第28話 敵より怖いのは味方かも?

 疑心暗鬼に囚われ誰も信じられないとアデーレは部屋にこもっていた。

 勿論、それは彼の嘘である。

 ムカデ鎧の内壁と外壁の間には空洞があり人が通る事ができる。

 外壁が壊された時に修復する為に意図的に空けてあるのだ。

 アデーレは内壁を外し、ケルスティンの居る牢を目指す。


 

 彼女はハンモックで寝ていた。

 牢を叩く音に目覚める。

「気分は如何でしょうか?」

 声の主は名前も解らない兵士だった。

 少し細身の貧弱そうで顔が青白い男だ。

「何のよう?

今は不機嫌なの、デートの誘いなら別に日にしなさい」

「そう邪険にしないで欲しい。

貴方を助けようと思いやってきました」

「助ける?

出してくれるとでも言うの?」

「はい、我々の仲間になってくれるなら、

ここから出しましょう」

 その男は姿が変わり女の体つきに変わる。

 下半身は蛇のようになりラミアのような姿である。

「貴方の正体がラミアだったなんて予想外です。

それは魔法かしら?」

「血を吸えばその者に変身することが出来ます。

ですから、逃げ出すのは容易です」

「それは驚きね。

断れば私の血を吸うつもりなの?」

「ええ、貴方は邪魔になる人物、

生かしておく理由はない」

 ケルスティンは壁際へと下がる。

 ラミアは鍵を開き中へと入ってきた。

「私を告発したのは貴方?」

「いいえ、誰かに恨まれているか嫉妬されていたのでしょう」

 

 アデーレは壁越しから話を聞いていた。

 ラミアが近づいた所を見計らい壁から剣を突き刺し、その心臓を貫いた。

「どうして……」

「隙間から見えていた。

教えてやろう告発をしたのは俺なんだ」

 信頼出来る人物は普段、側にいる者達だけだ。

 リザラズは身代わりを用意させ、仮面を被った身代わりをまず牢に入れた。

 そして無実な者達を告発したのだ。

 わけも分からずに牢に入れらた者しかいない。

 アデーレは関わっておらず、嘘を言ったに過ぎない。

「そんな筈は……、上手くやってくれたと思ったのに……」

 ラミアは黒い粒子となり消滅する。

 


「男に化けているなら可能性はある。

あぶり出すために一芝居するか」

「どのような方法で?」

「こいつの人形を作れるか?

皆の前で偽物を見分ける方法が解ったとして剣で刺し正体を暴くんだ」

 ラミアが着ていた服は残っている。

 潜入している仲間同士で争わないように仲間には正体を明かしている筈だ。

 それが見破られたと知れば行動を起こすはずである。



 直ぐに全員を集め、アデーレは1人1人調べるふりをする。

 伏兵を忍ばせて居るが最も危険な時だ。

 目の間に居る者がラミアなら殺される。


 数人目に差し掛かり人形の前に立つ。

 アデーレは何も言わず剣を刺した。

 人形は簡単に崩れ黒い霧状になり消滅する。

 魔気で作られたものは、一定のダメージを受けるとそうなる。

 それは魔物も同じで違いを区別するのは困難だ。

「まだ居るようだ」

 アデーレは一人一人ゆつくりと観察するように顔を見て行く。

 アデーレが近づくとラミアは動いた。

 

 手を伸ばし首を掴もうとしたのだ。

 アデーレは躱し反撃で手を切り落とした。


 直ぐに側に居た兵士達がラミアを切り捨てる。

「領主様、我々に見分け方を教えください」

「高度な魔法技術で訓練が居る。

今はそんな余裕はない」

 潜んでいたラミア達は正体を現し暴れようとした。

 それを狙いすますように矢が体を貫く。

 悪あがきすら出来ずに倒れた。


 リザラズが弓を構え狙っていたのだ。

 いくらアデーレでも複数が同時に襲ってきたら回避できない。

 だから保険として配置していた。

「偽物は全て排除した。

持ち場に戻ってくれ」

 アデーレは自信ありげに言ったが確証はない。

 もし生き残りがいれば、また命が狙われる事になる。


 様子を見ていた軍師トゥルニエはアデーレに近づき拍手を贈った。

 彼は数多の戦場を見てきた老人で、髪は白くやつれ皮と骨のような体である。

「あのような魔物を全て見抜く眼力には恐れ入った。

それでどのような方法で見分けたのか教えて欲しい」

「全てはハッタリだ」

「はっはは……、それはお見事ですな。

一つ助言を、魔物は魔気がなければ生きていけない。

人は魔気が無くとも大丈夫」

「なるほど魔気を使い切らせれば、魔物か人か解るわけだな」

「私は、もうこの歳で先は短い。

知識を与え次の世代に伝えたい」

「好きな子に教えてやってくれ」

「それでは遠慮なく」

 

 彼は魔物の判別方法を知っていてアデーレに教えなかった食わせ者だ。

 それが何の企みもなく申し入れをする筈もなかった。

 どこから拾ってきた孤児を見習いとして招き入れた。


 アデーレが任命したことになり、不満を漏らすものが増えることになった。

 牢に放り込んだ件で不満を持つ者は多い。

 あの時は、見分ける方法が無かったから仕方なかった。

 後から解り牢に入れる必要は無かったと文句を垂れるのだ。



「やってくれたな。

三盾騎士団は、ほぼ俺の指揮から外れる」

 リザラズは苦笑いする。

「一つぐらい失っても問題はないでしょう?」

「多くの貴族を抱えているんだ。

その権力は大きい」

「商人から借金をしているような人達です。

それで無理やり戦場に送られているそんな彼らが?」

「元奴隷が団長の六角騎士団に集まったのは、

職にあぶれた学園の卒業生と行き場を無くした兵士だけ。

士気も低く、命令も聞かないような集まりだ」

「……それで大損害を受けたのは承知しています」

 三盾騎士団は統率は取れていて、集合を呼びかければ直ぐに集まった。

 戦場で戦っているのは自動鎧で、その指揮を遠隔で行うだけだ。

 このムカデ鎧の中にいる限りは安全な筈だった。

 それが脆くも崩された。

 だが逃げ出す者はおらず、アデーレに従って動いた。

「有能な手駒を失うのは痛い」

「今は大人しくしていた方が良いです。

ご機嫌取りでもしたら如何です。

牢に放り込んだ女達を食事に招待すれば機嫌が直るかも知れません」

「それは君が望んでいるのか?」

「はい」

「解った準備してくれ」


 直ぐに食事会が行われた。

 アデーレに気に入られようと必死な彼女達は席の取り合いから争いが絶えない。

「落ち着いてくれないか?」

「では席を決めてください」

 テーブルは長方形だ。

 誰を遠ざけて、誰を近くに置くかは重要だ。

「俺は運良い者を側に置きたい。

一つゲームをしないか?」

「どのようなゲームです」

「それぞれに紙を渡す、

そこに100までの数字を書いてくれ。

俺が書いた数字に近いものから順に席を選ぶ権利を与える」

 アデーレは数字を書いた紙を封筒にいれる。

 皆は数字を書き見せる。

 お互いに数字を確認しあい、封じた数字を公開する。

「おめでとう、君と同じ数値だ」

 リザラズは偶然にもアデーレと同じ44を書いたのだった。

 4は縁起の悪い数字で死を連想させ嫌われ被ることが少ないと読んだ。

 丁度半分の50に近いと言うことで選んだ数字である。

「側にずっと居たのです、これぐらいは当たって当然です」

 リザラズは一番遠い席に座る。

「なんでそこに座るんだ?」

「何時も側にいるので、今日は他の方に譲りたいと思いまして」

 リザラズがそんな優しい理由で行動することはない。

 手玉に取る必要がある人物が居るということだ。

 

 席が決まり、全員が座り終えても色々な要求がアデーレを悩ませた。

 彼らはアデーレから援助を受けるために取り繕っているだけだ。

 

「この争いで多くの孤児達が路頭に迷っています。

西の空き地に、彼らの生活を保証する施設を建てたいのです。

援助してくれませんか?」

 この話には裏があり費用を水増しし、その何割かを口利き料として懐に入れるのだ。

「それなら俺が建てよう」

「いえ、領主様の手を煩わせずとも、

資金だけ援助して頂ければ立派な物を作り上げて見せます」

「条件がある。

兵士として訓練して戦えるようにしてくれ」

「はい、それは勿論領主様の役に立てるように……」

 他にも井戸を掘りたいや、兵士の寮が老朽化したので建て替えたい等……。

 直接借金を返すために援助してもらう事を選ばないのは彼らの誇りと見栄からである。

「解った解った……」


 全員の要望を聞き入れアデーレが開放されたのは深夜の事だ。

 解散した後、大量の書類が机の上に置かれていた。

 リザラズはアデーレの側に立つ。

「書類は私の方で処理します。

ごゆっくりお休み下さい」

「贔屓すると、不満が出るだろう。

他の者にも何か釣り合うように頼む」

「解りました」

 



 次の日、ノームのヴァニアがアデーレの元に訪れた。

 ラミアの一件があったにも関わらず部外者を招いれたのは、ノームは中立で何処にも所属しないと思われているからだった。

「領主様、あの解毒薬は偽物でした。

あの女は魔物です。

お気をつけ下さい」

 既に正体を現し撃退した後だ。

 意味のない情報だがアデーレは微笑む。

「それは良い情報だ。

それで何の毒を消したいんだ?」

「……解りません。

とても苦しんでいます」

「ここにはエルフの薬師がいる。

解毒出来るか解らないが……」

「この生命を捧げます。

どうかお救いください」

 



 エルフの薬師エドアルドは、アデーレと共に各地を転々としている。

 広い世界を見ることが彼の夢だったからだ。

 その傍らエルフの調合技術を活かし薬師として振る舞っている。

「サソリの毒は、魔気を含んでいてとても凶悪性を持っています。

体内に入ると神経を麻痺させて動けなくし、じわじわと侵食しやがて死に至ります」

「助からないのですか?」

「体の殆どが紫色に変色していたら、もう手遅れです。

一部だけなら、吸血草で吸い出せば……」

「それを下さい」

「これは僕が魔法で制御しなければ、全ての血を吸い尽くして死んでしまう。

だから一緒に連れて行って欲しい」

「魔物に占領されています。

連れていけば殺されてしまう」

「カメレオンロープがあります。

姿を消せる魔法の品です」

 エドアルドは、それを羽織ると姿が見えづらくなった。

 辺りの風景に合わせて色が変化するだけで、透明になるわけではない。



 少し離れた場所、岩が転がるだけの荒れ地だ。

 ヴァニアは岩に手を触れる。

「転送の魔法が掛けてあります。

真似をして」

 幾つかの岩に手を触れると、突然ヴァニアの姿が消えた。

 ノームの村へ転送されたのだ。

 

 そこは地下深くで、薄暗い場所だ。

 巨大な茸が地面から生えており、それをくり抜き家として住んでいる。

 茸は種類が豊富で様々な形や色がある。

 青白く光る茸が特に多く、あちらこちらに生えている。


 動く影がみえる。

 山羊のような頭で背に黒い翼を生やした魔人バフォメットが彷徨いていた。

「僕達はあまり出歩くことを禁止されています。

だから見つからないように家に戻ります」

 茸の影に隠れながら、ヴァニアは家に辿り着く。

 魔物は数匹だけのように見える。

「戦わないのですか?」

「あの魔物は、巨大サソリやミイラを召喚する。

とても勝ち目はないよ」


 敷草の上で苦しそうに寝ているノームが居る。

 全身汗をかき、濡れている。

 足が黒く染まり腫れていた。

「少し傷を付けて種を植え付けます」

「それで助かるのか?」

「たっぷりの水を飲ませて下さい。

干からびるとミイラになってしまいます」

 ナイフで軽く切るが神経が麻痺しているために反応はない。

 そこに種を入れると、種は急激に成長を初めた。

 蔓草のような葉をしげせら蔓が巻き付くように足を覆う。

 やがて花が開き赤黒い果実が実り始めた。

「美味しそうな実がなっている。

どんな味がするの?」

「これは猛毒、サソリの毒が溜まっています」

 エドアルドは果実を取ると矢を突き刺す。

 弓を構え、その矢を放った。


 矢はバフォメットの首を貫く。

 魔法を詠唱する余裕もなく、体に毒が回り倒れた。

「なんて事を村が滅びる」

「任せて下さい、これでも弓は得意なんです」

 エドアルドはこっそり隠れつつ矢を放ち、確実に仕留めて気づかれること無く全滅させたのだった。

「それぐらいは僕達でも出来ます。

逆らった村はサンドワームによって滅ぼされています」

「全員を逃がす必要がありますね。

直ぐに準備をして下さい」

 ヴァニアはムッとして口を膨らませ直ぐに逃げる準備を初めた。

 


 家に戻ると吸血草は虹色の果実を実らせていた。

「どうやら毒は吸い出せたようですね。

後は傷薬を塗っておけば回復するはずです」

 エドアルドが吸血草に触れると簡単に抜けた。

 根を張っていた穴から血が吹き出す。

 傷薬を塗り癒やしの魔法を掛けると出血が止まった。

 足は赤く腫れているが、黒さは無くなっていた。


「これで安心ですね」

 ヴァニアは顔色が悪い。

「ごめんなさい。

村の皆を説得できなかった」

 村の住人は魔物に従うことを選んだ。

 二人は拘束され、魔物の住処へと連れて行かれた。



 岩を削って作られた神殿跡だ。

 太陽の神を祀っていたが、魔物に占領されて以来誰も訪れることはなく放置されいる。

 柱の一部が崩れ何時崩壊しても不思議ではない状態だ。

 祭壇に寝そべるライオンの体を持ち背に鷹の翼、尻尾は蛇のスフィンクスは笑みを浮かべる。

「エルフの肉は美味しいと聞く」

「そのまえに山羊の肉をご馳走してあげる」

 スフィンクスは笑い出すと床に魔法陣が現れ輝く。

 エドアルドが撃退したと思っていたバフォメットがそこから現れる。

 首に刺さっていた矢を抜き、エドアルドの足元に放り投げた。

 間違いなく彼が放った矢だ。

「さて手始めに、ノームは皆殺しにしてやろうか」

「何の対策もないと思いですか?

気づいていてあえて見逃しているのなら、

それは奢りです」

「お得意のハッタリか?」

 

 世界樹装置ユグドラルシルはエルフを守る為に作られた物だ。

 当然、エドアルドは守られる対象だ。

 神殿に自動鎧オートマタが入り込む。


 

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