第6話 進行する不気味な死者の軍勢に挑むらしいよ

 アノヒンア王国より北東へ真っ直ぐ進むと隣国ブランドンの都市メルキオッレにたどり着く。

 少年の乗る守護鎧"死神ちゃん"は帽子の部分に浮力があり脚力で滑空しつつ高速に移動出来る。

 一ヶ月は掛かる道のりを僅か3日でたどり着いた。


 都市は包囲され陥落間際であった。

 少年は包囲網の分厚い所へ突撃したのだ。

 鎌を持った巨体な少女姿の守護鎧に魔王軍は混乱した。

 魔王軍の主力はオークと言われる豚顔をした人型の魔物だ。

 繁殖力が高く数が最も多く、人間の倍近い力を持つ驚異的な怪力を持つ。

 それが軽く狩られていくのだ。

 死神ちゃんが鎌を振るえば、オークの首が飛んだ。

 

 オークが束になって掛かれば並の守護鎧ならば粉砕されていただろう。

 だが其れに近づくことすら出来ずにオークは首を失い倒れていったのだ。

「ぶひひ……うわわぁぁぁ、化け物だ!」

 死神ちゃんには円月輪と言う刃が外向きに付いた円盤状の飛び道具が装備されている。

 回転しながら円月輪を無数に放り投げる。

 辺り一面に切り裂く刃飛び回る。

 其れはゆるく弧を描き戻ってくる。

 死神ちゃんに気を取られたオークは背後から迫る其れに気づく事なく息絶えた。


 



 カミラはのんびり倒した魔物を数えていた。

「これで2万超えっと……、凄いわ。

惚れそうよ」

「君が倒したとこにするから上手いこと宜しくね」

「えっええ……、ちょっと待って下さい。

なんでですか?」

「俺は雑魚刈りに興味はない」

「オークは雑魚じゃなくて魔王軍主力ですよ」

「1つ目の巨人は中々怖かったが、アレが数十居たらやばかったかも知れないな」

「サイクロプスが数十も居たらあんな街数分で全滅ですよ。

と言うか簡単に倒していたじゃないですか」

 魔王軍は壊滅的な打撃を受けて潰走を初めた。

 王国の旗を掲げ、少年は街に入る。

 声援が沸き起こり出迎えてくれる。

 

 城塞都市らしく、道は複雑で家自体も壁の一部となって敵を阻む。

 守りの堅い街である。

 サイクロプスが投げた岩で幾つかの家が潰れ奥深くまで侵攻されていた。

 後一日遅ければ陥落していただろう。

「本来なら一体の守護鎧しか援軍に来なかったと笑いものにされる所ですよ」

「一番早く移動できるのはあれしか無い。

ドラゴン型を猛反対して製造禁止にしたのは誰だったかな?」

 カミラは言葉に詰まる。

 魔物の姿の守護鎧だけは許せなかった。

 特にドラゴンはカミラの故郷を幾度も襲い見るのも嫌だった。

「魔物に恐怖を感じる者も多いです。

だから信頼できる勇者の姿を模しているのですよ」

 少年達は城に案内された。

 白髪の老人が出迎えてくれた。

 彼は領主であり、この街の代表者である。

「アノヒンア王国は余程の人材不足と見える。

このような子供が戦っておるのか?」

「私は成人しています。

我々は救援要請を聞き直ぐに駆けつけました」

「ほぉ……、あの鎧は一体何なのじゃ?」

「それは極秘となって居ます。

国が誇る技師が作り上げた最高傑作です」

「それは素晴らしい研究して我が国の守護神としたい。

貸してくれはしないか?」

「それは出来ません」

 老人が合図を送ると、兵士達が少年達を取り囲む。

「助けた恩を仇で返すつもりか?」

「これも生きていく為です。

たった一体の守護鎧だけで、あの魔物を蹴散らした。

これは魔王軍を超える脅威でしか無い」


 少年達は牢に放り込まれた。

 守護鎧は契約を結んだものにしか乗れない。

 その大前提が少年によって崩された。

 対策として動力鍵を作ることで勝手に動かせないようしたのである。

 カミラは首飾りにして、その鍵を持っている。

 

 その夜、魔王軍は再び大軍勢を率い攻めてきた。

 地面からはいでた屍が蠢き迫りくる。

 死霊の軍勢であった。

 それが通った後は、屍すら残らない。

 死んだ者は彼らの尖兵として加わり人々を襲うのだ。


「どうするの?」

「こんな裏切りに合うなんて思っても見なかった。

脱出は出来ないのか?」 

「それが出来たら既にやっているわ」

 カミラは牢を蹴り壁を調べていたが脱出できそうな所はない。

 外が騒がしくなる。

「また魔物の襲撃みたいね。

魔王軍が助けてくれるなんて事は無いかしら?」


 フードで顔を隠した女がやって来る。

「身勝手なのは解りますが、どうかお助け下さい」

「早く出しなさい。

あの守護鎧は二人で無いと動かない代物よ」

「解りました」

 その女は鍵を開け二人を連れ出す。

 途中、兵士が女と目があったが何も言わず見なかったように道を開けた。

「貴方は何者なのですか?」

「私は領主の娘です。

父がしたことは許されないことだと思います」

「最悪の場合は人質になってもらいます」

「はい……」

 魔王軍の侵攻は素早く、骸骨となった兵士が壁をよじ登り街に入り込んでいた。

 辺りで乱戦となり切り合う光景が広がっている。

 守護鎧一体では手に負えない。


 死神ちゃんの前で座り呆然としている老人が居る。

「返して貰います」

「もう手遅れだ、魔王に皆殺しにされる」

 少年は笑う。

「さて逃げようか。

助ける義理はない」

 少年は死神ちゃんに乗ると直ぐに道を埋め尽くす程の軍勢に向かって突撃した。

 死者の軍勢は脆く死神ちゃんに当たると砕け散る。

「なんで砕け散ったんだ?」

「さあ、魔族は魔気が無くなると消滅するからでは?」

「だとしたら一気に魔気を吸い上げてやる」

 少年は魔法を使う。

 死神ちゃんの手に新たな黒い鎌が現れる。

 一気に周りの魔気が失われ動く死体が崩れ落ち倒れた。

「魔を食らう鎌だ。

どんどん魔気を吸い上げる」

 ただ死神ちゃんがふんわり浮かび移動するだけで死者の軍勢は崩れ落ちた。

 

 魔王軍は二弾構えで次の軍勢を送り込む。

 巨大な骨竜が幾つも突撃してきたのだ。

「俺の竜骨鎧のパクリか。

良いだろう相手してやる」

「あれはボーンドラゴンです。

死を恐れず狂ったように暴れる化け物で、幾多の要塞がアレに陥落させられています」

 死神ちゃんは高く飛び上がると滑空しボーンドラゴンの額に乗る。

 鎌を振り上げ叩き込む。

 亀裂が入ったものの砕くには力不足だ。

「意外と丈夫だな」

「このままだと街に打つかります」

「解っている。

全力で行く」

 少年は魔法を使い魔気を集める。

 鎌ではなくもっと砕ける程の硬い物を……。

 死神ちゃんの手に巨大なツルハシが現れる。

「喰らえぇぇぇ!」

 全体重を込めた一撃がボーンドラゴンの額に集まる。

 ボーンドラゴンの全身に亀裂が入り、そこから黒い光が放たれる。

 少年は爆発の前兆だと気づく、咄嗟に死神ちゃんの前に盾を作り出す。

 ボーンドラゴンは大爆発を起こし死神ちゃんは高くふっ飛ばされた。

「うああぁぁぁぁ……」


 少年が気づくと牢に入れられていた。

「何でだ、脱出した筈だが……」

 カミラは呆れた感じで言う。

「気を失って目が覚めた時には取り囲まれてました。

魔気を全て使い切ってなければ動けたのですが、

誰かさんが全部使い切って動けなかったんですよ」

「全力で防御しなければ爆発で死んでいただろう」

「ええ、そうですね」

「それで街はどうなったんだ?」

「無事でした。

お陰で二度も街を救った英雄になれました」

「それでこの扱いは何だ?」

「あの守護鎧は脅威だと言って取り上げられました。

それで逆らったので囚われしまいました」

「はぁ……。

あれぐらい上げればいい、街に戻れば何体でも作れる」

「あの性能の鎧は他国と比べても群を抜いています。

もしそれが渡れば各国のバランスが崩れて争いが起きます」

 少年は横になり待つ。

 時が来れば出られると高を括っていた。

 

 数日が過ぎ、フードで顔を隠した小柄な女がやって来る。

「前よりも小さくなってないか?」

「それはお母様です。

お母様は貴方達を逃したことで監視されて身動きが取れません」

 閉じ込められると言うのは精神的に辛いものがある。

 何をされるか解らない状況で助けがくる保証もない。

 カミラは不機嫌そうに聞く。

「それで何のようです?」

「開放します。

この街から脱出してお帰り下さい」

「守護鎧は返してくれるのでしょうね?」

「いいえ、あれは解体している最中です」

 カミラは知らなかったが、死神ちゃんは内部が少年の魔力に耐えられず溶けていた。

 もう動かないガラクタ同然となっていたのだ。

「もう良い、別の守護鎧を用意してくれ。

生身で帰るのは流石に危険だ」

「解りました。

その手はずは整えてあります」

 壁を押すと開く場所が幾つも有り少女はその隠し通路を通り街の外へと二人を案内した。


 用意されていた守護鎧は半壊し片腕がなくなっているものだった。

 少年は動くか確認する。

「まあ何とか動くけど、これは修理が必要だな」

「余り時間が有りません。

早くしないと気づかれてしまいます」

「解った行こうか」

 カミラの後に少女も操縦席に乗り込んで来た。

「私も連れて行って下さい。

街を救って頂いたお礼をするようにとお母様が言っていました」

「脱出させてくれただけで十分だ。

連れて行く事はできない」

「この守護鎧は私しか命令を聞きません」

 少年は既に動かし確認を済ませた後だ。

 だが特異体質を知られたくないと思ったカミラは咄嗟に笑みを浮かべた。

「領主様、彼女を連れていきましょう。

壊れていると言ってもこの鎧があったほうが生存率が上がります」

「私はティルラです。

騎士見習いとして訓練を受けているところです」

 貴族は守護鎧を操作出来るように騎士となる風習がある。

 領主の孫である彼女も例外ではなく10歳から訓練を受けていた。

「俺と一緒に来るということは、地位を捨てることになるが良いのか?」

「はい、三女ですので家督を気にせずに好きな人生を歩めます」

「じゃあ行こうか」

 

 街を抜け歩みを進めていたが移動速度が遅く思ったよりも街を離れることが出来ずに夜を迎えた。

 前から魔王軍の行進が見える。

 3度目の侵攻だ。

「さてどうしたものか、この鎧は半壊している。

まともに正面から戦っても敗北するだろうな」

「街に引き返す……、いや其れは出来ない。

三女とは言え領主の孫を連れ去ったのですから、

間違いなく絞首刑にされる」

 カミラは想像だけで顔色が真っ青になっていた。

「まあ魔法で強化してみるか」

 少年は鎧の失われた腕を想像し形へ変える。

 形は出来ても、それが動くことはない。

 外から見ていたら漆黒の守護鎧が立っているのが見えただろう。

「何をしたの?」

「軽く外装を魔法で作ってみた」

「……魔物は魔気を好むのよ。

魔気で作った鎧なんて簡単に粉砕されるわ」

「魔気で作った鎌はよく切れて、あのボーンドラゴンすら爆砕しただろう」

 ボーンドラゴンが爆発したのは初めから自爆するように仕込んであったからだ。

 一定のダメージを受けると道連れにするそれが魔王軍の恐ろしいやり方だ。

 死の軍勢に目をつけられたら最後、全てが死滅するまで襲い続ける。

 少年は魔気の剣を作り出し、ゾンビの群れを切り裂き進んでいく。

 ゾンビは守護鎧にしがみつき噛み付く。

 圧倒的な数で包み込もうとしていた。

「もう終わりよ。

ああ、神様……、どうかお守り下さい」

 カミラは祈りを捧げる。

 それで状況が好転することはない。

「俺はこんな所で死ぬつもりはない。

何でも良い、あの魔物の情報はないか?」

「ゾンビは火に弱く、燃えやすい性質があります。

あれに噛まれるとゾンビになってしまうので接近されないように気をつけて」

「魔法で炎を作り出せないか?」

「物質を作り出すことしか出来ないわ。

炎のような元素を操るのは精霊使いぐらいよ」

 ティルラは祈りを捧げる。

「火を司る精霊よ……私に力をお願い!」

 ティルラの手に火の球が作り出された。

 少年は彼女の真似をして祈る。

 守護鎧の剣が燃え上がる。

「やったこれで行ける」

 剣を振るうと辺り一面に燃え上がる。

 守護鎧もゾンビと共に燃え上がる。

 直ぐには熱くはならないが火の中に居続ければ熱で内部が焼ける。

「確か耐火性があるんだよな?」

「ええ、その為の石で出来ています」

 たとえ燃え上がろうとゾンビの足は止まらない。

 大量に迫りくるゾンビにカミラは絶望しかなく涙を零し少年に抱きつく。

「もう駄目よ、ゾンビになるぐらいなら殺して」

「これまで俺が雑魚に負けたことはあるか?」

「ゾンビは雑魚ではないわ。

あの群れで一国が滅ぶ程の脅威よ」

「だとしても俺は諦めない」

「何か策でもあるの?」

「ああ、とても良い案がある。

ゾンビは間違いなくこの鎧を目指している。

それは魔気を帯びているからだろう」

「……つまり引き寄せるってこと?」

「そうだ。

魔気を集めて暴走させれば、木っ端微塵に……」

「また自爆ですか?」

「そうなるな」

「それは駄目です。

大前提が間違っています。

魔気ではなく私達に反応して襲ってきているんですよ」

「どうしてそう思うんだ?」

「それはゾンビの記述が残って居るからです」


 ティルラはふと思い出しつぶやく。

「ゾンビは朝日に当たると燃え上がり灰になるとお母様が言っていました」

「朝までどれぐらいの時間が?」

「後6時間程です」

「解ったそれぐらい持たせよう」

 カミラは真っ青になっていた。

「えっええ……、無理無理……。

ざっと見えるだけでも数万は居るのよ」

 少年は魔法で武器の形状を変化させる。

 剣から槍へと変わる、槍の穂は三日月の形をしている。

「また変な形の武器……、鎌といい何なんですか?」

「薙ぎ払う為の武器だ」

 振り回しゾンビを薙ぎ払って近づけさせない。

 戦いは延々と続くかに思えたが、突然ゾンビが道を開ける。

 首のない馬に乗った首を片手に持ったデュラハンと言う魔物が向かってきたのだ。

 デュラハンは首を切られた騎士がアンデッド化したものである。

「いよいよボスのお出ましか」


 

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