第5話 序盤がきついのは打てる手が少ないからだよ

 大地を削り進む無数の足をもつ巨大な石像が街を平にしていた。

 異様な姿に誰もが不気味に感じただろう。

 口を開いた巨大な顔に口に瓦礫をかき込む細長い手、胴体は長細い。

 口に入ると粉々に砕き焼却し地面にばら撒かれる。

 最後尾にローラーが付いていて通った後は地面が平になっている。

「整地君1号機だ」

「このデザインは魔物そのもの、それよりも醜悪です」

「仕方ないだろう。

壊れた守護鎧をつなぎ合わせたんだから」

「守護鎧は騎士の誇りです。

立派な人の姿をしている必要があるんです」

「あれは工作鎧だから……、守護用とは別物だ」

「それでもです」

 カミラは守護鎧を神格化しており、それが汚されるのが嫌で仕方なかった。

「道具と割り切れないなら、

君はそこまでと見切りをつけるだけだ」

「……道具ではなく騎士の誇りです」

 考えが違うだけなら良いが、それを強要し変えようとして来る事は許せない。

 折り合いをつけて妥協する所を見つける事ができないからだ。




 整地君によって半年は掛かると予想された整地が一週間ほどで終わった。

 だが建築は余り進んではいなかった。

 周辺の森は魔物が住んでおり木を切って持ち帰るのが困難であった。

 木を切る音で魔物が集まってくる為だ。

 報告を受けた少年は作戦会議を開いた。

「テントや馬車で寝泊まりしている訳だが、このまま冬に突入しても大丈夫か?」

「この辺りは豪雪で、テントでは押しつぶされるでしょう。

それに空腹になった魔物が積もった雪に乗って壁を超えて来ます。

生存確率がかなり下がると思われます」

 現在の人口は千人程だ。

 街は何万と住める程の広さがある。

 必然と守りに必要な人材も多く必要となる。

「ある程度、硬い守りが出来て多くの人達を収容できる城みたいなのが必要だな」

 若い女が手を挙げる。

 腰丈の赤い髪で額のところにゴーグルを付けている。

 分厚い作業着を身に着けた鎧技師のケルスティンだ。

「はいはいはいー」

「何か良い案があるのか?」

「ここより北に鉱山があります。

岩肌を切り取って、幕壁が作られたのは有名な話です。

つまり石で作れば良いです」

 カミラは地図をテーブルに置く。

「周辺を調査した結果、森には狼のような魔物が多数生息しています。

他にも昆虫型やオーク等の人型も居るようです。

そして鉱山周辺にはコボルトや小型のドラゴンが住み着いています」

 少年は聞く。

「どれぐらい強いんだ?」

「脅威は拮抗するほどで、森の魔物と山の魔物はお互いの縄張りに入らないようです」

「それなら鉱山で資源を取ったほうが良いな。

壁も修復できるし」

 ケルスティンは図面をおもむろに出す。

「見て下さい。

領主様、これが石切り鎧の案です」

 無数の足を持つ鎧だ。

 ムカデを連想させる人足が付いた不格好な姿だ。

 ゲテモノで有ることは間違いない。

「これをカミラの前で出すのか……」

 少年はカミラの顔色を見る。

 ぐっと怒りを堪えて食いしばっている。

 カミラは監視役として少年の側にいる。

 余計な事を言って少年から追放される事を恐れたのだ。

「あの生地君を見て何もかもが壊れて新しい世界が見えました。

多脚なら荷重にも耐えうるものになる」

 カミラは再び地図を上にする。

「山から街に川が流れています。

上流で切り取った石は船に積み移動させる方が早いと思います」

 ケルスティンは第ニ第三の案として別の設計図を提示する。

 どう見ても気持ち悪いデザインの不気味な雰囲気を持った鎧ばかりだ。

 人の一部を持ったと言う制限があるらしく、そこが不気味さを醸し出していた。

「船を製造する技術は有りません。

船で輸送するにしてもそれをここまで運ぶ必要があります」

「北西の街からなら川を通り運ぶ事ができます」

「一度海を経由することになって、更に魔の森を通る事になる。

無事にたどり着けるとは思えない」

 二人はにらみ合う。

「まあまあ、喧嘩しないで。

船を陸路で輸送して山に石を取りに行く事にしよう。

その間に山にいる魔物を掃討する」



 方針が決まると即座に動く。

 カミラは兵を数人連れて北西の街へと移動した。

 とんぼ返りしても往復一週間程掛かる。

 その間に魔物を討伐しなくてはならない。

 少年はケルスティンを連れて鉱山に向かった。

「あの領主様、私は戦闘は苦手といいますか。

魔物が怖くて何も出来ません」

「魔物の動きをよく観察して再現できないか?」

「あの動きは早くてとても再現はできないです。

どのような仕組みで守護鎧が動いているか知っていますか?」

「いや知らない、なんとなく魔気で動いているらしい事ぐらいだ」

「形状記憶金属に魔気を流すと形状が変化して動きます」

「どんな形にでも記憶させることは出来るのか?

それならバネのようにして伸縮させたら良い」

「バネでどうやって関節を曲げるのです?」

 少年はケルスティンにハサミを渡す。

「それで考えてくれ」

「はっはは……、なるほど。

解りました」

 ケルスティンは技師となって2年の新米だが、幼い頃から父の手伝いをし側で見てきた。

 その経験が生かされようとしていた。


 少年の乗る守護鎧は手が4本に拡張したもので、剣と盾を2つづつ装備している。

 小型とはいえドラゴンのブレスは脅威である。

 盾で身を守れるように予備を背にも装着してるほどだ。


 ドラゴンは四本足で巨大なトカゲに見える。

 口を開くと炎の息を吐き出す。

 少年は盾で防ぎながら前進し息が途切れると同時に剣で斬り伏せた。

 一匹のドラゴンを仕留めると、周りからもドラゴンがワラワラと集まってくる。

「大体動きがわかりました。

ドラゴンを模した鎧を作れば良いのですね?」

「成るべく格好良く作り上げて欲しい」

「解りました」

「操縦席は上から乗る感じにして欲しいな」

「どうしてですか?」

「この鎧も、扉部分が脆くて弱点になっている。

上から攻撃は中々されないと思うから」

 雑談をするほど余裕の戦いだ。

 トロールに比べると物足りないほどだ。

 少年がそう思い初めていると、洞窟から巨大なムカデが出てきた。

 頭だけでも守護鎧と同等の大きさだ。

「何だアレは?」

「知りませんよ。

あんな巨大なのは初めて見ます」

 巨大ムカデは鋭く巨大な大顎で噛み付いていた。

 守護鎧の盾は一撃で粉砕され砕け散った。

「トロールの攻撃ですら防いだあの盾がこんなに簡単に壊されるか。

噛まれたら鎧も粉砕されるな」

「逃げましょう」

「アレを街に呼ぶわけには行かない」

 少年は剣で斬りつけるが致命傷を与えることは出来ない。

 硬い甲殻に守られ傷つけるのがやっとだ。

 少年は関節を狙い切りつけているが数本足を切っても動きが止まることはない。

 巨大ムカデは暴れ避けきれなかった少年は直撃を受け飛ばされた。

 鎧は半壊しながらも転がり岩に叩きつけられ止まった。


 少年は目を回し気を失っていた。




 少年が目を覚ますと街に戻ってきていた。

「どうなったんだ?」

「あの魔物は暴れたら直ぐに洞窟に戻っていったわ。

今の鎧では太刀打ちできない」

「石ではなく鋼鉄の装甲を持つ鎧が欲しい」

「残念だけど、それは無理ね。

鋼鉄は重すぎて動かせないし、ここにはその材料がない」

「一つ鎧を壊してしまった。

カミラに怒られる」

「それなんですが溶鉱炉で溶かして新しい鎧を作成中です」

 ケルスティンは設計図を少年に見せる。

「随分と早いんだな?」

「丸一日目覚めなかったので時間はたっぷり有りました」

「ドラゴン型の鎧か、武装は何だ?」

「前足にかぎ爪を付ける予定です。

鋭い牙で噛み付けば岩をも砕くことが出来る計算です」

「うーん、尻尾に剣ぐらいは付けてほしいかな。

それから背の翼を可動式の回転ノコギリにしてほしいな」

「其れはなんですか?」

 少年は絵に円板を書き回転するものだと説明した。

 

 鎧はまず骨格から作られる。

 溶けた金属が魔法によって空中に浮かび上がり形を変えていく。

 恐竜の化石のような骨が作り上げられていく。

「不思議な光景だ」

 白く赤かった金属が徐々に冷えて鈍い色へ変わっていく。

 形状が固定されまでは空中に浮かせ続けなければならない。

 数人の魔道士が詠唱し維持しているのだ。

 魔物のような形状に魔道士達が困惑し始める。

「これは新しい鎧、新時代の攻撃型の竜鎧なのさ」

「竜鎧……」

 カミラが戻る前に出撃しあの巨大ムカデを撃退しなければならない。

 それには余りにも時間が足りない。

 大胆に外部装甲を頭部だけに絞り後は骨格が見えるようにした。


「取り敢えずスケルトンドラゴンの完成よ。

あまりにも情けない不格好な出来ね」

「中々格好いいじゃないか。

骨打げなく内部まで透けてて心臓みたいなのは何なんだ?」

「それは吸魔核です。

魔気を外部から取り込んで動力源にします。

外壁が無いから直撃を受けたら破損は確実ね」

「早速リベンジと行きますか」

 少年は骨竜鎧に乗る。

 骨竜鎧は体を地面に付け低い姿勢を取っているが守護鎧の倍近い大きさがある。

 梯子を設置しなければ乗り込むことは出来ない。

 初めから二人乗りで設計されていて後ろにケルスティンが乗り込む。

「私は後ろの尻尾や翼を動かすから」

「さあ出陣」



 骨竜鎧は守護鎧よりも素早く半日掛かる所を半時でたどり着いたのだ。

 基本的には四本脚で走るが二本足で立ち上がり走ることも出来る。

「さて本番のあの魔物と戦う前に雑魚を蹴散らすか」

「鎧の各部に負荷が掛かり過ぎて悲鳴を上げています。

調整が必要です」

 そんな余裕はない。

 ドラゴンに乗ったコボルドが突進してきたのだ。

 骨竜鎧は鋭い前足の爪でドラゴンを切り裂く。

 コボルドは犬のような顔を持つ人型の魔物だ。

 手に槍と盾を持ち骨竜鎧に槍を突き立てる。

 骨竜鎧は立ち上がると前足を振るいコボルドを盾事切り裂いた。

 圧倒的な力の差を見せつけると蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「これだとどっちが化け物か解らないな」

「右脚部がさっきの戦いで損傷したようです。

補強するので降りますね」

 暫くするとケルスティンが浮かない顔で戻ってくる。

「困りました。

各部に歪みが発生しています。

致命的なのが背部の一部に亀裂が入っています。

強度不足で動きに耐えられてないようです」

「一度撤退して修復しようか?」

「そうですね。

余り無理をするとバラバラになってしまいます」

 洞窟からあの巨大ムカデがものすごい勢いで飛びかかってきた。

 少年は咄嗟に回避させ直撃を逃れた。

「翼で足を切れ!」

 骨竜鎧の翼には回転ノコギリが付いているが巨大ムカデの足を切り先程の切れ味はなかった。

 火花が散り刃の方が削れる有様だ。

 巨大ムカデは骨竜鎧に巻き付き締め上げ始めた。

 軋む音が聞こえ壊れ始める。

「くっ……勝てないのか」

「こんなことも有ろうかと自爆装置を付けておきました。

どうしますか?」

「それは大丈夫なのか?」

「ええ勿論です」

「解った自爆だ」

 骨竜鎧の頭部が切り放され転げ落ちる。

 胴体部分が魔気暴走を初め爆発を起こしたのだ。

 莫大な力が一気に開放され巨大ムカデの体をバラバラにするには十分な爆発が起きた。

 辺りに甲殻が散らばり落ちる。

「あれを食料にしている魔物が存在するらしいです。

そんな化け物がゴロゴロいるんですよ。

私達の力で何処まで太刀打ちできるのか……」

「気にしても仕方ない。

取り敢えず戻ろうか」

 骨竜鎧の頭部だけでも動くように細工されている。

 顎下辺りから隠し足が四本生えあるき始めた。

 あまりに不格好な姿だ。


 


 巨大ムカデの脅威が無くなり、船も届き本格的に鉱山から資源を回収することになる。

 街は家が立ち並び順調に復興しつつある。

 そんな時、急報が入る。

 隣国が魔王軍の侵攻により壊滅的な被害を受けたのである。

 隣国が敗北すれば孤立し包囲されることになる。

 そうなれば滅びることは必死である。

「救援要請が来ています」

「すぐに行くと伝えてくれ」

 少年は森の魔物との戦いに向けて準備を進めてきた。

 ライオンを模した攻撃型の獅子鎧に鉄壁の守りの亀鎧……。

 人型の汎用鎧等と開発が進んでいるのだ。

 カミラは冷たい目で少年を見る。

「どうしてあの鎧は女を模した華奢な造りなんですか?

もしかして……」

「金属は重いから強度を保ちつつ極限まで軽くする必要があって、

あの形に収まったらしい。

俺の趣味って訳じゃないぞ」

「本当にそうですかね」

 戦乙女壱号と名付けられた守護鎧は小柄で足は細く、腰が太く胴は細い。

 ドリルランスと言う螺旋の刃が付いた槍を装備し巨大な楕円形の盾を持っている。

 羽つきの帽子を被ったようなデザインの顔だ。

 足はハイヒールを履いているような物となっている。

 石像の守護鎧は男を模した勇ましい姿で足は裸足である。

「これを作ったのはあのケルスティンだぞ」

「自称天才技師……。

彼女ならやりかねない。

これは並の守護鎧よりも背が低くて小柄すぎない?」

「大きいほど強力というのは大体あっている。

これは雑魚狩る為に機動力を重視しするようにお願いしたものだ」

「守備隊として一体残すとして、残りは全機出撃かしら?」

「まさか、森の魔物を討伐も行う。

裂ける戦力は一体だけだ」

「魔王軍相手に応援がたったの一体?」

「ああ、俺と君が行くからな」

「えっええ……?」

 

 戦乙女壱号を改造し強化した死神ちゃんに乗り込む。

 汎用機と武装が違って巨大鎌を装備し魔法使いが被ってそうなとんがり帽子を被っている。

 カミラは異様な鎧に不気味さを感じ聞く。

「これは何ですか?」

「これは速度回避に特化した鎧で、光を屈折させて残像を残すと言う魔法が掛けてある」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る