第24話 現実はリセットボタンでリセット出来ないよ。

 巨大な動く木トレントは少年の乗る黒騎士鎧を踏みつようと足を上げた。

「走っても間に合わないだとすれば、

受け止めるしか無い」

 両手を上げ迫りくる巨大な根のような足を掴む。

 鎧は軋み重みで地面にめり込んでいく。

「俺の思いは、こんなでかいだけの木なんかにやられたくはない。

最高のロマンを詰め込んだんだ。

最も強く格好いい、だから負けない」

 黒騎士鎧は少年に答えるべく曲がり掛けていた腕を伸ばした。

 トレントの全体重が乗っていると言うのに微動だりしない。

「うおおおぉぉぉ」

 少年はは叫び、右手を下ろし力を貯めた。

 どこにそんな力があったというのか片手で支えている。

「これがお返しだ」

 拳がトレントの足を直撃する。

 それは渦巻く衝撃波となり足を切り裂き丸い穴を開けた。

 一点に支えられた足だ、そこから亀裂が入ると耐えきれず折れた。

 体制を崩し倒れ掛けたが、根を伸ばし耐えた。

 黒騎士鎧はその根を掴みよじ登る。


 それを阻もうと小さな根が生え絡みつこうとする。

 無数の根が迫り黒騎士鎧は手刀で切り裂き進んで行った。


 木の根を登り幹へとたどり着く。

 再び拳を叩き込むと壁が崩れ、内部の空間が見えた。

 鎧でも入れるほど広い通路が続いている。

「これも蛇鎧と同じで中身がスカスカなんだな。

それなら中枢に行って破壊すれば止まるか?」

 無意味に破壊をしても消耗するだけだ。


 通路は緩やかな螺旋状になっていて上に続いている。

 少年は内部に色々な施設があることに気づく。

 瓶の中で液体に浸かっているエルフが居る。

「これは一体……」

 どこからともなく声が聞こえる。

「エルフの培養室です。

エルフの繁殖能力は殆どなく出産数は10年で1人までに低下しました。

種の存続のために……」

「そんな大切な物を犠牲にしてまで俺達を殺そうというのか?

愚かだな」

「脅威は排除しなければなりません」

 上から降りてきたエルフ達が黒騎士鎧の前に現れる。

 矢を構え一斉に矢を放ってきた。

 鎧の装甲を貧弱な弓で貫けるはずもなく弾き飛ぶだけだ。

「操り人形で俺を止められると思うな」

 黒騎士鎧は壁を叩く。

 衝撃音でエルフの戦意は失せ逃げ出す。

 

 中階層ぐらいに差し掛かると大広間に出た。

 そこには石で出来た像が数体並び立っている。

 ゴーレムと呼ばるエルフの守護神である。

 中に誰も乗らない命令を聞く動く像だ。


 エルフの術師が命令すると動きだす。

 ゴーレムの動きは鈍く遅い。

 黒騎士鎧は拳を突き出しそれを砕いた。

「そんな……ゴーレムがこんな簡単に壊されるなんて」

 動揺するエルフの術師を黒騎士鎧は掴む。

「もう止めてくれれば壊す必要はない」

「……解りました。

止まりなさい」

 エルフの命令に反応を示さずゴーレムが襲ってくる。

 トレントによって動かされているのだろう。

 エルフの術士はただピエロだった。

「俺を信じてくれるなら、皆に逃げるように伝えてくれ」

 エルフを開放し、迫りるゴーレムに向かう。

 一発殴れば壊れ足止めにすらならない。

 少年は最後のゴーレムを殴り倒した時に気づく。

 想像以上に拳への負担が大きく砕け消滅した。


 再生することは出来ない。

 少年が魔法を使おうとしたが魔気が集まらず形成できなかった。

「封印じゃなく妨害されていたのか。

左の拳も後何回持つか解らないな」

 

 拍手する音が聞こえ、仮面を付けた女が姿を現す。

「ご主人様、お見事でした」

「リザラズ、こんな所にいたのか?」

「私はエルフを支配する存在と触れ、

全てを知りました」

 少年は鎧を降りリザラズの前に立つ。

「それで君の意思はどうなんだ?」

「私は貴方に使えるメイドです。

貴方に上に立ってほしいです」

「君の主は俺じゃないだろう?」

「トレント様の意識に触れれば貴方も心を動かされます」

「そうか案内してくれ、君が言うなら信じよう」

「その前に王者としてふさわしいのか、

試させて頂きます」

 リザラズは少年に剣を渡す。

 そして奥から、剣闘士ボヌフォワがやって来た。

「真剣勝負ということか?」

「ええ、命のやり取りをし生き残った者を新しい長老として向かいれます」

 ボヌフォワは全身が傷だらけだ。

 手に持つ剣はむき出しではこぼれしているのが見える。


 少年は受け取った剣を調べ細工が無いことを確認する。

「外は見れたか?」

「いいや、まだだ」

 ボヌフォワは剣を構える。

 片手で持ち出来るだけ相手から体を離すような格好だ。

 少年は脇構えで、両手で持ち後方斜めしたに剣を向ける格好で相手からは剣が見えない。

 

 ボヌフォワから見れば隙だらけの格好だ。

 彼は鋭い突きを繰り出し少年は下がりつつ間合いを維持する。

 今は牽制と言った所だ、大きく動いた時が少年の反撃の時だ。

 じりじりと押され少年の足に壊れたゴーレムが当たる。

 一瞬の反応をボヌフォワは見逃さず鋭い渾身の突きを出した。

 少年の頬をかすめる。

 下から振り上げる反撃の一撃を少年は繰り出し決めた。

 ボヌフォワの脇腹が切り裂かれた。

 彼は膝を付き手で抑えるが出血は止まらない。

「勝負あったな」

「はい。お見事です」

 リザラズは拍手を送り少年に近づく。

 少年は剣を振るい彼女の仮面を叩き切った。

 彼女を精神支配から特にはこれしか無いと思ったのだ。

「これはワルワラには内緒だぞ」

 少年はリザラズを引き寄せ、頬に口づけした。

 彼女は恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にする。

「あっわわ……、私を妾にするつもりですか?

ええ……えっとこういう時は愛していますでいいの?」

「正気に戻ったのなら、彼を手当してくれ」

「えっじゃあ、さっきのは?」

「お仕置きだ。

俺は一途だって知っているだろう?」

「唇じゃなくても、そういうのはんんっもう……」

 騎士ローゼマリーが支配を受けた時、過去の恨みを思い出す事で支配が解けた。

 エルフのペイジがキスをされて動揺したことを思い出し試したのだ。

 軽いキスで支配が解けるかは賭けみたいなものだった。


 リザラズは動揺し鼓動の高まりが抑えられないでいる。


 大きな揺れが起き、壁に穴が開くと蛇鎧が入ってきた。

「流石に逃げるわけにも行かないと思ってな。

それに彼女を1人にするな」

「丁度いい所に来てくれた。

二人を乗せて行ってくれ」

「アデーレも来い。

もう崩壊が始まっている」

「まだ、行く所がある」

 少年は黒騎士鎧に乗り込むと、追って婚約者ワルワラも乗り込んだ。

「あら、私と一緒に冒険をする予定だった事をお忘れですか?」

「悪いけど、これは1人乗りなんだ」

「そういう意地悪は私も好きです」

 ワルワラは少年の背後に周り抱きつく。

 彼女から甘いバラの香りがする。

「風呂に入ったのか?」

「これは香水です、水拭きだけでは汗の匂いがして嫌でしょう?」

「気が付かなくてごめん。

俺は汗でびっしょりだ」

 ワルワラは少年に甘い声で囁く。

「嫌なら、ここから出ています。

早くここから出て街に戻りましょう」



 黒騎士鎧は歩を進め最上階へと到達する。

 そこには木の束のような柱があり、その周りを囲むように椅子が置かれている。

 その椅子には干からびたエルフが座っていた。


 霧が立ち込め幻が映し出される。

 外敵となるものを隷属させ操り従順させ守らせる。

 外敵が居なく成ると、内部で権力争いが始まり争いは絶えずエルフに対してもそれが使われるようになっていった。

 不満を解消するための娯楽を与え、結束力を持たせるために敵を用意し……。

 全てはエルフが繁栄するために行われたこと。

 エルフの争いの歴史を見せられたのだ。

 

「これは何だ?」

 どこからともなく声が聞こえる。

「エルフの長老達の躯です。

自分達の知識をユグドラルシルに刻み込み永遠を生きようとした残骸。

貴方が倒したバジリスクが住む洞窟の下層に石版があります。

それを破壊しなさい」

「何のために?」

「ユグドラルシルを破壊する為です。

もはや暴走しエルフの民すら襲う化け物でしか無い」

「どうして教えてくれるんだ?」

「人間の憎しみがトレントを化け物に変えてしまった。

もはや我々には……」

 

 崩れ行き声は途絶える。

 少年は秘宝を取り出すと放り投げた。

「放っておいても崩れて無くなったと思いますが、

どうしてそんな事をするのです?」

「見えているものが真実とは限らないだろう」

 今までエルフ達から聞いた言葉こそが真実を現している。

 ダンジョンには宝はない。

 地位が高いほど高い場所にいる。


 黒騎士鎧は走り壁を突き抜け外に飛び出した。

 爆発が起きる。


 






 少年達は森の草むらに倒れていた。

 鎧は落ちた時に衝撃で破損し消滅したのだ。

 幾つか残ったパーツが散乱している。

 その一部を少年は拾う。

「俺を守ってくれたんだな」

「私達はエルフの国を滅ぼしてしまったのですね」

「……それは本意じゃない」

「さてエルフ達は許してくれますか?」

 二人はエルフ達に囲まれていた。

 エルフは仮面を取り少年に抱きつく。

「我々の王となってください」

「えっ……、いやどうして?」

「長老が与えた試練を全て突破したのは貴方だけです。

それはもう王としてふさわしい」

 彼らは支配者を求めていた。

 自らが支配者となり束ねようという気概はない。

 ずっと支配されてきた者達の宿命なのだろう。

「街を滅茶苦茶にしてしまった。

そんな俺に資格はないだろう」

「破壊されのは中央にあったこの大樹だけです」

 登るように言われたのあの木だ。

 上は無くなって切り株みたいになっている。

「何が真実なのか解らない。

俺は君達の王に成るつもりはない」

「では長老と成るものを指名してください。

貴方が選んだ者に従います」

 エルフの巫女イゾルッカを少年は選んだ。

 彼女を連れて帰っても困るだけで、元々長老として振る舞っていた者だ。

 

「もういいだろう?

俺は帰る」

 少年はワルワラと手を繋ぎ歩き始めた。







 少年が自分の街に帰還すると騎士カミラと騎士フィーリッツが結婚し結ばれていた。

「おめでとう……」

 カミラは不機嫌そうに少年に歩み寄る。

「領主様、とんでもないことをしてくれましたね。

もう取り返しが付かないことになっています」

「詳しく教えてくれないか?」

「姫誘拐の罪に問われています。

これを回避するにはもう既成事実を利用して結婚するしか有りません」

「……そうなるのか。

ワルワラはどうなんだ?」

 ワルワラは微笑むと告げる。

「貴方の心がけ次第です。

私の一言で貴方は命を失うことになるのです」

「えっ?」

「私はこんなちっぽけな辺境で満足はしません」

「解った君の為ならもっと広い土地を手に入れよう」


 カミラは慌てて、少年の口を塞ぐ。

「王国の領土は魔王軍によって占領されています。

それを奪還すると宣言ようなものです。

まだ戦い足りないというのですか?」

「魔王を倒さないと、戦いは終わらないなら、

倒しに行くだけだ」

「ああっ……命が幾らあっても足りません。

確かに数多くの魔物を倒したかも知れませんが、

あれは下っ端、王国は下位の国だから雑魚しかきてないの」

「領土を奪還したら、脅威とみなされて強力な奴が送り込まれるのか?

それは面白そうじゃないか。

もっと強い鎧を作って迎え撃とう」

「あー、やっぱり戦闘狂だった」


 二人のやり取りを見ていたワルワラは笑う。

「いずれ奪還するために王国は動きます。

彼の活躍は誰もが知る所です」

 戦果だけ見れば少年は次の王として祭り上げられても不思議ではない。

 行った事がその評価を台無しにしていた。

 難民を見捨てたり、領地を放置し、挙げ句には姫の誘拐である。

「それが問題なんです。

ワルワラ様はこの男に振り回されて良いですか?」

「カミラ、貴方は今の地位で満足しているですか?

留まろうすれば、言ってみれば歩かないのと同じこと。

止まっていれば後から来た者に追い抜かれるのは必然です」

「うっ、もう争いで身を危険に晒したくはないです。

私には……」

「ここには学びを行う場があります。

1人の強力な兵よりも、多数の訓練された兵の方が強いと思いません?」

 カミラは少年を見て、そんなことはないと思った。

 強すぎる存在がいれば多数の敵も……。


 少年はワルワラの手を取るとそこに口づけする。

「理解してくれて嬉しい。

やはり君が一番だ」


 ワルワラは、メイドに地図を持ってこさせた。

 現在地より南に、占領された大都市がある。

 そこに印をいれた。

「ここは魔王軍の中継拠点になっています。

押さえれば魔王軍は東西で分断される事になります」

「つまり激戦が予想される場所か?」

「私達の祖先は、補給線を伸ばし敵を分散させて迎え撃つ事を選んだのです。

戦争の引き伸ばしには成功しましたが、反撃の決めてがなく現状に至るのです」

 相手に広く土地を取らせて戦線を伸ばせば、それを維持するために大量の兵が必要だ。

 守りの2人を攻めの4人で囲むとして、攻めの4人は東西南北に1人ずつ立てば、守りの2人は一方向に向かえば2対1で勝利できる。

 その後が問題で残った攻め3人を守り2人で戦わなくてはならず敗北する。

 そんな簡単な話ではないが大体そんなものだ。


 少年という駒が増えた事で、王国はこれまでにない力を手にした事になる。

 守りが4人になれば同じ戦略で勝つのはどちらか、攻め3人対守り4人となり明白だ。


「重要な勝負になるんだ。

それは面白い、必ず勝利してみせる」

「まだ貴方は動いてはいけない。

そこの勝利は貴方に死を招くことになります」

「どういう事だ?」

「魔王軍が衰退すれば、内部抗争が始まり王の座を奪われないように、

貴方は命を狙われます」

「それなら、隣国の奪われた土地を狙うか」

 それをしない理由は魔王軍との衝突が多くなり疲弊するためだ。

 現状はどう動いても手詰まり状態なのだ。

「隣国の土地は返却する協定が結ばれています。

全く関係のないエルフの国を支配すれば、彼らは従順な駒となってくれるかも知れませんね」

「あの時断っていなかったらな。

やり直せないか?」

「あのエルフ達の表情を思い出して見なさい。

暗く怒りの目を向けていました」

「君ならどういう手を打つんだ?」

 ワルワラは微笑み、離島を指差す。

 南東に広がる海に浮かぶ島で誰の領地でもない場所だ。

「この島は浮遊島と呼ばれ、天空に浮かんでいたそうです。

魔王軍の侵略にあい海に落ちたという伝説です。

古代文明の何かが残っていないか知りたく有りませんか?」

 ワルワラの話は冗談である。

 実際は海上拠点で重要な場所となっている。

 南側は魔王軍によって占領され、中継できる場所がその島しか無いのだ。

 

 少年は浮遊島と聞いてワクワクした。

「そこに行こう!」

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