第34話 機械じかけの神様とか要らない、まだ終わらないよ?
ーー
時は流れ16年が過ぎる。
アデーレ達は魔王と激戦を繰り広げ遂に魔王軍を滅ぼした。
世界を混沌に陥れた魔王は討ち取られ平和な世が来るはずだった。
人々は闘い奪い合いが続いている。
殺し合いで街が廃墟と化し飢えた者達が道端で死んでいる。
波打つ肩丈の金髪の女エルザ。
彼女はアデーレとワルワラの娘だ。
あまりの美貌に誰もが魅了され世界を統べる王の妻となる。
混沌とした世界を見て微笑みを浮かべワインを飲む。
持つものだけが富を得、優雅に暮らす世界となっていた。
争いとはかけ離れ平穏に暮らす、外の地獄からは想像もできない楽園だ。
ーー
アデーレは、そんな夢を見た。
「娘が生まれるのか?」
側で寝ていたワルワラは目を覚ましアデーレに口づけをする。
挨拶みたいなものだ。
「夢でも見たの?」
アデーレは記憶をたどり夢を思い出す。
それは鮮明に思い出せるほどで、夢とは思えない。
「娘が生まれてエルザと名付けた」
ワルワラはアデーレが女神の祝福を受けた事を聞いていた。
祝福を受けたものは掲示を受けることがある。
ワルワラは内心は喜んでいたが悟られないように笑って誤魔化した。
「気が早いのね。
まだ子が出来たのかもわからないのよ」
アデーレは夢で見た未来が現実になりそうな気がしていた。
魔王を撃破しても平和が訪れない事はよく分かる。
平和は自分たちの手で作り出すものだからだ。
「君なら、どんな方法で平和な世を作るんだ?」
唐突な質問にワルワラは少し考え冗談を返した。
「それは魔王と同じね。
力を持って支配する」
二人は笑う。
実現し得ないことだ。
力で支配しようとすれば反発するものが現れ抗う。
それが今の現状で平和とは呼べない。
「俺は共有することが良いと思う。
それは力だったり、知識だったり、苦労を分け合い減らす……」
ワルワラはアデーレが女神の思想に汚染されていることに気づく。
全てを分け与えれば幸せになれると言う考え方だ。
「それは面白いけど。
それは実現しない」
人は独占し他よりも、より富を得ようとする。
一つのものを取り合えば、誰かを蹴落とすことに成る。
アデーレは魔王を撃破することが世界を救う事につながらないと感じている。
だが放置するわけにもいかない。
ゲームで魔王が封印から解けて現れる事がある。
あの謎がなんとなく解った気がする。
封印して先送りにしたのではなく。
脅威を残すことで戒めとしていたのだろう。
「俺達が立ち上がる時が来たかも知れないな。
雛は巣立ち旅立つ」
滅び消えた国が持っていた土地は誰のものでもない。
空白地帯にアデーレは立ち言い放つ。
「ここに俺の国を作る」
旗が掲げられ、そこに街が出来た。
幾度も街を再建してきたアデーレにとっては朝飯前のことだ。
そこには人間もエルフもドワーフもノームも……関係ない。
多彩な種族が集まっていた。
文化の違いはあるものの、一緒に暮らそうと理想に共感してやって来たのだ。
アデーレによって助けられた小国は多く協力関係を築く事ができたのが大きい。
またたく間に噂が広がり、日に日に人口が増えていった。
その噂が国王の耳に届くのに時間は掛からない。
流石に王国は激怒し使いを送った。
使いとして送られたのカミラである。
「とんでもない事をしてくれましたね。
今撤回するなら許すと国王様は言っています」
カミラは威圧的な態度でアデーレに迫った。
壁まで追い詰めて、壁ドンするぐらいにだ。
「この土地は俺達の力で獲得した。
そろそろ独立してもいいだろう?」
カミラは暗い顔をする。
彼女はアデーレの事を信頼していたのである。
額を押し付け怒りを現す。
「……どうしても敵対とすると言うのですか?」
アデーレは流石にイラッと来て押し返す。
「ちょっとした力を手に入れて、
もう安泰だと慢心した国がどうなった?
簡単に魔物に滅ぼされてしまった」
一度二人は間合いを取りカミラは他人事のように笑う。
「ええ、彼らは愚かでした。
それは私達を追い出したからです」
少年を侍らせたりと権力に溺れている彼女には守ってやっていたと言う高慢さしかない。
その優越感が愚かだと指摘していることに気づいては居ない。
「それは違う、
発展を忘れ立ち止まったからだ。
競争相手が居ないと皆そうなる」
カミラは優しくアデーレの頬を撫でる。
怒りで言っているのではないと言う意志の現れだ。
「つまり、競争がしたいが為に二つに分裂させたというのですか?
一丸となって世界を束ねることこそが平和になる道です。
争いの火種を作り出すのは愚かな行為です」
カミラの理想は、邪悪な魔王軍を滅ぼした王国が人々に感謝されて平和な世と成る事だ。
一見正しいように見えるが其れは唯の幻想に過ぎない。
「強いものが生き残る。
それから目を背けた時、滅ぼされるだけだ」
カミラはアデーレを抱きしめる。
自分は変わらず貴方を信じていると示したのだ。
「……力を手にして貴方は変わってしまったのですね」
アデーレはカミラを突き放す。
「力は関係ない。
変化こそが正しい道だ」
決別したと思ったカミラは剣を抜きアデーレに斬りつけた。
アデーレはそれを躱し彼女の腕を掴むと投げ飛ばした。
カミラは涙を零す。
「貴方なら魔王を撃退して平和な世を作れると思っていたのに。
裏切るなんてあんまりです」
アデーレはカミラの手を取り引き起こす。
抱きしめると言う。
「国王に伝えてくれ、
仲良く競い合い共に発展させようと」
開放されたカミラは国王にありのままに報告をした。
王国はアデーレの行為を許すことはなく大軍勢を送り込んだ。
戦力を整えるまでに数ヶ月を要し、10万の歩兵と数千の鎧が投入された大規模なものとなった。
アデーレの国は人口が1万に満たない。
圧倒的な差を見せつければアデーレが跪くと国王は考えたのだ。
アデーレはただ一人、黄金の獅子鎧に乗って現れた。
「一騎打ちをしよう。
それで勝負は決まる。
無駄に命を落とすこともないだろう」
第一陣を任されたのは騎士フィーリッツだ。
「ここには貴方に勝てる騎士は居ません。
ですから全軍で貴方に挑みます」
「それなら命がけで来い!」
初期投入された兵は2万程だ。
黄金の獅子が吠える。
全身が緑色の粒子で覆われたかと思うと駆け始めた。
人々の目には、それが巨大化して雲に届こうかと見える。
迫りくるそれに恐れをなし兵は散り散りに逃げ始めた。
フィーリッツは慌てる。
「幻だ、落ち着け敵はたった一体の鎧だ!」
緑光の足にすぐ横の鎧が踏み潰された。
幻のはずが実体を持っているのかように次々と鎧を粉砕したのだ。
「ユグドラルシルは本当に恐ろしい技術だな。
これが本来の使い方だ」
「エルフと手を組んだのか?
だとしても負けはしない!」
フィーリッツは専用鎧に乗り込む。
数々の戦いを勝ち抜いてきた戦乙女系の鎧だ。
青と茶色で塗装されているものである。
剣と盾のシンプルな装備だが、其れが最も戦い成れている。
黄金の獅子に盾を構えて向かっていく。
「うおぉぉぉ、カミラを苦しめた貴方は許せない!」
盾に衝撃が走る。
獅子鎧が飛び乗ったのだ。
そこを狙い剣を振るうが空を切る。
獅子鎧は盾に爪を引っ掛け飛び越えたのだ。
専用鎧は直ぐに振り返り鋭い爪の一撃を防ぐ。
「少しは上手くなったな。
だがまだ甘い!」
「毎日、数十もの魔物と戦い続けたんだ。
今はあの時よりも遥かに強くなっている」
専用鎧は獅子鎧を押し退け、剣を振るった。
顔面で受ける。
「一番硬いのが顔面だって教えただろう?」
剣は根本から折れ宙を舞った。
「魔物なら額わ叩き割れていた」
「これは魔物じゃない。
相手を見て戦い方を選ぶんだったな」
獅子鎧は素早く回り込み背後から爪の一撃を加え、そのままは駆けていく。
背は鎧の骨格があり破壊されると動かなくなる。
「情けを掛けるのですか」
フィーリッツは涙を零す。
圧倒的に強すぎて勝てない。
カミラに合わせる顔がないと嘆いた。
王国軍は、その日数百の鎧を失った。
たった一つの鎧によってだ。
そんな獅子鎧が数体出てきたのである。
動揺は避けられない。
勿論、それは金メッキしただけで、アデーレの乗るユグドラルシル搭載型とは違う普通の鎧だ。
王国軍は一度撤退する。
フィーリッツは国王に進言する。
「和平をすべきです。
彼は今は兵士に手を出しませんでした。
本気に成れば一瞬で数万の兵士が死にます」
国王はアデーレの騎士団の関係者を拘束して捕らえていた。
それを人質として戦わせている。
「やつの騎士団を見せしめに処刑しろ。
裏切りによって敗北したのだ」
「私が意図して負けたと言うのですか?
王国のためにどれだけ尽くしてきたことか。
魔物を狩り国土を取り戻したのは我々です」
「では何故負けた?
たった一体の鎧に敗北することなどありえない」
だが国王の決断は間違っていた。
アデーレの騎士団が離反することになったのだ。
戦力バランスを崩さないために残していたもので騎士団の喪失は大きい。
それは軍全体の士気を下げる結果となった。
国王は精鋭を集めた王国近衛騎士団を投入した。
殆どが自動鎧で構成された死をも恐れない兵である。
アデーレの元に逃げ出した騎士団が集まって来る。
カミラは縄で縛られた状態で連れてこられた。
「裏切り者、離せ触るな!
私を黙らせたかったら足にキスでもするのね」
アデーレがカミラの額に口づけすると彼女は静かになった。
「何で連れて来たんだ?」
連れてきた兵士達は困惑した顔で言う。
「アデーレ様のもとに行きたいが、王国を裏切れないのでどうしても仕方ない状況を作り出して欲しいとの事です」
「……なるほど、
カミラの娘を連れて来い」
カミラは少し笑い声を漏らしながら怒っているような顔を作って言う。
「なっ、まだ5歳になったばかりなのに。
何をするつもり!」
「人質として側に置くから、従ってくれるか?」
カミラは目に涙を浮かべ頷く。
とても面倒くさい女だとアデーレはため息をつく。
「それでどのような策があるのですか?
裏工作はもう出来ませんよ」
カミラはこっそり手を回し鎧に細工を仕掛けていた。
それが幻なのに鎧が破壊された真相だ。
「それなら秘密兵器がある」
鎧用の銃が作られている。
それは大砲みたいな物で砦の壁を貫通して破壊できる程の代物だ。
たったの10鎧分しかないが、それで十分過ぎる程だ。
迫りくる王国近衛騎士団を迎え撃つべく横列に並び一斉に発射する。
轟音と共に王国近衛騎士団の鎧に巨大な穴があいた。
「凄まじい威力だな。
一発で盾すら貫通して後ろにいる鎧まで破壊するのか」
カミラは縄を解くとアデーレに近づく。
「細工なしの鎧をあんなに容易く壊すなんて。
アデーレ様、私は貴方の味方です」
カミラはアデーレの首に腕を回し頬を擦り寄せる。
侍らせている少年にさせていることを行っているのだ。
それは服従の証でもある。
「そう云う所は嫌いじゃない。
けど余り体を触るな」
一瞬で鎧が粉砕されたことで王国軍は崩壊し脱走が止まらなくなっていた。
アデーレはここぞと獅子鎧を走らせた。
「俺に挑む奴は居ないのか?
誰でも相手になってやる!」
挑む勇敢な者もいたが、戦い成れない獣型鎧に翻弄され散っていった。
そして国王の前に辿り着く。
「国王様、俺の望みは国を認めてもらうことだ。
其れ以上は望まない」
「何を言う、その力を使って世界を取ろうと考えてるのではないか?」
「その時は貴方が止めればいい」
「その力はない。
わしを殺し王となるがよい」
「そんなつもりはない。
力を付けて共に国を発展させよう。
ライバルが居たほうが盛り上がるだろう?」
国王は大笑いする。
「良いだろう。
国を収めるのは王家の血を引くものだけだ」
アデーレは国を認めさせるだけに留まり壊滅させることなかった。
滅ぼしてしまったら分裂した意味がないからだ。
交渉から数日後ワルワラは女王として王位についた。
アデーレには王家の血筋ではない為に王になれないのだ。
「さあ、皆で良い国を作り上げましょう!」
ワルワラは微笑みアデーレに口付する。
アデーレに対抗するために大国は連合を組み三つ巴の形になりつつある。
世界を手にするのは誰なのかはまだ解らない。
旧国家連合と新生国家、魔王勢力の打つかりあいである。
予知された未来は変化し神すら予測不可能となっている。
もしアデーレが現れて居なかったら世界は魔王によって統一されていた。
死者の世界はやがて宇宙へと目を向ける。
そうなっていたら、我々の住む世界が脅かされていただろう。
まだ決着は付いていない。
魔王は倒されていないのだから。
もちもちワールド 唐傘人形 @mokomoko_wataame
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