第29話 環境変化魔法ってチート過ぎて草生える。

 魔物殲滅戦は大詰めを迎えていた。

 部隊を三つに分け、三方から包囲するように追い詰めていく。

 横並びする鋼鉄の自動鎧は圧巻であった。



 巨大サソリが砂から突然、姿を出し襲いかかる。

 自動鎧は動じることもなく現れた敵に対し的確に急所狙い定める。

 左手を巨大サソリの頭部に向けた。

 爆音と共に杭が発射され厚い装甲を貫通した。

 ほぼ一撃で霧状化し巨大サソリは砕け散った。


 巨大サソリの装甲を貫くために左腕には無反動杭打ち機パイルバンカー2が装備されていた。

 爆発の魔石を消費し、爆発エネルギーを利用し杭を発射する。

 余った爆発を反対方向に捨てる事で無反動を実現している。




 統率の取れた自動鎧が突然、乱れ戦線を放棄し一箇所に集まっていく。


 

 それは直ぐにアデーレの元に知らせが入った。

「自動鎧が暴走して、遺跡跡に向かって居ます」

 アデーレは青ざめた。

 あの自動鎧は最新技術で作られていて、生身で太刀打ちできるようなものではない。

「それは魔物化したということか?」

「いいえ、最優先事項に則り動いているようです。

それが何を意味するのか解りません」

「目指している遺跡には何がある?」

「崩れかけの神殿。

太陽神が祀られていたらしいです」

 

 アデーレは神様には無関心だが、妻のワルワラは月の女神を信仰している。

 闇を照らし慈悲深く希望を与えてくれる存在らしい。

 他の神に対しても敬意を払う事を良いことと定めている。

 神殿を魔物に占領されたままに放置するのは、それに反する行為となってしまう。

 三盾騎士団にも信者が多く軽視は出来ない。

「神殿に向かってくれ、見ておきたいものがある」



 神殿の入り口は自動鎧によって破壊されたのか崩れて塞がれていた。

 内部では戦闘が行われ崩れる音が響いていた。


 エルフのエドアルドは床に種をばら撒く。

 そして革袋から水を垂らす。

 武器は取り上げられたが、そういった小物は奪われずに済んだことが救だ。



 魔物が彼の行動をぼんやり見ているわけもなく、火矢の魔法を操り放った。

 火矢はエドアルドに向かって飛んでいたが軌道を変え床に突き刺さった。

「この草は、火喰い草というものです。

ドワーフの商人から買ったものでとても珍しい植物です」

 火喰い草は、その名が示す通り火を食らって成長する珍しい草だ。

 急速に赤く長い蔓を伸ばし葉を茂らせている。


 スフィンクスは舌を垂らす。

「ふふふ……。

ここは神殿、神に捧げるに相応しい貢物とは何か答えよ」

「それは命の息吹です。

ご覧下さい」

 様々な草木が伸び始める。

 エルフが得意とする植物成長の魔法だ。


 バフォメットが伸びる草を踏みつけるが、成長は止まらず足に絡みつく。

 手で切り裂いても倍に増え伸びてくる。

 徐々に体の自由が奪われていく。

「スフィンクス! 見ているだけではなく手助けしろ。

我らとは協力関係にあるはずだ」

「幾ら力を授けても魂が脆弱では本来の力すら発揮できないようだ。

もっと高貴で純粋な魂でなければ……」

 スフィンクスはバフォメットに食らいつき飲み込んだ。

「共食い……?」

「この体は、魔物を食らう事でその力を全て奪う事ができる。

望むならこの力を与えよう」

「魔物になっても食われるだけなのはごめんだ。

それにもっと色んな場所を見たい」


 振動と金属音が迫っていた。

 自動鎧がようやくやって来たのだ。

 スフィンクスは意外そうに、それを見る。

「見張りのデススコーピオやデスナイトを突破してきたのか?

エルフのゴーレムごときに負けるとは情けない」

 金属の音色が響くと自動鎧は動きだす。

 自動鎧の内部にオルゴールのような物があり、それで動きがパターン化されている。

 

 突起が接触することで、魔気が流れる。

 その時に音が副産物して発生するのだ。

「さて反撃開始だ」

 エドアルドは自動鎧の強さを過信していた。

 圧倒的な破壊力に、恐れること無く突き進む勇敢さ。

 

 スフィンクスは羽ばたき、天井付近へと上がった。

 神殿は高く作られており自動鎧が手を伸ばしても届かない。

 杭にはストッパーが付いている為に撃ち出すことは出来ない。

 

 空の上に居る敵に対しては無力だった。

 一方的に魔法によろ攻撃が行われた。

 スフィンクスの口からほど走る雷が辺りを焦がす。


 エルフを守るように自動鎧は自ら当たりに行くほどで、徐々に破損し壊れていった。

 数体による自動鎧の守りは鉄壁だが、全滅するのも時間の問題だ。

「弓が有れば戦えるのに……」

 静かに状況を見守っていたノームのヴァニアは床に手を付く。

「弓が有れば良いんだね?

それなら魔法で作り出してあげる」

 床から弓矢が形成され出現する。

 エドアルドは、それを手に取り矢を放った。

 狙いは外れ矢は天井に当たり、そこから亀裂が走り崩壊が始まった。

「しまった」

 スフィンクスは動きが素早く不規則に飛んでいる。

 崩れ落ちる石すら蹴飛ばし自動鎧に当てるぐらいの余裕を見せていた。

 そして自動鎧の頭部に食らいつき、引きちぎり破壊したのだ。

「こんな玩具で我らに挑もうとは愚かな」

「そんな……」

 数体居た自動鎧はまたたく間に破壊され機能を停止した。

 スフィンクスには自動鎧の仕組みは理解できないが、音によって動きが同じことは観察から察せた。

 致命的な欠陥だが、これが判明するのはまだまだ先のことだ。



 エドアルドはヴァニアと共に逃げていた。

 部屋を出ると長いL字通路がある。

 途中、小部屋に通じる扉が破壊されて中が見える。

 自動鎧によって殲滅したのだろうか、魔物の残骸が転がっている。

「ここに隠れる?

それとも出口へ真っ直ぐに進む?」

 エドアルドは体力がなく既に息が切れて苦しくなっていた。

「だらしない。

真っ直ぐ進んで曲がったら後は直進するだけです」

 二人は角を曲がって驚く。

 遠くに見える出口が崩れて塞がって居るのが見えた。

「逃げられない。

ここで迎え撃つしかない」

「あの魔物をどうやって?」

「部屋に入って狙い撃つ。

体が大きくて中に入る事はできないはずだ」

 部屋の中には木箱等が散乱している。

 それをバリケードにしようと並べ隠れて待つ。


 スフィンクスは音立てずに部屋を覗き見た。

 目が合いエドアルドは矢を放った。

 矢は目を貫き壁に突き刺さった。

 ヴァニアはエドアルドの手を引っ張る。

「あれは幻鏡の魔法ミラージュだ」

 光を鏡のように反射させて見ることが出来る透明な板を作り出す魔法だ。

 物理攻撃はすり抜ける特性があるが魔法は弾くという性質があった。


 スフィンクスの口から放たれた雷が部屋の中で暴れる。

 二人は木箱の影で体を伏せて難を逃れた。


 場所を特定できたのは聴力が優れていたためで、木箱を動かす音が聞こえていたのだ。

「何時でも殺せる機会はあった。

それでも生かしていたのはチャンスを与えるためだ。

魔王様に忠誠を誓うなら生かしてやっても良い」

 無抵抗に殺されるような者では良質の魔物が作り出せない。

 それなりに知恵と勇気がある者でなければならない。

「幾ら不利な状況でも諦めたりはしない」


 ヴァニアは両手をあげてスフィンクスに歩み寄る。

「忠誠を誓うから助けて欲しい。

エルフと一緒に死ぬのは御免だ」

「それは良い判断です。

では足に口づけをしなさい」

 スフィンクスは前足を出す。

 ヴァニアはその足に針を刺した。

 魔法で作り出した物で特に毒が塗ってある訳でもない。

「サソリの毒が塗ってある。

もうすぐ痺れて動けなくなる」

「その毒には耐性がある。

意味のない事で命を捨てたな」

 スフィンクスはヴァニアを押し倒し踏みつけた。

「ノームは恩人を裏切ったりはしない。

だから皆の事は悪く思わないで欲しい……ああっあぁぁ」

 殺さないように痛みを与える程度に踏んでいるのだ。

 体重をかければ彼の体は耐えられずに潰れるだろう。


 エドアルドは見ていられ無かった。

「彼を助けてくれるのなら……」

 




 


「其れは待って貰おうか」

 その声はアデーレだ。

 彼は純白のウエディングドレスを着たワルワラにそっくりな守護鎧に乗っていた。

 手には積み重ねられたケーキのタワーを模した金棒を持っている。


 ホバー機能を搭載し若干浮かんでいた。

 あまりの異様さに誰もが、それを見入った。


 動き出したら止まらないじゃじゃ馬である。

 ものすごい勢いのまま金棒を突き出す。

 その一撃をスフィンクスは踏みつけ躱した。

 だが勢いは止まらず床を削り進み壁に激突し止まった。

「これは慣れるまでは相当きついな」

「ここは神殿、そんな事もわからないのか?」

「魔物が占領した時点で、もうここはただのダンジョンだ」

「愚かな月の女神を模して、その振る舞いはあまりにも野蛮。

慈悲深い女神への冒涜だ」

「随分と物知りなんだな。

だけど一つ間違いがある。

それは女神じゃなく、俺の妻を模したものだ!」

「なっ……」

 スフィンクスは余りの意味不明さに思考が停止した。

 アデーレが言いたい事は何なのか。

 その数秒が命取りだった。

 純白鎧の手がスフィンクスの翼を掴んだ。

「聞いてくれるか。

どうして俺が妻の姿をした鎧に乗る事になったと思う?」

「言っている意味が解らない。

自ら作らせ乗ったのではないか?」

「違う……」

 純白鎧は翼を引きむしり羽を撒き散らせる。

 スフィンクスはもがくが根本付近を掴まれて逃げることは出来ない。

 背に回られると、どうすることも出来ないのだ。

 

 アデーレは更に不満をぶつけたが魔物に理解できるものではない。

 純白鎧にはまともな武装がなく近接戦闘は素手で行うしかない。

 金棒は形が異様な為に狭い通路では振り回せず使い物ならなかった。


「もう止めてくれ……」

 アデーレは今までの出来事を話した。

 秘密の暴露であり本来なら敵に話すことではない。

「なぁ、彼奴等は何なんだ。

本当に味方なのか?」

「知らない……」

 スフィンクスはアデーレの考えが全く読めず。

 何故そんな情報を与えるのか理解に苦しんでいた。

「魔物に聞いたのが間違いだった」

 純白鎧は魔物を手放すと仲間を拾い、そのままムカデ鎧に帰還した。


 スフィンクスは余りにも意味がわからず苦悩し悶える頭を壁に打ち付け息絶えた。

 もしアデーレがスフィンクスに止めを刺していれば、バフォメットの魔力で死後数日に再生し肉体が復元していた。

 だが自ら命を断ったことでその力は発動しない。


 それをアデーレが知る由もなく、ただの偶然の結果だ。



 帰還したアデーレは待っていた鎧技師ケルスティンに詰め寄る。

「あんな恥ずかしいものを作ってくれたな」

「とても美しい姿をしていて、高貴で凛々しい顔立ちをしています。

その何処が恥ずかしいのですか?」

「うっ……、まあそれは認める。

だが俺が乗る鎧として相応しくはない」

「領主様を除いて、あの鎧に乗るに相応しい騎士が居るのですか?

私は愛する者と離れて寂しい領主様に喜んで貰おうと……」

「……意地悪で作っただろう。

次はちゃんと作ってくれ」

「空中浮遊なんて素晴らしい機能のお陰で、

砂漠でも圧倒的な加速ができますよ」

「そうなんだが、見た目は大切だ。

胸が大きすぎる」

「奥方様がスマートなのは知っています。

ですが機能を詰め込むにはどうしても減らせなかったのです」

「ああっ……、君は人型の鎧を作るのは暫く禁止だ」

「うっ……、それだけは許して下さい。

もっと凄い鎧を作ってみせますから」



 スフィンクスを撃退し魔物の討伐は完了した。

 砂漠は消え失せ、緑が覆い尽くそうとしていた。

 ノームとエルフによって大地に緑が蘇ったのである。


 神殿には砂漠化の魔法が込められた魔法陣があり、神殿の崩壊と共に破壊された。

 それを応用して緑を取り戻したのだ。



 姫グスタフスはアデーレを街の中心に呼んだ。

「この度は街の奪還をして頂き助かりました。

ではこの領地を貴方に預けたいと思います」

「押し付けられても困る」

「援助がなければ、復興はままならないです」

 魔物を撃退して取り戻しても、その後の管理を怠れば魔物に再占領されてしまう。

「そうだな、ここは南の国々との貿易拠点にするか」

「とても良い案です」

 数日が過ぎると街には人が集まっていた。

 純白の鎧が街を守っているという噂が広まり人々がやって来たのだ。


 治水工事が行われ、川を利用した交通網が敷かれた。

 そして道が整備され街はより人の出入りが増え賑わいを見せた。



 順調な復興が進み一息ついた頃だ。

 アデーレの元に妻のワルワラから手紙が届く。

「会いたいみたいな可愛らしい言葉なら喜んで戻ったんだけど……」

 純白鎧の噂が彼女の耳にも届いたようで、みたいと書いてあるのだ。

「どうするんだ。

壊すわけにもいかないし……、ああっおしまいだ」

 こっそりと侵入したヴァニアが声を掛ける。

「領主様、助けて頂いた恩を返しに来ました」

「君が何をしてくれると言うんだ?」

「月の女神様の絵を持ってきました」

 月の女神を描いた絵は地域によって、その姿が違う。

 その絵をアデーレは見て驚いた。

 ワルワラに似た雰囲気を持った姿をしていたのだ。

 違うのは服装で煌めく星を散りばめた紫のドレスを着ていた。

「この服装に変えれば……」

 

 月の女神の姿をした鎧を作ること自体が禁忌である。

 それを知らずに行おうとしていた。

 アデーレは鎧技師を集めた。

「一つ頼みがある、この絵のような感じに改造して欲しい」

「これは?」

「月の女神らしい、これを妻に贈るつもりだ」

「……鎧を女神様の姿にすると言うのですか?

そんな事が許されるとは思えません」

「守護神として置く事に何の問題があるというんだ?」

 

 その日、アデーレは神官に呼び出され神殿に連れて行かれた。

 異端者として裁きを受けるためである。

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