第9話 勝負は戦う前から付いている
少年とは別行動を取る一団が居た。
騎士ティルラは獅子鎧に乗りエルダードラゴンを追っていた。
獅子鎧はライオンを模した鎧で他の鎧よりも遥かに早く走ることが出来た。
武器となるのが爪と牙だけで、主に体当たりが攻撃手段となる。
移動が早いだけの鎧で見た目の威圧感だけの見掛け倒しと言う評価だ。
ティルラは一目で獅子鎧が気に入って愛用している。
遅れて騎馬兵が後を追う。
彼らは彼女の護衛の為にやってきたブランドンの兵士達だ。
「何時まで持つかしらね。
馬は鎧と違って疲れるし休息や食事も必要よ」
「お嬢様、待って下さい!」
「勝手に付いて来て待てと言うのね。
はぁ……これだから魔王軍に敗退するのよ」
「お嬢様だけで、あのドラゴンを追ってどうするのです。
まさかその禍々しい鎧で戦うつもりですか?」
「ええ、一戦交える事も考えているわ。
ドラゴンの首を持って帰れば彼も喜んでくれる」
「あの強欲な領主に捧げても満足するとは思えない。
民に魔物の一部を要求する鬼畜ですぞ」
「彼はそんな事は一度も行っていない。
魔物を倒すのを手伝って欲しいと言っだけです」
「恋は盲目なんですな。
都合の良い解釈をされているようです」
「貴方達は暴動を止めずに見ていただけでしょう。
彼への信頼を取り戻すためにはこれぐらいは必要なことよ」
「あれは止めようが有りませんでした。
魔王崇拝者による先導が行われていたようですし、
我々が止めようとした所であの貴族達のように殺されていただけでしょう」
「……あれはおぞましい事だったわ。
あのような野蛮な民は滅んで正解だったのかも知れないわ」
「そのようなことをお嬢様が言うべきでは有りません」
ブランドン国では、貴族と平民では人種が違う。
貴族は優れた種であり、平民は劣った種族であると言うのが一般的である。
アノヒンア王国ではそういう境はなく平民でも能力が有れば地位を上げ貴族の称号を得ることも可能であった。
「愚かな民を導くのが私達の役目……。
お母様が何時も言っていた言葉ね」
ドラゴンの巣は街より西に進み荒野を超えた先にある山岳にあった。
ドラゴンは一日飛び続けて街を襲ったのだ。
長距離飛行は流石のドラゴンも疲労しぐっすりと眠りに付いていた。
ティルラはドラゴンの巣を見つける。
火山の噴火口近くの洞窟で金に囲まれ眠っている。
「ドラゴンは眠っているみたいね。
見た感じ一匹しか居ないようだけど……」
「他にも洞穴が有りました。
出口は我々が見張っておきます」
「鎧もなしに戦える訳無いでしょう。
隠れて居なさい」
「解りました。
別のドラゴンがやって来たら笛を鳴らします」
獅子鎧は眠っているドラゴンの上に乗ると首に牙で噛み付いた。
ドラゴンは暴れ振り払おうとするが一度噛み付いた獅子鎧は離さない。
骨が砕ける音が聞こえドラゴンは絶命する。
「やったわ」
ティルラはそれがまだ幼いドラゴンだと知らなかった。
おちている金を回収し一度離れることにする。
山を下っている最中に巨大なドラゴンが上空を通り過ぎる。
暫くするとドラゴンの咆哮が木霊する。
洞窟に隠れていたドラゴンが一斉に空高く飛び上がり空を黒く覆い尽くした。
ドラゴンは再び街へ飛び立ったのだ。
街はドラゴンに備えて、バリスタと言う攻城用の弩を用意していた。
槍ぐらい大きな矢を放つことが出来る代物で並の鎧なら貫通し破壊できる程の破壊力がある。
「訓練にはどれぐらい掛かる?」
カミラは硬直した。
「えっと……、数カ月は必要です。
今は再びドラゴンの襲撃にあっても戦うことは出来ないです」
「地面に穴を掘って隠れよう」
「隠れてどうするのですか?」
「フィーリッツの話によるとドラゴンは鎧を体当たりで壊していたそうだ。
つまりバリスタを壊すためにドラゴンが低空飛行して近づいてくる。
そこを隠れていた鎧が地面から攻撃する」
「それで全滅させることが……」
「君は単純だな。
その攻撃が決まるのは最初の内だけだろう。
直ぐに対応を変えて来るはずだ」
「ではどうするのですか?」
「ある程度の大きさの岩に細工をして欲しい。
持ち上げると爆発するような感じで」
「岩を爆発させて投げられる大きさにすると言うことですか?」
「違うドラゴンが持ち上げるかも知れないから爆発させて持ち上げられないようにするんだ」
「ドラゴンが岩を持ち上げたと言う話は聞いたことが有りません。
どうしてそう思うのですか?」
「俺なら上から岩を落として破壊するからだ」
「……それは領主様だけです。
下等なドラゴンがそんな高度な事が出来るはずが有りません。
……解りました。
その代わり、終わったら優しく抱いて下さい」
「それは出来ない」
「どうしてです?
領主ともなれば愛人の一人や二人居ても……」
少年には狙った相手以外はフラグ立ってもスルーする。
多くのヒロインに手を出すと友達エンドで終わってしまう事がある。
だから本命を決めたらそれ一筋で行くと決めているのだ。
「君は素晴らしい才能を持っている。
誰でも君を愛してくれるだろう」
カミラは黙って頷く。
時代遅れの遺物とも言える耐火煉瓦で作られた守護鎧が完成する。
重厚感がある巨大な鎧で小さな塔を連想されような形をしている。
「なんでこんな物を作ったんだ?」
少年は鎧技師達にある程度自由を与え好きに開発させていた。
幾つかの派閥が出来、最も貴族よりの開発者達が作り上げたものだ。
「戦乙女ではドラゴンの炎が怖いと言うのです」
「……強化補強した鎧はドラゴンの体当たりで粉砕されただろう?
戦乙女はドラゴンテールの一撃でも耐えた筈だ」
「かなり損傷はして修復しています。
乗り手が衝撃で飛ばされるので固定する為の改良が必要です。
生き残りはしましたが乗り手が怪我をしたことで安全性に疑問を持たれたようです」
鎧技師の中ではケルスティンは異端である。
そんな彼女が自由に鎧を開発できるのは少年の支援があったからだ。
並の鎧技師は未だに石で作り上げた旧時代の鎧こそが優れていると信じている有様だ。
ドラゴンの吐く炎は約500度前後で鎧は1000度から溶け始める。
ドラゴンの炎を永続的に受け続ければ温度が高まり溶けるがそこまで息は続かない。
「まあ良い耐火煉瓦で重要施設を覆ってくれ」
ドラゴンに寄って破壊されたのは一部の施設だけで、貯蔵倉庫が破られ貴金属が奪われたぐらいだ。
殆どが燃えずに残っていた事に少年は違和感を抱いていた。
現状では何もしない事は無抵抗に殺されるだけである。
カミラは街での戦いを避けるために、少し街から西に離れた場所に砦を設置した。
殆どのバリスタをそこに配備し街に来る前に迎撃しようと考えたのだ。
上空から見えないように藁で屋根を作り隠してある。
上から見れば小さな村ができたように見えるだろう。
カミラは迫りくるドラゴンの群れを発見し鐘を鳴らす。
「まだ攻撃はせずに接近するまで待機よ」
カミラは専用の鎧、死神ちゃん弐号機に乗る。
ジャンプ力が高く滑空出来ることからある程度は戦えると思ったからだ。
ドラゴンの鱗は刃を通さない程硬い。
武装は金棒に変更し鎌は置いてきた。
飛竜の群れはカミラの砦に気づき一部が先行するように低空飛行で迫った。
「今よ放て!」
バリスタから槍が放たれる。
ドラゴンは槍を
カミラが思ったよりもドラゴンとの距離があり見切られたのだ。
バリスタは連射性能はない。
一度発射すると弦が緩む、張る為にハンドルを回す時間がかかるのだ。
なので一度にすべてのバリスタから発射せずに半数だけが発射した。
「次、放て!」
二度目は数本がドラゴンに命中しバランスを崩したドラゴンが地面叩きつけられ転がった。
撃ち落としたのは一匹だけで他のドラゴンはほぼ無傷で砦に迫った。
ドラゴンが火を吐きバリスタが燃え上がる。
本体が木製で燃えるが直ぐに壊れるわけではない。
槍が放たれドラゴンの口の中に槍が突き刺さる。
ドラゴンは驚きバランスを崩し地面に転がった。
その程度でドラゴンは死なない。
直ぐに体制を立直とする。
地面の下で隠れていた戦乙女鎧が地面から槍を突き刺す。
カミラも死神ちゃんで飛び出し、ドラゴンの頭部を全力で殴った。
「これで一匹撃破」
上空で待機していたドラゴンの一部が降りてきて少年の読み通りに岩を掴み飛び上がる。
それには細工がしてあり途中で爆発が起きた。
「あー、これって不味い状況よね。
撤収するわ全員退却よ」
「何を言っているのですか、今こそ撃退する時です」
「たった一匹倒したぐらいで何を浮かれてるの。
領主様の命令よ従いなさい」
カミラは直ぐに穴の中に入る。
掘り進めている穴で、鎧でも通れるほど大きな空洞が開いている。
撤退するために用意したものでドラゴンが追ってくることはない。
カミラの命令に従わずに残った兵士が数人いた。
「臆病者め、俺たちには最強の鎧がある」
戦乙女用の巨大な弓を構えていた。
ドラゴンはそれに向かって急降下する。
「喰らえぇぇ!」
放たれた矢はドラゴンに命中しドラゴンの肩に食い込んだが勢いは止まらない。
ほぼ自滅同然にドラゴンが戦乙女に体当たりしたのだ。
数トンもの肉体を持つドラゴンの重みに耐えれるはずもなく戦乙女の足が曲がり外れた。
魔物と動物の違いは生存本能よりも攻撃性が勝ることで臆して逃げずに敵とみなしたものを殺そうと動くのだ。
魔物は魔王によって作られたもので、自然に存在しない異物だ。
肉体が崩壊すると霧状になり魔気へと戻るのである。
「うわわぁぁ……」
兵士たちは仲間が殺られたことで士気が崩壊した。
地下へ逃げることになっていたのだが、混乱した彼らは走って街へ逃げ帰ろうとした。
それは空から丸見えでドラゴンの餌食となっていた。
まだ集団で戦意を見せていたほうが生き残れただろう。
ドラゴン達は上空から魔法を放つ。
幾多の炎の槍が降り注ぐ。
戦乙女鎧にその炎槍が命中しても貫通することはなかった。
ドラゴンは有効ではないと判断すると、炎を纏った岩を召喚し落とし始めた。
岩は地面に落ちると爆発し地面を抉る。
戦乙女鎧に直撃し1つ目は耐えた。
「なんだ脅かしやがって……」
2つ目が直撃すると腕が吹っ飛んだ。
破壊できるとわかると次から次へと攻撃が続く。
カミラは助けることも出来ずに隠れていた。
部下の兵士たちは状況が解っておらずカミラに提案する。
「助けに行きましょう、まだ生きています」
「いま外に出れば狙い撃ちにされて死ぬだけよ」
「仲間を見捨てるおつもりですか?」
「今は耐える時です。
指示に従わずに戦い逃げ出した者達の為に犠牲を増やす事はできません」
ドラゴン達は殺せるにも関わらずなぶるように攻撃を続けていた。
それは隠れている人間がいる事を警戒しためだ。
現れる様子がないと解ると直ぐに止めを刺し飛び立った。
「被害は?」
「約4割の兵が死亡しました。
生き残った鎧は6体で、13体が破壊されています」
「領主様に合わせる顔がない」
カミラは無力感に襲われ涙をこぼす。
「いいえ、あのドラゴンの群れと戦い6割の兵を生存させたのです。
これは素晴らしい成果と言えます」
飛竜の群れは街を避け旋回していた。
得体のしれない魔物が街の中に居座っているが見えた為だ。
それはムカデ型の鎧で、外観が魔物そのものであった。
ケルスティンが忠実にあの巨大ムカデを再現したのだ。
牙は戦利品として手に入れた巨大ムカデの物を使っていたりと一部は本物である。
「まだ完成はしていませんが、逃げるにのは最適でしょう」
「……誰も街を破壊しろとは言ってない」
「多脚は移動させるのが難しくて、まだ調整が必要なようです」
「はぁ……、いまドラゴンに襲われたらやばい」
「どうして攻撃せずに旋回しているのでしょうか?
この巨体に恐れをなしたのでは」
「カミラが頑張ってドラゴンの数を減らしたのだろう」
撃破できたは1匹だけで、自滅を含めても2匹しか倒せなかった。
人間は脅威とは見なしていなかったのだ。
飛竜は暫くすると巣へ帰っていった。
もし脅威に感じていたなら、徹底的に破壊し街が無くなっていただろう。
「今の俺達には勝ち目はない。
対抗策を見つける必要がありそうだ」
「そうですね。
では各国の技術を取り入れましょう。
私達は魔法による物質変化は得意ですが、それ以外の知識は乏しいです」
「何か当てがあるのか?」
「北東の国には蒸気機関と言うものがあります。
それで鋼鉄の車を走らせているらしいです」
「それは面白そうだな。
もっと強力な鎧が作れるかも知れない」
少年は彼女だけを行かせる気には成れない。
一度研究を始めると止まらなくなるからだ。
放置していたらいつまでも戻ってこない事は容易に想像がつく。
「街を放置して出かけるのはな……」
「領主様も一緒に行くつもりですか?」
「勿論だ。
君だけを危険な旅に送り出すことは出来ない」
少年はワルワラを頼ることにした。
彼女はメインヒロインだから重要なイベントをこなしてくれるのに最適だと思ったのだ。
少年の頼みごとにワルワラは微笑むと引き受けた。
「ええ、街は私が守ってみせましょう。
無理をなさらずに戻ってきて下さい」
ワルワラは少年よりも地位が高い。
地位の低いものが高いものを呼び出すのは失礼な行いである。
それでもワルワラがやって来たのは少年に会いかったからだ。
鬼神のような強さのカミラを従えさせている威を借りる狐の少年と噂が流れている。
その真実を見極める必要があった。
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