第4話 仲間が増えると扱いって雑になるよね

 世界は5つの勢力が争っている。

 少年の暮らす国アノヒンアは魔王の侵略に日々脅かされつつも抵抗を続けてきたが、度重なる敗戦により国土を半分奪われて弱体化していった。

 戦力も殆ど残されていない状況で切り札である秘宝を奪われる事態に陥ったのである。

 あのトロール集団が生き残っていれば滅びていた可能性すらあったのである。

 だからこそ国王は少年を驚異に感じ、最も危険な場所に飛ばしたのだ。



 カミラは少年の希望を叶えるために人材募集を行った。

 土地や家を与えると言う条件を提示するだけで容易く人は集まったのである。

 カミラは説明をし質問を受け付けた上で契約書を書かせた。

 契約書と引き換えに前金を渡し出発までの間は準備期間としたのだった。

 

 いざ出発となると、あの危険地帯だと知ると全員が逃げ出そうとする。

「ふざけるな、あんな場所生命がいくらあっても足りない。

俺は帰る」

 カミラは少年が予想した反応だと微笑み言う。

「嫌なら前金を返却してお帰り下さい。

出来なければ犯罪者として処刑されますが宜しいですか?」

「何だって、ふざけるな」

「契約書に捺印して前金を受け取ったではないですか」

 少年は遮るように言う。

「まあまあ、このカミラさんはあのトロールを20匹も切り倒して追い払った精鋭騎士だからね。

それに砦での激戦での彼女の活躍は、もう凄かった」

 カミラは少年を睨む。

 変に祭り上げられて厄介事が増える気がしたのだ。

 誰かが聞く。

「少年があの化け物をどうやって倒したんだ。

そんなに簡単に倒せるほど弱いのか?」

 トロールを撃退したと言う噂は流れているものの少年が殲滅したと言う事実を疑う者も多い。

「それはカミラさんが血路を開き、

俺がちょっと細工して間抜けなトロールを騙して自滅させたんだ」

 あのトロールが偽物を拾って破壊したのかという謎をカミラは持っていた。

「私も気になっていたのだけど、あれをどうして壊すと予測できたの?」

「初めて戦った時もそうだけど、攻撃してきた相手を徹底的にぼこぼこにしないと気がすまない性格みたいなんだ」

 敵視を向けると対象を攻撃してしまうというバグみたいな仕様を利用した裏技であると少年は思っている。

「今回も同じ方法を取るのか?」

「まさか、あんな爆発は二度とごめんだね。

無駄に戦わずに追い払い壁を修復して守りを固める」

 死に慣れするとゲームの緊張感が無くなり作業感が増す事になる。

 それは面白くない。

「どうして殲滅しないんだ?」

「戦うための守護鎧を作ってから攻撃に転じればいい。

まずはその環境を整えたいんだ」

「守護鎧の生産には王家の許可が居る筈だが……」

「それは勿論、領地を与えられたから、この立地に考慮して百体までの保有を許されている」

 少年は自慢気に許可証を見せる。

 皆の注目が集まり不満の声はかき消えた。

 少年は続けて言う。

「どんな敵にも負けない最強の守護鎧を作りたくないか?

圧倒的な力と、どんな攻撃も跳ね返す強固な守り」

「俺達の作った守護鎧はトロールに殆ど壊されてしまった……」

 誰かの言葉に一気に雰囲気が暗くなる。

 少年は拳を天に掲げて言う。

「俺は知恵者だ。

だけど守護鎧の知識がないと知恵を活かすことが出来ない。

色々と教えて欲しい」

「色々と教えてやるよ」

 少年は移動中に幌馬車の中で情報を収集していた。

 戦いの事など忘れて守護鎧をどう改良するかと言う話で盛り上がっただけだが。

 移住民の多くは若者で家を失い新天地でやり直そうと意気込んでいた。





 カミラは斥候を放ち調査をし進路決め1度も交戦することなく目的地まで護衛することに成功した。

「うー、領主様……疲れました」

 少年は嫌な顔をする。

「その呼び方はやめて欲しい……どうしたんだ?」

「優しくして欲しいです」

「うーん、俺の愛は一つしか無いんだ。

だから君は他の人に甘えたら良い」

 カミラはむっとなり少年から離れる。

 常に何処から魔物が襲ってくるかわからない緊張と不安と長い旅の疲労が耐えきれず信頼できる相手として少年を選んだ。

 現在いるのは廃墟近くの草原だ。

 廃墟には魔物が住み着き明日の早朝から奪還作戦が開始される。

 その間は準備時間で疲労回復に務める事になる。

 

 カミラは守護鎧に乗り込むと独り言を初めた。

「あああっ騎士になったのはこんな辺境に来るためじゃない。

出世できるのかな……」

 カミラの足に何かが当たる。

「ん? 何これ誰が置いた」

 足元にあった木箱を手に取り開く。

 中にはぶどう酒と手紙が入っていた。

「あっ領主様はひと目を気にしていただけで、ちゃんとご褒美を用意してくれてたのね」

 カミラは少しだけと思いつつも一本丸々飲み干し酔いつぶれた。

 普通に考えれば少年がカミラから話を聞いてから先回りして贈り物を用意することは物理的に不可能だ。

 

 次の日、少年はカミラが眠っている事に気づく。

「俺はカミラの守護鎧が一番安全だから一緒に乗ることにする。

合図したら来てくれ」

 少年は仕方なくカミラを席の後ろに移動させて操縦席に座る。

(これって味方を防衛しつつ敵の殲滅ってパターンか。

酔って起きないとかこのシナリオ考えたやつ誰だよ)

「後ろのカミラが揺れて気分悪くなって吐くとかやりそうだな。

それだけは勘弁してほしいな」

 少年は瞑想しあらゆる可能性を考えた結果、一番最悪な場合を想像する。

 それは作戦が失敗しゲームオーバーになることだ。

「カミラには悪いけど吐いて下さい」

 少年は守護鎧を歩ませる。

 凸凹し荒れた地面だが余り衝撃を与えないように選んで進んでいく。

 はたから見るとジグザグに動きつつも素早く進んでいるように見えた。


 街跡は幕壁が数箇所壊れ残った建物はごく一部だけしか無い状態だ。

「さてこの粉砕ハンマーの力を見せてもらおうかな」

 少年は壊れかけの危険な建物を破壊することで魔物を追い出す計画を立てた。

 数年も放置された建物ばかりで明らかに立て直す必要がある。

 守護鎧はハンマーを手に取り残骸を破壊する。

 物音に反応し魔物が慌てふためき出てくる。

 黒い霧に覆われた巨大な狼が数匹複数方向から少年に襲いかかる。

「回転斬りしたらカミラが吐くかな……、ちっ。

地味に嫌な縛り入れるな」

 しっかり盾を構え受け流し、一匹ずつ叩き潰していく。

 ほぼ一撃で倒せるほど弱い雑魚だ。

 動きは早いものの攻撃してくる前動作で読みやすい。

「これは雑魚しか出ないんだろうな。

だからハンデをつけるように……嫌らしいな」

 少年は夢中になって敵対勢力の排除に専念し本来の目的を忘れていた。 

 離れた場所で狼煙が上がるのを今か今かと待っている人達が居ることすら頭にない。

 

 日が暮れる頃、カミラが目を覚ます。

「あれ? なんで勝手に操作しているんですか?」

「ゆっくり休めて良かっただろう?

これから交代の時間だ」

 カミラは夕日に気づき、随分寝た事を知る。

「それで状況は?」

「狼煙を上げる所だ」

 少年は守護鎧から降り狼煙を炊く。

 その様子をカミラは眺めつつ席に戻る。

 戸を開いたままカミラは聞く。

「いえ、魔物の残り数とか知りたいです」

「気にしなくていい。

ざっと見た感じもう周りにはいない」

 カミラはムッとする。

「私の仕事ですよ。

どうして勝手にやるんですか?」

「君の成果にすればいいよ。

壁の補強ぐらいは今日中に終わせて欲しいな」

「……はあ、私が其れぐらいやりますよ」

 カミラは寝ていた分、ばっちり目が冴えている。

 移住民達がやって来ると直ぐに行動に移した。


 次の日。

 少年が寝ている馬車にカミラがやって来る。

「起きて下さい」

「なにか問題でも?」

「ええ大変ですよ。

魔物の残骸が大量に発見されて騒いでますよ」

「それは昨日倒した奴かな?」

 カミラは驚きのあまりに声を失った。

 あの長い時間を全力で戦い続けてなければ倒せないほどの数だ。

 十時間ぶっ続けてゲームをすることがある少年は精神力が途切れて気が散ることはない。

 少年にとっては些細な時間の出来事だった。


 少年は面倒くさそうに言う。

「あー片づけしといて」

「何をです?」

「残骸、腐敗臭が漂うなんて気分悪くなるだろう」

「加工すれば武器や防具になります」

 素材を組み合わせて作ると良い装備が作れる的な奴だ。

 当然だが雑魚から作れる物は大したものが無い。

 現状は何か困っている訳でもない。

「君の自由にしていい」

 カミラは顔がひきつる。

 魔物から得られる素材は希少価値があり高値で取引されているのだ。

 大量に得たそれらを市場に流せば価値が下がり混乱が起きる事は間違いないことだ。

「いえいえ、困ります」

「そっか、資材管理が出来る人材を呼んできて」


 少年はカミラに頼んだことを後悔した。

 カミラは下賤なものに財産を管理させると横領されて財が減ると考えたのだ。

 街を守る為の騎士から選んできたのである。

「彼らには街を守って貰う必要があるんだ」

「ではどのような基準で決めれば良いのですか?」

「そうだな、運の良い奴に任せよう。

一番価値の高い素材を拾ってきた者なんてどうだ?」

 少年は冗談のつもりだ。

「解りました。

そのようにします」



 カミラは民を空き地に集めた。

「先日行った魔物討伐によって大量の残骸が散らばっています。

皆さんにはその回収を行ってもらいます。

そしてその価値によって報酬を用意しております」

 どよめきが起こり我先にと民は回収を初めた。

 その様子を見ていた少年は唖然とした。

「今はゴミ掃除より、住処を安定させたい。

全員にさせる必要はないだろう」

「眼の前に宝が転がっていたら気が散ります。

私だって盗まれないか気になって任務に集中出来ません」

「工作用の鎧を組み立てて作業を初めて欲しい」

「解りました」

 カミラはハンドベルを鳴らす。

 ベルの音が聞こえたら作業を中断して集まると言う決まりがある。

 其れを守ったのは数人だけだった。

 少年は集まった人達に指示を出す。

「あの溶鉱炉を修復して使えるようにして欲しい」

「何に使うのでしょうか?」

「建築用の鎧を作ったほうが手間も掛からない」

 住人は呆れたが不満を言えば生きていけない。

「流石、領主様の考えはすごい」

 

 溶鉱炉は街の北側にある。

 近くに鉱山が有り加工するために作られたものだ。

 魔物がやたらとここに攻め込んでくるのも、鉱山から取れる金に原因があった。

 貴金属が大好きなドラゴンが度々襲撃してくるのである。

 ドラゴンが荒らした跡は魔物達にとっては狩りをする時である。

 人々が混乱し弱っている為だ。


 溶鉱炉はほぼ無傷で残されており多少の整備をすれば使える状態だった。

「あの報酬の方は……」

 臨時収入を手に入れ損なった民の一人が呟いた事だ。

 NPCとの好感度とか幸運度と言うものがあるのかも知れない。

 少年はそう思って言葉を選んだ。

「街の貢献に尽くしてくれた者達には好きな土地を選ぶ権利を与えようと思う。

そして優先的に有利な仕事を回すと約束しよう」

「おおー」

 カミラは少年の言葉に青ざめる。

「あのその区別をどうやってつければ良いのでしょうか?

全員を監視できませんし……」

「うーん、自己申告で良いだろう?」

「駄目です。平然と謀るものも多いです。

目的地を聞いただけで逃げようとした連中ですよ」

「策を講じるか、作業が終わったらベルを鳴らしてくれ」


 少年は硬貨を想像し魔法で作り出そうとした。

 手から黒い硬貨が転げ落ちる。

「これなら大量に作れそうだな。

いやこれは誰でも魔法で複製できるのか?」

 カミラはその硬貨を手に取り確認する。

「これほど純度の高い魔気の塊を作り出すのは難しいです。

私には複製はできません」

 少年は其れを聞くと大量に作り出す。

 材料もなく無限に湧いてくる代物だ。


 カミラはベルを鳴らす。

 再び民が集まってくる。

「領主様からの報酬です」

 黒い硬貨が全員に2枚ずつ配られた。

「これは何ですか?」

 誰かの疑問に少年は答える。

「権力だ。

多いほうの意見が優先される。

今後も配る予定だ」


 少年は民を円形に並ばせた。

「自分こそは頑張ったと誇れる者は手を上げてくれ」

 少年は手を上げた者にはもう一枚渡した。

 カミラはその様子を見て言葉を失った。

 手を上げたもの全員に渡し終えるまで待ってカミラは少年を呼ぶ。

「ちょっとこちらへ……」

 少し離れた人気無い場所だ。

 カミラは怒っていた。

「どうしてあのようなやり方をしたのですか?

騙し取られるだけです」

「それも技量や才能だ。

これは幾らでも作れるし良いだろう?」

「魔気が無くなれば使えなくなります。

魔物を倒すと魔気が放出されるので今は満ちていますが直ぐに枯渇します」

「魔物から魔気が出るのは何故なのか?

それは魔気で出来ているからだろう。

つまり魔気を放置していれば魔物になってしまう」

「まさかそんな事があるのですか?」

「さあ? 推測だよ」

「はぁ……、魔気は守護鎧の動力源にもなっています。

無駄に消費して枯渇させられると動かなくなります。

守りの要なので無限にあると思って無駄に消費しないで下さい」

「いざとなれば魔気に戻せばいい」

「まあそうですが配ってしまった物をどう取り返すのですか?

まさか徴収なんてことをしたら信用が無くなりますよ」

「それには心配しなくていい。

この硬貨は土地を買う為のものだよ」

 少年は四角を地面に書く。

「なんだ区分けして土地を売るのですね。

分配するものだと思っていました」

 

  


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