第32話 集団戦って表現出来ないよね、どうしよう

 魔物が集結し横陣を組んでいた。

 数千の魔物が並び行進を始める。

 大地が揺れ響く、それだけで恐怖を感じられずに居られない。


 各地に鎧の補給基地として砦が作れている。

 その砦を目指しているのだ。


 カミラはのんきに一室で紅茶を飲んでいた。

 隣に可愛らしい少年達を侍らせている。

「安心しなさい。

あの程度の魔物ぐらいなら撃退出来ます」

「はい、カミラ様」

 カミラはショタ好きで従順な者を側に置くことで至福の時を過ごしていた。

 可愛いと愛でて戦況の事など全く頭にない。

 

 そこへアデーレが訪れた。

 七祈騎士団の訓練を行っていた所に、魔物が現れたと言うことで駆けつけたのだ。

「随分と余裕そうじゃないか?」

「領主様、えっとこれはあっ……。

騎士たるもの落ち着かなければ冷静に物事を考えられないと、

心得を教えていた所です」

 カミラは手が震え、カップの湯がこぼれた。

「熱くないのか?」

「ええ、大丈夫です。

ここへは何の用事で来られたのですか?」

「君がいると聞いて会いに来た」

 カミラは良からぬことを考えて顔を真赤にする。

 アデーレの周りに見知らぬ女がいるのは目に入っている。

 男をはべらせハレームを作っていた彼女は、逆の立場に成ると想像したのだ。

「ええっ……、呼んで下されば私から出向きました。

その席に座ってゆっくり話をしましょう」

 カミラが手を叩き合図を送ると、囲っていた少年達は部屋を出ていく。

「解っていると思うが、

余り時間はない」

「はい、解っています。

手短に済ませます」

 カミラはアデーレにすり寄り体を触り始めた。

 いつもの癖みたいなものだとアデーレは思い無視することにした。

「何処を攻めれば良いと思う?

俺は背後に回るのが良いと思う」

「私は正面から堂々と打つかるほうが好きです。

向き合う事も大切かと思います」

 カミラは立ち上がるとアデーレの背後に周り、耳に息を吹きかける。

 アデーレはイラッと来たが堪えることにした。

 ここで喧嘩して戦力を分割はしたくはなかった。

「俺は右が弱いと思う、だから右側を重点的に攻めればいいと思うんだが、

君は何処が弱いと感じている?」

 カミラはアデーレの左耳たぶを甘噛する。

 首筋を舐め始めると、流石にアデーレは激怒した。

 立ち上がるとカミラの手を掴み引き寄せる。

 抱かれると感違いしたカミラは興奮のあまりに気を失った。


「……熱でもあったのか?」

 それを側で見ていた聖女イングリートは見てはいけないものを見てしまった感であたふたしていた。

「えっと……、カミラ様はこんな方だとは思っていませんでした」

「騎士団長と学園の教師の両立が大変で疲れていたのかも知れない。

ゆっくり休ませよう」

 カミラを治療室のベットに運びこむ。

 カミラは意識を取り戻したが気を失っているふりを続けて様子をみる。

「済まないが頼む」

「はい、お任せ下さい」

 アデーレが居なく成るとイングリートはカミラの耳に息を吹きかける。

「領主様は居なくなりましたよ。

皆の前で大胆な事をするものですね」

「ふーん、嫉妬しているの?

あれは挨拶みたいものです」

「それより正面から攻めるって正気ですか?」

「な、なによ。

悪い? 向き合ったほうがお互いの表情が見える……」

 イングリートは苦笑し顔に手を当てる。

「何の話をしているのですか?

これから魔物と戦をどう進めるのかという話ですよ」

 カミラは色ボケしていた事に気づき顔を真っ赤にした。

「お願いがあります。

ごまかして頂けないでしょうか?」

「間違いは誰にでもあります。

女神様も許しになります」

 

 


 その頃アデーレは、二つの騎士団の総指揮を取ることになった。

 カミラの提案どおりに、敵の正面に布陣したのである。

 二個騎士団でも総数が鎧が十、歩兵二百にしかならい。

 対して魔王軍は歩兵千、巨人兵百、騎馬兵三百である。


「この戦いに勝ちたいなら、俺の後に続け。

前にいる敵を粉砕し突破する」

 アデーレはニ楽騎士団から借りた戦乙女五型に乗っている。

 片方の目が潰され破損している為に使えないと判断されたものだ。


 鎧に乗っている時はゲームのような感覚で落ち着きさえある。


 アデーレは取り敢えず兵を色分けした。

 赤、青、黄、紫と4つの組にしたのである。

 それぞれのリーダーは鎧に乗っている者に任せてある。

 鎧に乗っていれば地図が見られるのと、魔法による中距離通信が可能だからだ。


 リーダーに従って動くのを基本とする。

 魚のような群れを作り動くと言う訳だ。


「赤組は俺と一緒に付いてきてくれ。

青は大物を狙って、黄と紫は小物を狙って撃破してくれ。

それぞれがあまり固まらないように分散するように立ち回って欲しい」

 兵法の常識から外れた戦術である。

 基本は集団で固まって行動したほうが有利だ。

 小隊を作り分散して攻めるのは愚かとされている。


「よーし行くぞ。

赤組付いてこいよ。

まずはA地点に移動だ」

 地図には線が引いてあり、それぞれの区画にA,B,C……と記号が割り振られている。

 それでおおよその場所を指定できる様になっていた。

 アデーレは集団の弱さを理解している。

 数が多くなればなるほど統率するのが難しくなる。

 足並みを揃えようとすれば行動が遅くなってしまう。



 カミラの希望通りに正面から攻めた。

 彼女を信じ左側にアデーレは噛み付いたのだ。

 だが左側はゴブリンライダーと呼ばれる狼に乗ったゴブリンの集団であった。

 動きも早い精鋭だったのである。


 アデーレの突撃を回避しゴブリンライダーは後方の赤組を狙う。

「赤は円陣で待機」

 赤組は精鋭で固めてあり、直ぐに反応し円形に陣を組み盾を構えた。

 ゴブリンライダーが来た時には亀の甲羅のような守りが出来上がっていた。

 石斧を叩きつけ盾を叩き割ろうとした。

 そこを反撃の槍が突き出しゴブリンを貫く。


 七祈騎士団は神殿騎士だけではなく、ワルワラが送ってきた精鋭兵が混じっている。

 とても優秀で驚異的な強さを持っている。

 神官や神殿騎士は刃物を使うのは禁忌とされていて、鈍器しか使えない。

 槍も当然使えない、だから精鋭兵が必要だったのである。


「青、紫はゆっくり後退、

黄は赤の援護に回ってくれ」

 アデーレは指揮を飛ばし、戦場は動き回る。

 動かし回せば疲弊するだけだ。


 聖者の加護と呼ばれる疲労を回復させる魔法がある。

 それを利用して兵はまだ戦える状態を維持していた。

「神官もバフ使いとして、それなりに使えるな。

もっと掻き乱すか。

赤は突撃、黄は一度引いて回復してくれ」

 戦場は乱れに乱れた。

 魔王軍の半数近くが遊兵となりまともに機能していない状態に陥った。

 集団の欠点は細かい指示が出来ない事だ。

 各個撃破したくても誰を狙えば良いのか解らない。

 指揮の混乱に繋がったのだ。

 

 全力で戦い続ける騎士団に圧倒され、魔王軍は徐々に数を減らしていく。

「一度全軍Dまで後退するぞ」

 後退すると敵はずるずると追いかけくる。

 魔王軍の戦列に乱れが生じる。

 横陣は敵を通さない為に組むのだが、その列に隙間が出来たのだ。


 アデーレは其れを見逃さなかった。

「赤は俺に付いてこい一気に駆け抜けるぞ」

 陣を突破すると中央後方に指揮を取るマンティコアに向かった。

 知らない魔物が居たからだ。

 アデーレにはそれが指揮を取っている魔物だとは解らないが、

初めて見る得体のしれない魔物に狙いを定めるのは経験上ボスであることが多いからだ。

  

 マンティコアは翼を羽ばたかせ飛び立ち逃げ出した。

 戦況は既に決していた。

 魔王軍は指揮を失い魔物の群れに成り下がっている。

 各々が好き勝手動き戦う、統率の取れない魔物は本能のままに動く。


 アデーレは掃討を任せて帰還する。

 

 砦で待っていたカミラは直ぐにアデーレを出迎えた。

「領主様、……全滅でしょうか?」

「そうなるな。

では後を任せる」

 アデーレは疲れていた為に、カミラの表情を見ること無く寝室へと入っていた。

 カミラは真っ青になっていた。


 戻ってきたのはボロボロになった鎧に乗ったアデーレだけだ。

 騎士団が全滅したと思ったのだ。

「至急残った兵力を集めて守りを固めなさい」

 残っている非戦闘員が殆どで、極僅かに予備兵が居るぐらいだ。

 侍らせていた少年達では戦力にもならない。

 

「あの僕達は何をすれば良いのでしょうか?」

「見張り塔に上がって警戒して、

敵を発見したら鐘を鳴らしなさい」

 砦は慌ただしく厳戒態勢へとはいる。


 見張り台からは、遠くで戦闘を続けている騎士団の姿が見えていた。

「……カミラ様は騎士団が負けると考えているのでしょうか?」

「さあ、突破してくる魔物が居るのかも」

「えっそんなのに勝てるの?」

「カミラ様なら勝てる」

 そんな感じに謎の盛り上がりで見張りが行われていた。


 鐘の音が鳴り響く。

 

 マンティコアは諦めたわけではなかった。

 隠しておいた予備兵力を投入し砦を狙ってきたのだ。


 魔王軍は劣勢になったが数はまだ多い。

 全滅するまでには時間が掛かる。

 それまでに砦を抑え、戻ってきた所を襲う事を考えたのだ。

 

 ケンタロスと呼ばれる上半身が人で、下半身が馬の魔物がいる。

 それが群れをなして突撃してきたのだ。

 ケンタロスは弓の名手で駆けながらも矢を放つ事ができる。

 


 カミラはアデーレが乗っていた鎧に乗り込む。

「私が貴方達を守る。

助け合い生き残るのよ」

 カミラは壁に地図が張ってあることに気づく。

 磁石の付いた駒が並べてある。

「これで戦況を把握して、兵を動かしていたのね。

赤、青、黄、紫……。この記号はFかしら?」

 戦いの中で受信装置が壊れていた。

 通信だけが行われている。


 カミラの言葉をF地点に集結という意味だと勘違いされることに成る。

「魔物を殲滅してギッタンギッタンのぐちゃぐちゃにしてやるわ。

出来れば挟み撃ちにしたいけど、出来るかしらね?」

 カミラの構想は、自らは砦から離れて隠る。

 敵が砦を攻め込んだ所を襲いかかって、砦と自分で挟み撃ちにするというものだ。

 敵は砦とカミラを両方を相手することになり攻撃の手がバラけるのである。


 カミラだけが狙われるという考えはカミラにはない。

 アデーレに影響されて思考が麻痺している可愛そうな人である。


 カメレオン布という、鎧を隠すための布を被せそっとカミラは鎧で出陣した。


 

 魔物の群れは砦に矢を放ちながら、周囲を回り様子を見ていた。

 暫く回った後、弱そなう裏門に狙いを定め突撃が始まる。


 カミラは指を鳴らす。

 読みが当たり待ち伏せが成功したのである。

「うりゃぁぁぁ、突撃ー突撃ー」

 興奮しなければ魔物の数に圧倒されて動けなくなる。

 勇気を奮い立たせる為の言葉だ。




 アデーレは騒がしさに目を覚ます。

「何があった?」

 練顔を見るためにやって来ていたイングリートは微笑み答える。

「魔物が襲撃してきました。

カミラ様が対処している所です」

「君がどうしてここに?」

「癒やしが必要かと思いやってきました」

 神聖魔法は祈りで蓄えた力を消耗して使う。

 無駄に消耗していたら蓄えが出来ずいざという時に困る。

「大丈夫だ。

それは戦いの時に必要だから温存しておいてくれ」

「解りました。

襲撃してきた魔物は伏兵のようです」

「数が違いすぎて対応ししきれないな。

騎士団の規模を増やすか」

「先程の指揮は素晴らしく、私もあのように兵を動かせるように頑張りたいです」

 女神教は絶対魔物殺すと言う信念を持っている集団だ。

 魔物に関しては彼らの闘争心は凄まじいものがある。

 全く恐れず言われるがままに敵を殲滅しているのだ。


 その勢いに飲まれ生徒達も士気が上がって戦いは優勢になっていた。

「俺が乗れる鎧は残ってないか?」

「格納庫に獅子の形をした鎧が封印されているのを見つけました。

学園生が無断で持ち出したよう物のようです」

「無断なのはよくないな。

教育してやろう、連れて来くるんだ」



 アデーレは獅子鎧に乗り込む。

 呼び出されたオイゲネも一緒に乗り込んだ。

「領主様、どんな罰を……」

「次からは許可を取るのを忘れるな。

この鎧に惹かれる気持ちはよく分かる」

「はい」

「よし、状況報告をしてくれ。

カミラの指示は難しいから補佐をして皆に解るように伝えてくれ」

 獅子鎧にもカミラの声が響いていた。

 完全な独り言だが、自分に言い聞かせるように指示を出しているために紛らわしい。


 アデーレは指揮をオイゲネに任せ出陣する。

 

 裏門が開くと同時に飛び出した。

 獅子鎧の登場に魔物は一斉に矢を放つ。

 獅子鎧の顔面は盾の如く固く作られている。

 矢は弾かれた。

「行くぞ!」

 

 

 カミラは、その獅子を見て驚きの声をあげた。

「ああっ……、何で!

誰よ、獅子鎧を出したのは」

 怒り壁を叩く。

「きぃぃぃ。

もう許せない……。

撤収よ撤収するわ」

 もうカミラには魔物が眼中になかった。


 雑に剣を振り回し砦へと戻っていく。

「邪魔!」

 その一撃はマンティコアの体を切り裂いた。

 魔法で透明化し隠れていたのだが偶然である。


 魔王軍が壊滅したのはその夜の事だ。

 



 砦では勝利を祝い宴が行われていた。

 カミラはワインを飲みフラフラになりながらアデーレにより掛かる。

「良くも騙したわね」

「君が勝手に勘違いしたんだろう?」

「ふーん、そうやって色んな女を泣かせて来たんでしょう?」

「いや泣かせてない。

誤解されじゃないか」

「うううっ……うわわあぁぁぁぁ。

許せない」

 そこにイングリートが割って入る。

「あらカミラ様、許せないのは私の方です。

彼は私の大切な人です」

 二人はにらみ合う。


 なんか違うくね?

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