終章 分割編(青年時代)

第25話 いきなり数年過ぎましたって展開は唐突過ぎるかな?

 時は流れ、世界の情勢が変わりつつある。

 エルフの国から入手したゴーレム技術により、守護鎧の無人化に成功したのである。

 生産技術の革新により戦力が増した王国は一気に魔王軍を退けた。

 

 アデーレは18歳を迎えて流石にゲーム世界ではないことに気づいた。

 その切っ掛けとなったが、プレー時間制限規制である。

 電脳世界では時間の流れが早く、現実世界での1時間がゲーム内では1日ぐらいとなる。

 当然、それは脳に負担が掛かる為に制限が設定されていて、一定時間プレーすると中断され休憩が入るのだ。

 既に数年が経過しているものの、その休憩が一度もなかったのだ。


「どうするんだ俺……。

あの約束とか、あれとか……、色々やってしまった」

 妻ワルワラが望むように、領地を増やし戦果を上げた。

 そこまでは良い。

 

 活躍するアデーレの噂を聞きつけた亡国の姫グスタフスが助けを求めに来たのだ。

 彼女は長い黒髪で褐色の肌をして、幼さが残るが大人びた魅惑的な色気をもつ顔立ちをしている。

 ワルワラはそんな彼女をひと目見て利用できるとアデーレに甘く囁く。

「困っている彼女を無下に追い出す事はできませんわ。

貴方なら助けることが出来るでしょう?」

「……勿論だ」

 ワルワラが優しさで助けたりはしない。

 以前助けた浮遊島の姫は、ワルワラの家臣と政略結婚させた。

 国を隷属させ支配しするためだ。

 浮遊島から得られる収入の1割を税として徴収し、その半分を王国へ献上する事で支配権を得ているのだ。

 アデーレは正直な所ワルワラが怖い、利用できる間は優しいがそうでなく成るとあっさり切り捨てられるからだ。




 そして今居るのが周りが全て砂漠に囲まれた国だ。

 王国より南西に一ヶ月ほどで到達できる位置にある。

「えっと、ここには何もないけど、

取り返す意味はあるのか?」

「魔王によって砂しかない枯れた土地になりました。

かつての緑豊かな土地に再生することが私達の夢です」

「民も逃げ出し、残ったのは魔物だけか」

 特に重要な場所でもなく、奪い返したからと言って何かあるわけでもない。

 魔物は巨大なサソリに、地面を喰らい進む巨大ミミズ、ライオンと鷹が組合わさったスフィンクス……。

 強敵ぞろいで、連勝続きの王国正規軍ですら避けて通る場所だ。

「それでも故郷です。

貴方は住んでいた土地を奪われても許せるのですか?」

「解らない。

君はもし大地が沈んで水浸しになっても水中で暮らすのか」

「それは無理ですが、ここはまだ住める土地です」

 アデーレはワルワラがここで何を得ようとしているのか解らない。

 姫を助けて国を取り返したとしても、何も生産出来なければ税収が入らない。

 人が住めるようにするには土地の改良が必要だ。

 逆に費用が掛かり損をすることに成る。

「特産物でもあるのか?」

「以前はブドウ畑があり酒が造られていました。

ですが、砂漠となってしまい……」

「助ける代償は知っているのか?」

「はい、とても良い方で安心しました」

 貴族は戦いで死に安い、子孫を残すために子を沢山作る。

 受け継ぐのは一番年上の子である。

 当主になれなかった者達をワルワラは集め配下として雇い手懐けていて人材には困らない。

 

「嫌じゃないのか?」

「貴方は妾を持たないのでしょう?

それなら他の男は大して変わらない」

「俺を過大評価しすぎだ」

 妾なんて作ればワルワラに殺されるのは間違いない。

 誘惑してきたメイドが次の日には居なくなっていた事があった。

 怖くてそのメイドがどこに行ったのか聞けずに居る。


「無駄話が過ぎました。

どのような方法で奪還をするのでしょうか?」

「六角騎士団を派遣し拠点と成る砦を構築する」




 六角騎士団は竜人ジンティが率いる守護鎧30体、歩兵100人程の工作兵である。

 ジンティが乗る鎧は鹿を模した赤い鎧だ。

 突進力に優れ、頭部の角で串刺し投げ飛ばす事ができる。

 ジャンプ力も高く蹴りの一撃も強烈だ。

 背に資材を積載でき運搬能力も優れていた。

 

 赤鹿鎧を先頭に鹿鎧が三角状に並び砂煙を上げ直進する。 

「アデーレは、どうして魔道鎧オートマタを使わないのかわからないわ。

無人で魔物を倒してくれると言うのに……」

 彼女の不満を聞く事になるのは、副団長のルドルフォである。

 ルドルフォはカミラ学園の卒業生で若く優秀な男だ。

 短い金髪でバンダナを何時も撒いている。

 顔立ちはそれなりに良くそれなりに人気はある。

「領主様は自動化を特に嫌っているようです。

世界樹装置ユグドラルシルが怖いんでしょう」

 世界樹装置はエルフを支配していた機械知能AIのことで、管理社会を作るための基盤である。

 それがもたらしたのは思考停止だ。

 自分達で考え行動するという事が出来ない。

 そうなると指示されたことだけを行う機械の一部となってしまう。

「国王は兵士を減らし、魔道鎧を多く活用しているらしい。

未だに人に頼り大量の兵を抱えているのはアデーレぐらいだわ」

「学園まで作って騎士は要りませんでしたは流石に出来なかったのでは……。

お陰でこうして騎士として戦えるわけですし」


 ジンティは声を張り上げて言う。

「さてそろそろ洗礼が来る頃よ。

全員足元を注意して」

 最も脅威なのは、地下を進む巨大ミミズのサンドワームである。

 遠くに砂の柱が上がる。

 サンドワームが吐き出した砂が噴水のように吹き出し、そう見える。

 突如、前方の地面が崩れ巨大な溝となる。


 赤鹿鎧は、それを飛び越え徐々に速度を落とし止まった。

「まさかあれが通った後?」

「魔物が落とし穴を作ったとは考えたくない。

鹿鎧がすっぽりとはまる程の溝が結構長く続いてますね」

「ボサッと見てないで落ちた者を救出しなさい」

 鹿鎧は足を曲げ座ると腹横から扉が開き兵士が降りた。

 歩兵の運搬を兼ねた高機動鎧なのである。

 

 砂漠とは言っても砂の層は人の足丈ぐらいで、それより下は硬い岩肌がある。

 もろに岩肌に激突してしまった鹿鎧は角が食い込み動けないでいた。

 ワイヤーで縛り、複数の鎧で引っ張っるが枝分かれした角が深く食い込んでいる為に抜けない。


 鎧からジンティも降り立つ。

 彼女はエメラルド色長い髪を後ろで束ねている。

 少し痩せているが以前よりも体にくびれができ体型も強弱がついて魅力的になっている。

 竜人族の長の証である漆黒のローブを纏っていた。


 ジンティは削り取られた壁に手を当てる。

「こんな硬い地面をどうやって掘り進んでいるの?

角は諦めてパージして脱出しなさい」

「良いのですか、アレは緑金アダマンタイト製で高価な代物です」

「私達の目的は拠点を構築することよ。

まずは目的を優先し、これは後で回収すればいい」

 ジンティは嫌な予感した。

 砦は基本的に地面を掘り進む的に敵しては無力である。

 侵入目的なら振動を感じ穴の上で待ち伏せし迎え撃つ事も可能だが、地盤を崩し建物自体を崩壊さらせれれば守りようがない。

 

 軽い振動のようなものが足から伝わってくる。

 ジンティは地面に耳を当て、砕くような音を聞く。

 その音が徐々に大きくなっていることに気づく。

「直ぐに鎧に乗り、備えなさい」

「団長もお乗りください」

「私はサラマンダーと契約してある。

生身でも戦えるわ」

 ジンティの顔に赤く輝く無数の線の模様が現れる。

 上位精霊と契約したときだけに起きる現象だ。


 彼女の周囲は加熱され、地面も熱で赤く染まる。

球状灼熱空間ラヴァフィールド……」

 精霊と共通認識をするために鍵となる単語を定めておく事がある。

 それが鍵呪文マジックスペルと呼ばれるものだ。

 

 球状灼熱空間は、自分を中心に半径数尺を高熱に変える魔法である。

 獲物を感知し迫っていたサンドワームは急激な熱の変化に驚き地上に向けて進んだ。

 地面を貫通し地上へと姿を晒す。


 ジンティは目の前に現れた巨大な塔にも見えるサンドワームにたじろぐ事無く笑みを浮かべた。

「でかい図体を晒した今よ。

突撃しなさい」

 サンドワームの表面は茶色い滑った皮膚で覆われている。

 節があるものの足のようなものはない。

 先端に螺旋状の配置された歯があり、それで地面を削り飲み込んでいるのだ。

 サンドワームは体を曲げ迫ってくる鹿鎧に狙いを定めた。


 鹿鎧の角とサンドワームの歯が打つかった。

 角は緑に輝きを放ちつつ火花が散る。

 金剛石ダイヤモンドよりも硬い金属で、これ以上硬いものは紫金ボイドメタル位である。

 

 支え抑えている間に、後続が次々とワームの体に角を突き立てた。

 ワームは耐えきれず体を振り鹿鎧を振り飛ばそうとするが深々と刺さった角は抜けず動けば動くほど肉体を傷つけた。

 

 ジンティの手の上に白く光る球体が浮いている。

灼熱球ファイアボールよ」

 その球体はふわっと浮かぶとワームの頭部に打つかる。

 そこからワームの体は燃え上がり崩れ始めた。


 ジンティは息が切れフラフラになっていた。

 上位精霊を扱うのは全力疾走し続けるぐらいの体力の消耗をする。

 彼女が痩せているのも、こうした無理を続けていたからだ。

「団長……顔色が悪いですよ」

「少し休めば大丈夫よ。

それより損害は?」

「全員生存ですが、角が削り取られ短くなりました。

あの歯は緑金以上の強度を持つようです」

「大物を仕留めたのは大きいわ。

後は雑魚だけ……」

 ジンティは目の前の光景に目を疑った。

 あのワームは雑魚の一匹に過ぎなかった。


 数匹のワームが地面から姿を現したのだ。

 ルドルフォは叫んだ。

「全員退避拡散しろ!」

「あれが六匹も……」

 

 撃退しても次から次へとワームが現れ砦の構築など出来はしなかった。

 六角騎士団は半壊し撤収する。





 砂漠の入り口前に建てられた拠点まで撤退したジンティはアデーレにひざまずき報告を終えた。

「次の手を考えるか。

モグラ鎧で穴を掘って対決するも面白そうだな」

「待ってください、あの歯は緑金ですら削る脅威です。

それに体液は金属を腐食させるようです。

帰還した鎧の装甲が腐り落ち修復がままならない状態です」

「もぐら鎧で土手っ腹を貫いても、腐食して使い物にならなく成るのか。

それは厄介だ」

「一匹ずつおびき出し魔法で撃退するしか有りません」

「それで君の体が持つのか?

随分と痩せたな」

「……竜人族は皆、このような体型です」

「この砂漠の近くに、君の故郷があるらしいな。

既に滅びて何も残ってない」

 それはドワーフから得た情報である。

「信じられないかも知れませんが、緑が触れ綺麗な川があり其処で水浴びをして遊んだ記憶があります。

本当にこの場所なのでしょうか?」

「数年で砂漠が一気に広がり、緑が無くなったらしい。

それ以外に覚えていることはないのか?」

「洞窟に祀られた竜の像ぐらいで、後は特に……。

もう私の故郷は領主様の街です」

「君にも故郷を取り返して上げたかったな」

 ジンティはアデーレに顔を近づけると頭突きを食らわせた。

「領主様、私を追い出して誰かと結婚させるつもりですか?

相手ぐらい自分で選べます」

「そんなつもりじゃない。

ただ住んでいた所に戻れたら幸せなのかと……」

 アデーレに暴力を振るって許されているのは彼女ぐらいだ。

 他のものが行えば衛兵に斬り殺されているだろう。


「貴方が竜人だったら、私も心奪われていたかもしれない。

それがとても残念よ」

 ジンティはアデーレの額に口づけし去って行く。

「……多分俺が竜人でも君は選ばない。

すごく痛い……」

 ズキズキと痛みアデーレの目に涙が溜まっていた。

 

 側でひっそりと見ていたメイドのリザラズは笑う。

 彼女は顔を白い仮面で隠し口元しか見えない。

 唇は魅惑的な赤に染められていた。

 顔が隠れているからより際立ち美しいと想像させる。

「領主様、傷薬を持ちしましょうか?」

「大丈夫だ。

そろそろその仮面を外したらどうだ?」

「これは私への戒めです」

 リザラズは罪の意識が消えるまで仮面を取るつもりはなく、死んだものとして扱って欲しいと要求した。

 今の彼女は一番下のメイドで色々な雑用をしている。

 誰にでも出来るような雑用を彼女のような有能な者にさせておくのは勿体ない。

「それは困る。

君にしか出来ないことがあるだろう?」

「いいえ、今の仕事を放棄する事はできません」

「では鹿鎧の掃除を頼もうか」

 リザラズは頭を下げると影の中に消えた。

 

 

 一番扱いジンティが失敗したことで、アデーレは悩むことに成る。

 直轄のお抱え騎士団は、他にもあり派閥を競い合っている。

 特に仲が悪いのは騎士ティルラの率いる四遊騎士団と、バットコック商会が推薦する三盾騎士団だ。

 三盾騎士団は、ここ最近は勢力を拡大し戦果を上げ続けている。

 

 この派閥争いがなければ、三盾騎士団に任せただろう。

「さてどうしたものか、四遊に任せれば贔屓していると不満が出る。

かと言って三盾に任せて失敗すれば不当な任務を与えたと商会が黙っていない」

 駆け引きで働きが変わってくる。

 この戦いは勝利しても益が無い。

 

 そこへルドルフォがやって来る。

「我々、六角騎士団にもう一度機会を与えください」

「まずは策を聞こうか。

俺は根性や気合で何か成し遂げるという妄想には興味はない」

「鎧を半数失いましたが、死者が出たわけでは有りません」

「報告は受けている。

戦力半減、いや腐食で利用できるのは極わずかだったな」

「我々は工作を得意とします。

まずはワイヤーを巡らせ罠を仕掛けます。

地面から出ときワイヤーは魔石を砕き魔石に込められた魔法で爆発しワームは吹き飛びます」

「その罠には欠点がある。

仕掛ける前に襲われたら無意味だ」

 人間よりも早い鹿鎧ですら追いつかれる程の速度で移動する魔物だ。

 罠を仕掛ける為に歩いて行った所を襲われれば逃げようがなく罠も仕掛けられない。

 

「このまま、負けっぱなしなのは悔しいです。

それに団長の為にも魔物を討伐したい」

「それなら一つ策がある。

川を探してきてくれないか?」

「……水場の確保ですか。

三盾騎士団に任せるのですね」

「当てが外れればな」

 アデーレは砂漠に住む魔物の弱点に心当たりがある。

 ゲームの話だが、属性が有り地面は水に弱かったりする。

 だから川の水をサンドワームの巣に流し込んだら倒せるという楽観的な推測をしたのだ。

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