第7話 運ってステータスは飾りでしか無い

 少年とデュラハンとの戦いは数時間に及んだ。

 デュラハンは周りの魔気を吸い上げ巨大化し守護鎧と同等以上となっていた。

 騎馬による突進、突撃槍を少年はかわすので精一杯だ。

 直撃を受ければ粉砕されるだろう。

 半壊している守護鎧では分が悪かった。

 片手で対処するのはきついのだ。

 両手が使えれば盾を構え攻撃を受け流し反撃も出来ただろう。

「ちっ……強制的な縛りプレーって……」

「右から来ます」

「こうなったら一か八か、耐える」

 少年は魔法を使い守護鎧の周りを分厚く固めた。

 守護鎧は完全に身動きが取れなくなり動かない黒い塊となった。

 そこにデュラハンの突進が直撃する。

 鈍い音共に突撃槍が曲がりデュラハンは落馬した。

 槍は深々と突き刺さり頭部を砕いていた。

 守護鎧の操縦席は腹の部分にある。

「動けぇぇぇ!」

 少年は外装を瞬時に魔気へと戻すと渾身の一撃を叩き込む。

 デュラハンの鎧を切り裂いた。

 切り口から出た膨大な魔気の霧が辺りを黒く染めた。


「勝った……」

「もう守護鎧は動かない。

後は残ったゾンビの群れに食われるだけだわ。

ああ……、まだキスすらしたことなかったのに」

「君は少し黙ってくれないか?」

 カミラは涙で少年を見つめる。

 少年は魔気を集め剣を作り出す。

 軽くて細く丈夫な物だ。

「これで身を守るぐらいは出来るだろう?」

「これで最後まで戦えと言うのですか?」

「そうだ君は騎士なのだろう?」

「勿論、騎士です。

解りました最後まで戦います」

 カミラは涙を拭くと降りた。

「我こそは近衛騎士カミラです。

あの世に行きたい者から掛かってきなさい」

 カミラが剣を振り上げ突撃をすると大地が赤く染まる。

 日が昇り大地を照らしたのだ。

 ゾンビは日を浴びると黒い蒸気を発し灰と化し砕けていく。

「えっ……」

 カミラは戻り少年に報告しようとしたが、少年はぐっすり眠っていた。

 一晩寝ずに戦いを続けたのだ。

 カミラは少年の額に口づけをする。




 魔王軍の侵攻はブランドン国周辺国連合により食い止める事ができた。

 大規模な軍勢での侵攻だったが都市メルキオッレでの少年の活躍により魔王軍は戦力の1割を失しなったのである。


 少年はアノヒンア国王に呼び出された。

「最も遠い土地にいた筈だがどうやって我々より早く目的地に到着した?」

「それは空を飛ぶ勢いで進んだからです。

新型の守護鎧は素早く動くことが出来て長距離移動も可能です」

「数万の軍勢を一人で壊滅させたと聞いているが、

本当のことか?」 

「それは偽りで御座います。

敵は魔気で操られていた人形に過ぎず、魔気を断つことで崩れ落ちました。

新型は魔気を膨大に必要とし魔気が少なくなったという偶然によるものです」

「偶然に敵が崩れ落ちたと申すか?」

「はい、其れ以外に考えられません」

 国王は少年に褒美を与える。

 本来なら足並みを揃える必要があったが、立地的に少年が加勢するのは最も遅いと考えられていた。

 即座に来いとしか伝えたなかったのだ。

 指示に従い即座に向かい敵を殲滅させたのだ。

 何も違反はない。

 少年は設計図を国王に渡す。

 王様に渡すために隠し持っていたもので、靴下の内側に巻きつけてあった。

「これがこの度に使用した守護鎧の設計図です。

今後も支援して頂けると有り難いです」

「どのような支援を求める?」

「鎧の乗り手を訓練するための学校みたいなのが必要だと思います。

もっと鎧を沢山配備して守りを固めたいです」

「良かろう。

学園を作ることを認めよう」

 少年は笑みを浮かべた。


 国王は少年が危険だと感じていた。

 少年が権力を手にすれば、圧倒的な力で国王の座を奪い取ることも出来るだろう。

「王国を守る守護鎧が不足している。

何体か納入してくれないか?」

「解りました直ぐに贈りたいと思います」

 



 少年は自分の街に戻る。

「どれぐらい生産出来た?」

「既に30体出来ています。

量産するための工場も稼働して更に生産力が増しています」

「20体程、王都に送っておいて」

 大量に作れるのは部品を規格化し組み立てるという方法を取っているためだ。

 数人で一つの鎧を作っていたが、軽量化することで人数を減らし生産ラインを増やしたのだ。

 人が行っていた作業を工業鎧が行う事で、必要な人手を減らし大規模な生産を昼夜休まずに出来るようにしている。

 鎧技師のケルスティンは少年を見つけると直ぐに設計図を持ってくる。

「物資の輸送を考え巨大な移動要塞が必要だと思います。

そこでムカデ型の鎧を提案します」

「……どうしてムカデなんだ?」

「それは以前戦ったアレが頭にあって、書いていたら中々いい感じだったのです。

いやー、分離合体して幾らでも長く出来るので面白そうと思ったんですけど……」

「そうだな。カミラには極秘で作ってくれ」

 二人は大笑いする。

 

 

 街は賑わい初め、少年の活躍を聞きやって来る者も増えた。

 工業主体で農業は壊滅状態のままであった。

 農作物の収穫は微々たるもので民が食っていける量はない。

 必然的に食料は輸入に頼ることになり高騰していた。

 門を守っていた兵士の一人が少年のもとに駆けつけ報告する。

「街を追われた難民が押し寄せてきています」

「数は一体どれぐらいだ?」

「5~6千と言ったところです。

我々の人口は2千程度で難民の方が多くなれば街を乗っ取られる可能性があります」

「カミラの意見を聞こうか」

「えっ私ですか?

どうして私に振ったんですか?」

「君しか頼れる臣下は居ない」

「そこまで信頼して頂けていたのですね。

受け入れられるのは百人です。

収容出来る家すらなく、食料が全く足りないためです」

「壁を拡張することは出来ないか?」

「えっ……壁を拡張しても家を立てる余裕はないです」

「脅威なのは魔物だろう、壁で守っていればそこに自由に家を立てることは可能だろう」

「ですが冬を超える食料が無いです。

飢えれば理性を失い生きるために暴動を起こす危険性が増します」

 カミラは疑問を持ちつつも少年の提案を受け入れた。

 ケルスティン主導の元に壁が作られる。

 壁は薄く広い空間を持ち内部に入ることの出来る異様な壁だ。

 ムカデ型鎧の製造を隠蔽するための壁であった。


 少年はガラスの板を大量に作らせた。

 基本的に作物は季節にあったものしか収穫は出来ない。

 季節に関係なく生産できるように温室を作らせた。

「これである程度は食糧不足は緩和出来るだろう」

「これ全てがうまく言ったとしても、一月分ぐらいしか収穫はできませんよ」

「魔物を討伐して更に土地を拡大する。

森の魔物を全て狩り尽くすぞ」

「すぐに準備をします。

その前に溜まった書類を処理して下さい」

「書類?」

「領主様の仕事です。

全て目を通し認可するものには印を押して下さい」

「今まではそんな事は……」

「だから処理できずに溜まっているんです。

早急に片付けて下さい。

其れが終わるまで一歩も屋敷から出ることは許しません」

 カミラは少年を屋敷に閉じ込めた。

 今まではカミラが代わりに書類を処理していたが、少年の暴走を止めるために事務仕事を押し付けることにしたのだ。

 屋敷はまだ建築中で一階部分しか出来ていない。

 カミラが雇ったメイドが数人少年を取り囲む。

「誰だお前たちは?」

「カミラ様に雇われたメイド長のリザラズです」

 ミサやリーザ、ククル、ナナと次々と名乗ったが覚えられない。

「私達は領主様の世話をするようにと命令されています。

何なりと申し付け下さい」

「取り敢えず書類を見よう」

 少年は書類を見る。

 内容は痴話喧嘩から治水工事と様々である。

「まずは分類しよう、公共事業はこの箱に入れてくれ。

犯罪の処理はこの箱、其れ以外と……」

 少年は3つの箱を用意しメイドに分類させた。

「分けることに何の意味があるのでしょうか?」

「犯罪の処理は司法が行うことだ。

罪を裁く判断をするのは公平な立場である必要がある」

「その公平な立場の者は誰なのですか?」

「民衆から代表を選ぶ、そうだな地図を用意してくれ」

 メイドは直ぐに地図を持ってくる。

「街を3つの区画に分ける。

それぞれの区画に住むものから一人ずつ代表を抽選する。

それでその三人が審判をする権利を持つ」

「審判ですか……、つまり死刑とか決めるわけですか?」

「そうなるが、重罪は俺が承認しないと実行しない。

軽犯罪なら審判できまったら即実行する」

「其れはどうしてですか?」

「冤罪があるかも知れないだろう」

「なるほど……」

 少年は適当な事を言いつ、仕事を他人に割り振っていく。

 少年が扱う仕事は重要度が高く少ないものとなった。

 雑多な誰でも決められるものは誰が決めても良い。

 そんな事で無駄に時間を割くのは勿体ないだけだ。


 少年によって様々な組織が作られ役割と仕事が与えられた。

「ふぅ……、これで暫くは何もしなくて済むな」

「ご主人様ぁ」

 メイドの一人が少年に寄り添う。

「暑苦しいから離れろ」

「邪険にせずに聞いて下さい。

国王様は貴方の事を大変気にかけています」

「色々と援助して貰っているしな。

何かお礼をしないとな」

「国王様は宝石好きです。

鉱山で取れた宝石を贈っては如何でしょうか?」

「それは良い案だな。

其れだけではないのだろう?」

「ええ、先日贈られた守護鎧は性能が良すぎました。

今までの守護鎧を容易く破壊し圧倒的な力を見せつけました。

もしこれが他国に渡れば脅威となります」

「……監視を強化しろと言うことか?」

「難民に紛れて間者が忍び込んでいるかも知れません。

即刻全員の首をはねる事を進言します」

「そんな恐ろしいことを俺にやれと言うのか?」

「出来ないのでしたら私の方で解らないように処置します」

「守護鎧の一つは既に他国に渡っている。

無意味に人を殺す事はできない。

だから君を拘束することにする」

「……国王に逆らうことになりますよ。

それでもですか?」

「国王様の命令なら正式な手続きをもって行われる。

君こそ国王の名を騙っているのではないのか?」

 メイドは命令書を少年に渡す。

 正式なもので捺印がされている。

「民を殺すつもりはない。

人々を救うのが俺が目指すものだ」

「それはご立派なことです。

もし力の均衡が崩れれば不要な争いが起きます。

そうなれば今以上に死者増えるでしょう」

「それなら知識を共有すればいい。

そうすれば魔王軍にも勝てるだろう」

「……やはり貴方は危険ですね」

 メイドは隠していたナイフを取り出す。

 少年は咄嗟に魔法で剣を作り出す。

 一瞬で勝負は決まる。

 少年の剣がメイドのナイフを巻き上げ飛ばしたのだ。

「なっ……、その剣技は……」

「俺が最も得意とする技だ」

 敵の武器を弾き飛ばす事で無力化する。

 装備を奪えるメリットがあり序盤の資金不足は得た武器を売ることで補える。

「……さあ殺しなさい」

「それは目覚めが悪い。

君には王様に贈り物を届けてもらう」

 少年は宝石と新しい守護鎧の設計図に手紙を付けてメイドに渡す。

「監視者は私だけではない。

気をつけることね」

「ありがとう、王様によろしく言っといて」


 間者に襲われ撃退したと言う噂を聞いたカミラは少年の周りを兵で固めた。

 少年を監視するヒゲを生やした熊のような大男が側に立って見張っている。

「えっと守りは部屋の外で良いと思うんだけど……」

「油断が命取りです。

ここは大船に乗ったつもりで業務をして下さい」

 少年は書類を確認し捺印する。

「街の警備を行うための組織か……。

これをカミラに任せたら権力暴走して厄介なことになるな。

いや其れも面白いか……」

 慌てた様子で兵士が部屋に入ってくる。

「大変です、難民が街に入れろと門前で騒いでいます」

「困った連中だな。

俺が話をしよう」


 少年が門を出ると、手に棍棒を持った男達が暴れていた。

 必死に兵士達が食い止め今にも突破されそうな勢いだ。

「街に入る条件は簡単だ。

これから魔物を狩りに行く、魔物を10体狩った者の家族だけ入ることを許可しよう」

「何だって、俺達に死ねと言うのか?」

「この街は常に魔物に狙われている。

自分の力で身を守れないものは死ぬだけだ。

他へ行くと良い」

「ふざけるな、壁の中で温々と過ごしている癖に」

「嫌なら自分たちの街に帰ると良い。

一歩でも無断で侵入するならば死を覚悟をしてもらう」

 開かれた門の向こうには獅子型の鎧が睨みを効かせている。

 少年の合図でゆっくりと獅子型鎧が歩みを初めた。

 難民達はその姿に恐怖を感じ離れる。

「この鎧は獰猛どうもうで気性が荒い。

挑むなら死を覚悟することだ」

「解った魔物を狩りに行く、武器は貸してくれるんだろう?」

「その手に持っている棍棒で十分に戦えるだろう」

 難民達は石を放り投げる。

 無数の石が飛んできた。

 少年を守るためにカミラが前に出る。

 運悪くカミラの頭に直撃し彼女は膝をつく。

「大丈夫か?」

 難民の暴動は収まる気配はなくより過激に暴れ始めた。

 守りを突破した難民の一人が棍棒を振り上げ少年に叩きこもうとした。

 少年は素早く避け空を切る。

 二撃目はない振り上げた時、獅子鎧の爪がその難民を切り裂いた。

 少年はつぶやく。

「これなら王様の言うことを聞いて皆殺しにしておけばが良かったな」

「大丈夫です……、これぐらいどってことはありません」

 カミラは血を流しつつも立ち上がる。

 少年はカミラを抱きしめる。

「済まない怪我をさせてしまったな」

 カミラは顔を真赤にする。


 少年は堂々と立ち言い放つ。

「大人しくそこに居るか、別の土地に行くか。

魔物を狩って街に入るか選ぶといい。

無断で入ろうとしたものは誰であっても許しはしない」


 

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