第12話 敵側の話を聞いてどうするの?って感じ
唐突に始まる魔王の話し。
いや、フェンリルとの戦いはどうした?と思いだろう。
まあ聞いてくれ。
魔王の誕生は古代に遡る。
世界を一つにしようと夢見た男が居た。
彼は皇帝となり世界の半分を手中に収めた。
その時既に70歳を超えており、病を患い皮と骨のような体にやせ細っていた。
「この世には不死の魔法があると聞く、
東の果てにあり仙人と呼ばれる者が霧を食い数百年と生きているという」
「必ずや見つけて参ります」
皇帝の家臣達は伝説の地を探し求めた。
だが帝国より東は広大な海が広がり、仙人が住むという島が見つかることはなかった。
今皇帝が倒れれば、世界は再び割れ戦乱の世に戻る。
圧倒的な力を持つ男達を束ねている皇帝の力があって初めて帝国は一つになっているのだ。
皇帝の座を狙う家臣が居た。
その男はフェンリルという名の男で、強靭な肉体と頭脳を持ち人望も厚い。
「この水銀を飲めば、不老不死の体となれます」
液体状の金属で、それは有毒で飲むと体を蝕む。
皇帝は彼の言葉を信じ少量ずつ飲んでいた。
その結果がやせ細った体なのだ。
本来は毒の水銀に少量の異物が混じっていた。
皇帝の体内にそれは蓄積されていった。
「……老いというものは恐ろしい。
気がつけば数日が過ぎている。
後少しで世界を一つに出来ると言うのに……」
「世界を一つに出来れば争いのない平和な世となりましょう」
「ああ、もう戦いで友を失いたくはない」
皇帝は冷徹で恐ろしい存在だと知られている。
信頼できる家臣は皇帝が優しい男だと知っていた。
だから信頼し付いてきていたのだ。
力を振るい恐怖だけで束ねていれば衰えた今、力によってその座を奪われていただろう。
フェンリルは邪悪な思想を持っていた。
皇帝を殺し、その権力を我が手にし絶対的な力で支配しようと企んでいる。
急速に弱っていく皇帝を見て、後少しだと心の中で笑っていた。
黒いローブにフードを被り仮面を付けた者が現れる。
「皇帝様が不死の秘術を求めていると聞きやってまりました」
声が高く女だとすぐに分かった。
「貴様は何者だ。
その仮面を取り素顔を見せよ」
「この顔は焼けただれております。
このような醜い顔を晒したくは有りません」
「顔に傷があるものも居るが、隠さずにいる。
貴様だけ特別扱いはできない」
女は周りをみて、仮面を外した。
顔半分が火傷で赤く腫れ上がっている。
残った顔は若く整って美しい、もし火傷がなければ相当の美女だっただろう。
直ぐに仮面を付ける。
「顔の確認は出来たでしょう。
これ以上は誰にも見られたくは有りません」
「良かろう。
それで不死の秘術とは?」
「人とそこにある椅子との違いはなにかご存知ですか?」
「何を椅子は道具だ。
それを同等の物と考えることはない」
「ええ、そうです。
その椅子は生きていますか?」
「何を言う、生きている椅子など見たことはない」
「どうして生きていないと言えるのです?
私はその答えとして魂を持っているかどうかだと考えています」
「それが不死とどう関係する」
「魂を失った人は死体となり、その椅子と同じように動くことは有りません。
つまり魂を肉体に留めることが出来れば何時までも生き続けられると言うことです」
「なっ……、そのような事が可能なのか?」
「はい、人の魂を抜き取る呪術を会得しました。
その習得は苛烈を極めこの顔を焼く事になりました」
女の言葉は巧みで初めは全く信じて居なかった家臣達も徐々に信用するようになっていった。
フェンリルは疑っていたが、もし事実とすれば皇帝が不死となり永遠に自らが皇帝に成ることはないと危機感を抱いた。
フェンリルは挑発するように女に言う。
「その呪術とやらを是非見てみたい。
不死となった者が本当に死なないのか試したい」
「解りました。
では貴方が呪術を受けますか?」
「いや、自ら不死の秘術を使ってみせよ。
それで本当に不死ならば信用する」
「この顔で永遠に生きろと申すのですか?
永遠の美貌を手にするために不死の秘術を会得しようとして、
その代償に醜い顔となったのです。
これは欲に溺れた己の罪だと思い、この力をもっと役に立つ事に使おうと……」
「御託はいい、では誰か不死となりたいものは居るか?」
皇帝より先に不死になる事が許されるのかと家臣達は戸惑っていた。
信用しないものはひどい目に合う事を予期し誰も不死になることを希望しなかった。
フェンリルはこの状況に喜んだ。
寝ていた皇帝は起き上がり玉座につくと言う。
「不死の呪術か、まあ良い試してみよ」
「皇帝陛下、このような怪しげな者を信用なさるのですか?」
「何もせずに死をただ待つより、
可能性に賭けて見るのも悪くはない」
女は皇帝に呪術を施す。
皇帝の体内に蓄積された魔気が女の操る呪術をより上位の魔法へと進化させた。
肉体を固定し魂を定着させるだけの術が、肉体を変貌させ魂そのものも変化しのだ。
皇帝の肉体は完全な骨となる。
「貴様、皇帝を殺したな!」
フェンリルは女を切りつけた。
女は肩から背を袈裟懸けにされ、血を吹き出し倒れた。
その血は皇帝に降りかかる。
フェンリルは振り返り皆に見えるように剣を高々と上げて叫んだ。
「皇帝を殺した暗殺者を討ち取った。
俺が仇を取った」
次の皇帝の座は自分のものだと確信していた。
だが背後から声が聞こえ振り返る。
「フェンリルよ。
不死の秘術はまだ途中だったのかも知れぬぞ。
この体を見てそうは思わないか?」
皇帝は骨となって動いていた。
「ば、化け物……」
「そう見えるか」
フェンリルは剣を骨となった皇帝に向ける。
「貴方はもう皇帝ではない。
骨となった化け物だ」
フェンリルは剣を振り上げ、頭蓋骨を目掛けて懇親の一撃を振り下ろす。
皇帝は指先で、その剣を止めた。
「不死となった我に歯向かうのか?
感じるぞお前の魂が何処にあるのか」
皇帝はフェンリルの心臓を目掛けて手を突き出す。
それは体を貫通し掴み取った。
青い火の玉となって皇帝の手に収まっていた。
「お前は我の番犬となり働いてもらうぞ」
皇帝が息を吹きかけると魂の炎が消え凍りつく。
皇帝は凍った魂を床に放り投げた。
乾いた音と共に転がり、形が変化していく。
丸い塊だったのが狼の姿へと変わっていた。
周りで見ていた家臣達は一斉に逃げ出す。
「うわぁぁ、皇帝が化け物にされた」
皇帝は体の調子を確かめるべく動く、人間だった頃よりも素早く力強い。
逃げる家臣を背後から手を突き刺し魂を抜き取っていく。
魂を変質させ魔物へと変えていった。
「醜い姿だ、これが我に使えていた者の本性か。
実に醜悪だ」
「あれは皇帝ではない人々を魔物に変える魔王だ」
「……魔王か、それも良い響きだ。
我に尽くすなら、人間を越える肉体を与えよう」
皇帝に仕えていた兵士達は魔王に挑み死んでいった。
魔王は世界を支配する夢を叶えるために魔物の軍勢を作り出していった。
人々を殺し魔物へ作り変え放ったのだ。
フェンリルは人々の魂を食らうことで、氷を纏う巨大な狼となった。
「俺は魔王以上となり、頂点に立つ……」
真っ先に目をつけたのはドワーフの国だ。
幾度と帝国との戦争でフェンリルの前に立ちはだかった強敵だ。
数度の侵攻にも耐えた難攻不落の要塞に守られいる。
誰にもなし得なかった事を遂げる事で実力を示せると考えた。
ドワーフは強敵でフェンリルの戦略はことごとく失敗に終わる。
大量の氷狼を放ち攻め込んだのだ。
自らも先陣を切り要所を攻めた。
だがドワーフは身の危険が迫ると撤退し、有利な場所に誘い込み戦った。
追い込み勝っていると思っていたフェンリルは周りに味方がいなくなり孤立していることに気づく。
「俺に付いてきているものが居ない……」
信頼できる仲間を同じ氷狼と変え共に戦おうと誓ったのだ。
それが居ないのだ。
フェンリルは悲しみに吠えた。
孤独感が燃え上がる闘志を冷めさせ凍らせた。
孤独となったフェンリルは辺り一面を氷の世界に変えた。
それは暴走した魔法による影響だ。
時は流れ数百年、フェンリルとドワーフの戦いは続いていた。
徐々にドワーフは数を減らしフェンリルは力を増して行った。
「時は来た、今こそドワーフ共を滅ぼす時だ!」
凍りついた彼の思考は、未だにドワーフが強敵であると認識していたのだ。
既にドワーフの勢力は弱まり他の国の方が脅威となっている。
魔王がドワーフを狙わないのは別の脅威に目を向けているからに過ぎない。
フェンリルは膨大な数のドワーフを殺し、その魂を氷狼へと変え兵としたのである。
数千という氷狼が街へと迫る。
ドワーフ達は斧と盾を持ち突撃する。
氷狼とドワーフが打つかり、激戦が広がっていた。
「うおぉぉぉ、街を守れ!」
ドワーフの士気は高い。
蒼銀を大量に手に入れたことで装備が軽く丈夫になっていた。
重みを好むドワーフは緑金を混ぜ、驚異的な鋭さを持つ斧を作り出し振るっている。
新しい武器を手に入れ、それを使う機会に恵まれたのだ。
これを楽しまない者は居ない。
フェンリルにとって誤算なのは少年がやって来たことだろう。
街に戻る途中だった少年は激戦に気づく。
「この鎧で戦うのは厳しいだろう。
正面のドリルぐらいしかまともな武装はない」
「雇った傭兵が100人います。
鎧に頼らずとも戦えるでしょう」
「……そうだな。
俺について来い!」
モグラ型鎧の後を追うようにドワーフ傭兵団が付いてくる。
雪を掻き分け進まないといけない所を平らにならし歩けるようになっている分、体力の温存に成る。
鎧からでは余り戦場は見えないが、偶然少年が移動した場所は敵の背後を取ることになった。
氷狼は前後を挟み撃ちにされる形となり混乱した。
「突撃して、敵を打ち倒せ。
最も戦果を上げた者には樽一杯の酒をおごるぞ」
「うおぉぉぉ……」
ドワーフは酒と聞き士気が上がった。
ケルスティンは少年の言葉に顔を真っ青にした。
「あの軍資金は、あの城鎧で全て使い果たしました」
「大物を狩って資金に変える。
街に戻って準備だ」
通貨は基本的に国が発行したものが使われる。
少年は領主権限を使い地域通貨を発行し領地内で使用出来るようにしていた。
支払いの多くはそれで行われ資金の少ない少年でも経済を回すことが出来ていた。
そんな裏技みたいな方法はここでは使えない。
ドワーフ国が発行しているドワーフの金で支払う必要がある。
持ってきた蒼銀は必要な分をドワーフ金貨に変え、全て知識と交換した後である。
残っているものと言えば買い取った奴隷と残っている鎧に残骸だけだ。
「魔物の部位は王国と違い、ドワーフ国では余り価値がありません。
ドワーフの多くは戦士であり戦って簡単に得られるからです」
「だから誰も倒せない大物を狙うんだ」
「言いにくいのですが、魔物討伐の賞金は全てドワーフ傭兵団の取り分として契約をしています」
「彼らに頼らずに倒せばいいだけだ」
少年は防寒対策に毛皮の帽子をかぶり、動きにくい厚手の革鎧を身に着けた。
メイド長のリザラズが用意したものだ。
「動きづらい……」
「生身で戦うことは許しません。
ですから後方で指揮をとって下さい」
「解った、それでちゃんと訓練は出来たのか?」
「はい、鍛え上げて立派な兵士となっています」
竜人達のもつ装備は槍と盾だけだ。
厚手の服に、皮の胸当てと軽装備だ。
「あの猛吹雪の中をその大きな方形の盾を持って移動するのか?」
「王国兵士は盾で互いを守り戦います。
相手の攻撃を防ぎつつ反撃で敵を倒します」
少年は唖然とした。
ドワーフの戦士達がそんな武装を持っていない事に、この兵士達は理解できないのだろう。
ドワーフが持っているのは小回りの効く手斧で、片手で振り回せるものだ。
盾は円形で革製となっており軽く丈夫で顔を守るぐらいしか出来ない小型のものだ。
吹雪の中を体より大きな盾を持って移動するのはきつい。
浮き荒れる風と積もった雪に阻まれる事は確実だ。
「街の中、大通りを守ってくれ」
「敵は街の外にいます。
何故そのような場所を守るのですか?」
「正面を突破されたら、大通りに入ってくるからだ。
そうなったら配管が破壊されてしまう」
街全体に張り巡らせてある配管の中には湯が流れている。
外に比べ街の中は暖かく過ごせるようになっているのだ。
「領主様の考えは解らない。
しかし守れと言うので有れば守ります」
少年は単にこの兵士達が使えないと判断しただけだ。
大勢よりも精鋭を送り込んだほうが勝算があると考えた。
少年はジンティに剣と円形の盾を渡す。
「君は火の魔法が使えるから、遊撃を任せる。
街の外で戦ってきてくれ」
ジンティは少年を睨む。
鱗鎧の魔法を見せてしまった事を彼女は後悔していた。
「死に行けというのですか?」
「ドワーフ達が戦っている。
それに紛れて暴れれば良いだけだ」
「女に戦わせて自分は温々とここで待機するのですね」
ジンティは街を出てドワーフ達の戦いに紛れ込む。
フェンリルは次の作戦へと駒を進めた。
街の外で戦っている魔物を囮にし、別働隊を送り込んだのだ。
大量の氷狼が街へとなだれ込む。
ドワーフ達が戦いに勝利し戻って来た時には街は氷の世界に変わっている。
それがフェンリルの狙いである。
「勝ったぞ、ドワーフは今日滅ぶ」
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