第13話 毒とか状態異常食らったらリセットしたくなるよね
ドワーフの街は激戦となった。
大量の氷狼がなだれ込んだのだ。
少年が配備した兵士達は盾を道いっぱいに並べ壁を作り迫りくる氷狼を阻む。
「完全に封鎖しないようにハの字して誘い込むんだ」
少年の指示で兵士は斜めに盾を並べ構えた。
氷狼は空いた中央を突破すべく走り抜ける。
そこに待っていた兵士が槍を突き立てた。
横から槍が突き刺さり氷狼は一撃で砕け散る。
狼の形をした氷の塊に過ぎない。
脆く簡単に崩れる。
氷狼の怖さは砕け散っても再び氷が集まり復元することだ。
少年は砕けた氷が動き集まっていることに気づく。
様子を見ていたドワーフは咄嗟に側にあった配管から湯を地面にばら撒いた。
「こいつらは熱を浴びせないと倒せないぞ」
「情報ありがとう」
街に居るドワーフは少年達を一応は歓迎しているようだ。
「なーに、これぐらい紳士の嗜みだ」
少年は焦れったさを感じつつ指示をだし防衛に徹する。
自分が戦っほうが遥かに優勢に戦えると思いつつも兵の配置を考えつつ街を守っていた。
伝令に伝えると兵士が動く、全体を把握してなければこの戦いは勝利出来ない。
「俺が全部指揮していたら間に合わないな。
小隊長を決める、小隊長の判断で動くように」
少年は適当に決めていく。
それは奴隷とか能力に関係ない、ただの気まぐれだ。
「何故あのような奴隷を小隊長にするのですか?」
初めから一緒に来ていた騎士達が怒り出すのは無理もない話だ。
少年は笑うという。
「戦いで最も必要な能力は運だ。
運のない奴は勝利出来る状況でも負ける」
「納得できません。
何故彼らが運が良いと言えるのです」
「君が有能だと言うのならどんな環境下に置かれても、
状況を覆し成果をだせるだろう?」
唐突な作戦の変更は足並みを崩す事になる。
氷狼に守りを突破される事になった。
指揮系統は崩れ混乱し守りは総崩れであった。
少年は混乱に紛れて剣を取った。
「兵を動かすのは俺の性に合わない。
さて、これまでのうっぷんを晴らそうか」
少年は剣を振るう。
ドワーフが鍛えた蒼銀の剣は鋼鉄よりも固く棒きれのように軽い。
「これは良い性能の剣だ」
無数の氷狼が一斉に少年に飛びかかる。
少年は舞うように回転し剣を振るった。
全ての攻撃を躱し、反撃の刃を入れる。
芸術的な動きで、その様子を見ていたドワーフが思わず拍手する程だ。
「おっと、料金を払っていなかったな」
「その剣はお前さんにやる。
随分と設けさせてもらったからサービスだ」
「それは有り難い」
少年は街の中を駆け巡り、氷狼を切り倒した。
鎧に乗り戦うよりも疲労感が凄まじく、少年はすぐに息切れした。
「ちっ、生身だと体力制限がきついな。
だからといって鍛え上げて筋肉ムキムキになるのはどうもな……。
程々がいい」
少年は近くの家の中に身を隠し様子を見る。
氷狼は何かを探しいているかのように辺りを見て回っている。
少年はこっそり後を付けていく。
氷狼は酒蔵へと入って行った。
「トロールといい、魔物は酒が好きなのか?」
少年は酒蔵を覗くと、氷狼は牙から液をたらし酒樽に入れている。
「まさか毒か?」
少年は直ぐに氷狼を叩き切り、湯の中へ落とす。
少年はドワーフを集め、見たことを知らせた。
「がっはは、魔物が酒樽に毒を仕込んだだって。
あれにそんな知能があるはずかない」
「何かを入れていたのは間違いない。
飲むのは危険だ」
「なーに心配するな。
ドワーフの胃袋は猛毒でも破れたりはしない」
ドワーフは笑い、その酒を飲み始めた。
暫くするとそのドワーフの顔色が真っ青になり振るえ始めた。
「だから言っただろう、毒消しはないのか?」
「こいつは毒じゃない。
呪詛だろう、氷付きやがて肉体が氷狼となってしまう」
「何だって……助ける方法は無いのか?」
「無理だ、せめて体を燃やして氷狼になる前に殺すしか無い」
魔物の攻撃は収まり街を守り切れた。
だが酒が飲めないと解ったドワーフ達は落ち込み戦意を無くしていた。
少年は拠点に戻り湯を飲んでいた。
「次に襲われたら街が滅ぶかもしないな」
メイド長のリザラズは少年に仁王立ちする。
「領主様、勝手に持ち場を離れ敵と交戦していたそうですね」
「あの状況では仕方なかったんだ」
「貴方が死んだら配下の者が路頭に迷う事になります。
領主としての自覚を持って下さい」
「それで俺達の状況はどうなっている?」
「街の防衛に協力したことで、ドワーフから幾つかのお礼の品を頂いています。
酒は王国の方から取り寄せていますが、これは一週間後に到着する見込みです」
「あのドワーフが一週間も酒を我慢できると思うか?」
「いいえ、城型鎧に格納されていた酒が残っていたので、少量ですが与えてあります」
「少量って瓶一つか?」
「まさか10樽程です」
「それで少量なのかドワーフは恐ろしいな」
「奴隷の処分はどのようにされますか?」
「領地に移住させてくれ、こんな場所で戦い続けるのも酷だろう」
竜人というからには物凄く強いと思っていたが、少年が知る限りではジンティを除いて目立った強さを感じなかった。
力を隠しているのか、戦い方が合わないのか解らない。
あまり役に立つ人材ではないと思ったのだ。
「ここでの経費がかさんでいます、そろそろ帰路についても良いと思います」
「俺の直感では大物がここにやって来る。
それを討ち取ったら帰るつもりだ」
「既に白ワニを討ち取っています」
「あんな雑魚じゃない、もっと恐ろしい奴だ」
「賞金2万金貨の魔物が雑魚と言うのですか?」
「アレはそんな賞金が掛かっていたのか。
まあいい、其れよりも遥かに大物がくる」
少年の直感は当たるとカミラが良く言っていた。
リザラズは遺言を記し、領地に行く奴隷に託す。
少年と一緒に最後を迎える覚悟だった。
街ではドワーフが突然死する異変が起きていた。
酒だけではなく食料にも毒が仕込まれていた。
突然苦しみ、痙攣し息絶えるのだ。
「既に百人以上もの被害者が出ているようです。
肉料理に気をつけるようにとドワーフが言っています」
乾燥させた干し肉をドワーフは食べている。
ファンタジーゲーに出てくる干し肉は固くて不味いと少年は思っていて食べることはなかった。
「食料が毒に汚染されてないか調べてから食べる用にしよう」
「それはどのような方法で?」
「えっ……、銀の食器を使えば、毒に反応して濁る。
其れよりも確実に解る方法があるなら任せる」
少年は何かのゲームでそんな情報を見たのだ。
其れが事実なのかその世界だけの空想なのかは解らない。
「解りました、銀の食器を用意しましょう」
少年はメイド長と一緒に居ると何か威圧感を感じて良い気がしない。
「えっと鎧を見に行きたい」
「それで又戦うつもりですか?
そのような危険なことは騎士に任せれば良いのです」
「解った鎧に乗れる騎士を連れてきてくれ」
「……居ません。
先日の戦いで負傷し鎧乗りは奴隷のジンティだけです」
「ジンティに任せよう」
「彼女だけ領地への移動は取りやめるのですね?」
「彼女は怒るかな?」
「それは間違いなく怒るでしょう」
「それなら俺が乗るしか無い」
「では私が操作します」
「メイド長が?」
「はい、私はこれでも貴族の出身で訓練はしています」
貴族は家督を受け継ぐのは長男長女だけである。
後は少しばかりの金を渡して家を追い出される。
彼女は四女でメイドと言う道を選んだ。
「メイド服を着た鎧を用意しないとな」
少年は冗談で言ったつもりだったが真に受けて彼女はメイド服装備の鎧を造らせた。
数日後、それは完成し少年の前に立つ。
鎧技師ケルスティンは自慢げに言う。
「このひらひら感を再現するのに苦労しましたが、
ドワーフの技術で見事にスカートの質感を金属で出しました」
「これはゴスロリ鎧だな」
「いいえ、メイド専用鎧です。
装備も戦箒に、戦塵取り、戦はたきに、戦デッキブラシと多彩です」
「何でも戦をつければ良いってものじゃないけど。
まあ面白い装備で案外強いかもな」
リザラズはそれを見て顔を真赤にして怒った。
「まともな武器を付けて下さい。
掃除道具で戦うなんて非常識です」
「領主様は理解してくれたようですが、
やはり凡人にはこの武器の素晴らしさが解らないようですね。
解りましたフレイルを装備させます」
棒の先に鎖を付けた棘の生えた鉄球が付いた武器だ。
メイド型鎧はパワー重視で設計されているらしく、超重量で一歩一歩が遅い。
ずっしりと歩く、一歩前に進むと一旦止まる。
「戦乙女よりも遅くないか?」
「緑金を多用してかなりの重量となってしまい、
素早く動かすのは困難になってしまいました」
人の足でも数分ですむ道のりの街の外にたどり着くまでに半日を要する程だ。
「……移動用に別の鎧に乗せて運用しないと全く使えないな」
「やはり遅すぎましたね。
今の技術では緑金を多用するのは難しいようです」
「装備する形で外装を交換できたら、状況に応じて……」
「其れは良い案ですね。
服を着替えるように鎧の外装を変更する。
ああ閃きました。
領主様、直ぐに試作品を作ります」
「資金は何処から……?」
「真空板が売れなくなって、
領主様が言っていた魔法瓶を作ったらドワーフに大好評でした。
その技術と引き換えに……」
城鎧の残骸を溶かして材料にしたりと工夫しているようだ。
「借りたりしてないよな?」
「えっと数千金貨ほど……。
領主様、一年以内に払えないと奴隷にされてしまいます」
「済まないが俺にはそんな大金は用意できない」
「解っています。
これは私の責任で全て返済します」
「まずは壊れた戦乙女を修復してくれ、かなり損傷して溶けてしまったが、
あの鎧が一番使いやすい」
「それは改修してメイド型にしてしまいました」
「あの鎧か……、今あるのはモグラ型鎧だけか?」
「そのモグラ型鎧は売り払ってしまって、あのメイド型だけしか残っていません」
少年は笑い出した。
その夜、フェンリルの襲撃が行われた。
自らを複数に分裂させ群れで向かったのだ。
その行手をメイド鎧が阻む。
メイド鎧は背に掃除道具のような武装を付けフレイルを片手に持っている。
デザインの愛くるしさと相まって異様な雰囲気が出ていた。
「此処から先は一歩も通しません。
わたくしリザラズが相手しさしあげます」
丁重にメイド鎧はお辞儀をしてフレイルを構えた。
フレイルをぶん回し、鉄球が周囲を高速で回る。
フェンリルの分身体の一つがその鉄球に直撃し粉砕された。
「巨人族が裏切ったのか……、まあいい凍てつく寒さで凍りつくが良い」
フェンリルの放つ息は冷たく、声ですら凍るという。
メイド鎧は避けることもなく鉄球をぶん回している。
フェンリルは不敵に笑い勝利の気分に浸っていた。
「くくくっ、足が凍り動けまい。
そのまま全身も凍りつけ」
「領主様の直感も外れるものですね。
大物が来ると聞いて覚悟していたのですが、全くの見当外れです」
メイド鎧がゆっくり一歩進む。
フェンリルはあまりにゆっくり動くメイド鎧から間合いを取り、吐息から氷狼を生み出し放った。
無数の氷狼がメイド鎧に噛み付く。
それを物ともせず歩み続ける。
「何だアレは……、全く止まる気配がない」
「このフレイルは使いにくい……。
他の武器は……箒で我慢するしか無いようね」
フレイルを捨て箒に持ち替える。
そのバカにしたような姿にフェンリルは怒りを覚えた。
メイド鎧は箒を両手剣を持つように構える。
フェンリルはメイド鎧の背後に周り首筋を狙い飛びかかった。
足の遅さからは想像もつかないほど素早く上半身が動き、フェンリルの頭部に戦箒を叩き込んだ。
鈍い音共に砕けフェンリルは霧状になり消滅した。
分裂していたとは言え、それはエルダードラゴンを遥かに超える力を持っている。
それをたったの一撃で葬り去ったのだ。
「なるほどな……、こいつがあの白ワニを殺ったのか。
其れならば納得できる強さだ。
見かけだけで判断したのが間違いだ」
フェンリルは魔王に剣を振るった時の事を思い出していた。
骨だけしかない弱々しい存在だと思った。
だから一撃で勝てると信じて疑わなかった。
結果は魂を抜き取られ、こんな狼の姿にされてこき使われている。
残った分身体は一つに集まり巨大な狼に戻った。
体を氷の鎧で纏いフェンリルは全力でメイド鎧に向かった。
メイド鎧は真横にフルスイングしフェンリルの顎を直撃させた。
氷の鎧は砕けたが顎を砕くには至らない。
フェンリルは勝利を確信しメイド鎧の顔に噛み付く。
軋む音が響く。
鋭い牙がメイド鎧の首を引きちぎる。
「領主様から頂いた、私の鎧を壊しましたね。
これは万死に値することです」
リザラズは本当は騎士となり鎧に乗りたかったと言う願望を持っていた。
四女ということも有り、高価な鎧を手に入れる事はできないと諦め騎士の側につくことで鎧を近くで見られるとメイドになったのだ。
見た目こそアレだが初めて手に入れた自分の鎧を破壊されたのだ。
並の騎士なら戦意を喪失し逃げ出す所だが恐怖より怒りが勝った。
首がなくなったメイド鎧は戦はたきを手に取り振るった。
それがただの飾りではないことをリザラズは知る。
魔法道具と呼ばれる魔気があれば半永久的に魔法が使える品がある。
はたきには光る塵を飛ばす魔法が掛けられていた。
光る塵は物質に当たると爆発を起こす。
はたきを振るだけで辺り一面が爆発した。
フェンリルの氷の鎧は爆発で砕け散った。
氷の鎧が砕けただけで本体にはダメージがない。
「まだ他にも武装がある!」
デッキブラシを手に取り叩き込む。
ブラシの部分は鋭いトゲとなっており、魔物を硬直させる毒が塗られていた。
フェンリルの肩にその棘が食い込む。
フェンリルは体を分裂させ逃げようとしたが、毒の影響で分裂した部分が崩れ落ちる。
「ぐはっ……、貴様も道ちずれにしてやる」
フェンリルは口から血を吐きつつも
リザラズの首に紫の蛇ような
その蛇が首の周りを一周するほどに成長すれば首が絞まり死に至る。
じわじわと殺す恐ろしい呪いだ。
「私はただのメイド長ですよ。
道連れにする相手を間違えましたね」
フェンリルの肉体は崩壊し魔気へと変わっていった。
その頃、少年の領地で魔物が大量に現れると言う怪現象が起きていた。
騎士カミラは戦いに明け暮れていた。
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