第30話 過去
そして、ハルトの昔からの視線に気づいていなかったセンフィは顔を真っ赤にして怒鳴るが、ハルトの口は止まらない。
「忘れもしねえ。あれは中一の頃だった。魔界中学でピッチピチの白スク水を着て恥ずかしそうにはち切れそうな胸を抑えているオウダにそそられた」
「「「おおおおお」」」
「それ、本人の前で言う? 何で言うの? っていうかやめてよね!」
「よく考えろよ? 中一だぞ? つい数ヶ月前まではランドセルを背負っていたんだぞ? なのに、当時のオウダは中等部で右に出るものがいないキングオブロリ巨乳だった!」
「「「ぶっほーー、たまんねーっす!」」」
「もーやめてよー! レオンくん、そんな目で私を見てたの? 私だって、好きでおっきくなったわけじゃないのに!」
「だが、俺は中学を卒業する前に中退! オウダも戦争で中学から去り疎遠となった。しかしその数年後の昨日、ようやく会えたオウダは胸だけじゃなくほかの主要箇所も十分成長させた姿だった! そんな体、覗くだろ?」
「「「心の底から分かるっす!」」」
「もういやああああ!」
センフィはガン泣き。あまりにも堂々と悪びれない性的嫌がらせに精神に深い傷を負い、友であるアスラの腕の中で声を上げて泣く。
アスラもまた何とかセンフィを宥めようと優しく頭を撫でるが、心の通じ合った男たちは更に続ける。
「ハルトさん、俺は今、心の底から嬉しいっす。あんたは俺たちみたいな狭いところでイキってるカスには手の届かない存在だと思ってたんだ!」
「でも、あんたも男だったんすね! 勇者に喧嘩を売るは、バトルマスターにカンチョーするは、ぶっとんだ人なのに!」
「そういうことなら任せてくれ! 水泳部、新体操部、更にはお宝を提供する非公式写真部にもツレがいる!」
そう、男たちは分かりあったのだ。どうして分かり合えたのか、あまりにもゲスな内容過ぎて勇者一味のような世界の英雄たちには理解不能である。
それは、置いてきぼりにされたカイにも同じ。
すると、呆然としているカイに、ハルトは嫌味な笑みを浮かべる。
「くははは、分かったろ?」
「ッ……」
「俺と手を組む? お前と組んでも面白くねえ。俺の傍にお前の居場所なんかねーんだよ」
カイは今にも「ふざけるな」と叫びたかった。だが、それをギリギリで押さえ込んでいた。
叫んだだけで自分のカッコ悪さが出てしまいそうな気がしたからだ。
ただ、うつむき、イラついたように唇を噛み締めながら、「クソ魔族」とだけ呟いて、カイは再び教室から出た。
だが、その後ろ姿に流石に言いすぎだろうと、アスラが口を開く。
「ひど……ちょっと、そこまで言う必要はないんじゃない?」
「あ~? 尻のユルい女が何を言ってんだよ?」
「ムカッ! やっぱ、あんたは最低野郎よ! 今ここで、ぶっとばしてあげましょうか?」
「おいおい、これ以上俺とヤッて変な世界に目覚めてもしらねーぞ?」
一を言えば十の悪態で返ってくるハルトに、アスラも一瞬でキレた。
立ち上がって体を炎と化す。
「まま、アスラも落ち着いて」
「そーだよ、アスラちゃん! 体育館に続いて教室も壊すのはまずいって!」
「アスラよ、ここはそなたが大人になって」
「離してー、この不良野郎をいい加減、ぶっとばしてやるんだから! やっぱ、こいつじゃ魔族と人間の友好なんて、悪化するだけよ!」
そう、口を開けば悪態で、気に入らなければ暴力を振るう。
これでは一般生徒たちから更に魔族に対する印象を下げ、ハジャたちの夢を遠のかせる結果となってしまう。
アスラの行動は止めつつも、やはりハルトを人選したのは間違いだったのか?
だが、
「兄さん、今日の放課後だけど……って、あら? どうしたの、この状況?」
「あ、光華。うん、これはね……」
「彼らは昨日の……へ~……」
用事があって教室に入ってきた光華は目の前の光景を見て、どこか感心そうに頷いた。
「さすがね。レオン・ハルトくん。さっそく、人間と友達になったのね」
「「「「あっ」」」」
あまりにも不自然なやりとりを自然に繰り広げていたので気づいていなかった。
人間と魔族の友好どころか、そもそも魔族と人間の境界をまるで感じさせない光景がそこにあったのだった。
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