第21話 膨大に湧くダンジョンの宝箱は誰が取ったのだろうか?

 エルフの街より北に進むと多数の岩が転がっている山が連なる。

 そこにバジリスクという魔物が住み着いている洞窟がある。


 ペイジという名のエルフが少年の監視を兼ねて同行する。

 ペイジはスレンダーな体つきで黄緑の髪が腰まで伸びている。

 顔は仮面で見えないが声色から女な気がした。

「長老は貴方の力で物事を達成して欲しいと言っていました。

私はすぐ後ろにいますが貴方が助けを求めるまでは手を出さないつもりです」

「武器を貸して欲しい、素手でなんとかなるような魔物なのか?」

 ペイジは腰につけていたナイフを少年に渡す。

 獲物を狩った時、解体する時に使うものだ。

 

「バジリスクは……、岩肌に擬態して隠れている事がある。

注意深く見て進まないと不意打ちを受ける」

「それだけだとどんな魔物か解らない。

もう少し教えて欲しい」

「目が合うと石になる呪いを持っている。

貴方が石になった後、狩るのが私の役目です」

「その仮面を付けれていば石化を防げる?」

「欲しいなら貸します」

 ペイジは予備の仮面を少年に渡す。

 特に何も細工がしてある様子はないが、少年はつけようとしてあの言葉を思い出す。

「仮面を貰いつけることは服従の証……」

「よくご存知でその通りです」

 少年は命のほうが大切だと仮面を付けた。

 ペイジは笑う。

「順々なことは良いことです。

では私から助言を差し上げましょう。

バジリスクは眩しい光を嫌いますが、松明程度の明かりには動じません」

「洞窟の外まで誘い出せば良いのか?

魔法で……」

「洞窟には茸が生えています。

それを軽く弾いて見て下さい」

 少年は松明を受け取り、洞窟へと入っていく。

 丸い石が転がり生暖かい風が流れている。

 そんな石の影に青い茸が生えていた。

 軽く触ると茸は青い光を放つ。

 少年は引き抜こうと力を入れ引っ張った。

 すると茸は弾け辺りを眩しく照らした。

「うあっ……」

 真っ白な世界が広がり徐々に元の暗さに戻っていった。

「それを取る時は根本からナイフが切り取ると弾けることがないです」

「照明弾みたいに使えそうだ。

よしこれでバジリスクを驚かせて動いた所を狙おう」

 

 光る茸を握ってから放り投げる。

 少し間をおいて眩しく辺りが照らされた。

 若干の時差があるのは破裂するまで膨らむ時間がかかるからだろう。

 ざっと見た感じ変化はない。


 流石に全ての石の配置を記憶は難しく、大きいものだけに絞って記憶していた。

 少年は石を持ち上げ思ったよりも軽いことに気づく。

「随分と軽いんだな」

「ええ、風に飛ばされて丸くなったと言われています。

突風で飛んでくることがありますから気をつけて下さい」

 それなりの時間が過ぎ、かなり深くまでやって来た。

 洞窟は分かれ道もなく蛇のようにうねる道が続いていた。


 ペイジは無駄話が好きで少年に独り言を話していた。

「ここはダンジョンとして知られていました。

宝物が自然と湧いて幾多の冒険者が挑んだのです」

「宝が湧くのか?」

「それがダンジョンなんです。

古の魔術師が娯楽のために作ったもので、それは参加者への褒美だったんです」

「命を掛けてまで手に入れたく成るほどの宝か。

よっぽど凄いものが手に入ったんだろうな」

「さあ、宝は尽き今は何も有りません。

それでも宝があると信じ挑む者がいます」

「何時までも宝があると思っているんだな」

「ええ、一度宝を得て成功したのだから、

もう一度と何もない場所を探し続けるんです」

「その話は君の?」

「いいえ、ある迷い込んだ冒険者の話です」


  

 話し声に惹かれて暗闇の中、静かに巨大なトカゲが天井から迫っていた。

 少年は地面を見てから茸を投げる。

 急激な光にトカゲは驚き天井から落ちた。


 全身に丸いコブが付いた不気味なトカゲだ。

 少年を丸呑みに出来るほどの大きさがある。

「これがバシリスクなのか?」

「はい、これほど大きなものは初めてみました」

 少年は直ぐにバジリスクを避け岩陰に隠れる。

 落ちた衝撃出来を失っていたバジリスクは直ぐに目を覚まし起き上がり壁をよじ登り始めた。

 少年はナイフの刃で鏡のように反射させ様子を見る。

 すぐに地面に松明を刺し、少年は見つからないように移動する。

 動く速さを合わせ岩から見えないように姿勢を低く。


 バジリスクの赤い瞳がギョロギョロと動き辺りを探る。

「ペイジさん助けて下さい……えっ」

 少年が助けを求めるよりも早くペイジは石になり固まっていた。

「使い捨ての駒にされたのか。

仮面は役に立たないな」

 少年はナイフを岩に刺し仮面を引っ掛け偽装する。

 魔法で槍を作り出す。


 そっと気配を消し位置を予測し隠れた。

 狙えるのは一度きりだ。


 バジリスクは仮面を見つけると口を開き舌を伸ばした。

 舌は仮面に絡みつき取れる。

 凝視する。

 ナイフが石に変わるが少年の姿はない。


 視線が釘付けになった瞬間。

 少年は側面に回りバジリスクの左目を槍で突き刺し貫いた。

 

 槍は絶対に離せない。

 これを手放せば残った右目で石にされるからだ。

 バジリスクは暴れ顔を振る。

「力が違いすぎる」

 少年ごと持ち上げ振り回す、槍を掴んでいられない。

 少年は咄嗟に光る茸を投げ、ふり飛ばされ地面にころんだ。

 バジリスクは大きく目を開いた時、茸が破裂し眩しい光が襲った。

 魔眼は光を浴び機能しなくなった。


 少年は起き上がり、魔法で斧を作り出しバジリスクの額に一撃を入れた。

 骨が砕ける感触手応えはあったが、霧状化しない。

 バジリスクは口を開き舌を伸ばす。

 少年をかすめ石を巻取り飲み込んだ。

「石化がなくても飲み込まれたらやばい」

 声に反応しバジリスクはその方向に舌を伸ばす。

 少年は咄嗟に避け難を逃れた。

 目が見えないにも関わらず的確に少年の位置を狙い舌を伸ばす。

「音なのか、いや歩く振動を感じているのか。

それとも体温……?」

 暗闇の世界で生きる魔物だ。

 目に頼らずに獲物を捕らえる事ぐらい出来るだろう。


 石を投げる。

 地面に落ち音が響くとバジリスクは反応し舌を伸ばす。

 魔眼の力は一時的に失っているだけかも知れない。

 長期戦となれば回復し再び脅威となる。

 少年は覚悟を決めて、石を投げると同時に切りかかった。


 バジリスクは少年の方をむき舌を伸ばす。

「騙されたふりをしていただけなのか。

それは俺も同じだ」

 狙いは伸びた舌、少年は斧を振るい叩き切った。

 バジリスクの舌は二つあり、もう一つの舌が伸びてくる。

 少年は咄嗟に斧で防ぐ、だが魔獣の力には負け斧を巻き取られてしまった。

「ナイフ一本で倒せるような魔物じゃない。

無茶振りだったんだ」

 魔法で武器を作り出す前に間違いなく舌の方が先に届く。

 大群が迫るような物音が聞こえ少年は地面に伏せる。

 ペイジの言葉を思い出したからだ。

 吹き荒れる風は強く石が転がる。

 バジリスクも姿勢を低くし動かない。


 少年は魔法でフレイルを作り出す。

 石が転がり音が鳴り響く、この状況ならバジリスクも判断はできない。

 少年は懇親の力を込めて何度も叩き込む。

 石が飛び少年に当たるが、我慢できないほどの痛みではない。

 それよりも脅威なのは魔物の方だ。

 

 良くあるボーナスタイムなのだろう、動けない今倒すしか無い。

 少年は頭部を必死に叩き込む。

 筋力が足りないのか、十数回も叩きつけてやっと消滅を初めた。

 息も上がりその場に座り込む。

「はぁはぁ……、生身での戦闘は本当に辛い。

戦闘は鎧だけにして欲しい」

 少年は石化したペイジを調べる。

 肉体だけが石になっているようで服などは変わっていない。

 腰に付けていた袋に瓶が幾つか入っている。

「多分、石化を解除するアイテムを持っているはずだ。

針みたいなものはないからこの液体のどれか」

 薬品の鑑定スキルがあれば、なにか解るのかも知れない。

 そういう知識は皆無だ。

「どれが石化を解く薬なのか聞いておけばよかった。

そうだ呪いを解くといえばあれだ」

 少年はペイジの頬に口づけをしてみる。

 ヒロインでもない脇役だから当然何も起きない。

「まあ、全部飲ませるか。

いやこれはぶっかければ良いのか?」

 良く解らない薬を使うのは怖い。

 案外貴重品で取り返しのつかない場合があったら嫌だ。

 リセット出来るならホイホイ使っている所だ。

 石化した彼女を引きずって外に出るのはきつい。

「そうだあの魔法を試してみるか」

 エルフが少年を軽くした魔法を試した。

 軽くなれと念じ触れる。

 すると持ち上げられるほど軽くなる。

「これなら持って帰れる」

 

 少年が洞窟を抜けるとエルフ達が待っていた。

「彼女を助けてくれ、石にされたんだ」

 エルフは青い液体の入った瓶をペイジの頭からかけた。

 青い光りと共に石化が解けて行く。

 ペイジは顔が赤くどことなく余所余所しい。

「何があった?」

「えっと、あの……。

彼に初めてを奪われました」

 少年は余りのことにビックリした。

「石になっていたじゃないか」

「石になっていても見えていて、

無抵抗な私に口づけをしたのはハッキリ覚えてます!」

「あれは石化を解く方法が解らなくて、

キスをすれば解けるかなって思ったんだ」

「認めましたね」

「……はい。

知らなかっとは言えやってしまった。

どう責任を取ればいい?」

「貴方が男だったら、あんなことやこんな事を……ぷしゅ~。

まあ助けて貰ったし許してあげる」

 少年は苦笑いし黙った。


 

 呪いを封じる儀式が行われていた。

 リザラズは横になり寝息を立て安らかな顔となっていた。

 エルフ達が円を書くように囲み何かを詠唱している。

 首に付いた痣は形を変え花のようなものへと変化して行く。

 呪いが封じらている証だ。

「後は魔眼に邪気を封じれば終わりです」

 少年が取ってきた魔眼をリザラズの側に置くと黒い霧が痣から吹き出て魔眼に吸い込まれていった。

 魔眼は不気味な紫の光を放ち浮かび上がり瞬時に消え去る。


「これで終わりです。

呪いの力は殆ど失われましたが、また再び邪悪な力を浴びれば牙をむき命を奪うでしょう」

 エルフは邪気を払う首輪をリザラズに付けた。

 木彫りの人形のようなものが付いている。

「ありがとう、助かった」

「貴方はここに残ってエルフの秘術を学びたいとは思いませんか?」

「それは興味深い話だ。

だが俺を待っている人がいる」

 エルフが好意で少年を誘ったわけではない。

 退屈な日々を贈るエルフ達は少年という玩具でまだ遊びたいと考えていた。

 さらなる試練を与え、それをどのようにして突破するのか見たい。

 探求者としての欲が出たのだ。

「ペイジに無礼を働いたと聞いている。

我々の目は誤魔化せはしない。

貴方が男だということを知っています」

 少年は動揺し何も言い返せない。

 エルフは囁く。

「貴方に償いの意思があるなら、それ相応のことをして貰います。

彼女を抱きしめ慰めるのです」

「抱きしめる?」

「謝罪の意思を示す行為です。

貴方は謝る時はどのようなことをするのですか?」

「頭を下げる」

「それは挑発する行為です。

我々に対して行ってはいけません」

 エルフの文化は少年には解らない。

 仮面だったりとややこしく、不用意に行ったことで揉める危険性があった。

 長居するのは危険だ。

 少年は逃げることを考えていた。


 

 少年達はベイジの家に連れて行かれた。

 エルフは旅の習慣がなく宿屋がない為だ。

 ベイジは仮面を外し少年にべったりと抱きつく。

「あの聞いたのですが、男だったのですね。

どうして言ってくれなかったのですか?」

「いや、ごめん。

えっと困るんだ」

「貴方が私に好意を持っていないことは解ります。

ですが長老に貴方を足止めして欲しいと言われてます」

「どうして教えてくれんだ?」

「エルフは階級が全てで、貴族の思いのままに物事が決まります。

私のような下位の者は彼らの言うことに従うしか無いのです」

「人間の世界もそんなに変わらない」

「彼らは自分の欲望のためなら、何でもやります。

私はこのままでは彼らの玩具にされて殺されてしまいます。

だから外の世界へ連れて行って欲しい」

「エルフが人間の世界で暮らすのは辛いと思う。

価値観が違って色々と戸惑うことが多かった」

「はい、ですから貴方に教わりたい。

人間の世界で生きる知識、術を」

「エルフを恨むものも居る。

ここに居るよりも辛い事が待っているかも知れない」

「それでも貴方に付いていきます。

助けて頂いた命を捧げる覚悟です」

「勇気があるな。

それほど嫌なのか?」

「いいえ、従順であれば最低限の暮らしは保証されています。

死を感じるような事を要求されることは稀ですが、

それが何時来るのかと思うと恐怖で……」

「君が決めたことだ。

一緒に来たければ来ると良い」

 

 リザラズはその様子を見ていた。

「あの話は終わりましたか?

エルフの女を連れて行く事は出来ません。

私達が良くてもエルフ達が許さないでしょう」

「どういう事だ?」

「ローザマリーがエルフに襲われた事件ですが、

あれはドワーフの奴隷商人が関わっています」

「まさかエルフを奴隷に?」

「そうです。

街の住人の多くが殺されたのです。

もし彼女を連れていけば、同じ悲劇が繰り返されます」

 ペイジは焦って反論した。

「貴方の住む国は、飛竜の住む山を越えて更に遠くにあると聞きます。

そんな場所に私達エルフが遠征などしないです」

「どうしてそんな事が言えるんだ?」

「私達はトカゲやドラゴンが苦手です。

だから森にこもって暮らしています」

 ペイジの言葉が事実であっても、エルフとの関係を悪化させ問題を起こすのは得策ではない。

「まずは交渉してみるか」

「それは駄目です。

とんでもない要求を突きつけられます」

 少年は笑う。

「どんな要求でも切り抜けて見せる。

その方が面白いだろう」

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