものになった身体をあちこち触ったり、動かしたりして具合を確かめるアマノ船長。


「身体を持ったのは初めてですが、意外にシックリ来ますね。全然違和感とか無いですよ」


「そりゃ良かった。長い付き合いになるだろうから、大事に使いたまえ」


「身体の事で分からない事が有れば、私が教えます。テ……船長」


「今後は何時でも名前で呼んでよ。私はもう船長じゃ無いからね。それに、黒瑪瑙とは対等な立場で居たいんだ」


 黒瑪瑙の頭をクシャクシャと撫でながら、言い聞かすアマノ船長と、目を細め心地良さそうに受け入れる黒瑪瑙。


「分かり……分かったわ。テ、テりゅみ」


「何で噛んだし」


「噛んでません!」


 やれやれ、お熱いこって。


「で、これからどうするんだい? アマノ船長」


 アタシはこのままじゃカッコ付かないと、名残惜しいけど鋼の意思でサファイアの膝に別れを告げ、立ち上がりながら質問する。


「そうですね〜……」


 アマノ船長は、黒瑪瑙の肩をしっかり抱くと……


「後継者を育てて、後は二人で静かに暮らしたいですね。黒瑪瑙も私も、もう十分過ぎる程働きましたから」


 ノンビリとした口調だけど、その言葉からは強い意思が伝わって来る。


 今後も障害や問題が彼女達の前に立ち塞がるだろうけど、きっと二人なら大丈夫。


 二人の満ち足りた顔を眺めながら、そう確信するのだった。


          ✳︎


「新しい身体はどう?」


 アタシの横を、すまし顔で歩くサファイアに問い掛ける。


 約束通りサファイアの身体を治して貰い、今は宿へ向かって居る最中だ。


「悪く無い。生まれ変わった気分」


 一番破損の酷かった左腕を前に突き出し、手を握ったり開いたりして眺めている。


 サファイアの身体を詳しく検査した結果、腕以外にも目に見えない所で複数の劣化が発見されたので、結局腕だけでは無く首から下を丸ごと交換する事になったのだ。


 細かい改良も入っているらしく(パール曰くバージョンアップ?)完全に新しい身体になったので、生まれ変わったと言う表現は的を得ている。


「でも、不満も有る」


「あら、そうなの? 今ならまだ何とかなるかも知れないわ。ね? パール」


「そうだね。改良したい所が有るなら、ネオジパングに滞在している間に言うと良い」


 アタシ達がそう言うと、サファイアは自分の慎ましい胸部を両手で包む様に触れながら、


「胸はもう少し大きくても良かった。ルビー程とは言わないけど……」


 あらら〜随分女の子っぽい、微笑ましい不満ね。


「ふむ。胸部タンクの増量かな? 水分貯蓄量に不満が?」


「は〜〜……パール、分かって無いわね〜」


 アタシは、わざと大きな溜息をつきながら諭す様に説明する。


「サファイアは、年頃の女の子特有の悩み事を言っているのよ。その学者脳なんとかしなさいな」


「胸なんて必要無いだろう。有っても邪魔なだけだ」


 少しムッとした表情のパールが、吐き捨てる様に言うが……


「パール。胸が大きかった事有るの? 大きいと邪魔になるの?」


 サファイアがパールの、自分より更にささやかな胸元を見つめながら、真顔で質問する。


「ぐっ……無いが、世間一般的な統一の考えで、そう言う結論が出ているんだ!」


 パール。チョット何言ってるか分からないわよ?


「ルビーはどう? 胸が大きいと邪魔?」


 今度は、アタシの豊かなバストに視線を向けるサファイア。


「そうね〜走ったりする時、少し邪魔な事も有るけど、もう慣れたわ」


「……そう」


 俯いて思い悩むサファイア。


「でも、アタシはサファイアの可愛らしい胸、好きよ」


 肩を抱き寄せ耳元で囁くように言うと、サファイアが身体をピクリと震わす。


 そしてアタシの腕に絡み付き、


「ルビーがそう言うなら、このままで良い……」


 俯いたままポソリと言う姿に、ノックアウトされそうになったのは言うまでも無い。


「ところで、パールは良かったの? 残っても構わないのよ?」


 パールの過去を知る唯一の人物。アマノ船長となら、パールも孤独を感じずに済むと思ったのだけど……


「冗談だろ。あんな色ボケ空間に居たら、僕の優秀な灰色の脳細胞がピンク色に染まってしまうよ」


 ああ……うん、確かに。新しい身体の性能テストだと言わんばかりに、人目を憚らず始終イチャイチャ、チュッチュしてたっけ。


 アレは流石に……パールじゃ無くても、かなり居ずらい空間だったわ。


「僕の入ってたカプセルの出所は、後で調べて報告してくれるよう頼んでおいた。アマテラスの力を持ってすれば、僕がどこに居ようが調べ上げ、事の顛末を伝えてくれるだろうさ」


「大体目星は付いてるんだっけ? 確かエチゴコーポレーションとか何とか……」


「ああ、ネオジパング内外の物流関係を生業にしているらしい。大手だが悪い噂も絶えないと聞くし、デシマシティーのトウドウコーポレーションは、エチゴコーポレーションの関連組織だって言うんだから、まあそう言う事だろうね」


 つまりはギャングの親玉って訳か。


 まあ、相手の組織がデカイ分アタシらには手出しできない。どっちにしろ後はお任せするしか無いね〜


「さて、これからどうしようか……」


 暫くネオジパングでユックリしようか……


 そんな考えがアタシの頭の中を駆け巡っていた。


 結局、街中を見て回る暇も無かったし、サファイアとのデートも中途半端で終わっている。


 短期間に色々有ったせいで、パールにも疲労の色が見えるし、暫しの休息が必要だろう。


 幸いアマノ船長と黒瑪瑙から、結構な額の報奨金を頂いているので、焦って次の仕事を探す必要は無い。


 最初は断ったんだけど、向こうの気が済まないって事で押し付けられたのだが、正直有難い。


 ここに滞在する間は、無償で宿も提供してくれるって話だし、少しくらい好意に甘えてもバチは当たらないよね?


「とにかく、今日は色々有りすぎたわ。宿で一息付きましょう」


 指定された宿のノレンカーテンを潜る。


 街一番の店を用意されそうになり、それは丁重にお断りした。


 堅っ苦しいのは無し。アタシらみたいのには、安宿が性に合ってるのさ、ってね。


 それでも、あてがわれた宿は上等過ぎな位だけど、超が付く程高級な宿って訳じゃ無いんで、妥協しておく。


「お待ちしておりました。ルビー御一行様で御座いすね? お話は伺っております。どうぞこちらへ」


 丁寧な案内を受け部屋の前まで行き着くと、案内してくれたジョチュウメイドが、おかしな事を口にする。


「お部屋にお客様がお待ちです」


「は?」


 客? アタシらに? 一体誰が……


 うん、嫌な予感しかしない。


 残念ながら、こう言う時のアタシのカンは良く当たる。


 フスマスライドドアーを開け部屋に入ると……ああ、やっぱり。


「またアンタか。今日はもう店仕舞いだよ、帰んな」


「フッフー。これはこれは辛辣な。久しぶりにお会いしたと言うのに、随分では無いですか」


 コッチは別に会いたか無いんだよ、情報屋ペストマスク


「今回の仕事も上手く行ったようで何よりです」


「聞こえなかったのかい? 帰んな」


 シックススターのグリップに手を掛け、ややドスの効いた声色で言うが、全く意に介さない態度で続けるマスク野郎。


「今回はルビーさんの過去に関わる内容です」


「過去? アタシの?」


 アタシの過去って、まさか……


 サファイアが、アタシの手を強く握りしめて来る。


「シルバリオ……この名前に、聞き覚えが有るでしょう?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る