魔界悪童が過ごす人間界での学校生活

アニッキーブラッザー

第一章

第1話 序章1

 不良とは何か? それは、世の中や社会に背を向け、何事にも反発する者のことだ。


「見たか! 俺たちの辞書に不可能の文字はねえ!」


 誰かに迷惑をかけ、当たり前のことが出来ず、常識を守れない、世間のはみ出しもの。

 それは、どの種族でも同じだった。


「かっかっかっか、おい! 俺が何人仕留めたか覚えているか?」

「不良オークが三匹に不良ガーゴイル四匹で、七匹。私より二匹少ないな」

「馬ッ鹿野郎。その内の一匹がァ、ヤシブ西地区のバビロンズの頭! どー考えても今回の抗争の最優秀不良賞はこのイカしたボーイの俺様だろうが!」

「そうであろう。大義であったな、ハルト。余が乳で労ってやろう」

「流石、オルガ。男のツボを心得てやがる」

「おい、黒ギャルエルフ。その男を甘やかすな」

「ふん、ハルトの膝の上を占領するチビッチが何を言う。乳繰り合いもまた戦争であろう!」


 昼夜問わずに浴びる酒。染み付いた煙の匂い。頭が割れるほど豪快に鳴り響くサウンド。

 ハイテンションに騒ぎ、暴力的で、しかしバカ笑いが止まらない。

 傷だらけの男たちが中心になり、その周りでは露出の多い女たちが一緒になり、バカ達が余計にバカになってバカ騒ぎをしていた。


「これで勢力なら俺たち『爆轟十字軍(ニトロクルセイダーズ)』は『不良界』でもほぼトップ。頂点に立つってのは、やっぱ最高じゃねえか! なあ? カララ! オルガ! なんともボーイだぜ!」

「私は女だ」

「余もだ」


 そこは、魔界。

 光の届かぬ薄暗く汚れた街の一角にあるクラブ。

 鋭い角を額から生やした人型の魔族たちが屯っていた。

 しかも、それはただの魔族ではない。

 彼らは、魔界という世間から白い目で見られる存在、『不良魔族』と呼ばれていた。


「まだ、人間界の猿共も居る。そもそもチーム内でもトップになれない奴が調子に乗るな」

「おい、カララ! 総長の手を煩わせずに、バビロンズをぶっ潰したのは誰だ? 不良界の超新星である、最強ボーイなレオン・ハルト様だろうが!」

「確かに、敵の大将はソコソコの『威(い)』を使える者であったな。それをぶっ倒したハルトは、サイコーであるな」


 レオン・ハルト。不良魔族の一人。

 街の不良魔族たちで構成された大型チーム、『ニトロクルセイダーズ』の一員として、不良界にその名を轟かせていた。


「そうだ、最高だ、最上だ、最大だ、最強だ! ビッグなボーイに相応しい称号じゃねえの!」


 赤みのある髪の色。額から鋭く伸びる一本の角は魔界で最もポピュラーな魔人族の証。決して大柄というわけではないが、その肉体は服の上からでも筋肉質のガッチリとした体格である事が分かる。

 歪んだ口元の笑みは、男のひねくれ具合を表していた。

 だが、その脈打つ炎のような瞳と生き様だけは、真っ直ぐだった。


「まったく、うぬといい、総長といい、どうして男はこうして最高最強にこだわるか。めんこいから良いが」

「かっかっか、わっかんねーか、オルガ? そいつはあんまボーイじゃねえな。どうしてこだわるか? 意味なんて別にあるわけねーだろ。ただ、何か面白そうだからだよ」


 クラブの中心。ミラーボールの下で男も女も関係なく踊り騒ぐ中、奥のスペースに設置された長ソファーには、チームの幹部のみが立ち入ることのできる空間。

 その空間で誰よりも偉そうに足を広げて深く座り込んでいるハルト。

 そんなハルトに呆れたような表情をしながらも、ハルトの隣に座ってイチャつくようにくっついている女がいる。



「喧嘩はおもろくないぞ。皆と居るのは楽しいが」


「バーカ。いいか? 不良ってのはみんな同じなんだよ。クソとクズとバカの集まりで、誇れるのは喧嘩だけ。喧嘩で勝つことこそこの世の全てと思い込んだどうしようもねえ奴ら。だが、だからいい。くだらねえ、大人も説教もそこにはねえ。ムカつくやつは殴って、気に入った奴は従え、イイ女は抱いて自分のモノにする! 喧嘩に勝てば人間でも魔族でもバカでも差別がねえ」


「む〜、差別はないか……まあ、ダークエルフの余がそれを一番実感しておるが……」


「だったらどうせなら最高で最強の方がいいじゃねえか。その称号に意味なんてねーかもしれねーが、この世のクズには十分すぎる生きた証になるじゃねえか。その方がおもしれえ」



 女の名はオルガ。

 魔界でダークエルフと呼ばれる種族の不良。

 闇のように黒く長い髪と褐色の肌。女性の中でもスラットした身長と、誰もが振り向いてしまうような色気を放った体が印象的だ。

 膝の上ほどのヒラヒラなミニスカートから見えるムッチリとした太もも。形のよい大きな尻。ボタンを二つ外したブラウスから見える巨大な谷間。


「ふ~ん、余は愛する恋人と乳繰り合う方が好きだがな……ぬふっ、今の余は好感度アップであろう?」

「かっかっか、俺は喧嘩も乳もエロも全部好き!」


 オルガはその魅惑的な体をこれでもかとハルトに押し付けて、何度も擦っては、ハルトを誘惑している。

 ハルトはそんな寄り添ってくるオルガの背中から手を回し、ブラウスの下から手を忍び込ませる。

 すると……


「図に乗るな。今日の奴らは威の使い手にしても雑魚過ぎた。もはや、人魔界問わずに不良界で骨のある奴は、巨大チームにそれぞれ吸収されている」

「関係ねえよ、カララ。刃向かう奴らは皆殺しにして、俺たちの大将を究極のボーイにしてやろうぜ?」


 そんなハルトの膝の上には、小柄な女が一人。


「ふん、軽々しく頂点を口にする愚か者は……殺したくなるな……人間界かぶれのロックバカ」

「やってみろよ、マンガアニメヲタめ。昔みたいに返り討ちにして……一晩中よがらせてやるよ」

「じゃあ、やってみろ。そのギャルビッチ乳お化けは放っておいて、私の相手しろ」


 女の名はカララ。

 腰元まで届きそうな長い銀髪。頭部から鋭く伸びる二本の角。異形の赤い瞳。

 そして、起伏の乏しい幼く小柄な容姿でありながら、へそや肩などを開放した露出の多い妖しい黒いボンテージを纏い、下はピッチリとした下着のような黒パンツ。

 その小ぶりな尻の辺りから、逞しく紅い竜の尾が伸びている。

 

「けっ、人の膝の上で生意気言いやがって。殴ってやろうか?」

「……殴るの最低。でも……」


 仏頂面しながら腰を浮かしてカララはハルトに小ぶりな尻を突き出す。

 

「ナデナデならヨシ」

「ほれ、ぺんぺんっと!」

「ひうっ!?」


 ハルトに尻を突き出してフリフリと振るカララ。

 そんなカララの誘いにハルトはニンマリと笑みを浮かべて手を伸ばして「ペシッ」と音を立てて叩いた。


「う~!」

「お、わりー、わりー」 

「う、う~、噛むぞ? イジワルするな……」

「へいへい」


 振り返ったカララは顔を真っ赤にして牙を剥き出しにしてハルトを睨むも、ハルトは機嫌良さそうに笑ったままだった。

 だが、そんな二人のやりとりに、お預けをくらったオルガは頬を膨らませていた。

 

「これ! そこのチビッチ女! 余の目の前で、何とも破廉恥極まりないことを!」

「ふん、くだらん。だらしない乳しか取り柄の無いスケベ黒エルフめ」

「あ゛? そそらぬ未成熟なツルペタドラゴンが何を言う?」

 自分の胸元の身長しかないカララと正面からぶつかり合うオルガ。

 だが、その争いは日常茶飯事。

 誰も止めることはせず、ハルトも笑いながら溜息を吐いて……


「んじゃ、二人まとめて相手してやるよ」

「むぅ……んもう……助平め……」

「ん」


 二人まとめて抱き寄せた。


「お~、見ろよ……またあの三人~」

「か~、うらやまし~」


 そんな人目もはばからずに交わる三人の姿を同じチームのメンバーやクラブに集まった不良たちは大笑いしていた。


「相変わらずだねぇ、ハルちゃんは」

「喧嘩して、女をこまして、まっ、ほんとクズ野郎だな♪」

「ほんと、さいて~だよね~!」

「そー言うなよー、不良ってのはみんなそういう変な関係の集まりなんだよ。つーわけで、姉ちゃん、奥で飲まねえ?」

「えー、絶対変なことする気でしょー」

「しないしない、俺たちは紳士だから」

「キャハハ、超あぶなーい……犯されるなら~、ハルちゃんの方がいいな~♡」


 時刻は既に深夜を通り越し、数時間後には朝を迎える。だが、不良たちは眠らない。

 いや、眠ることはない。

 朝になっても夜になっても、彼らは変わらない。自分たちは変わらない。

 いつまでもこの日々が続き、ガキのままでいられる。

 この時は誰もがそう思っていた。


「喧嘩の熱気が収まらず、どいつもこいつも盛ってるな」


 ただ一言だった。

 何者かがただ一言発しただけで、クラブの騒ぎが収まり、ミュージックも止まった。

 誰もが振り返る。すると、クラブの入口には一人の男が立っていた。

 やがて、一瞬の緊張が走って誰もが顔をこわばらせたかと思えば、次の瞬間には静寂が大歓声に変わり、誰もが羨望の眼差しで男を迎えた。


「マ、マグダさんだ! ニトロの総長!」

「キャー、マグダさんだ! 不良魔族のスーパースター!」

「えっ、マグダくんが来てんの? 一目拝ませてよ!」

「マグダさーん、私たちのところにおいでよー」


 ハルトよりも遥かに大柄の男。白銀の逆立った頭髪に、獣のような瞳。

 黒光りの放つ鎧で全身を纏い、剥き出しになった顔面には無数の傷跡が刻まれている。

 全身から戦場の武将の様な空気を纏っていた。

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