第10話 不利なら環境の方を変えたら良いよね?
王国より更に北の位置に永久凍土が存在する。
その凍てついた土地にドワーフが住む小国がある。
ドワーフは人間より小柄で体つきが筋肉質で小さいおっさんに見える。
王国でも雪が振り始める季節だ。
少年達は最も気温が下がり猛吹雪が荒れ狂う中を突き進んでいた。
少女姿の鎧が幌を張ったソリを引っ張り進む光景は異様だ。
「寒い……、温かい湯が飲みたい」
少年の世話をするためにメイド長のリザラズが付いて来ている。
彼女は少年よりも年上でお姉さんという感じの女だ。
長い髪を束ねて頭の上に丸めている。
彼女は直ぐに水筒から水を注ごうとしたが中身が氷り出てこない。
「火を炊きます。
しばしお待ちを……」
「魔法瓶があれば凍ったりせずに温かい湯が飲めたのにな」
「そんな魔法は聞いたことが有りません」
「真空だと熱を通さないらしいんだ。
だから周りを真空にして熱を逃がしにくくして……」
鎧技師ケルスティンはそれを聞き笑う。
「はっはは……。
真空にすればいいと言うのかい?」
「出来るのか?」
「方法はあるけど今は出来ないわ。
ドワーフの工場を借りられれば……」
ドワーフは人間とは不戦状態となっているが仲が良いというわけではない。
度々争いが起きて関係は悪いと言ったほうが良いだろう。
鎧に乗る兵士が大声を上げた。
「何者かが左右から迫ってきています」
「魔物か?」
「解りませんが、吹雪がきつくて判別は……」
毛皮で身を包んだドワーフの集団だった。
ドワーフは手に斧を持ち大声を上げた。
「人間ども、ここは我々の土地だ。
即刻引き返せ」
少年は両手を上げ戦意が無いことを示す。
「取引に来た。
買ってほしいものがある」
「それは一体何だ?」
「蒼銀だ」
蒼銀は魔法を掛けることで固く丈夫になる金属で武器や防具に重宝されている。
ドワーフにも蒼銀は貴重で金よりも高額で取引されていた。
木箱に詰められた延べ棒をドワーフは確認し笑みを零す。
「こんなに大量の蒼銀は買い取れない。
金貨数万枚あっても足りない」
「俺が欲しいのは知識や技術だ。
俺の街が飛竜に襲われて数万人が死んだ」
ドワーフ達は暫く話し合い少年の要望を受け入れることにした。
ドワーフの街は山をくり抜いて造られていた。
数本の巨大な柱で支えられた大空洞である。
街には配管が通り、辺りが蒸気で白い霧に包まれている。
至るところに歯車があり動いている。
常に機械音が響き、騒音で耳を塞いでいないと辛い。
「この歯車は何だ?」
「それは湯を循環させる為の動力を伝えている歯車だ」
街内は暖かい、それは湯を街全体に張り巡らせ温めているからだ。
「想像以上に機械ぽっい街だな」
「はっはは……、人間の住む街よりも文明的で進んでいるだろう」
ある意味は進んでいるかも知れないが、こんな街には住みたくないと少年は思った。
ケルスティンは目を光らせ辺りを調べ回っている。
「凄いです。
領主様、これほど巨大な機械は見たことが有りません。
もしかして街が動きだすかも知れませんね」
「いや其れは流石に……。
いや君なら可能か?」
「今は無理です。
もう思考が追いつかないほどの情報量です。
整理すれば形にできるかも知れません」
「動く街も面白そうだが、そんなものを実現させたらカミラは度肝を抜くだろうな。
まずはドラゴン対策が先か」
冬はドラゴンは活動を停止し休眠状態になる。
春になればまた襲撃が予想される。
其れまでに対策が出来なければ、街は滅びるだろう。
「耳を抑えているは辛いだろう。
耳あてを買うと良い」
辺りを歩いているドワーフも耳あてを付けている。
少年達は耳あてをつける。
幾分かは騒音が軽減されたが、全く聞こえないわけではない。
「静かな場所はないのか?」
「はっはは……、静かな場所を探すなら街の外に出ることだ」
猛吹雪で外に出たら戻って来れるか解らない。
「宿を借りようか、長旅で皆も疲れている」
少数精鋭で来たが、それでも過酷な環境に体調を崩すものもいる。
無理をさせると忠誠や能力が下がるゲームがある。
適度に仲間を休ませるのもリスクを減らすコツだ。
ドワーフは旅をする習慣があり宿屋が多く定住するものは殆ど居ない。
宿は屋根が低くベットが小さい。
ドワーフの身長を考えれば当然だが、一番背が低い少年ですら天井に頭をぶつけそうになる程だ。
「人間用の宿は無いのか?」
「済まないが、そんな宿は存在しない」
人間との交流が殆どない。
「狭いならテントで寝ても良い」
リザラズは平然とした顔で言う。
「領主様と一緒なら、どこでも構いません」
「俺はフカフカの布団で寝たい。
狭いのは我慢してくれ」
ドワーフの布団は石のように固い。
少年は倒れ込むと痛いと涙目になる。
「なんて硬い布団なんだ……。
ドワーフとは仲良くなれそうにないな」
「生活習慣も違います。
彼らは毎晩のように酒を飲み歌い暴れて眠るらしいです。
これから騒がしくなりますよ」
横になっていると、扉を叩く音が聞こえドワーフが騒いていた。
少年が扉を開けようとするとリザラズは止めた。
「扉を開けば迎え入れた事になります。
ここで暴れまわっても文句は言えません。
絶対に扉は開けてないで下さい」
「こう騒がれたら眠れない」
「我慢してください。
彼らと交流が行われないのは彼らが暴力的で野蛮だからです。
ドワーフの習慣はよく解っていないことが多く怒らせないためにも大人しくして下さい」
「……解った」
少年は耳あてをして眠る。
少年は数日でドワーフに嫌悪を抱いた。
もう投げ出して街へ帰りたいと思うほどだ。
対象的にケルスティンは活力に溢れ鎧を作り始めていた。
「領主様、新型の鎧は蒸気機関で動きます」
「それでどれぐらい性能が上がったんだ?」
「えっと……蒸気機関は複雑で動かすのが難しくて巨大化してしまいました。
移動速度は半減しましたが破壊力は数倍となっています」
「全部を蒸気機関にせずに必要な部分だけにすれば軽量化出来るんじゃないのか?」
「それは考えましたが、組み合わせるのが難しいです。
幾つか試作を作って検証するしか無いですね。
ああ、ムカデ型鎧の改良なら幾つも浮かんでいるんですよ」
ムカデ鎧は結局制御できず解体し格納してある。
「戻って改造……」
「それはまだ早いです。
多くのことを学んでいる所で、今離れたら一生後悔します」
少年は彼女の気が済むまでは出来るだけ留まるつもりだ。
それでも少年の心は折れそうだ。
「街の外に出られる鎧を作ってくれないか?」
「それなら既に用意してあります。
モグラ型鎧です。
これなら雪を掻き分け進むことが出来ます」
楕円状で前に大きなドリルと爪が付いている。
上から入ることが出来、中は数人が入れる空間がある。
操縦席は前で1人で操作が可能だ。
少年は鎧に乗り込み静かな事に気づく。
「随分と広いな」
「この鎧は密閉性が高くて、外部と遮断してあります。
なので空気が無くなり息苦しくなるので広い空間を設けています」
「空気を入れ替える必要があるのか?」
「ドワーフが大切に育てている洞窟の草を分けてもらえれば、
改善ができます」
「解った交渉しよう。
随分と静かだな、どういう対策をしたんだ?」
「熱遮断の為に内装甲に真空板を使っています。
それが防音になっているようです」
「ここならぐっすり眠れそうだ」
「良い案があります。
真空板をドワーフに売りつけましょう」
「それは名案だ」
少年は布を持ってくると、モグラ鎧の中で眠る。
数日が過ぎると街は以前と比べ静かになっていた。
機械音はまだ聞こえているが頭に響くほどではない。
ドワーフ達は少年を奴隷市へ連れて行く。
王国では奴隷は基本的に禁止されていて見ることはない。
「珍しい種族の竜人が手に入ったんですぜ。
ぜひぜひ見ていって下さい」
「どういう事だ?」
リザラズは少年に耳打ちする。
「彼らは他の種族を捕らえ奴隷としてこき使う習慣があります。
昔は人間を捕らえていたことがあるようです」
「俺達も捕らえられるかも知れないのか?」
「そのような事をすれば戦争になる事を彼らは理解しています。
ですから手を出してくることはないとおもいます」
ドワーフは檻に入れた幼い少女を自慢気に見せる。
竜人は髪がエメラルド色で少し光を放っている。
「これは竜人で、あのドラゴンに化け魔物を食らいます。
ご安心下さい。
魔法によって力を封じてあり制御出来るように調教してあります」
「忠実なら買い取ろうか」
「お目が高い」
少年は真空板を売って莫大な富を得ている。
ドワーフ達はそれを承知の上で吹っかけてくる。
相場の数十倍の値段を提示していた。
「安いなもっと奴隷を見せてくれ」
ドワーフ達は笑いが止まらず、捕らえていた竜人を全て少年の前に出した。
少年は即決で竜人を買い取る。
リザラズはその様子を見ていて汗をかいていた。
「どうしてあのような法外な要求を飲んだのですか?
それに奴隷は必要ないはずです」
「俺の配下とする。
兵士として訓練して使えようにしておいてくれ」
「忠誠心は期待できませんよ。
それに竜人は暴れると手がつけなくなる危険な種族です」
数日後、少年は竜人を連れて街の外に出た。
「鎧に乗りたいものは居るか?」
竜人達は武器と盾を持っている。
人間よりも筋力に優れ魔法を巧みに操れる。
守護鎧に乗らずとも魔物と戦える力を持っていた。
短い髪の少女が手をあげた。
「では操作方法を教えるから一緒に乗ってくれ」
「私はジンティです。
領主様宜しくおねがいします」
少年の背後にジンティは座り、彼女は腕を少年の首に回す。
「領主様、道楽で私達を買い取ったようですが、
貴方には私達を従えるだけの力が無いようです」
「道楽と言われればそうかも知れない。
所で君が俺を殺したら配下の者が他の竜人を始末するだろうな」
「……なら、貴方を人質にするだけです」
「竜人は平然と裏切るのか?」
「貴方に忠誠を誓った覚えはありません。
無理やり連れてこられて従うように強要されただけ。
取引は私には関係ないことです」
「では改めて俺の配下にならないか?」
「私は誇り高い竜人です。
それが地べたを這いずるだけの人間に従うとでも……。
そんな事は天地がひっくり返っても有りません」
「敵対するというのなら、仕方ないな……」
少年は戦乙女鎧を動かす。
「止めなさい。
首を絞めますよ……」
「その前に彼らの首が飛ぶ事になる」
「止めて……」
「君は考えを改めるのか?」
「……はい、……忠誠を誓います。
だから殺さないで」
少年が振り返るとジンティは涙を零していた。
「脅してきたのは君の方だ。
それで泣くのはずるい」
少年はハンカチで涙を拭き取る。
「俺は奴隷が欲しいわけじゃない。
ある程度の自由は約束する。
王国民として決まりを守って暮せばいい」
「ではどうして兵士として訓練するのですか?
私達を戦いの道具として利用するためでしょう」
「はっはは……。
俺の街は魔物が襲ってくる危険な土地にある。
いざという時に戦えたほうが生存率が高まる。
ずっと兵士で生きるのも良いし転職するのも止めはしない」
「噂に聞いたとおりに変わり者ですね」
「そうかな?」
雪原での鎧の操作は困難であった。
少年は軽く走らせ動き回ることが出来たが、ジンティに交代するとぎこちない動きになる。
鎧の重みで埋もれ進めば雪に阻まれ身動きが取れなくなり足場が不安定で転ぶことも多い。
「ああっ……、難しくて動かせない」
「雪原で戦うことを想定してないからな。
まあ慣れれば勢いで雪を掻き分けて道を作り進めるようになる」
ジンティは自分が奢っていたことに気づく。
竜人こそが生物の頂点に立つ優れた種だと思っていた。
人間に劣るはずがないと信じていたのだ。
少年が簡単にこなす鎧の操作ですらまともに出来ないでいる。
奴隷として捕らえられた事もジンティの自信を失わせるには十分であった。
「ああっ、こんな筈じゃないのに。
どうしてうまく行かないの?」
「落ち着くと良い。
失敗しても良いからまずは色々とやってみて学ぼう」
無難に動かそうして思い切りをなくすと調子が狂いより失敗を繰り返す。
そんな状態に陥っているのだ。
ジンティが操縦していると少年は彼女の手の上に添えるように置く。
思い切った操作を初めた。
「……そんな事をしたら打つかる」
「怖いのは知らないからだ。
打つかれば良い」
「ひいぃぃ……」
ジンティは涙目になりつつリ動かす。
打つかっても大したダメージにはならない。
丈夫に鎧は造られている。
慣れてくると恐怖心は薄れ出来ると言う自信が湧いてきたのだった。
気がつけば街から離れた凍りついた湖にやって来ていた。
ジンティはその上を歩く、鎧の重みに耐えれず亀裂が入り割れた。
「何が起きたの?」
「湖に落ちたんだ……」
「えっ沈むの、嫌、私は泳げないの」
「いや、取り敢えず立ってみよう」
戦乙女鎧の足が浸かる程度の深さだ。
もっと深みに落ちていたら沈んで上がることは出来なかっただろう。
「気密性を上げた鎧で良かったな。
さて戻るか」
湖に背を向けた時だ。
背後の氷が砕け飛び散る。
水中から巨大なワニの魔物が現れたのだ。
巨大な口を開き戦乙女鎧を咥え持ち上げた。
「何が起きたの、空が見える!」
光景は直ぐに真っ暗になり何も見えなくなる。
戦乙女鎧は魔物の胃袋へと落ちたのだ。
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